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僕達がカイル街へと着いた頃には、既に深夜0時を過ぎていた。
迷惑覚悟で街中を回り、半ば無理矢理部屋の中まで拝見させてもらっても、セラの姿はおろか目撃情報も何一つ出てこなかった。

そして再び街から西へと移動して、また民家や店での聞き込みと調査を行う。
あの日からそれを幾度となく繰り返し、出向いた街にばつ印をつけた僕の手元の地図には、気付けばいくつも印が付けられていた。
それはただがむしゃらにセラ探し始めてから、月日が経過してしまったことを僕に教えていて。
それに気付きたくなかった僕は、食事にも手を付けないまま、ただその地図をきつく握りしめていた。


「総司……、お前ちゃんと食えって。そんなんだといつか倒れちまうぞ」

「食欲がないんだ、平助が食べていいよ」

「絶対だめ。お前が食うまで、次のところに聞き込みには行かないからな」


僕を睨み付ける平助は、僕の身を案じてくれるのか、こうしていつも気にかけてくれている。
その気持ちは有り難いから無理に食事をして、柱に掛けられた時計に目を向けた。


「もうすぐ三ヶ月だね」


街を回って城に状況報告の手紙を出し、何の情報も得られないまま、また次の街へ行く。
いくらそれを繰り返しても、セラの有力な情報は何も入ってこなかった。
そもそもカイル街からひたすら西に向かっているけど、それすら正解かも分からない。
この三ヶ月という月日は、僕にとってあまりに残酷で辛い時間だった。


「そうだな。でも次の街で何か手掛かりが見つかるかもしんねーじゃん」

「そうなることを願ってるけどね」


いくら願っていても、皆他人のことには興味がないのかセラの肖像画を見ても反応が薄い。
加えて部屋の中まで確認させて貰うのに、ごねられて手こずることも度々だった。
城の騎士団員も懸命に捜索は続けているものの、いまだ何も情報を得られていないと聞く。
近藤さんに至っては、付き合いのある家紋に足を運び情報共有を頼んで回っているものの、やはりセラについては何も得られていないらしい。
すっかり塞ぎ込んでしまって、ついには体調を崩されたと報告を受けていた。


「俺ちょっと便所行ってくる。総司は先戻って準備しててくれよ」


平助の言葉に頷いて、僕は一人で宿泊先の部屋へと戻る。
鏡に映った自分の顔には覇気がなく、ここ何日も笑っていないことに気付いた。
そして一人になると襲ってくる急激な不安。
この不安に耐えられずに真剣を取り出してしまうのは、今日が初めてのことではなかった。


「……っ……」


誘われるように首にその剣を当てたのは、ほぼ無意識のようなものだった。
心のどこかでセラがもうこの世からいない可能性を考えてしまう僕は、また死ぬことでやり直せるのではないかという淡い期待を抱いていた。
だからこそあの子が生きているのかすら分からない、漠然としたこの状況が辛くて堪らないわけだけど、もしそうであれば僕は迷わずこの命を差し出す。
そしてまた、あの子に会いたいと考えていた。

けれど鋭い刃が首筋に赤い線を付けた時、僕の腕は勢いよく掴まれる。
いつの間にか戻ってきた平助が、見たこともないような形相で僕を睨み付けていた。


「お前正気か!?何してんだよ!」

「平助、おかえり。僕は別に何もしてないよ」

「嘘付くんじゃねーよ!今確実に死のうとしてただろ!」

「してないってば。別に本気じゃないし、ちょっと魔が刺しただけだよ」

「……魔が刺したって……なんだよ。お前、セラのこと見つけるんだろ?しっかりしろよ!」

「分かってるってば、そんなこと!誰よりも……分かってるよ……」


僕が一番にあの子が生きていることを信じてあげなければならない。
そして誰よりも先に救い出してあげたいよ。
でも分かっていても、どうしようもなく不安で、信じることが辛くなる時がある。
あと何回この夜を越えなければならないのかと考えてしまうと、怖くて堪らないんだ。

前回の時以上にセラの死を受け入れられない僕は、信じることで自分を保っているけど。
彼女の安否が分からないままもう三ヶ月。
正直精神的に限界も近く、夜も眠れない日々が続いていた。


「……怒鳴っちまって悪かったよ。でも俺達が信じてやらねーと、セラが可哀想だろ?」

「勿論信じてるよ、僕だって。でも……実はとっくにこの世界から消えてしまっているんじゃないかって思うと、どうしていいか分からなくなるんだよ」

「その気持ちは俺だって分かるつもりだし、総司だけじゃねーって。でもさ、諦めちまったらそこで終わりじゃん。俺はセラのこと絶対諦めたくねーし、終わらせたくない。だから信じるって決めてお前について行くことにしたんだよ」


城から出た三ヶ月前のあの日。
あの時は何がなんでも見つけるつもりでいたし、僕ならあの子を見つけ出せるという根拠のない自信があった。
これだけの想いがあるのに、僕達がこのまま会えないなんてことは絶対にないと思っていたんだ。
でも現実が無常であることは、僕が一番よく分かっている。
いとも簡単に引き裂かれた以前の記憶が、僕に期待はするなと囁いているようだった。

けれど前向きな平助の言葉は、すっかり萎んでしまった僕の心に一生懸命空気を入れて膨らませようとしてくれている。
僕を信じてついてきてくれた平助を裏切らない為にも、僕はしっかり自分を保たなければならないと気付くことが出来た。


「……ありがとう。平助の言う通りだね、諦めたらそこで終わるって聞いたら絶対に諦めてたまるかって思えたよ」

「だろ?しかも幸い、こんだけ探して情報だって求めてるのに、セラの遺体は出てきてない。てことは生きてるって思うじゃん」

「まあプラスに考えればそうかもしれないけどね」

「だから、こうゆう時こそプラスに考えていかないと駄目なんだって!俺達はいつかセラを見つけ出せるって信じてるから、こうやって街をくまなく回って調べてるんだからさ」


平助の言う通り、心のどこかで信じているからセラを探すことを続けている。
あの子の笑顔がまた見たいから、絶対に諦めたくはなかった。
そのくせ悩んで、最悪な結末ばかり考えてしまう自分が情け無いけど、諦めることも落ち込むことも後でだっていくらでも出来る。
それなら今するべきことは信じて探し続けることだと、前向きに考えたいと思った。


「平助って凄いね。元気が出たし、君が一緒に来てくれて良かったって思えたよ」

「今更かよ。気付くのおせーっつーの」


そう言っていつもの元気な笑みを見せる平助に、僕も久しぶりに笑顔を返す。
そしてもう一度セラが無事でいることを信じようと心に決めた。
以前セラから貰った懐中時計は、日々時間の流れを僕に感じさせるけど。
これを見てあの子の笑顔を思い出しながら一日一日を懸命に生きようと、気持ちを切り替える僕がいた。


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