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その日、城内では大会の打ち上げのような催しが盛大に行われ、それと同時に僕の専属騎士叙任を執り行う儀式も開催された。
セラの前に跪くと、彼女が剣の刃の側面を僕の右肩に当て一度頭上まで持ち上げる。
そして今度はその剣を僕の身体に触れるよう左肩に当て、セラは宣誓を言葉を唱えた。


『この宣誓をもって、あなたを専属騎士に任命します』


ずっと夢に見ていたこの瞬間を、こうしてセラと執り行えることが堪らなく幸せだ。
差し向けられた剣の刃に口付けをし、見上げた先の彼女に絶対の忠誠を誓った。


「私沖田総司は、我欲のもと、修羅の剣となり御身の絶対の盾となることを誓います」


立ち上がった僕には新しい専属騎士の記章が授与され、僕は正式にセラの専属騎士に任命された。
微笑む彼女の前、記章を握りしめ命に変えてもこの子を守っていこうと心に誓った。


近藤さんや山南さんに称賛や労いの言葉を頂いた僕は、その後気心の知れた仲間とお酒を酌み交わすことになった。
専属騎士就任を逃した平助と伊庭君は、多少酔っているのか僕を不服そうに睨み付けてきていた。


「まじ総司に負けるとか、やっちまった……俺の長年の夢が……」

「僕もですよ……。しかも君が専属騎士なんて色々と不安です」

「なんでさ。僕は誰よりあの子の護衛に命を懸けてると思うけどね」

「伊庭君が心配してんのはそこじゃねーって。総司はいつもセラにべたべた触るだろ、隣の部屋で生活したらセラに何するか分かったもんじゃねーってこと」

「そうですよ。分かっていると思いますが、セラに手を出しては駄目ですからね」

「そんなことくらい分かってるよ。僕が襲うとでも言いたいの?」


途端に無言になる二人は、少なからず疑っているらしい。
物凄く嫌な顔で僕を見つめてくる。


「あのさ、仮にも公女様相手にそんなことするわけないじゃない」

「勿論信じていますよ。でも君は余計なことをしそうで心配なんです」

「総司って真面目なんだか不真面目なんだかよく分からない奴だよな」


ため息を吐き出す二人が僕に難癖をつけたい気持ちは分かるから、苦笑いをして黙っておく。
僕だって専属騎士を逃せば、二人以上にやさぐれていた筈だからだ。
ともあれ無事専属騎士になれた今、急に実感が湧かなくなるのも当然で。
既に部屋の準備が整っているという専属騎士の部屋に、今夜から行くべきか明日以降にするべきか……なんてしょうもないことで悩んでいる僕がいる。


「でも君が騎士団専用の住居から出て行ってしまわれるのは少し寂しいですね。いまだ実感が湧きません」

「はは、伊庭君にそんなことを言って貰える日が来るとは思っていなかったよ」

「確かに総司とは一緒にいる時間長かったからなー。俺も慣れるまで時間かかりそう」

「へえ、二人ともそんなに僕がいなくて寂しいなら残ってあげようか?」

「え、まじ?」

「是非そうして下さいよ」


二人して目を輝かせて何かを期待した眼差しを向けてくる。


「残るわけないじゃない。まあこれからも学院で一緒だし、任務や稽古でも会えるんだから元気出しなよ」

「なんかその言い方もムカつくんだけど……」


そう言いながらも「おめでとう」という言葉を掛けてくれた平助と伊庭君に微笑みを向けた時、セラが僕達の元へとやってくる。
こうして見るとセラもだいぶ女性らしくなったと言うべきか、デビュタントまではもう一年を切っていることにふと気付いた。


『私も混ぜて貰ってもいいかな?』


正装のドレスを着たセラはいつも以上にお姫様感が漂っていて、綺麗な所作一つ一つにも見惚れてしまう僕達がいる。
「勿論」と相槌をうつ僕達に微笑むと、伊庭君の隣のソファーに腰掛け、「大会お疲れ様でした」と言葉をかけてくれた。


『皆強くて凄かったよ。ずっとドキドキしながら観てたんだ』

「ありがとうございます。中々厳しい戦いでした、もう少し残りたかったんですけどね」

「俺は準決勝で総司と当たらなきゃもう少しいけたかもしんないのにさ」

『ふふ、皆大健闘だったよ』

「そう言えば、決勝の相手は強かったんですか?同じ騎士団の方ではなかったですよね」

「ああ、あの人ね。かなり強かったよ。少し試合前に話したんだけど、グランディア王国の騎士らしいし」

「へー、王族の騎士も大会に参加したりするんだな」


皆はそれぞれ意外とばかりの表情を浮かべているけど、余計なことは言わないでおく。
王族の人間を僕の独断で吐いた嘘により追い払ったことが知れたら厄介ごとになるかもしれないからだ。


『あのね、私皆に渡したい物があるんだ』


セラはネイビーの紙袋から小さな長方形の箱を取り出すと、僕達の前に一つずつ置いていく。
皆でお礼を告げて箱を開けてみると、そこにはセンスの良い上品なタイタックが入っていた。


「へえ、格好いいね。学院でも騎士団の制服でも使えそうだよ」

『良かった、あんまり男の人の物分からないから心配だったんだけど』

「とても素敵ですよ。これから毎日つけますね」

「めっちゃ嬉しい。こういうの持ってなかったから欲しかったんだよ」

『この前元気付けてくれたお礼だよ。あと大会本当にお疲れ様。みんなの有志、ずっと観てたよ。それとね、これはほんの気持ちばかりだけど』


そう言ってまた僕達の前に一つずつ置かれたラッピング袋には、クッキーが三枚ずつ入っている。
ちょっと感動したのは、そのクッキーが僕達の顔をイメージしたものになっていたからだった。


「うわ!凄いじゃん、これオレ!?」

『うんうん、当たり』

「じゃあこれが僕で、こっちが伊庭君かな」

『大正解だよ。良かった、分かって貰えて』

「とても上手ですよ、食べるのが勿体ないくらいです」

『昨日の夜みんなの顔を思い出しながら作ったんだ』

「可愛いクッキーだね、セラの顔はないの?」

『あっ……、そうだよ。私のも作れば良かった』

「君の顔のクッキーがあったらそれこそ食べないまま部屋に飾っておくことになりそうですけどね」

「美味そうだから食いたいけど、勿体ねーし……明日食う!」

『ふふ、痛む前に食べてね』


そう言った時、山崎君に呼ばれて席を立ったセラを見送って、可愛いく作られたクッキーに揃って顔を綻ばせる。
過去をもう一度やり直せるのも良いけれど、こうして知らないからこそ感動出来ることもあるから、これからはただ新しい時間をセラや仲間と一緒に過ごして行きたいと思っていた。


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