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その日の夜、僕のベッドの中で一糸纏わぬ姿になったセラは僕にされるがまま愛らしく身体を揺らしていた。
一線が越えられなくても、自分の中の熱い想いが吐き出せなくても、この子が僕を想いこうして全てを見せてくれるだけで僕は十分満たされる。
前の世界で絶望に打ちひしがれていたこの時間、今は大好きなセラに触れながら幸せな時間を過ごしていた。


「セラ、気持ちいい?」

『……気持ちいいよ……』


初めの頃より素直に言葉にしてくれるセラは、潤んだ瞳で僕を見つめる。
僕が好きだと訴えるようなその表情を見る度に、僕の胸も締め付けられるようだ。


『ん……あ……』

「可愛いね、大好きだよ」


セラに自分の想いを言葉にして伝えることが心地よくて堪らない。
そしてそれを聞いて嬉しそうに頬を染めて微笑むセラが可愛くて堪らなかった。


『……あ、やぁ……っ……もう……』

「いいよ、イッて……」


僕の指先によって愛らしい声をあげて果てたセラは、もう四度目の絶頂を迎えている。
身体も汗ばんで肩で息するその妖艶な姿に喉を鳴らし、僕は誘われるように自分の唇を押し付けた。


『……ん……』


柔らかくて吸い付くような肌の質感も、良い香りのする身体も。
愛らしい声や表情、その仕草も全て僕の宝物だ。
こんなにも愛おしくてたまらない存在を前にして、
どうやって冷静でいられるんだろう。
唇が離れた時に見せてくれる切なげな顔がまた僕の心を掴むから、そういう意味では何度この手を伸ばしても飽きることなくセラを欲してしまう僕がいた。




「初めての学院祭は楽しかった?」


あれからもしばらくセラの身体を堪能し、どうにか理性で押し留める。
また風邪を引いては大変だし、これ以上触れてしまったら欲望が暴走してしまいそうだから、セラにナイトドレスを着せながらそう尋ねた。


『うん、楽しかった。総司と過ごせたし、音楽会も大成功だったね』

「そうだね。セラが一番綺麗だったよ。君のピアノの演奏には、皆聞き惚れてたしね」


ショパンのノクターンは正にこの子にぴったりの曲目だった。
セラが感情を込めて演奏したことで情感豊かな曲になり、会場内を一気に優雅な雰囲気に包み込んでくれた。


『ありがとう。私は総司の歌声に聴き惚れちゃった。私、総司の声大好きなんだ』

「ははっ、無理して褒めなくていいのに」

『本当だよ。男の人の割に高くて優しい声が好き。ずっと横で話してて欲しいくらい』

「じゃあ今夜は寝ないで、朝までずっと喋っててあげるよ」

『ふふ、絶対だからね?』


嬉しそうに擦り寄るセラを腕の中に抱き、無意識にもこの先のことを考える僕がいる。
前回あんなことが起こったにも関わらず、まるでそれが嘘のように平穏に終わったことが、逆に僕の心に引っ掛かりを与えていた。
何故ならまるで犯人は僕が阻止することを知っているかのように、何もしてこない。
それは今回だけでなく、中庭でのことも含めて腑に落ちない点だった。

勿論あれだけ護衛を置かれたら手を出せないとは思うけど、それにしたって確かな陰謀があるなら何かしら動きがあってもいい筈だ。
それすらないことは違和感に繋がり、結局手放しては安心出来なかった。


『明日からはまた少しのんびりした毎日に戻るね』

「そうだね。明日からの日々が楽しみかな。君と一緒に学院に通ってさ、他愛ない毎日を送れると思うと感無量だよ」

『ふふ、どうしたの?急に』

「当たり前に思ってることって、それがなくなった時にその大切さに気付くじゃない?こうやって君といられて一緒に通学出来ることは、本当に幸せなことなんだなって改めて実感しただけだよ」


至って真面目に話しているのに、セラはくすくす笑っている。
お気楽で羨ましいけど、この子にはそのくらい明るくいて欲しい。
そしてこの世界でこそ、死を迎えないまま無事大人になって欲しいと願っていた。


『私はいつも幸せだなってちゃんと思ってるよ』

「セラが幸せだと思う時ってどんな時?」

『総司と一緒にいられる時に決まってるよ。総司が傍にいてくれたらいつだって幸せだもん』

「完璧な答えだね。でも、僕も同じだよ」


微笑んだ顔を見て、ふと昔を思い出した僕がいる。
それはまだ想いが通じる前で、僕がこの子に好かれようと試行錯誤していた頃。
まさか今日のようにこうして肩を並べて過ごせる日が来るなんて、当時は思いもしなかった。

セラなら、相手なんていくらでも選べるはずだ。
けれど今も変わらず僕だけを見つめ、一心に愛情を伝えてくれる。
そんなこの子のためにも、僕はもう怯えてはいられないと思った。


「あのさ、僕達のこと今度近藤さんに話したいって考えてるんだ」


とは言いながらも、セラが不安に思っていたり気が進まないと感じるのであれば、この子の意思を尊重しようと思っていた。
でもセラは目を輝かせると、嬉しそうに頬を緩めた。


『本当……?』

「ははっ、なんでそんなに嬉しそうなの?」

『前は専属騎士に就任する前だったから、総司もお父様に言い難そうにしてたでしょ?今はどう思ってるのかなって、本当は少し気になってて……』

「それならそう言ってくれれば良かったのに」

『でも急かしたくなかったの。言ってもいいって総司が思ってくれてから、お父様に伝えたいって思ってたから』

「待たせてごめんね。ずっと自信が持てなくてさ」


今だってすんなり許して貰えるなんて思ってはいないし、また前回のようにいずれ身を引く話をされてしまうかもしれない。
それでも僕が自信を持てなければセラだって不安にさせてしまうだろうし、近藤さんだって自信すら持てない相手に大切な娘を任せられない筈だ。
だから僕は、自信だけは手放さない。
誰よりもこの子を大切に想う気持ちがある。
そのために、僕はここまで強くなったんだから。


「でも今は自信を持てたつもりだよ。僕は誰よりも君が好きだし、この気持ちは絶対にこの先も変わらない。セラを幸せに出来るのは僕しかいないって信じてるよ」


瞳を潤ませながらも嬉しそうに頷くセラに触れるだけのキスを落として、そっとその髪を撫でた。


『私も総司を幸せにしたいって思う気持ちは誰にも負けない自信があるよ。だから私も総司と一緒にお父様に話したい。本当に大好きなこと、ちゃんとお父様に伝えたいの』


専属騎士として務めを果たし、公爵家から賜った爵位は男爵だ。
ここから先は騎士という身分ではもう得られないだろうし、ここまで爵位を与えて貰えたことすらありがたい話だ。
けれどこの爵位に伴う領土は形式的なもので、実質的には公爵家の監督下にあり、僕が自由に扱えるものではない。
この公国全体と比べれば微々たるもので、僕の力でこの家門に繁栄をもたらすことなど到底できそうになかった。
だからこそ、僕達の関係が近藤さんや、この家に関わる人々に歓迎されないのも理解している。
その現実から目を背けたいと思ってしまうことも、何度かあった。

でも僕が一番護りたくて大切にしたいのは、他でもないセラの心だ。
セラが僕を必要としてくれるならどんな逆境でも乗り越えられるし、そうあれる自分でいたいと思う。


「ありがとう、君がそう思ってくれて嬉しいよ。じゃあ今度、近藤さんに時間を作って貰おうか。近藤さんに呼ばれた時に話すんじゃなくてさ、ちゃんと僕達の方からその場を作りたいよね」

『うん、そうだね。お父様のお仕事が立て込んでいない時に話したいと思うから、また予定調整しようね』


セラと過ごす未来がありますように。
そう願いながら、愛しい小さな手を握った。
この三度目の世界では、絶対にこの子を危険な目に遭わせない。
だからどうか僕達を引き離さないで下さいと、心で唱える僕がいた。


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