6
身体が熱い。
総司に触れられた感覚が身体に残っているせいか、今のことが中々頭から離れてくれなかった。
この前、羊の装いをした時も、総司はからかって私の身体に触ってきたけど。
あの時の感覚だっていまだ身体に残っていて、私には総司の手の温かさを忘れることは出来なかった。
きっとその理由は私にも分かっていて、触れられるのが怖いと思う反面でもっと触って欲しいと思う気持ちがあるんだと思う。
悪戯に触られて熱を帯び始めた身体が、総司の温もりをもっと欲しいと思ってしまっているようだった。
そんなはしたないことを考えている自分が嫌で、総司にも絶対知られたくない。
だから中途半端にこんな場所でこんなことをして欲しくなかったのにと、少し恨めしい気持ちになってしまった。
それに私はいつも壊れそうなくらい心臓をドキドキさせてるのに、総司は全然そんな素振りは見せてくれない。
いつも余裕で、飄々としていて。
そんなところも好きだけど、少し悔しい気持ちにもなった。
自分から手を伸ばせない私にとって、総司から触れて貰えることは嬉しいけど、本当は私だって自分から総司に触りたい。
そう思う気持ちを持て余しながら顔を上げると、不意に私達の視線はぶつかった。
「見つけたよ。これで全部だよな?」
知らない人達の声が直ぐ近くで聞こえる衣装棚の中。
狭いけど私達二人を丁度隠してくれるこの場所は、思いの外そこまで居心地は悪くなかった。
だってここには私達しかいなくて、きっと誰にも邪魔されない。
公女という立場柄、どんな時でも淑女らしくいなければならないという考えからも、今だけは解放されたような気さえした。
顔を上げると、すぐ目の前にいる彼はやっぱり背が高くて、唇に届きそうで届かない。
総司がいつもわざわざ屈んで私に口づけてくれているんだと気づいてしまえば、私の胸の中には総司を想う気持ちが溢れてきた。
『総司……』
思わず呼んだ彼の名は、彼に届くか届かないかの本当に小さな声だったと思う。
でもその名前にも愛しさが込み上げて、背伸びした私は初めて総司に自ら唇を寄せた。
ぎりぎり届いたその体温は思った以上に熱くて、触れた瞬間に身体の奥から震えが走る。
直ぐに総司が身体を引き寄せてくれたから、私達の唇はもっと深く重ねられた。
『……ん……』
総司の唇が、そっと私の唇をなぞるように動く。
まるで甘噛みするように、優しく確かめるみたいに。
その優しさに胸の奥がふわっとほどけていくのを感じた。
そして総司の舌が私の上唇をそっと撫でるように触れた時、知らず知らずのうちに小さく唇が開いていた。
そこにふわりと忍び込むように、総司のぬくもりが入り込む。
優しく気遣うように、でも確かに私の舌に触れて絡められた。
『……ん……』
初めて知る深い口づけ。
胸がきゅっと締めつけられて、心臓がどうしようもないほど早く打ち始めた。
戸惑いながらもその感覚がくすぐったくて、怖いはずなのに嫌じゃない。
むしろ総司に包まれているような安心感と、どうしようもないほどの愛しさに、私は指先にぎゅっと力を込めてそっと総司の服を掴んでしまっていた。
知らなかった。
キスってこんなにも熱くて、甘くて、どうしようもなく夢中になってしまうものなんだ。
優しく、強く私を求めてくれるその口づけに、私はもう何も考えられない。
ただ一つ確かなのは、私は総司が好きで、総司の温もりが欲しくてたまらないということだった。
『……はぁ……』
ようやく唇が離れた時には、もう教室には誰もいないようだった。
そのことに気付きもしない程、総司のことしか考えていなかったことに少し照れくさい気持ちになった。
腕を引かれて棚から出れば、暗い中に慣れていた目ではやたら眩しく感じられる。
思わず総司と目を合わせてしまったから、急に恥ずかしさが込み上げて顔に熱が集まるのを感じた。
「はは、さくらんぼ並みに真っ赤だけど」
そう言って笑う総司だったけど、彼も心なしか少し照れているようにも見えて、その顔が愛しくて目が逸らせなくなる。
見つめる私を優しい眼差しで見つめ返した総司は、再び私にその手を伸ばしてくれた。
何も言葉を交わさないまま引き寄せられるように唇が重なって、再び深く確かめ合うようなキスをする。
柔らかい舌が私の舌をなぞり、普段決して触れることのない部分まで総司と触れ合えていると思うと変な興奮に似た感覚も身体に走った。
ずっと自分に無縁だと思っていたこんな行為さえ、今は何の抵抗もないどころか、その気持ち良さに没頭してしまいそう。
何度も何度も繰り返されても足りなくて、唇が離れた時には自分が公女であることもここが学院であることも全て忘れて、総司だけを見つめていた。
「そんな顔してたらここから出れないよ」
『ん……』
優しく私の唇を撫でる総司の親指が気持ち良くて目を細める。
すると温かい手が頬に添えられて、次の瞬間には再び唇が重ねられていた。
深いけど優しくて、凄く幸せなのに切なくもある。
気持ちが溢れて止まらなくて、こんな感情は今まで生きていて経験したことがなかった。
全てがどうでもよく思えてしまうくらい総司のことだけが大好きで、一秒だって離れていたくないと思う。
こんなに好きになれる人はもういないと、総司のことが以前よりもっと大好きだと自覚した瞬間だった。
『総司、大好き』
「僕も君が好きだよ」
『本当に総司が大好き、離れたくない……』
胸に擦り寄って想いを告げたところで、こんな言葉では伝え切れないくらい私はこの人が愛しくて仕方ないと思った。
どうしたら総司の瞳にずっと映っていられるんだろうなんて、そればかり考えて、結局答えが出ないまま何度夜を越したか分からないくらい。
「離れるわけないじゃない。君が離れて行ったとしても僕は追いかけるよ」
『本当なら嬉しいな』
「本当だよ。言ったでしょ、僕は君を手放せないって」
総司と過ごす年月が増えていく分、総司の温もりや愛情がこの身体に刻まれていく。
それは愛おしい分、残酷でもあって、きっと何かあって離れなくてはいけない時がきても、私はこの人を忘れられないだろうと思った。
総司の顔を見てその声を聞くだけで、私の鼓動は高鳴るし触れたくなる。
触れれば愛しさが込み上げて頭の中が総司一色になるから、もう私は総司なしではいられない身体になってしまったのかもしれない。
『良かった。今更いらないって手放されたら私路頭に迷っちゃうよ』
「君の場合は路頭に迷っても、誰かしらが喜んで保護しそうだけどね」
『私はずっと総司に保護されてたいよ?』
「はは、じゃあ僕に飼われてみる?」
『ふふ、飼われてみる』
「じゃあ逃げられないように檻が必要かな。それともさっきみたいな手錠でもいいかもね」
ふざけてそう言う総司の言葉に笑いながらも、総司とずっと一緒にいられるならそんな生活も悪くないと考えてしまうからそんな自分に少し苦笑い。
私は一人の公女として、そして総司を好きな女の子として、誇り高くしっかりとした淑女でありたい。
『そろそろ学院祭回ろう?そうしないと直ぐ音楽会の時間になっちゃう』
「そうだったね。じゃあ行こうか」
『うん』
思わず手を握り合った私達だけど、学院内でそれは出来ないことに気付いてお互い眉尻を下げつつ微笑みながら手を離す。
いつか堂々と総司と手を繋いで歩けることを夢見ながら、教室のドアを開けた私達だった。
ページ:
トップページへ