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とても幸せな夢を見ていた気がするのに、目を開けたその場所は見慣れたいつものベッドの上だった。
いつもと違うことは、そこには私を心配そうな顔で見下ろす土方さんと大鳥さんがいること。
ぼんやりとした頭で何が起こったのか考えていた。


『土方さん……、大鳥さん……?』

「平気か?」

『はい、大丈夫です……。私どうして……』

「君は街からの帰り道、突然寝てしまったんだよ。そこから丸一日以上経っても目を覚まさなかったから心配していてね」

『……え?そうなんですか?』

「街に出掛けたのは一昨日だよ。今はもうその二日後の朝なんだ」


部屋の窓を見れば太陽の光が差し込みとても明るい。
自分の身に何が起こってるのか分からなかったけど、沢山寝たせいか身体はとても軽かった。


『ごめんなさい、折角連れて行ってくださったのに寝てしまうなんて……。またご迷惑を掛けてしまいました』

「いや、別段迷惑なんざ掛かってねぇよ。こっちこそまだ本調子じゃねぇのに連れ回しちまって悪かった」

『そんな……土方さんが謝らないでください。体力がない私が悪いんです』

「いや、そうじゃないんだ。昨日一応医者に診て貰って、君の症状を話したんだけどね。記憶喪失の患者は時に疲労や脱力感、睡眠障害などの症状がみられることもあるんだって聞いたよ。急激に眠くなって目を覚まさないのは、極度な緊張や疲労が溜まったことによる反動だろうと先生もおっしゃっていてね」

「一昨日久しぶりに街に出たことで、多分知らず知らずのうちに疲れちまったんだろ。ここでの生活もお前はやたら気を使ってるようだから、蓄積されたものもあるかもしれねぇが」

『そんな……違います。私はお二人にとても親切にして頂いて感謝しかなくて……街に出れたことも楽しかったですし、気疲れしていたわけではありません』

「君がそう思ってくれてるのは伝わってくるし分かっているよ。でも君の元の人柄なのかな、凄く周りに気を遣ってくれているのではないかい?」

『いいえ、気を遣って頂いているのは私の方です』

「俺達が言いたいのは、もっと甘えてくれて構わねぇってことだ。今のお前には頼れる奴が他にいねぇんだから、腹括って何も考えずに楽しく過ごしてりゃいいんだよ」


またわしゃわしゃ頭を撫でられて、その気遣いに心が温かくなる。
見ず知らずの私を助けて、ここまで世話をしてくれる人達なんて早々いないと思う。


『ありがとうございます。でも私、ここで十分のんびり楽しく過ごさせて頂いてますよ。本当はここでお仕事がしたいのですが……』

「だから、そんなもんする必要はねえって言ってるだろうが。第一、お前が仕事したって途中で寝ちまうんじゃねぇのか?」

『そんな、流石に仕事中は寝ません。多分……』

「はは、この前は凄かったんだよ。君がいきなり土方君に寄りかかって寝ちゃうものだからさ、土方君も驚いてしまってね」

「そりゃ驚くだろうが。喋ってる途中で寝る奴なんざ見たことねぇよ」

「あれ?君が驚いたのはセラちゃんがくっついてくれたからじゃないのかい?」

「阿呆か……。んなことを、いちいち考えちゃいねぇよ」

「へえ?そうなんだ、意外だな」


からかう口調の大鳥さんを睨みながら、ため息を吐き出している土方さん。
その様子に笑ってしまうと、私まで睨まれてしまった。


「まあ、街を回るのは無理のない範囲でやっていこうぜ。まずが身体が第一だからな」

『あの……でも私、ここに長居をしてしまうのが申し訳ないんです。なので最近一つ考えてることがあって、どこか住み込みで働けるところがあれば、そちらにお世話になることも視野に入れ……』

「そんなこと駄目だよ。土方君の顔を見てみなよ、凄い顔で睨んでるよ」

「睨んではねぇよ……。だがその状態で仕事しようなんざ考えんじゃねぇよ。この城にだってここ以外にも空き部屋がいくつもあるんだぜ、なんで敢えて出て行く必要があるんだよ」

『でも私がお世話になり始めてもう二カ月ですよね、さすがにこれ以上は……』

「だから、お前に出て行かれたら俺が心配なんだよ。いいからお前は余計なことは考えずにここにいろ」


はっきり告げられた言葉に思わず目を見開いてしまったけど、土方さんも言うつもりはなかったのか気まずそうに視線を逸らしていて。
その様子を見ていた大鳥さんは、嬉しそうに私に笑顔を向けてきた。


「そうなんだって。だから土方君のために、君はここにいてくれないかい?」

『ですが……私毎日何もしていないので、そういうのは良くないと思うんです』

「暇って言うなら、好きなことをさせてやるよ。幸い城の中は色々出来る環境だけは整ってるからな。楽器もあるし乗馬も出来る、本も知っての通り沢山あるし街に出たいなら連れて行ってやることも出来る。何が不服なんだよ」

『私は別に不服なわけじゃありません……』

「だったらいいじゃねぇか。お前の身内を見つけられるまでは、ここでゆっくりしててくれ。いいな?」

『あの……はい。ありがとうございます……』


勢いに押されて頷いてしまったけど、本当に良かったのかなと申し訳ない気持ちになる。
でも私を見つめる土方さんはようやくその顔に微笑みを作ってくれたから、私もホッとして微笑みを返した。


『不束者ですがお世話になります』

「あはは、まるで嫁ぐ前の挨拶みたいだね。本当に土方君のお嫁さんになっちゃえばいいのにな」

「だから……こいつを困らせることばっかり言うんじゃねぇよ」

「でも真面目な話、君のご家族がもし見つからなかったらそれも一つの方法だと思わないかい?土方君と結婚をすれば、土方君が君の家族になる。ここに住む理由にもなるよ。土方君もセラちゃんが傍にいないと心配みたいだし、この方法なら全部解決すると思うんだけどね」

「そうだとしたって、その時は俺が言うよ。お前が口を出すことじゃねぇって言ってんだろうが」


土方さんの言葉に少し驚いて目を瞬いてしまったけれど、それは大鳥さんも同じだったのか、珍しく反論もしないまま大きな目をぱちくりとさせている。


「……じゃあな、俺は仕事に行く」

『あ、行ってらっしゃいませ』

「ああ、またな」


部屋を出て行く土方さんを見送ってから、今の言葉をもう一度思い出す。
深い意味はないのだろうけど、少しだけ緊張してしまった。


「あの土方君があんなことを言うなんて驚いたよ。セラちゃんのこと、相当気に入ってるみたいだね」

『違いますよ……。多分私が路頭に迷わないよう気に掛けてくれているだけだと思います』

「最初はそうだったのかもしれないけどね、僕は土方君と付き合いが長いから言うけど、あの人は誰にでも優しいマメな人ではないよ。でも何故か君にだけは違う。それってどういうことだと思う?」

『それは……分からないですけど……』


少し顔が熱くなって、恥ずかしさから顔を俯かせる。
すると大鳥さんは笑い始めて、「ごめんね」と謝ってきてくれた。


「君を急かしてるつもりはないんだ。でも何かあった時、土方君を頼るのは間違いではないと思うよ。それは僕が保証する」

『大鳥さんって土方さんのこと、本当に信頼されているんですね。お二人が仲睦まじくて羨ましいなって、いつも思っているんです』

「まあ喧嘩ばかりしているけどね。でももう小さい頃からの付き合いだから、お互いのことは誰よりもよく分かってるんじゃないかな。だから君と出会って君が話せるようになった頃くらいかな、絶対に君と土方君は合うだろうなって思っていたんだよ」

『そうですか?』

「ああ。現に土方君は君のことを気に入ってるみたいだし、多分求婚されるのも時間の問題だと思うけどな」

『そんなことは絶対にないです、私はただの街娘ですから……』

「恐らくあの人はそんなことは気にする人ではないよ。まあ、まだ出会ったばかりだし君もゆっくり土方君のことを知っていけばいいと思うよ」


こんな話ばかりされたら、土方さんのことを変に意識してしまいそうだと眉を下げる。
けれど大鳥さんが嬉しそうに微笑んでるから、釣られて笑顔になる私がいた。
何も分からなくて、先のことを考える心の余裕すら持ち合わせていないけど。
ただ夢の中の温もりを思い出し、無意識に首元のペンダントを握りしめた私がいた。


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