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今日は久々にセラと一緒にワルツのレッスンを受ける日。
少し前まではセラも入学試験の勉強に専念していたし、僕も任務が立て込んでいたからこうしてワルツを習うのは久しぶりだった。
今回は島田さんが派遣される前にワルツのリードを僕が担当したいと山南さんに掛け合っていたこともあり、僕達は以前の時より早く二人でワルツの練習をすることが出来ている。
セラの上達も早く、今の僕達はこの時点でだいぶワルツを綺麗に踊れるようになっていた。
「二人とも上手にウィンナーワルツとスローワルツが踊れるようになったね。これならどこで披露しても恥ずかしくないよ」
井上先生から合格を貰い、セラは嬉しそうに僕を見上げる。
今回は島田さんで悩んでいるこの子の心労をなくしてあげられたし、順調に事は進んでいると思えた。
「それじゃあ今日からはアメリカンスムースの方も試してみようか」
『アメリカンスムース……ですか?』
「聞いたことはないかい?最近社交界では結構流行っているんだよ。同じワルツでも3/4拍子で踊るものばかりじゃないからね。違うテンポのものも踊れるようにしておいた方がいいと思うんだ」
「へえ、意外と色々な種類があるんですね」
「時代と共に流行りも変わってくるからね。君達はまだ若いから、色々踊れるようになっておいた方がいいだろう。だからアメリカンスムースワルツを今日からは教えていくよ」
井上先生の話によると、従来のワルツと違って表現方法が多彩で自由らしい。
三歩目に足をクローズしなくても良いところが、今までとは決定的な違いだ。
個性を大切に美しく踊るということで、特に型が決まっているわけではないというのが魅力の一つらしいけど。
流れる音楽も今までのような3/4拍子ではなく、ゆっくりとしたメロディーが僕達を優しく包み込んでいるようだった。
『凄く綺麗な曲……』
「そうだね。今まで踊ってきた中で一番好きかな」
『私も』
上目で僕を見上げたセラは、嬉しそうにしながらも少し照れている様子だ。
井上先生の指示の元、割と自由に動いてみれば最初からそれらしく踊ることが出来ていた。
「この曲の盛り上がるところでは、リードは自由に回転を指示しても構わないよ。方向を示してあげて、フォロー側がそれに合わせて動けば一体感のある回転が可能になるからね」
自由でいいのであれば、僕はこの子がより綺麗に舞うことができるようリードしてあげたい。
その想いのまま方向を示せば、セラはそれに応えるようにその場で何度も綺麗に回ってみせてくれる。
そして最後に僕の目の前でその回転は止まり嬉しそうに僕を見上げていた。
「今の良かったよ!そんな感じで続けてごらん。それに男性が女性の背中側に回って踊ることも許されているからね。向かい合うだけではなく、色々試してごらん」
「本当に自由度が高いんだね」
『ね、でもこれが一番踊ってて楽しいね』
後ろからセラをリードして、綺麗な首筋を眺めながら音楽に身を委ねるのも良い。
そして再びお互いを見つめ合い、ちょっとした気まずさを交えながらも二人の世界に没頭していくこの空間が心地良かった。
「今日もよく頑張ったね。私から教えることは殆どないくらい君達は上達したと思うよ」
『沢山のご指導ありがとうございます、井上先生』
「先生のお陰で楽しくワルツが習得出来ましたよ」
「君達の相性が素晴らしいからだと思うよ。また予定を合わせて練習しよう、これからは頻繁でなくてもいいかもしれないね。また山南さんを通して連絡させて貰うよ」
先生が出て行った後の練習室で、セラは鏡の前で回転してみせる。
その様子が可愛らしくて見つめていると、僕の視線に気付いて嬉しそうに振り返った。
『今の曲がもしこれから流れることがあったらね、私総司と踊りたいな』
「そうだね、その時は踊ろうか」
『うん、約束ね』
セラがデビュタントを迎えるということは社交界デビュー、即ち結婚適齢期を迎えることと同じだから、正直不安でしかない。
その時期になれば社交界は勿論、挨拶周りなどにもいくようになるだろうから、多くの男の目に留まることになってしまうだろう。
けれど小指を絡ませてくるセラとの約束は、僕の心を少しだけ軽くしてくれる。
二人で踊れる日を楽しみに、この子のデビュタントを受け入れられる気がしたからだ。
「その時は会場でセラが一番綺麗に見えるように僕がリードするよ」
『ありがとう。タキシード姿の総司、かっこいいだろうな。早く見たいよ』
「僕なんかより君のナイトドレス姿の方がよっぽど綺麗だろうし楽しみだけどね」
『じゃあ総司はずっと私とだけ踊ってくれる?他の女の子とは踊らない?』
小指だけではなく今は指も柔らかく絡めて、セラはそう尋ねてくる。
以前のセラも同じようなことを言っていたことを思い出し、僕は口元に笑みを作った。
「僕はセラ以外とは踊らないよ。好きでもない子と手を繋いで踊るのなんて気持ち悪いからね」
『ふふ、じゃあずっと私が総司のパートナーになりたいな』
「そうは言っても君がそうはいかないんじゃないの?相当色々誘われる筈だよ」
『そんなことないと思うけど、私は総司としか踊りたくないからずっと手離さないでね』
「分かったよ」
実際に社交界デビューを果たせば、それは無理なことだと分かっている。
それでもセラがそう望んでいてくれるだけで、今は十分に思えた。
まあ、実際他の男がこの子と踊っていたら相当腹立たしいとは思うけど、それでもセラの心の一番大切なところに僕を置いて貰えるならそれでいい。
そうなれるように努力は続けていきたいと思えた。
『もうすぐ学院の入学式だね、楽しみ』
「そうだね。新入生代表の挨拶は練習順調?」
『どうかな、緊張するし心配だけど頑張る……』
「セラなら大丈夫だよ。だからそんなに緊張しないの」
『ありがとう。友達沢山出来るといいな』
「そうだね。セラなら良い友達見つけられるんじゃない?」
ここ最近、学院での話を頻繁にするセラは新しい生活を楽しみにしているようだ。
でも前回と同じことが起こるのであれば、この子は初日から心ない言葉に傷付けられることになる。
あの時の涙を知っているからこそ、あの場所にまた行かせることが辛く感じられた。
それに全てを知っているのにセラにそれを告げないことに罪悪感を覚えることがある。
僕が逆の立場だったらと考えると、少し複雑な心境にもなるからだ。
でも僕は目の前のこの笑顔が不安で揺らぐところを見たくなんかない。
僕ですらこんなに不安なのに、それ以上の心労をセラに与えたくはなかった。
『総司……?』
「ん?どうしたの?」
『ううん。あ、今日のお昼楽しみだね。山南さんが一緒に食べられるように用意してくれてるみたいでね』
もう直ぐ僕達の学院生活が始まる。
泣いても笑っても、これはもう逃げられない決定事項だ。
どうかこの笑顔やこの子の安全を護ることが出来ますように。
なんて、らしくもない神頼みをしてしまう僕がいた。
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