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その後教員が来て、様々な書類の受け渡しなどが行われた後、ようやく休憩時間になる。
周りを観察していると、あの大公子が教室を出て行く姿が見えたから僕も直ぐに席を立った。
「伊庭君、平助。僕ちょっと教室出るから、絶対にセラを一人にしないでね」
「おう、何?便所?」
「まあ、そんなとこ」
「分かりました。彼女のことは任せて下さい、責任をもって僕達で護ります」
『総司……、すぐ戻ってくる?』
「うん、すぐ戻るから待ってて」
どことなく不安そうに僕を見上げるセラの頭に優しく手を置き、僕は足早に教室を出る。
そして曲がり角の先、トイレに入った大公子に続いた僕は、そいつを個室へと押しやりそのまま鍵を閉めた。
「またお前か、そこ退けよ」
「教室だと落ち着かないし、君とゆっくり話がしたいと思ってさ。少し付き合ってよ」
「なんでお前なんかの話に付き合ってやらなきゃなんねーんだよ。ほら、退け」
そう言って僕を退かそうとしたそいつの胸倉を掴み壁へと追いやる。
首元を圧迫する手を強めると、もがいてもびくともしないことにようやく焦りを感じたのか、僕を見るそいつの瞳は僅かに揺らぎ始めた。
「君がどういうつもりか知らないけど、今後うちのお嬢様を侮辱したり傷付けるようなことを言ったりしたら命がないと思ってね」
「はっ……よく言うよ、騎士風情が。お前なんか俺が文句つければ直ぐに」
「何?退学?それとも騎士をやめさせる?別に構わないよ、そうされたって僕のお嬢様への忠誠は変わらないし、逆に失うものがない分好きに動けるしね。その時は城の中だろうがどこだろうが君を地の果てまで追いかけて地獄を見せてあげるよ」
「うちの護衛達は強いから、お前が来たところで返り討ちにされるだけだ」
「この紋章見えない?僕は一応騎士階級特級だけど。君の城に何人特級持ちがいるのかな」
「くっ……」
再度紋章を見ると相手が悪かったことを悟ったのか、先程より僅かに焦りの色を見せる。
けれど大公子は屈したくはないのか僕の手を退かそうとしながら、頑張って余裕のある表情をしてみせた。
「俺は噂を聞いてそれをあの女に教えてやっただけだ、何が悪い」
「ありもしない話を、敢えて嘘を付け加えてあの子に言う意味って何なの?それが悪くないって言える?」
「どうせ、それらしいことやってんだろ?最近はいくら位の高い貴族のご令嬢って言ったって男遊びしてる奴ばっかた。お前が忠誠を誓ってるあの令嬢だって、どうせしょっちゅう男に股開いて良がってるに決まって……うっ……」
胸倉を掴む手はそのままに、目の前の大公子の眼球に添うように人差し指と中指を置く。
そこにぐっと力を入れて圧を与えてあげれば、呆気なくその汚い言葉は止まった。
「へえ……、君の目にはあの子がそんな風に見えるんだ。だとしたらとんだ節穴だね、そんな腐った目はもういらないんじゃない?」
「う、やめっ……」
「知ってる?目って人間の身体の中で一番痛感が多いところらしいよ。この奥の神経にも沢山痛覚があるみたいだけど、このまま抉り取ったらどれ程痛いんだろうね」
「……ひっ……」
「言っておくけどうちのお嬢様は純粋で汚れの知らない誇り高き公女様だ。君なんかに侮辱される筋合いはないし、君の周りにいる馬鹿で下世話な令嬢達よりよっぽど淑女だよ。それに同意出来ないっていうなら、今すぐこの目を両目とも抉り出して……そうだな、僕がやったって言えないようにその余計なことを喋る舌も引き抜いてあげようか。ついでに馬鹿げた噂話も入ってこないよう耳も切り取ってあげるよ。そうしたら君も少しまともになれるんじゃない?」
「い、言わないっ……もうさっきみたいなこと言わないから……」
「今更信用出来ないんだけど。ここを出たら、また態度が大きくなって余計なこと言いそうだしね。だからやっぱり今、ここで君を終わらせるよ。幸いここは人の目もないし、死人に口無しって言うじゃない」
指を増やしてより深く指を添えながら眼球を圧迫させると、必死になって無駄な抵抗をする大公子は、恥ずかしくも弱々しい声を出し始めた。
「い、いだいっ……やめ……本当に言いませっ……」
「……本当に?」
「ぜ、絶対言いませ……あの公女様には俺も優しくしま……」
「そんなことしなくていいから。あの子に二度と近寄るなって言ってるんだけど?」
「い、痛いいだいっ……近寄りませ……ああっ……」
「いい?僕は君の行動をこれからずっと見てるよ。何か余計なこと言ったりしたり……あとは誰かを使ってあの子を傷付けたりしようもんなら、僕はお前を絶対に許さない。さっき話したやり方よりもっとえぐい方法で、必ず君を殺してあげるよ」
「わ、分かりましたっ……絶対にそちらの公女様に……何もしませっ……」
「絶対だよね?言っておくけど僕の目は誤魔化せないよ。君のことはもう調べてあるし、君一人消すことなんて容易い。僕はもう、君をすっかり覚えちゃったから、うちのお嬢様に何かあれば真っ先に君を疑うし、これからもずっと君の同行を見させてもらうからね」
「命をかけてっ……そちらの公女様に何も……しないって誓いますから……!」
「そう?それならもう行っていいよ」
気持ち悪い身体から手を離すと、そいつは汗を浮かべながら涙目で自分の目を確認している。
そして自分の肩書きまで忘れたのか僕に深く頭を下げると、逃げるように個室から出て行った。
「あーあ、情けない奴」
あんなのがいずれ大公になると思うと、本気で世も末だと思ってしまう。
でもあれだけ脅せば大人しくなりそうだし、もしかしたらあの惨劇も起こらないかもしれない。
そう考えながら僕も個室から出ると、そこには半ば呆れた顔をしたはじめ君が立っていた。
「あれ?はじめ君じゃない。どうしたの、そんな顔して」
「あんたのやり方があまりに残忍で言葉を失っていただけだ」
「やだな、聞いてたの?盗み聞きなんてタチが悪いな」
「俺もあの男に一言言ってやろうと思い後を追ったのだが、あんたが先にあの男と個室に入ったからな。ここに立ち、人払いをしていた。誰かに聞かれて厄介事になっても困るだろう」
「そんなことしてくれてたんだ。それは助かるけど、なんでそこまでしてくれたのさ」
「あんたには以前、近藤さんに言わないでもらった仮がある。それにあんたの為と言うより、セラの為だ。あの男が余計なことをしなくなるのであれば、俺の目的が達成されたも同然だと考えた」
はじめ君は以前城に来た時の僕の嘘を、疑いもなく信じていたらしい。
僕を見つめながら、加勢してくれた理由を淡々と話した。
正直はじめ君のご両親の過去を知る僕としては、一度ははじめ君が黒幕である可能性も考えた。
過去を知り、母親の仇としてセラに手をかけることもなくはないと思ったからだ。
でもはじめ君のセラを見る表情や打ち合いをしている時の真剣な眼差しからは、彼がそんな卑劣な行動を取るような人間には到底思えない。
セラの手を握り頬を赤らめていたはじめ君を思い出せば、はじめ君もあの子を護る盾になってくれるのではないかと考えているくらいだった。
「そうだったんだ。ありがとう、恩にきるよ」
「大したことはしていない故、構わない。これであの男が余計なことをしなくなれば良いのだが、あの様子なら恐らく問題はなさそうだな」
「だといいけど。まあ次何かしようもんなら、今度ははじめ君が黙ってなさそうだしね」
「当たり前だ」
はじめ君は僅かに笑みを見せると、そのままトイレから出て行こうとする。
その後ろ姿に呼び掛けて、一つ頼み事をすることにした。
「はじめ君にお願いがあるんだけどさ」
僕が告げたのは、あの子が数ある組織から狙われているという話だ。
それをセラ本人は知らないものの、この学院の中で僕達護衛三人があの子を一人にさせないように護っていること、そしてそれにはじめ君にも協力して貰いたいということを告げた。
「勿論僕達が基本ずっとあの子の傍にいるよ。でも万が一の時ははじめ君にもあの子を気に掛けていて貰いたいんだ」
「ああ、分かった。確かにこの学院は大規模故、安全だと思われがちだが逆にそれが仇となる場合もあると考えていた。俺とてセラに危害が加えられるのは本意ではないからな、出来る限り彼女を気に掛けるようにしよう」
「ありがとう。はじめ君がそう言ってくれると心強いよ」
以前はやや険悪だった僕達だけど、今はこうして手を組んであの子を護ることが出来るんだから不思議な話だ。
互いに微笑み合い教室に戻ると、セラが安堵したような表情を浮かべて僕達を優しい眼差しで見つめてくれていた。
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