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下を向いたまま頼りなさげな声でそう言ったセラの横顔は、少し思い詰めているようだった。
そして選抜する側の彼女にも悩みや不安があることを知り、興味本位で探ってしまったことを悔やんだ。
「確かに特権はあるけど、それだけが目当てなわけじゃないと思うよ。僕も他の団員と話す時、結構専属騎士の話になったりするんだけどさ。純粋に君を護りたいって思ってる団員ばかりだから、そんな不安にならなくても大丈夫だよ」
『……本当?』
瞳を揺らして不安気にそう聞いてくる愛らしい姿に、僕としては別の意味でこの子には気をつけて欲しいと思ってしまう。
部屋や食事のグレードアップなんかより、護衛対象がこの子だということが何よりの特権になっていることに全く気付いていないことが問題だ。
「うん、本当だよ」
『ありがとう……。そう言って貰えて少し安心した。他の騎士の方々とはあまり話せてないけど、ちゃんと騎士団の皆さんのこと、信用しないと駄目だよね』
取り敢えずセラを元気付けることを最優先させたけど、結果として周りの騎士団員の印象を良くしただけで自分のマイナスイメージは拭えてないことに気付いた。
まあこの子からしたら僕が志願しようがしまいがどうでもいいことかもしれないけど、それはそれで複雑だ。
「でも変な奴は選んだらだめだよ」
『この前も言ってたけど、変な人なんているの?』
「僕も入ったばかりでまだよく分からないけど、専属騎士になったら君の隣の部屋で生活するわけでしょ」
『うん』
「さっき見たら隣接してるドアには鍵もなかったし、何かされたらどうするのさ」
『何かされたらって例えばどんなこと?』
「いや……、例えばって言われても困るけど」
僕は言葉を濁しながら考える。
とはいえ、万が一のことを考えると不安にならないほうがおかしい。
変な奴が専属騎士になったら、部屋に勝手に入られたり、寝ている間に何かされたり、とかね。
「たとえば勝手に部屋を覗かれたりとか」
『さっきの総司みたいに?』
間髪入れずにそう返されて、僕の瞳は細められる。
セラは悪戯に笑って、僕の様子を窺っているようだった。
「さ、もう帰ろっと」
『え?あ、待って』
「おやすみ」
以前は僕が置いてけぼりをくらったから、今度は僕が先に行こうと立ち上がったけど。
制服の裾を引かれて振り返れば、セラが僕を見上げて言った。
『冗談だから怒らないで?まだ行かないで欲しいな』
「嫌だよ。君も、もう寝たら?」
『私はまだ眠くないもん。ほら、早く隣座って?』
そう言って自分の席の隣をぽんぽんと叩いて、自発的に僕が座るのを待っている。
その一連の動作や甘えて強請るような口調が可愛いと思ってしまったら負けなのに、それを突っぱねられる程の強い意思は待ち合わせていないようだった。
「わかりましたよ、お嬢様」
『その呼ばれ方は好きじゃないよ』
「でも君は公爵令嬢なんだから仕方ないでしょ」
『今までみたいに名前でいいよ?』
「じゃあ気が向いたら名前で呼んであげてもいいけど」
素直に頷かない僕に、セラは少しむくれて片頬を膨らませる。
『総司ってやっぱり意地悪』
「君の方がずっと意地悪だよ」
『どうして私が?』
「さっきから専属騎士になって欲しくない奴の特徴に僕をあげるじゃない」
『総司は専属騎士なんて別にいいやって思ってる人なんだから、別にいいでしょ?』
「それ、いつまで言うのさ」
『ずーっと?』
「傷付くな。君に専属騎士に立候補するなって言われてるみたいで」
正直、冗談っぽく言ってるけど、控え目に言ってだいぶ傷付くよね。
これでも気にしないようにしてるつもりだけど、犯罪歴がなければこの子に何と言われようと立候補するのにという歯痒い気持ちはなくなってはくれない。
『私はそんなこと一言も言ってないよ』
「でも、そう聞こえるんだけど」
『それは……ごめん……』
「いや、そこで謝られた方が余計に傷つくから」
『本当に思ってないからね?』
その言葉を信じたいけど、自分の中の劣等感がこの子の言葉すら歪ませる。
それを悟らせないように、「わかってるよ」と返してこの話を終わらせようと思っていた僕に、セラは言った。
『お父様から専属騎士の話を聞いた時ね』
「うん?」
『本当は総司の顔が一番に浮かんだんだよ』
優しいこの子のことだ、僕を気遣ってそう言ったのかもしれない。
それでも僕を見る眼差しは嘘ではない気がして、彼女から視線を逸らせない僕がいた。
『私、あの状況で助かったことが奇跡だと思ってて。うまく言えないけど、総司がなってくれたらいいなって考えたら……その後、他の人が専属騎士になることを想像出来なくなっちゃって』
「はは、それ本当かな」
『本当だよ。だから総司が専属騎士にあまりなりたくないのかなってわかった時は悲しくて……気付いたらつい意地悪な言い方をしちゃってたの。それで総司を嫌な気持ちにさせてたなら、ごめんなさい。でも本心じゃなくて、私は総司が志願してくれたら嬉しいって思ってるから』
「本当に嬉しいって思ってくれるの?」
『うん、嬉しいよ。私の勝手な気持ちだけで言ったら、専属騎士は総司がいいよ』
セラからの言葉は、沈んでいた心中をいとも簡単に軽くしてくれるほど温かくて、正直嬉しくて堪らなかった。
でも捻くれ者の僕は、この言葉が僕を気遣う故のただの優しさだったら嫌だとも思ってしまう。
「セラ」
僕は静かに彼女の名を呼んだ。
セラはまっすぐ僕を見つめて小首を傾げている。
その愛らしい様子を目の前に、僕を気遣っているだけなのか、本当に僕を望んでくれているのか、真実を知りたいと思った。
この子は優しい子だ。
だから僕が不安そうにしていたら「総司がいい」って言ってくれるのかもしれない。
でももしそれがただの慰めだったら、全てを鵜呑みにして選択すればきっと僕は後悔する。
そしてセラ自身も後悔してしまうかもしれない。
だから彼女の言葉の真意を確かめたいと思った。
「そう思ってくれるのってさ、僕が前に君を助けたから?恩を感じてるとか、そんな理由じゃないよね」
『え?違うよ』
即答だった。
セラは驚いたように目を見開いて、小さく首を横に振る。
『そんなふうに思ったことなんて、一度もないよ』
「じゃあ、どうして僕がいいの?」
セラは少しだけ視線を泳がせた。
まるで、自分でも言葉にするのが難しいかのように。
『どうしてって言われても……』
「セラの未来に関わることだよ。だから軽く考えて欲しくないし、僕は君がどうして僕を選んでくれるのかを知りたいんだ」
僕は簡単に信じられないくらいには、きっと臆病なんだろう。
だからセラを困らせると分かっていても、確かめずにはいられなかった。
「それって、本当に僕じゃないとだめなの?」
僕の問いに、セラは驚いたように瞬きをした。
『え……?』
「僕は、専属騎士になれたらいいなとは思ってるよ。でもそれが君の優しさに甘えているだけなら、止めた方がいいとも思ってるんだ」
だって君の言葉を信じてしまったら、僕はきっと後戻りができなくなる。
何がなんでも、専属騎士の座を勝ち取ろうとするだろうし、一度その道に進んだら僕はもう諦めることなんてできないだろう。
そうなった時、君がいずれ今夜のことを後悔しそうで怖くて堪らない。
君は君自身の言葉がどれだけ僕に影響を与えているかなんてわかってもいないだろうけど、だからこそ君の言葉の本気度を知りたかった。
『そんな……どうしてそんなことを言うの?』
「セラには選べる未来がたくさんあるからだよ。君は公爵家の一人娘で、きっと僕よりも強くて、経験もあって、君に相応しい騎士を選ぶことができるよ。だから犯罪歴があって国を追われた僕じゃなくてもいいと思うんだよね。そういうのを引っくるめて考えても、僕がいいって本当に思えるの?」
セラはきっと、こんなことを言われるなんて思っていなかったんだろう。
少し潤んでしまった瞳は揺らいで、それでも真っ直ぐ僕を見つめていた。
『わたし……は……』
セラの声は小さく、少し震えていた。
夜風が静かに吹き抜ける中、セラは僕から視線を逸らさないまま、胸の前でそっと手を握りしめた。
『私……ずっと考えてたんだ。どうして、総司がいいのかなって……』
思わず息を呑む。
そんなことを考えてくれていたなんて思ってもいなかったからだ。
彼女は僕をじっと見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
『理由はちゃんとあるんだよ。でも……』
珍しく歯切れ悪く一度黙ったセラは、懸命に言葉を選んでいるように見えた。
僕のために今凄く真剣に考えてくれているということがわかったからこそ、僕はただ黙って彼女の言葉を待っていた。
『やっぱり、うまく……言えないよ……』
「なんで?」
『だって……それってそんなに重要なことなのかな。私は総司が自分で決めるべきことだと思うよ』
「僕が教えて欲しいって言っても?」
この子のことだから聞けば教えてくれると思っていたけど、その予想は外れたらしい。
セラは頷いて、どうしてもそれ以上は話したくないみたいだ。
『総司が言う通り、私には選べる未来があるかもしれないよ。でも……それは総司も同じじゃない?』
「僕も?」
『だって、総司はすごく強いよ。私なんかじゃなく、もっと良い立場の人の騎士になれるかもしれないし、いずれここを出て他の場所で自由に生きることだってできるよ』
「そんなことは考えてもなかったけど」
考えるわけがない。
僕はこのアストリア公国の騎士として、セラに忠誠を誓っている。
だからこそ必死な思いで見習いを卒業したし、その姿はセラだって見ててくれたはずなのに、そんなことを言われてしまえば複雑だ。
『でもこの前の総司の戦い方とか見てたら、なんて言えばいいのかな……総司は十分前線で活躍できる腕でしょう?でも護衛の仕事は剣術以外にも色々とあるんだよ。常に護衛対象と一緒に行動しなければならないし、外交や公務にもついていかないといけなくなるし、純粋に剣を振るうだけじゃなくなるの』
「大体は分かってはいるつもりだよ。山崎君を見てるしね」
『うん……。だから総司は専属騎士っていう立場より、通常の騎士として活躍したいっていずれ思うんじゃないかなって思って……』
「それはつまり僕が専属騎士には向いてなさそうってこと?」
『そうじゃなくて……私が言いたいのは先のことはわからないってことだよ。総司は騎士になって間もないし、やりたいことを見つけていくのはむしろこれからでしょう?今は専属騎士に興味があったとしても、その気持ちだって変わるかもしれないよ?』
「気持ちって?何の?僕は変わらないよ。護衛だから物足りないとか、他の人に仕えてもっと出世したいなんて考えたこともないし」
『総司に私の思ってることを話すのは簡単だよ。でも私は……総司のことを縛るかもしれないことを言うのが怖いよ。総司に後悔して欲しくないし、総司には幸せになって欲しい。だから総司の意志で、総司の進むべき道を決めて欲しいの』
僕は互いが後悔しないように聞いておきたかった。
でもセラは後悔して欲しくないから、想いを口にしたくないと逆のことを言う。
どちらが正しいのかなんて僕にも分からなくて思わず眉を寄せてしまえば、セラはそんな僕を悲しそうに見上げている。
「そっか……」
セラの言葉を反芻しながら、僕は静かに息を吐いた。
確かに彼女の言っていることは分かる。
セラは僕を縛るつもりなんてなくて、むしろ僕が自由に選べるようにしてくれている。
でもそれだと、僕のためにセラの本音に蓋をすることになってしまう。
「君が僕のことを考えてくれてるのは伝わったよ。それでも僕は君の考えてることを知りたいんだけど」
『それはどうして?』
「君の本心を知らずに自分で道を決めたら、君が望んでいたことと違っていたかもしれないって僕はずっと迷うことになると思う。それなら先に聞いておいた方がいいと思うんだよね」
『総司は迷うことなんてないんだよ?好きに選んでいいんだから』
「僕はセラの意思を尊重したいんだ。君が本気で僕を専属騎士に望んでくれるなら、僕は君のためだけの騎士になりたいと思う。でもセラの本当の望みとは違うなら、僕は君の決めた道に従うつもりだよ」
僕が望むから、僕に恩があるから、そんな優しさは僕には必要ない。
僕はただセラの望みを少しでも叶えてあげたいだけだ。
そのために僕はセラの本心が知りたい。
何も知らないまま、この子の優しさに甘えるのは違うと思った。
「勿論君だってこれから考えが変わるかもしれない。でもそれは仕方ないことだし別にいいよ。ただ現時点での君の気持ちを聞きたいだけなんだ。だからもっと気楽に捉えてよ」
セラは小さく口を開いたけど、何かを迷うように唇をぎゅっと結ぶ。
そして僕を見上げながら、しばらく逡巡していた。
夜風がふわりと彼女の髪を揺らし、月明かりがその瞳に淡く反射する。
やがてほんの少し頬を赤くしながら、セラはもじもじと指を弄びつつ、か細い声で言った。
『じゃあ総司も私の言葉に縛られないで、気持ちが変わったらちゃんと無理しないで教えてくれる?』
「うん、そうするよ」
『私は総司が無理して専属騎士を目指すのは一番嫌なんだからね?』
「わかってるってば。無理なんてしないし、そもそも僕って君からはそんなにお人好しに見えるの?意外だな」
『総司は優しいよ。きっと私が本気でお願いしたら、絶対それに応えてくれようとする気がする。だから余計に心配で』
セラがそんな風に思っていてくれてたなんて意外だった。
からかって意地悪ばかりしてるし、きっとこれからも僕はこの子を困らせる。
それでも僕のこの気持ちや優しくしたいと思うが故の行動がセラに少しでも届いているのなら、それはとても嬉しいことだと思った。
「確かにそれはそうかもね」
『やっぱり……』
「でも仕方ないじゃない。僕がそうしたいんだから」
『どうして?』
「セラが笑ってくれると僕も嬉しいみたいでさ」
にやりと笑ってそう言ってみれば、一度目を瞬かせたセラは何かに気づいた様子で眉を少し吊り上げてみせた。
『それ、私が前に総司に言った言葉だよ?真似しないで』
「ははっ、覚えてたんだ」
『覚えてるに決まってるよ』
「僕達、同じようなことを考えてるんだね。でもそれなら尚更、僕が君の本心を知りたいって思う気持ちも理解してくれるんじゃないの?」
『そうだけど、それなら私が言うのを迷う気持ちもわかってくれるんじゃないの?』
「うーん、まあ、かるけどそんな気遣いはいらないかな。君が話してくれたら、僕の本心もちゃんと教えてあげるよ」
『それ、本当?』
「本当だよ。僕の考えてること、知りたくない?」
首を傾げてそう言ってみれば、セラはどう返事をするべきか考えている様子だった。
僕を見てはまた目を逸らす、そんな挙動すら愛おしく思えて、ただ静かに目の前のセラを見つめていた。
『知りたいよ、総司の考えてること』
「うん。じゃあ教えてあげる。その代わり、君も教えてね」
『……うん』
約束を交わしたはずなのに、セラはまだ迷っているみたいだった。
けれど、何かを決心したように小さく拳を握りしめ、僕をまっすぐ見つめていた。
『私ね……総司に専属騎士になってほしい理由、ちゃんとあるよ。剣の腕が立つからとか、私を助けてくれたからとか、優しさとか……勿論いくつもあるんだけど……でも、一番大切な理由はそういうことじゃなくて』
そう言いながら、セラは少しだけ頬を染めた。
「じゃあ、なに?」
『……その……』
また黙る。
でも、今度は何かを諦めたように、恥ずかしそうにしながらもぽつりぽつりと続けた。
『……もっと総司にたくさん会えるかなって……』
「え?」
『だって専属騎士になったら、私の隣の部屋に住むことになるでしょ?そうしたら、今よりもっとたくさん会えるし、もっといっぱい話せるよ。総司が傍にいてくれたらきっと毎日楽しいだろうなって、ただそう思って……』
セラは唇をきゅっと結び、恥ずかしそうに視線を逸らした。
『それだけ……だったんだけど……』
「…………」
『大した理由じゃなくてごめんなさい』
セラから理由を聞いて、僕は目を瞬かせた。
だってこんなに一生懸命、言葉を選びながら話していたのに結局それなの?
僕の腕がどうとか、将来のことがどうとか、そんな話をしてたのに。
結局のところ、ただ僕と一緒にいたいから専属騎士になって欲しいって……そんな言葉が返ってくるなんて予想すらしていなかった。
「……あははっ」
『え、ちょっと、笑わないでっ……』
「はは、ごめん。でも、そんな理由だったんだ」
『そんな理由ってなに?私、すごく真剣に考えたのに』
「うん、分かってるよ。でも、あまりにも可愛くて」
『こういう時に可愛いとか言わないで。私、真剣に話してるんだよ』
「いや、可愛いでしょ。言うのを渋ってたわりには、なんか……予想外だったからさ。セラって面白いね」
僕はふっと微笑む。
セラは恥ずかしそうに僕を睨むけど、そんな表情すらもずっと眺めていたいと思う。
『勿論総司のことは信頼してるし、前に助けてもらったこととか、総司が強いこととか……そういうことだってちゃんと理由の一つなんだよ?』
「へえ?本当かな」
『本当だよ。でも専属騎士って長い時間一緒に過ごすことになる人だから、やっぱり私は自分が一緒にいたいと思う人を選びたい。そう思っただけだよ。それってそんなにいけないことなの?』
セラは少し不貞腐れた様子でそんなことを言ってくれるけど、その言葉ですら僕に嬉しいと思う感情を与えてくれる。
この子がこんなふうに僕を求めてくれるなら、それに応えない理由はないと思った。
だって僕はこの先どんな困難があっても、きっと後悔することなんてない。
セラが望む未来は、僕が心から望む未来と同じだったからだ。
「それならもう決まりじゃない?僕が専属騎士になればセラは嬉しいって思ってくれるんでしょ?」
その言葉を聞いたセラは、ぱっと顔を上げて僕を見た。
「君がそうしたいなら、僕もそれがいいかな。だから僕は専属騎士を目指して頑張るよ」
これが、僕の選ぶ未来。
それはきっと、どんなものよりも幸せなものになるに違いない。
だからそう結論を出したけど、セラは数回瞬きをして呆気にとられたような顔をした。
『……え?』
「うん?」
『そんなに簡単に決めていいの?もっと真剣に考えて』
不服そうに片頬を膨らませ、少し怒ったように僕を見つめる。
その表情を見て思わず笑ってしまえば、セラは余計にむっとした表情を浮かべていた。
「うん、真剣に考えたよ」
『絶対嘘だよ。今決めたみたいだった』
「でも、君がそう望んでくれたから」
『そんなの理由にならないよ。総司の人生なんだよ?もっと慎重に考えて総司の意思で決めるべきなのに』
小さく拳を握って一生懸命にそう言うけど、君の言葉がどれだけ僕にとって大切で、僕を動かす源になるのか、きっと君は気づいていないんだろう。
僕にとって、セラの存在やその言葉ほど大事なものなんてあるわけがない。
君が望んだことなら僕はそれを叶えたいって思うから、迷う理由がないんだけどね。
「でももう決めちゃったんだけど」
『少し前まで、専属騎士なんて別にいいやって言ってたのに?』
「ちょっと。またその話をするの?」
『それに私はまだ、総司の本心を聞いてないよ』
僕は君の傍にいたいし、君を護りたい。
君がそれを望んでくれるなら、僕にとって一番の幸せだよ。
だから君が僕を選んでくれたんだから、僕も君を選ぶ。
たとえその時間が有限だったとしても、セラが望んでくれる限り僕はこの子のために全てを尽くしたいと思っていた。
でも怒っているというより拗ねているように見えるセラの瞳は、僕を見上げながらも少し不安そうに揺れている。
僕と同じようにセラも僕の気持ちを気にかけ悩んでいてくれているのなら、本当のことを話してくれた彼女に僕も誠意だけは伝えたいと思った。
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