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次の日、朝から頭痛で体調が良くなかった私は、鏡の前であまり元気そうには見えない青白い顔を見てため息を吐き出した。
憂鬱……なんて思いたくはないのに、総司と二人で過ごすこれからの時間が、私に変な緊張を与えている気がしていた。

でも元々は仲良かったみたいだし、これからまた仲良くなれば大丈夫だと言い聞かせて、侍女の方々に手伝って貰いながら身支度を始める。
昨晩総司に渡された街娘の格好を身に纏うと、いつもより動き易いこの格好がやっぱりしっくりくる気がしていた。


「じゃあ行こうか」

『うん』


総司も街に馴染むような格好になり、そのいつもとは違う彼の身姿をじっと見つめてしまう私がいる。


「なに?じっと見て」

『新鮮だなって思って』

「セラもね。似合ってて可愛いよ」

『ありがとう、総司も似合ってて格好いいよ』

「それはどうも。って、前にも一度同じ会話したんだよね」

『え、そうだったの?』

「街娘の格好をするのは初めてだったからセラは凄いはしゃいでてさ、それで二人でそのまま街に行って遊んだんだ」


懐かしむようにそう言った総司は、横顔でも分かるくらいとても優しい微笑みを浮かべていて。
その顔を見たら、きっと私では総司をここまで笑顔にすることは出来ないのだろうなと思った。
それに昔の話を出されても、当然何も分からない。
同じ格好で同じ場所に出掛けたら、あの頃の私と余計比べられそうで、不安に感じてしまう私がいた。

それから二人で馬車に揺られ、お目当ての街に到着する。
クリスマス目前の街は綺麗に彩られ、様々なところでクリスマスソングが流れていた。


「どこか見たいところある?」

『あの、ツリーのお店は?可愛いよ』

「いいよ。行こうか」


総司は歩きながらも、いつも私を気にして私が困ることのないよう気遣ってくれる。
お店に着き、店内に並ぶ沢山のツリーをぼんやり眺めながら、ふと土方さんのお城での一日を思い出した。

あの日、大鳥さんがいきなり物凄く大きなツリーを買ってきて、「ツリーを飾ろう!」なんてはしゃいでたんだよね。
帰ってきた土方さんは、私達が飾り付けをした巨大なツリーを見るなり唖然としていて。
その顔を見て大鳥さんと、沢山笑ったことを思い出した。


「セラ?どうしたの、ぼーっとして」

『あ、ううん。ちょっと前のこと思い出しちゃって』

「え?何か思い出したの?」


総司に肩を掴まれて、思わず目を見開く。
そして変な誤解を与える言い方をしたことを、今更ながらとても後悔した。


『あ……ううん、この前までいたお城のツリーを思い出してただけなの……』

「あ、そっか。びっくりしたよ、記憶が戻ったのかと思ってさ」

『勘違いさせる言い方してごめんなさい……』

「謝らないでってば。僕も勘違いしてごめんね」


総司は寂しそうに微笑むから、また私の胸は痛くなる。
結局私は、総司に寂しそうな顔をさせてばかりで、本当に駄目。
中々上手く会話も弾まない気がして、申し訳ないと思う気持ちが増えていくばかりだった。

そしてツリーのお店を見た後も、私達は様々なお店を見て回った。
クリスマスオーナメントのお店やチョコレート専門店、可愛い雑貨のお店やハーブティーが沢山置いてあるお店。
どれも記憶になかったから興味津々で見ていたけれど、お茶を試飲出来るブースを見つけて私は総司に声を掛けようと後ろを振り返った。

でも振り返った先の総司の顔に笑顔はなく、無意識に深い息を吐き出した様子は少し思い詰めているように見える。
私といる時はいつも笑顔だったのに、今の彼が素の彼だと分かってしまったから、また胸の痛みが積もっていった。
でも私の視線に気付くと、直ぐにまたいつも笑顔になる。
その変わりように複雑な気持ちにならずにはいられなくて、私は上手く笑顔を作ることも出来なくなってしまった。


「セラ、疲れた?」

『ううん、疲れてないよ。楽しいよ』

「本当?」

『うん、本当だよ』


総司を見上げてもう一度笑顔を作ってみたけれど、総司の笑顔はやっぱり寂しそう。
その顔を見たらうまく笑うこともできなくなって、総司の顔からも笑顔は消えてしまった。


「……日も落ちてきたし、そろそろ帰ろうか」

『……そうだね』


頭が痛い。
そしてそれ以上に胸が痛い。
このまま一緒にいても悪循環になる気がして、ただ一緒の時間を過ごせばいいわけではないことを知った。
本当は仲良くしたいし、出来るなら思っていることを全て正直に話してしまいたい。
でも打ちあけた時の彼の顔を想像すると、怖くて出来る筈もなかった。

馬車の中、他愛のない話をしながら揺られていた私達は、少しずつ暗くなる空を見つめながら、ただ城へと向かう。
城に着き部屋の前で立ち止まると、総司は私に微笑みながら言ってくれた。


「今日はセラと出掛けられて楽しかったよ、ありがと」


本当は楽しくなかったよね、ごめんねって総司に言いたい。
でもそんな言葉を言えば総司が気にしてしまうだけだから、結局また思っていることとは違う言葉が口から出た。


『私もとっても楽しかった。どうもありがとう』


なるべく自然に微笑んで、なるべく元気にそう告げる。
そんな私を見て優しく笑顔を見せてくれた総司は、私の前に可愛いプレゼントの箱を出した。


「これ、君に。ちょっとしたものだけどね」

『わあ、なあに?』

「さっき可愛いって見てたチョコレートだよ。セラがお手洗いに行ってる時、時間あったから買っておいたんだ」

『あのくまさんの形の?』

「そうだよ。あれ可愛かったよね」


二匹のクマが並ぶチョコレートは可愛くて、食べるのが勿体ないと思ってしまうくらいだった。
でも一番印象に残っていたから嬉しくて、箱を開けたらやっぱりとっても可愛いから癒される。
何より総司がこうして私の為にこれをプレゼントとしてくれたその気持ちが嬉しかった。


『ありがとう、総司。とっても嬉しい』


本当に嬉しくて、多分このお城に戻ってきてから一番嬉しかったかもしれない。
だから気付いた時には自然と笑顔が溢れて総司を見上げていた。
すると総司も私を見て、昔の私のことを語っていた時と同じあの優しい笑顔で微笑んでくれる。
今の私に向けられることはないと思っていた笑顔がそこにはあって、胸に何か込み上げてくるものを感じた。


「良かった、喜んでくれて。セラが笑ってくれて嬉しいよ」


総司は、ただ私を元気付けようとしてくれていたのかもしれない。
無理して微笑む私ではなく、本当の意味で笑って欲しかっただけなのかもしれない。

それなのに私は総司の顔色ばかり気にして、本音で話すことすらしてこなかった。
それが優しいこの人に対してどんなに酷いことだったか今になってはっきり分かるから、それに気付いた瞬間ずっと堪えていた涙が一気に湧き上がってくる。
それはとめどなく流れて止まらなくて、目の前の総司もその瞳を大きく見開いていた。


「セラ……?どうしたの?なんで泣くのさ……」


上手く説明出来なくてただ涙を流す私の頬を、総司の指先が優しく拭ってくれる。
総司に全部話そうと口を開きかけたけれど、我慢していた頭の痛みが酷くなった瞬間、突如襲ってきた立ち眩みからその場で倒れそうになった。


「セラ……?大丈夫?」

『ごめ……』

「なんか身体熱いけど、まさか体調悪かったの?」


総司に支えられながら首を横に振った時、著しい睡魔に抗うことが厳しくなってくる。
私の名を呼ぶ声を聞きながら、見えない暗闇の中に意識を手放した私がいた。


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