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昨日は色々なことがあり意気消沈していた僕も、今日は朝から完全復活。
その理由はセラが僕の荒んでしまった心を、一晩のうちにすっかり治してくれたからだった。
いつも護ることばかり考えていたけど、セラは可愛らしさと強さを持ち合わせている素敵な女の子だ。
昨日は慰めるどころか逆に僕が慰めて貰ってしまったけど、セラがかけてくれた優しい言葉には強い意志が感じられたから、僕も怯むことなく今を乗り越え学院祭まで乗り切ろうという気持ちになれた。
それに何より、疲労していた僕の為、懸命に想いを言葉にしてくれるセラは本当に可愛い。
僕の心からは余計なものが排除され、セラへの想いだけで満たされた夜だった気がする。
「今日からは僕と斎藤君も練習に参加させて頂きますね。宜しくお願いします」
「そうなんですね。こちらこそ宜しくお願いします」
「皆で合わた方が本番もやり易いと思うからな、宜しく頼む」
今日の放課後からは、伊庭君とはじめ君も放課後の練習に参加することになった為、僕も以前より落ち着いて練習に専念出来る。
終始微笑んでいる王女はいつも通り何を考えているのかよく分からなかったけど、考えるだけ時間の無駄。
セラの愛らしい笑顔だけ思い浮かべて、練習に励んでいた。
そして一時間程の練習が終わり、先生が退出する。
彼女がどんな反応をするか様子を見ていたけど、「お先に失礼します」と言って微笑むなり、余計なことは一切言わずに練習室から出て行った。
「はあ……、よかった」
王女殿下が出て行ってから数十秒。
思わず唇を割って出た僕の言葉を聞いて、伊庭君とはじめ君も安堵したような笑みを浮かべていた。
「本当に良かったですね、こんなことなら最初からこうしていれば良かったですよ」
「ああ、総司がもっと早くに俺達に相談すべきだったな」
「本当に恩に切るよ。まさかこんなに簡単に解放されるなんて思ってもみなかったからさ」
あの人に触らないで済んだ今日は、あの甘ったるい香りも移ってはいない筈だ。
気にしているだろうに、健気に僕を信じていると言ってくれたセラをこれ以上悲しませたくない。
今日は練習も早めに切り上げられたし任務もないため、あの子と過ごす時間が取れるだろうと心を弾ませていた。
「さあ、僕達もさっさと帰ろうよ。ほら、はじめ君も早く帰り支度して」
「ふ、あんたはやけに嬉しそうだな。それほどまでに苦痛だったということか」
「苦痛なんてものじゃないよ。正にあの王女殿下こそ死神って感じ?なんか一緒にいると魂を取られそうなんだよね」
「ある意味逆らって機嫌を損ねてしまったら、魂を取られてもおかしくない相手ですからね」
「ああ。王家の双子の噂は耳に入ってくるが、どれもろくなものではないからな。あんたも気を抜かず最後まで気をつけた方が良い」
「そう言えば気になってたんだけど、あの双子にはどんな噂があるの?」
「僕は、王太子殿下が先月クラスの男子生徒数人を城に招待して真剣で決闘をさせた……という噂を聞きましたよ」
「は?真剣でって……まずくない?」
「何人か怪我をされたらしいですよ。いまだに療養中の方もいらっしゃるみたいです」
以前保健室の前でセラがあの王太子とぶつかったけど、あの時に目をつけられなかったのは不幸中の幸いだ。
恐らく王女が倒れたことで慌てていたのだろう、悪魔の双子と言われていても互いのことは大切にしてるのかと思えば、それはそれで腹立たしく感じられた。
「俺が聞いた話では、あの王女殿下はと称して令嬢達を集め、そのうちの一人をいじめ抜くと聞いた。標的になった者の中には、公の場に出られなくなった者もいるそうだ」
「双子揃って物凄くタチの悪いことをするんだね。そんなことをして誰も咎められないわけ?」
「王家の人間には誰も楯突けませんよ。彼らにものが言える相手は国王くらいでしょうけど、子供の戯れをいちいち気にされる王ではないでしょうしね」
「嫌だよね。そんな奴らが同じ学年にいるなんてさ」
でも僕が関わったのが王女殿下の方でまだ良かったのかもしれない。
男相手には恐らく何もしてこないだろうし、城に誘われてもうまく理由をつけて断ればいい。
そもそもこの声楽の練習が終われば接点も大幅に減るから、どちらかと言えば学院祭当日にセラを護ることに重きをおいたほうが良いだろうと考えていた。
「お待たせ。終わったから帰ろうか」
セラと平助が待つ図書室に着くと、セラが嬉しそうに顔を上げる。
今日は後ろめたさを感じずセラと過ごせるから、心穏やかな時間がようやく僕に訪れるということだ。
『お疲れ様。今日は早かったね』
「ありがとうございます。初めて合わせた割に、とても良く出来たんですよ」
「ああ。明日と最終日に少し合わせて練習も終わりになるそうだ」
「やったじゃん!総司も良かったな」
僕達の様子や戻ってくる早さから上手く王女から逃げられたことを悟ったのだろう、平助は嬉しそうに笑っていた。
セラも安心してくれたのか僕を見上げながらも、いつもの如く少し甘えるような視線を向けてきた。
『順調みたいで良かった。本番楽しみにしてるね』
「僕もセラのピアノソロ楽しみにしてるよ」
『うん、ピアノなら任せて』
本当に可愛いよね。
昨晩のことがあってから余計に、たったの一秒ですら愛らしいこの子を見逃したくないと思ってしまう僕がいる。
「今日文化祭の衣装が配られたと思うが、試着を忘れないでくれ。何か問題があれば明日中に対処しなければ間に合わないからな」
図書室を出て馬車の前に辿り着くと、はじめ君がそう言って僕達の方を振り返る。
結局思い出として残しておけるように衣装は一人一着配られることになり、今日の放課後それぞれに手渡されたばかりだった。
「おう!ちゃんと着てくるけどさ、本番は顔にペイントとかもしなきゃなんねーんだろ?真面目にフランケンなんて嫌なんだけど」
『ふふ、頭にボルトが刺さるんだよね』
「そう。あと縫い目とかサインペンでかかれるみたいなんだよなー。その後学院祭回るのに、ちゃんと消えんのかな」
「もうそのまま回っちゃえばいいんじゃない?良い宣伝になるじゃない」
「宣伝でしたらセラが衣装を着て回って下されば、一気に人が集まりそうですけどね」
『ええ?私に呼び込みできるかな』
出来るどころではなく多分人が集まり過ぎるから、それだけは絶対させられないと思う僕がいる。
羊のウェイトレスも可愛いかったけど、今回のゴースト衣装も似合うだろうとその姿を楽しみに思う僕がいた。
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