9

小鳥の囀りと共に目を覚ますと、もう起きなければならない時間。
ぼんやりと上体を起こしたものの、まだ夢見心地なのは昨晩の夢からいまだ心が抜け出せていないからだった。

昨日はあの大公子を殺してやろうかと思っていた僕だけど、あいつの言葉がそれなりに僕の中に残っていたのだろう。
今日の夢は、セラを組み敷いた僕があの子と最後まで肌を重ねるというものだった。
あの男が言っていた通り、僕の下でされるがままに愛らしい声をあげるセラはあまりにも可愛いくて、今思い出してもその破壊力は物凄い。
勿論夢だから具体的に覚えているわけではないものの、あの幸福感はとても忘れられるものではなかった。


「あー……、もう」


今は気を引き締めないとならない時だと言うのに、夢なんかに溺れてしまうなんて何やってるんだか。
それでも昨日の夢を思い出せば、いつかセラが僕に全てを許してくれる日は来るのだろうかと考えてしまう自分がいる。
その邪な感情を振り払い、朝食を摂る為、騎士団専用の食事処に向かったけど。
先に朝食を食べていた平助と伊庭君は、珍しく手を止めたままぼんやりとしていた。


「おはよ」

「あ、沖田君ですか……。おはようございます」

「おーす、総司……」

「なんか二人ともぼんやりしてない?ご飯も全然食べてないし」


そう声を掛けてみても、二人は僕の話すら聞かずにまた上の空だ。
その顔はなんだか見るからに幸せそうで、まさかと思った僕は二人に聞いてみることにした。


「ねえ、平助。昨日はどんな夢を見たの?」

「は?え、夢?」

「うん。どんな夢見たの?」

「いや……、どんなっていわれても……なんつーか……」

「なんて言うか?」

「まあ……なんか、めっちゃ良い夢だった……と思う」

「ふーん、ちなみに伊庭君は?」

「え?僕ですか?僕は……」

「僕は?」

「そうですね、僕もとても良い夢でした……。長年の想いが成就したような……そんな夢でしたね」


目の前で再びぼんやりしている二人を目の前に、同じ夢を見ていたら嫌だなと心底思う。
勿論他人の夢にまでは文句をつけられないわけだけど、あんなに可愛いセラはたとえ夢でも見せたくないと思うのは当然の感情だ。


「そういやあいつ、あのディランドの大公子。今日はセラに何か言ってこないと良いんだけど」

「そうですね。これ以上は流石に見てられません、昨日は相当な言われようでしたから」

「ああ、それなら多分大丈夫だと思うよ。昨日一応釘を刺しておいたんだ、うちのお嬢様に何かしたら許さないよって」

「あの方が素直に聞くとは思えませんが、納得されたのですか?」

「うん、凄い怖がってたし、セラに近付かない約束もしてくれたよ。だから今後あいつが何かやらかしたら、速攻で殺しちゃっていいからね。そういう約束だし」

「総司、お前どんな脅し方したんだよ」

「仕方ないじゃない。セラを護ることが第一優先なんだから」

「確かに沖田君の言う通りですね」

「よし!じゃあ今日も張り切って護衛と学院、楽しもうぜ」


もうすぐ騎士団の大会が開かれるけど、セラはその前にあの中庭で死を迎える。
でも今の僕達はあの子を護ることに重きを置いて徹底しているため、今回は繰り返さない筈だと自分に言い聞かせた。
大まかな流れは同じでも、僕を取り巻く環境や人との繋がりは違うから、それを上手く考慮していくこともセラを護ることに繋がる。
気を引き締めて身支度を整えた僕は、伊庭君と平助と並んでセラの待つ馬車へと足を進めた。


『おはよう、みんな。昨日は素敵な夜をありがとう』


開口一番、セラは僕達に嬉しそうにそう言ってくれる。
素敵な夜と言われると思わず夢の方まで思い浮かべてしまうけど、平助と伊庭君が頬をやや赤らめているからその理由が気になる。


「おはようございます、こちらこそ昨日は素敵な夜をありがとうございました」

「おはよう、セラ。俺もめっちゃ楽しかったからまた計画しようぜ」

『うん、そうしたいな。でも今度は私に計画させて?今度は私が皆をいっぱい楽しませるね』


その言葉にまた違うことを連想しそうになったから、半ば無理矢理思考を停止させる。
馬車に乗り込み景色が流れると、セラは嬉しそうに言葉を続けた。


『昨日伊庭君から頂いた花束は、テーブルとボードとベッドサイドに分けて飾らせて貰ったんだ。朝も綺麗に咲いてたよ』

「それなら良かったです、あと数日かとは思いますが愛でて頂けると嬉しいですよ」

『うん、ありがとう。平助君から貰ったテディベアは、部屋のソファに座らせたよ。あの子の隣で本を読むとあったかくて落ち着くことが分かったの』

「だろ?ちょっとでかいかもしんないけど、可愛がってやってくれよな」

『うん、可愛いがるね。名前はそのままテディにしたよ』


「それでね」、そう言ったセラは僕の方を見ると、スカート付近を指差して嬉しそうにしている。


『総司から貰った短剣は今ここに持ってるんだ』

「え?そうなの?」

『これからはいつも持ち歩こうかなって思って。昨日山崎さんに相談したらホルスターを調節して頂いて、服の下でも目立たなく身に付ける方法が分かったんだ。身に付けてるの、分からないでしょ?』

「へえ、確かに全然分からないね。身に付けて貰えるのは嬉しいかな、護身用にして欲しかったからね」

「なあなあ、でもさ。いざ使う時どうやって短剣出すの?」

「確かにそうですね、服の下だと取り出すのが大変そうですが」

『私もそう思ったんだけど、その時はスカートを捲って出すしかないかないみたい。はしたないけど緊急事態の時はそんなこと言ってられないからね』


相手が男なら、この子がスカートを捲ればそれだけで行動を制御出来そうだけど。
色々な意味でこの短剣の出番がないことを願うばかりだ。


「かっこいいね、もしもの時はそれで戦うんだ?」

『うん、頑張る!みんな素敵なプレゼント、どうもありがとう』


セラの笑顔に癒されながら、僕達は今日も学院へ向かう。
暫くすると門が見え、馬車を降りて教室へと向かった。
他愛ない話をしながら四人で廊下を歩いていると、曲がり角でセラが誰かとぶつかることに。
その相手が最悪にもあの大公子だったから、セラの眉尻はすっかり下がってしまった。
だけど……


「お、おはようございます、麗しいセラお嬢様様……!」

『え?あ……おはようございます……』

「ぶつかってしまい大変申し訳ありません。お怪我はございませんか?」

『はい、大丈夫です……。あの、こちらこそ申し訳ありませ……』

「それでは失礼致します……!」


逃げるように去っていく大公子を見て、セラはその変わりように唖然としている。
伊庭君と平助は笑いを堪えながら僕を見ていた。


「ははっ、なにあいつ。総司のこと見てすっげービビってたんだけど」

「ですね。沖田君がどのような手を使ったのか気になります」

「別に大したことは言ってないよ。今後僕達に関わらないでねってお願いしただけなんだけどね」

『え?総司が大公子様にお話してくれたの?』

「うん、まあちょっとね。だからこれからは昨日みたいなこともなくなると思うよ」

『ありがとう……。総司、頼りになるね』


可愛い君を護る為なら、この程度のことは朝飯前だよと思いながらセラに微笑みを返した。

教室に入るとはじめ君がこちらに視線を向け、僕達に挨拶をする。
そして彼の隣にいた女の子は前回セラが親しくなった鈴鹿家の大公女様だったから思わず目を瞬いた。


「はじめまして。鈴鹿千と言います。良かったら私とお友達になってくれない?」


人懐っこい笑顔でセラの手を取った彼女は、前回同様セラと仲良くなりたい様子だ。
嬉しそうに笑ったセラを見ながら、この子の死を回避することを考えていた僕だった。

- 159 -

*前次#


ページ:

トップページへ