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この人を誰にもとられたくないと思った。
その気持ちを体現するように私の方から唇を寄せると、直ぐに力強く身体は引き寄せられていた。


『ん……』


唇を割って入ってきた総司の舌に身体がぴくんと揺れ、動揺から総司の肩を掴む手に力が入る。
それでも彼の舌は優しく私の舌に絡められ、身体が疼くような今まで感じたことのない感覚に囚われていた。

白ワインの香りと大好きな総司の香りが私の頭をクラクラさせて、思えば総司を待つ間、お酒をだいぶ口にしてしまったことを思い出す。
こんなことをしていても気持ち良く感じてしまうのは、もしかしたら私が少し酔ってしまっているからかもしれないと自分の中で言い訳を並べていた。


『は……総司……』


唇が離れ、総司の名前を呼んでみたけど、総司の瞳がいつになく情欲に揺らいでいる。
その顔を見れば再びその唇が重なるのを望んでしまうから、やっぱり今夜の私はどうかしているのかもしれない。


「セラ、好きだよ」

『私も……大好き。総司とずっと一緒にいたいよ』


総司の隣にいるのはいつも私でありたい。
でも先の未来では、私は彼の隣にいられないのではないかという不安が心に渦巻いていた。

それに相手が誰であっても、総司が他の女の子に触るのは嫌。
千ちゃんの手を掴んだ総司を見た時、自分でも驚くくらいの嫉妬心と悲しみが心を酷く苦しくさせた。
こんなことを考えてしまう自分が嫌で、誰にも知られたくないからこそ、あの気持ちはなかったことにしたい。
あの感情を少しでも忘れられるように、私は再び総司に唇を寄せていた。

そんな私の我儘に応えてくれる総司は、いつもより深くキスを繰り返し、きつく抱きしめてくれる。
互いの吐息が混じり合ってもまだ足りなくて、身体中をこの人でいっぱいにしたいと思った。


『……あっ……』


急に浮遊感に襲われたと思った直後、私の身体は優しくベッドへと降ろされる。
私を組み敷き見下ろしている総司は、再び私の唇に深く口付けた。


『……はぁ……』


潤った舌が触れ合って、その心地良さに恥ずかしさも忘れていく。
ただ総司からの好意に応えたくて、素直にそれを受け入れていた。
途中思わず少し瞼を持ち上げれば、総司の瞳も開かれて再び細められる。
その表情に再び心臓が高鳴って、この人が大好きだと思わずにはいられなかった。


「セラ……」


唇が離されると、今度は耳元で総司の声が聞こえる。
耳、首筋の順に総司の唇が触れて、私は思わず身体を捩った。
でもハートカットの真上の胸の膨らみに唇が触れると、思わず身体には力が入る。
その先に行くのが怖いような、反対に待ち侘びてしまっているような、一言では言い表せない心情だった。


『……ん……』


総司の温かい手が肩を撫で、そのまま私の胸の膨らみへ乗せられる。
思わず目を見開いて総司を見たけど、そんな私を見下ろした総司は欲情している瞳で私を見つめてそのまま再び唇を重ねた。

深いキスに頭がうまく回らない中、総司の指先はドレス越しに私の胸の形を変える。
親指の腹で先端を撫でられれば、布越しにも関わらずその刺激は私の身体を火照らしていく。
次第に下腹部が疼き、どうしてか腰が動いてしまった。


「セラ……、可愛いね」

『そ……じ……』


どうしよう……。
この先って何をするんだろうと不安に思う。
それなのに自分の身体はまるで自分のものではないみたいに熱くて、総司の些細な指の動きにも敏感に反応してしまう。
サイドにあるドレスの金具が一つ、また一つとゆっくり外されていくと、胸の圧迫感がなくなって、その心元なくなった感覚に思わず総司を見上げてしまう私がいた。


『あ……私……』

「うん?」


きっと私の気持ちは、まだそこまで踏み出せる程の勇気は持ち合わせていないみたいだった。
総司のことは好きで、もっと触れて欲しいとすら思うのに、これから身に纏うものがなくなってしまうかと思うと恥ずかしくて堪らないし、怖くも感じられた。
それでもこの気持ちをどう伝えればいいのか分からないし、拒んで総司にがっかりされるのは辛い。
様々な感情の中で葛藤していると、総司はそんな私を見下ろしたまま優しく微笑んだ。


「ごめん、セラ。驚かせちゃったね」

『う、ううん……』

「何もしないよ。だから怖がらないで」


再びドレスのホックを止めてくれた総司は、私の頬を撫でると私に触れるだけのキスを落とす。
まるで壊れ物を扱うように優しく触れてくれる、いつもの総司の優しいキスだった。


「お酒のせいかな……。なんかちょっと、駄目だね。君にこんなことするつもりじゃなかったのに」


私から身体を離すと、ベッドサイドに座り眉を顰めながらも僅かに微笑む。
その様子が少し動揺しているようにも見えて、きっと総司も私と同じように色々な葛藤を抱えながら自分の感情を持て余しているのかもしれないと思った。


「もうしないから、嫌いにならない欲しいかな」

『嫌いになんてならないよ。私は総司が大好きだし、それは何があっても変わらないよ』

「それなら良かったよ。でももしまた僕が変なことしそうだったら、思い切り蹴り飛ばしてでも止めてね」

『そんな酷いこと出来ないよ……。それに総司に触って貰えるのは嬉しいよ、ただ……まだ少し怖くて……』

「うん、分かってるよ。別に君に無理させるつもりはないし、君を傷物にするつもりは最初からないんだ。ただ少し触りたくなっちゃったんだよね、あんまり君が可愛いからさ」


きっと私と総司の関係に主従関係がなくて、街に住む普通の男女だとしたらここまで深く気にせずこの人に身を委ねられたのかもしれない。
だって私は総司に触れたいし、もっとその温もりを感じたいと思う。
今は無理でも、もう少し私の心にゆとりが生まれた時は、また総司と今の続きがしたいと思ってしまうから。


『私も一緒だよ、私も総司に触りたいっていつも思ってるんだ』

「それは初耳なんだけど。いつもそんなこと考えてるの?」

『いつもじゃないけど……』

「今いつもって自分で言ったんじゃない」

『別に変な意味じゃないよ?ただ手繋ぎたいなとか、そういうことね?』

「じゃあもっと僕に触ってよ。君に触って貰えるのは僕も嬉しいからさ」


そっと伸ばした手で、いつもして貰っているように総司の頬に触れてみる。
そして彼の髪を撫でてあげると、少し瞳を細めて微笑むからその顔が可愛くて幸せを感じた。
いつも触って貰ってばかりだったけど、こうして自分からこの人の体温を求めて触れると、温かさを感じられてとても嬉しいことに気付く。
抱き締めたくて堪らなくなり、そのまま総司にそっと抱き着いてみた。


「ははっ、何なの?その触り方」

『おかしい?』

「なんか凄い遠慮がちだよね。もしかして嫌々触ってる?」

『何言ってるの?そんなわけないでしょ』

「ほら、おいで」


腕を引かれて総司の腕の中に私の身体が収まると、ぎゅっとしっかり抱き締めて貰える。
やっぱりこっちの方が幸せで、総司の胸に頬を擦り寄せながら彼の背中に腕を回した。


「やっぱりこっちの方がしっくりくるね」

『ふふ、私もそう思った』

「君から触ってくれるのは嬉しいけど、さっきみたいな感じだったら結局痺れを切らして僕から触っちゃいそうだよ」


総司の言葉に笑うと、私の頬には総司の手が添えられる。
私を真っ直ぐ見つめて柔らかい光を宿す綺麗な翡翠色の瞳に、私は今夜も恋に落ちていく気がした。


「セラ、ずっと一緒にいようね」

『うん、ずっと総司と一緒にいるよ』

「約束だよ」


総司の言葉に頷いて出した小指には、彼の小指が絡められる。
総司との約束が私の未来を明るく照らしてくれるから、きっとこの先も幸せは続いていくと信じる私がいた。


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