8
公爵邸に戻って来ると、総司は私の部屋の中、直ぐに私を抱き締めた。
少し驚いて鞄を落としてしまったけど、今日はここ最近の甘い香りもついていない。
そのことが嬉しくて私も総司の背中に腕を回し、彼の首筋に頬を寄せた。
「今日は何もレッスンなかったよね?」
『うん。総司も今日、任務ない?』
「ないよ。だから今日は久しぶりに一緒にいられるね」
嬉しい。
その感情だけで頭が埋め尽くされる。
どちらかに予定が入ることの多い私達は、こうして互いが何もない日をとても大切にしていたから、今日という一日がまた私の中で特別になる気がしていた。
『……え、ちょっと……総司?』
よく分からないけど私の身体は抱きしめられたままぐいぐい押されて、倒れた先はソファーの上。
驚いて目の前の総司を見上げたら、総司は自分のネクタイを緩めるから思わず目を見開いた。
『ど、どいて……』
「どうして?」
『まだ着替えてないから……』
「じゃあ僕が着替えさせてあげる」
『それは絶対だめ……』
だって部屋も明るいし、そんなことされたら色々見えちゃうかもしれない。
でも総司の胸元を押してもびくともしなくて、私の手首が押さえられたとほぼ同時に総司の柔らかい唇が重ねられた。
『……ん……』
心地よい触れ方にすっかり絆されてしまうけど、総司の手が私の膝や脚を撫でるから身体が思わずビクッと揺れる。
クルー丈の靴下を脱がされ温かい手に踵を撫でられた時、私の瞳は開かれ、弾かれたように総司から唇を離した。
『あ、あのっ……』
「うん?」
『衣装……着ないと……』
「ああ、そう言えばそうだったね。制服脱ぐついでに着替えちゃった方がいいかな」
二回私が頷くと、くすりと笑って総司は私の上から退いてくれる。
色々と心臓に悪いから思わずほっと息を吐き出して、私もソファーから立ち上がった。
「僕もここで着替えていい?」
『ううん、総司は自分の部屋』
「えー?駄目なの?まあ、いいか。その代わり着替えたら僕もここに来るから見せてよ」
『うん。総司にサイズが合ってるか私が見てあげるね』
「僕も見てあげるよ。後でね」
昨日はかなり疲労困憊の様子だった総司も、今日は嘘のように元気。
そのはつらつとした笑顔を見ると私も元気を貰えるから、部屋に入って行く総司の後ろ姿を微笑みながら見送った。
そして鞄から出した衣装を広げ、全身鏡の前で着替えてみる。
全く想像も出来なかった衣装は、クラシカルな色合いとデザインで、高貴でありながらも可愛らしい印象だった。
『これがサキュバス?』
ダークレッドのパフスリーブブラウスは肩がシースルー生地になっていて、ハート型のカットアウトの胸元がほんの少し開いたデザインになっている。
背中には小さな真紅の翼がつき、下は短い黒色のフリルスカートにダークレッドのレースがあしらわれたデザインになっていた。
膝上丈の靴下に加えて、本番は黒のヒール付きのショートブーツも履くみたい。
ダークレッドの角カチューシャと、ハート型のチョーカーをアクセサリーとしてつけたら、見事サキュバスが完成した。
『なんだか……』
ゴーストにはとても見えない。
本番、頬にハートマークのペイントをすると聞いた時から首を傾げていたけど、確かにこの衣装ならそれも合いそうだと思った。
「着替え終わった?」
『うん、丁度今終わったよ』
「じゃあ入るね」
総司の死神姿を楽しみに、ドアが開くのを楽しみに待つ。
そして出てきた総司の姿を見て、思わず目を見開いた私がいた。
『わあ……』
総司は黒いテールコート風のジャケットを羽織っていて、歩くたびにちらりと覗く内側の深い赤の裏地がとても綺麗。
クールで上品な見た目だけど、インナーの黒いシャツは第一ボタンを開けているせいか少しラフで色気が出ていた。
下はすっきりとした黒いスラックスで、ジャケットと同じ赤いラインがサイドに施されている。
胸元には小さなシルバーのチェーンが光り、小道具のダークグレーの大鎌を持つと、紳士的で美しい死神にしか見えなかった。
『凄い……死神ってこんなに格好良いんだ……』
「はは、それはどうも」
『総司に凄く似合ってる……。似合い過ぎて本当の死神みたいで、なんだか少し怖いくらいだよ』
鎌を持っているせいなのか、これで睨まれたりしたら本当に魂を取られそう。
でも総司にだったら奪われてもいいと思ってしまう私は、総司の死神姿に完全に見惚れてしまったようだ。
「怖い?君がそんなふうに思うなんてショックだな。でも怖がらせたなら仕方ないか、君を攫って僕のものにしようかな」
『ふふ、またふざけたこと言ってる』
「ふざけてると思う?君がそんなに可愛いサキュバスだと、僕だって本気で攫いたくなるよ」
総司が真剣な眼差しで頬を撫でるから、少しドキドキして視線が泳ぐ。
いつもと違う装いのせいか余計に緊張して、顔に熱が集まってきてしまった。
「その格好、似合ってて可愛いよ。こんな綺麗な悪魔に誘われたら、誰だって自分を捧げたくなるね」
『総司の方がずっと格好良いよ。私、変じゃないかな?サキュバスらしく見えるかな』
「十分過ぎるくらいだよ。他の奴に見せたくないし、僕だけが独り占めしたいくらいかな。可愛いくて堪らなくなる」
『そ、そんなこと言わないで……。今の総司にそう言われると、なんだか恥ずかしいから』
「僕はむしろその恥ずかしそうな顔が可愛いくて堪らないんだけど」
総司はにこりともしないまま私を見下ろし、距離を詰めたと思ったら私の髪を撫でてくる。
私は私で心臓が高鳴り過ぎたから、思わず一歩後ろに下がってしまった。
『あんまり近付かないで……、心臓の音聞こえちゃいそうだよ……』
「聞こえたっていいじゃない。君のその心臓が僕だけのために高鳴ってるんだって思うと嬉しいんだけどな」
『でも私は困ってるの……総司はいつも意地悪でドキドキさせるから』
「別に困らせてるつもりはないよ。ただ君のことが好き過ぎてそれが隠せないんだよね」
そんな目で見つめられると、どうしていいか分からなくなる。
ストレート過ぎる総司の愛情表現は、今日も私の鼓動を苦しいくらい早くさせた。
そしてそれは死神姿の総司にまた一つ心を持っていかれたからだと自覚しているけど、総司が優しく私の手を取って引き寄せる。
思わず固まったまま見上げていると、総司はにやりと笑って言った。
「随分恥ずかしがり屋なサキュバスなんだね。サキュバスってもっと大胆に誘惑するんじゃないの?」
『別に恥ずかしがり屋なわけじゃないよ』
「じゃあ、その赤くなった顔はどう説明するの?」
総司はくすっと笑いながら少し屈んで私の顔を覗き込む。
死神姿の総司は私にとって刺激が強過ぎるのか、余計に照れてしまうから、私は思い切り顔を背けた。
「ははっ、君の反応全部が可愛くて困るよ」
『だから困ってるのは私なの……。それにサキュバスが何をするかよく分からないし……』
「サキュバスっていうのはね、男の夢や心に忍びこんで、その相手の精気を吸ったり魂を奪う悪魔なんだって。凄く魅力的で誰にも逆らえないくらいの色気があるって言われてるよ」
『なんだか私に向いてなさそうだね、色気もないから』
「そうかな、君にはぴったりなんじゃない?だってこうして普通に話してるだけで、僕なんて君に魂を奪われそうだしね」
『ふふ、何もしてないのに?』
「真面目な話だよ。サキュバスって自分で自分の魅力に気付いていない方が危険なんだ。君みたいにね」
顔が近付いてくれば、私の瞳は細められて総司を受け入れるため顔を上げる。
これはもう身体に染みついた癖のようでいて、相手が総司だからこそ感じる幸福感だった。
でも唇が離されたと同時に身体が傾き、横抱きにされたまま運ばれる。
ベッドに寝かされたと同時に深く口付けられて、総司の舌の動きや脚を撫でる温かい手に身体を少し震わせた。
『ぁ……総司……』
「知ってる?サキュバスって性行為を通して男の精気を奪うんだよ」
『え……?』
「だからもっと僕を誘惑してくれたら嬉しいんだけどな」
『む、無理だよ……そんなこと出来ない』
「へえ。じゃあ死神に誘惑されるのはどう?」
私に覆い被さるように上に乗った総司が、妖艶な笑みを浮かべて私の頬を撫でる。
背けようとした顔も戻されて、総司を見るだけで心臓が破裂しそうになる。
「僕が誘ってみようか?ほら、僕を見て」
私なんかよりよっぽど色気のある総司は、情欲の籠った瞳で私を見つめるから、今まで感じたことのないような変な気分になってしまう。
触られてもいないのに疼いてしまうような、早く触って欲しいような、凄く恥ずかしい感覚。
こんなことを思ってしまうなんで、絶対に言えないけど。
「今日は死神になった僕の相手をしてくれる?」
『総司は死神に成り切ってるの?』
「そうだね。僕は君の魂を貰いにきたよ」
耳元でふざけてそう言う総司の言葉にくすくす笑う。
『私、魂取られちゃうんだね。悲しい』
「君を悲しませたくないから、魂をもらう代わりに、君をずっと護る契約でもしてみる?」
『ふふ、そんな契約なら結んでもいいかもね』
「じゃあ今日から君はもう僕のものだよ」
もうとっくに全て総司のものだよ。
まだ身体全ては捧げられていないけど、心は全て総司に捧げてる。
身体だって煩わしい柵がなかったら、きっととっくにもう……
『ん……』
布の上から胸の形は変えられて、久しぶりの感覚にやっぱり変な気持ちになる。
腰が動きそうになるのを堪えながらも、夕日が差し込む部屋はまだ明るい。
夜が隠してくれていない今は、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだった。
『総司……、こういうことは学院祭が終わったらって……』
「その日以外は君に触らないなんて言ってないよ」
『だけど折角の衣装が皺になっちゃうよ』
「そうだね。じゃあ脱がせてあげる」
にっこり微笑んだ総司は、私の身体を傾けさせると背中のファスナーを下に下げる。
すると上半身は直ぐに下着だけになり、今度はスカートのホックが外された。
『やだよ……、明るくて恥ずかしいから』
「サキュバスなんだからそんなに恥ずかしがったら駄目だよ」
まだその設定は続いているらしい、話している間にもスカートは脱がされて、私はもう角以外サキュバスではなくなった。
総司はジャケットは脱いだものの、黒いシャツは死神らしさを演出しているから、いつもとは違う雰囲気にまた心音は早くなってしまった。
「本当にさ、こんなサキュバスがいたら危険だよね」
剥ぎ取られた下着の下、胸が総司の目の前に晒されて恥ずかしさから顔を背ける。
総司の指先や温かい舌が、今まで知らなかった欲望を湧き上がらせるように、優しく刺激した。
『……ん……』
胸の先端を触られると、どうしてか言葉に言い表せないような変な気持ちになる。
もどかしくて、でも身体が熱くなって、恥ずかしい筈なのにもっと先を望んでしまう私がいた。
脚の間に入っていた総司の膝が、私のもどかしい場所をぐいと押してくるから、思わず小さな声が漏れる。
一回目より二回目、二回目より今日とどんどん今までとは違う身体になってしまっている自分が少しだけ怖く感じた。
「ここも気持ち良くしてあげるね」
『んん……』
いきなり下着の中に入り込んだ総司の手は、触れられると私が私ではなくなってしまいそうになるその場所を優しく撫でる。
足が震えてお腹が疼き、とても気持ち良くて頭がそれ一色になる。
『……あっ……』
「今触ったばっかりなのに、もう凄い濡れてる。ここ触って欲しかったの?」
『……それは……』
「セラ、本当のこと言ってよ」
『……触って……欲しかったよ……』
こんなことをしておいて、いつまでも清純なふりをしていてもそれはそれで恥ずかしい。
だってこの感覚を知ってしまってからの私は、総司の指先や舌の動きにこんなにも翻弄されてしまう。
いつも私を護ってくれる総司のあの長い指が私に触れていると思うと、奥から何かが込み上げてくる感覚がした。
『……は、……総司っ……もう……』
「いいよ、セラ……」
『……あ、だめ……やぁっ……』
自分の身体に何が起こっているのかもよく分からないけど、こうして総司に触れられていると、我慢することの出来ない大きな快楽がやってくる。
最初は抗いながらも屈して受け入れてしまった時、私の身体は弓なりしなり腰は浮き、自分とは思えない声を出して達してしまう。
「セラ、好きだよ」
余裕のなさそうな表情で総司の唇が私のに重ねられ、幾度も舌を絡められる。
総司はいつもこうして何度も気持ちを伝えてくれるから、ちゃんと想われているんだって私に自信を与えてくれていた。
「もっとさせて」
ぼんやりとした頭で余韻に浸かっていると、身体を隠す最後の一枚は脱がされ思わず目を見開く。
「嫌だ、やめて」と言ったのに、脚の隙間に割り込んだ総司は、私の脚を優しく開かせて視線を落とす。
そして私の敏感なところに唇を寄せた。
『やっ、ダメっ……総司っ……』
「ん……」
『いやぁ……』
お風呂にも入っていないのに、総司は気にした様子もなく私の見せたくない場所に顔を埋める。
まだこの行為には慣れない上、こんなに明るい中でされてしまえば、卒倒しそうになった。
それでも私を気持ち良くさせようと、総司の舌と唇は甘い刺激を与え続けてくる。
また込み上げてくる何かに私は歯を食いしばることしか出来なくなった。
『やっ……ぁ……そこ……だめ、なのに……』
必死に声を抑えても、舌がやさしくすくい上げるように撫でてくる。
一度触れられるたびに甘い電流が走って、腰が浮いてしまう。
「セラ……もう、蕩けてる」
その声が熱に溶けて耳に届いて、余計に恥ずかしくなる。
でも、逃げられない。
舌先が敏感な部分を円を描くように這い回って、そこに集中するたび全身が熱で満ちていく。
『あっ……だめ……っ……んん……』
舌が強く押し当てられて、思わず声が零れる。
吸われて舐められて、何度も繰り返されるうちに、頭の奥が真っ白になっていった。
「ほら……もう一度、可愛いくイクとこ見せて」
低く囁きながら、さらに深く舌が絡んでくる。
震えるお腹を押さえられ、もうどうにもならなくて。
『……あ……っ……だめ……いっちゃ……ぁ……』
自分のものとは思えない声が漏れて、全身が大きく跳ねてしまう。
熱い波が押し寄せて舌に触れられたまま、また絶頂に呑まれてしまった。
肩で息する私を、総司はしっかり腕で支えながらも、
総司は止めてくれない。
余韻で痺れている私を、さらに舌で愛して、何度も波を重ねてくる。
「もっと……イって」と甘く囁かれて、またすぐに身体が疼き始めてしまう。
その甘い余韻の中で、私はただ彼に身を委ねるしかなかった。
『……もう、……やあ………』
舌が柔らかいところを何度もなぞり、唇が吸い付くたびに頭が真っ白になって、息が上手くできない。
『や……総司……そんなふうにしたら……』
「セラ……可愛い声もっと聴かせて」
低く囁かれて、ぞくりと震えた。
彼の舌先がひたすら同じ場所を探り当てて、そこばかり何度も優しく、でも逃さないように舐めてくる。
次第にまた身体が勝手に震えて、腰まで浮いてしまう。
『あっ……だめぇ……もう、むり……』
必死に訴えても、総司は微笑んで、さらに強く唇を押し当ててくる。
吸い上げられるたびに快感がせり上がって、胸が苦しいくらいに高鳴った。
「その顔……たまらない」
その声に、心臓が破裂しそうになる。
そして舌がまた深く潜り込んできて、敏感なところを執拗に撫で回す。
甘い波が押し寄せて、もう堪えられなかった。
『……ああっ……も、もぅ……イっちゃ……』
全身が弾けるように震えて、声と共に快感が溢れ出した。
涙がにじんで、掴んでいたシーツがくしゃくしゃになる。
この感覚は何?
みんなこうなってしまうもの?
自分の身体が何に支配されているかも分からないのに、私はまたそれを受け入れ身体をびくびく揺らして達してしまった。
「良かった、気持ち良さそうなセラが見れて」
肩で息をする私の横に来た総司は、優しく私を撫でて触れるだけのキスを落とす。
少し視界がぼやけてしまったのはあまりの羞恥心からだけど、その瞳で総司を睨むと彼も苦笑いをしていた。
「なんか怒ってる?」
『私やめてって……嫌だってお願いしたのに……』
「ごめん。だってセラが凄い可愛いからさ、もっとしたくなっちゃうじゃない」
『そうだとしたってこんな明るくて、お風呂も入ってない時に……あんなこと……』
「この前と何も変わらなかったよ。凄く綺麗だし、可愛いかったから気にする必要なんかないのに」
『もう総司は目とか感覚とか……ちょっとおかしくなっちゃってるんだよ……』
やたら可愛いとか綺麗とか言ってくれるけど、総司は私を贔屓目に見過ぎていると思う。
逆に恥ずかしくなるから、やめて欲しいのに。
「酷いこと言うな、別におかしくなってないってば。セラのことは全部知りたいし全部感じたいだけだよ」
『だ、だから……もうそういうのやめて。もう恥ずかしいのっ……』
「えー?なんでさ」
総司は私の心情を分かっているのか分かっていないのか、終始楽しそうに笑いながらこの後もずっと私が恥ずかしくなることを言っていた気がする。
でも二人で過ごす時間はやっぱりとても大切だから、今日という日もまた特別な一日になって私の心に刻まれていった。
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