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打ち解けられたあの日から、セラはようやく自然な笑顔を見せてくれるようになった。
部屋に行けば嬉しいそうにしてくれるし、彼女からも僕に会いに来てくれる。
休暇中ということもあり、僕達は今までにないくらい二人でゆっくり過ごす時間を持つことが出来ていた。

相変わらず記憶が戻らないセラは、それはそれで可愛らしい。
僕を知ろうとしてくれているのか、一生懸命僕のことを聞いてくるところなんて、愛らしい以外の何ものでもなかった。
一つ言うとすれば、以前のような関係ではないから、好き勝手触れないことは少し残念ではあるけど。
その分僕には無防備で、これはこれで役得かなとも思ってしまう。


「セラ、起きて」


お風呂から上がると、僕が出るのを待っていただろうセラが、僕のナイトウェアを抱き締めながらベッドで眠ってしまっている。
気付くと眠ってしまう彼女が僕のベッドで寝落ちすることは初めてではなくて、その様子には頬が緩むばかりだった。


『ん……』


たまに揺さぶっても起きない時があるけど、今日は目を擦って起きてくれる。
まだ眠そうにしながらも、僕を見るとその目はぱっちり開かれた。


『総司、待ってたよ』

「そうみたいだね。お待たせしました、お嬢様」

『いいえ。ナイトウェアは着ないの?』

「君が持ってるからね」

『あ、ごめん』


上目遣いで微笑んでそれを僕に手渡したセラは、こうして過ごしていると以前とほとんど変わらない。
僕だけを見つめてくれるところや、僕に好意を寄せてくれているだろう態度は、以前のセラのようだった。
でもこの子も近藤さんに似て多少鈍感なところがあるから、おそらく深い意味はないのだろう。
仲の良い友達のような関係だけど、取り敢えずは警戒心をなくして貰えて良かったと考えていた。


「明日はどうしよっか、街に出てみる?」

『うん。最近雨続きだったから、明日晴れたら行きたいな』

「了解。じゃあ二人でデートしようか」


敢えて意識して欲しくてそう言ってみる。
最近も本でロマンス小説を読んでいるみたいだし、全くもってその意識がないことはないだろうとセラの反応を見てみることにした。


『総司ってさ?』

「うん?」

『今、お付き合いしてる人とかいるの?』


全く予想してなかった質問が投げ掛けられて、苦笑いするしかなくなる。
以前も期待していた反応とは全然違う質問が投げ掛けられたことがあったと、昔のことまで蘇ってきた。


「君は馬鹿なのかな。付き合ってる子がいたら、君とばかりこうしてたら問題じゃない?」

『確かにそうかもしれないけど……、気になったから』

「どうして気になったの?」

『だって総司のことはまだ知らないことも沢山あるから、出来る限り知りたいと思って』


やっぱりまだ友達止まりらしいから、セラの返答に期待することはやめにする。
もう少し時間をかけて、土方さんにとられる前に振り向いてもらうつもりだ。


「ふーん、そうなんだ。まあ……残念ながらいませんよ、今は」

『今は?』


思わず言ってしまった余計な一言に自分で目を瞬いた時、セラも大きい瞳をよりくりっとさせて僕を見つめた。


『え、じゃあいたことはあるの?』

「いや、ないよ」

『でも、今はって言ってた……』

「言い間違えただけだよ」

『……怪しい』

「怪しくないってば。本当にいないよ」


君以外は。
君が僕を忘れてしまったから残念ながら今はいない状態になってしまったけど、僕はいつでも前の関係に戻る準備は整ってますよって言いたい。


『そうなんだ……』


あまりしつこく聞いてこないところがこの子の可愛いところだけど、伏し目がちになって心なしか少し元気がなくなってしまった。
そんな顔をされたら期待してしまいそうになるけど、こういう感覚は懐かしい。
想いが通う前の僕も、いつもこの子の言葉や様子に一喜一憂していたことを思い出した。


「なんでそんな顔してるの?」

『え?』

「僕が誰かと付き合ったことあったら悲しいの?」


敢えて悪戯に笑ってそう聞いてみれば、セラは少し頬を赤らめて僕から視線を逸らした。
ようやく見ることができたその少しの変化を、嬉しく思う僕がいる。


『そういうわけじゃないけど……ちょっと複雑なだけだよ』

「へえ、複雑なんだ。どうしてだろうね」

『総司に先越されたのかなって』


あー、そっちなんだ。
全然期待していた方と違ったからげんなりする。


「じゃあセラはいたことないの?」

『わからないよ、記憶がないんだもん』

「あはは、確かにそうだね」

『でも誰も何も言ってこないってことは、いなかったんだと思うよ』


言いたいけど、言えないのが現状だったりする。
会ったばかりの相手に付き合っていた事実をただ伝えられても信じられないだろうし、セラの負担が増えるだけだろうと思ったからだ。
それに無理して好きになって貰うみたいで僕としても複雑だし、僕は君ならまた僕を想ってくれると信じてる。
だから今はまだこの子とのこういう時間も、大切に過ごしていきたいと思っていた。


「わからないよ、言えないだけかもしれないじゃない」

『言えないってどうして?』

「だってセラは記憶がないんだから、いきなり付き合ってたんだよ、なんて言われても焦るでしょ?だから相手が様子を見てる場合もあるんじゃないの?」

『でも総司は専属騎士で私の傍にずっといてくれたんだよね?総司が知らないってことは、やっぱりいなかったんだと思うよ』


セラの中では、その選択肢の中に僕は全く入っていないらしい。
真面目な顔でそんなことを言うから、再びがっかりする僕がいる。
こんな話ばかりしていたら余計にそういう対象で見てもらえなくなりそうだから、少し話題を変えようと思い立った。


「セラはどんな男の人が好きなの?」


思えば聞いたことがなかったから、聞いてみたいと思った。
前は僕の好きなところを沢山言ってくれたけど、彼女の好みと合っているのか気になるところだ。


『それは……内緒かな』

「なんでさ」

『だってそんなこと言うの、ちょっと恥ずかしいもん』

「えー、そんな恥ずかしいこと?」

『じゃあ、総司はどんな女の子が好きなの?』


僕はどんな女の子というより、セラが好きだ。
性格も仕草も、顔や声やその身体だって、この子そのものが好きだから、何かの条件に合うから好きなわけでじゃない。
だからこの質問に真面目に答えるとしたらただセラの特徴を話すだけになるけど、それってどうなんだろうと一度考える。


「セラが教えてくれるなら僕も教えてあげてもいいけど?」

『私は恥ずかしいから無理』

「じゃあ僕も恥ずかしいから無理」

『総司は言えるでしょ?』

「なんでさ、そんなの不公平だよ」


愛らしい表情で眉を顰めて見せるセラは、少し不服そうにしながらもどうするか迷っている様子だ。
でも少し恥ずかしそうに唇に弧を描くと、僕を見つめて話し始めた。


『私はやっぱり優しい人がいい。あと一緒にいて楽しくて幸せだなって思える人かな』

「なんだか漠然としてるね」

『でも大切なことだよ?』

「他には?特徴とか」

『他は……笑うと可愛い人がいい』

「笑うと可愛い男なんているの?よく分からないな」

『もう、さっきから私の理想の人に文句言わないで』

「もう少し教えてよ、そしたら僕も教えてあげる」

『えっとあとは……私を一番大切に想ってくれる人がいいな。ちゃんと好きだよって毎日言ってくれる人がいい……』


セラは一人で照れながらそんなことを言うから思わず笑ってしまったけど、最後のは当て嵌まっていたと思うから安堵する。


『次は総司の番だよ?』

「僕は……そうだな。やっぱり素直で何をしてても可愛いなって思える子がいいよね。女の子らしくて護ってあげたくなるような子っていうのかな、そういう子にうんと優しくしてあげて、たまに意地悪も出来たら最高だよね」

『え?優しくするのに意地悪もするの?』

「うん」


セラはよく分からないと言いたげな様相で首を傾げていたけれど、自分のことだとは微塵も思っていない様子だった。


『でも総司と付き合える子はきっと幸せだね』

「なんで?」

『だって総司は優しいもん』


それは僕が君を好きだからだよって言えたら楽なんだけど、言葉に制限がかかる今は案外返答に困る時がある。


「僕は決して優しい人間じゃないと思うけどね」

『総司が優しくなかったら世の中の人殆ど優しくない人になっちゃうよ』

「はは、それは買い被り過ぎかな。僕はどちらかというと他人に興味ないし優しくもないと思う。まあ好きな子にだけは優しくしたいけどね」


なんて遠回しに言ったところで、セラは笑顔で頷くだけで何も気付いていない様子だった。
でも付き合っていた頃とはまた違う、彼女の初々しい会話に付き合う時間も悪くない。
いつかまた君に振り向いてもらえる日を楽しみに待ちながら、僕達の今を染めていきたいと思った夜だった。


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