5

それは数日前の出来事だった。
いつもの通り日課の報告を行った僕に、王女はセラの手紙を笑顔で差し出してくる。
昨日は再び五十通目に達したため、今朝僕からの返事を王女に手渡したばかりだった。


「ありがとうございます。僕の手紙は渡して頂けましたでしょうか?」

「ええ、きちんとセラさんにお渡ししましたよ」

「セラはよく飽きないね、毎日毎日。何をそんなに書くことがあるんだか」


王太子はそう言って小馬鹿にした笑みを浮かべたけど、どうとでも言えばいい。
けれど今の僕が落ち着かない心情でいる理由は、次のゲームとやらが用意される頃合いだと予想していたからだった。


「総司さん、今週の日曜日は二時に四階の階段前までいらしてください」

「何かの任務でしょうか?」

「いいえ、こちらの件ですよ」


そう言いながら王女が出したのは、以前交わした契約書。
僕は思わず息を呑み、どんな要求を出されるのかただ待つことしか出来なかった。


「ああ、この契約の話は聞いたよ。千鶴とこんな契約を結ぶなんて、お前も命知らずだね」

「仕方ないじゃないですか。この契約がないと僕は一生ここから出られませんし、セラに危害を加えられてしまうかもしれないですからね」

「酷い言い方をなさるのね。それより薫はいつもみたいに、私とこのゲームを盛り上げてくれるでしょう?」

「公務のない時間なら構わないよ。可愛い妹の頼みだからね」


これのどこが可愛いんだと悪態をつきたくなるのを抑えて、ただ二人の顔を見据える。
ここに来てもう七ヶ月以上が経つというのに、この二人が放つ独特な威圧感は以前より更に僕を圧迫させるものになっていた。


「ゲームの内容は当日にお伝えしますので楽しみにしていて下さいね。しかもその日はセラさんにもお声をかけているんです」

「……まさかセラがここに来るんですか?」

「はい。特別な応接間を用意致しましたので、お二人で心ゆくまま過ごされて下さいね」


セラがここに来る、その事実だけで血の気が引く思いでいたのに、王太子は愉快そうに笑い始めるから嫌な予感は増殖した。


「あの部屋に通すんだ。千鶴もなかなか意地が悪いね」

「まさか……またあの子に何かするつもりですか?」

「私達はセラさんに何もしないわ。それに日曜日も一緒にクッキーを作る約束をしているだけですよ?」

「誤魔化さないで下さい、何か企みがあるからセラを呼んだんですよね。もしあの子の身に何かあるなら、僕はあなたでも許しませんけど」


はっきり言い切ったその時、紅茶のティーポットごと僕のところへ飛んでくる。
寸前で避けても熱い紅茶はかかり、僕は歯を食い縛った。


「お黙りなさい。これはあなた方二人にあてたゲームだと言った筈です」

「……こんなことをして楽しいですか?」

「ええ、とても楽しいわ。次はセラさんやあなたがどんな顔をなさるのか、今からとても心が躍ります」


そう言った顔は邪気が感じられない程笑顔で、逆に寒心にたえない。
何よりセラが巻き込まれているこの現状が、僕にとって何よりも辛いものだった。



そしてやってきた当日。
僕が指定された時間に四階の階段前まで行くと、王女が少し先で手招きしている。
一つの部屋の前には王太子もいて、その表情からは何かを企んでいることは容易に察しがついた。

入ったその場所は薄暗い部屋。
いくつか高価そうな丁度品が並べられるも、どこか他の部屋より慎ましく感じられた。
けれど僕の視線が捉えたのは、壁一面を覆う重厚なベルベットのカーテン。
深紅の布地はこの場所の秘密を隠すように、言いようのない違和感を僕に与えていた。


「さあ、ここに座りましょう」


カーテンの前、重厚感のある椅子が四つ並べられている。
王女を真ん中にして腰掛けたものの、これからここで何が始まるのかは見当もつかなかった。


「これからここで何をするんです?」

「まあ、見てなよ」


王太子は立ち上がり、カーテンの紐を引く。
すると隣の部屋がガラス越しにゆっくりと現れて、まるで絵画のような光景が広がっていた。
その部屋は広々としていて、あまりに豪華な内装に息を呑むような空間だった。
天井から吊り下げられたシャンデリアがクリーム色の壁に金細工の装飾を映し出し、床に敷かれた分厚い絨毯がその光を吸い込んでいる。
そしてその中心にあるソファーに腰掛けているのは、会いたくて堪らなかったセラだった。


「セラ……?」


目の前にある豪華なソファーに座るセラの姿は、僕が知っている彼女そのものだった。
どこか少し緊張した面持ちで、手元の小さな包みを気にしている様子が見える。
その控えめな仕草がセラの愛らしさを引き立てていたけど、こんなに近くにいるのに視線が合わないことに違和感を覚えた。


「この鏡はマジックミラーといって、向こうのお部屋からは鏡にしか見えないのだけど、こちらからは全て見えてしまうの。それにもう一つ仕掛けがあってね、向こうの部屋の壁には伝達装置が埋め込まれていて音は全てこちらで拾えるようになっています。こちらの声は全く聞こえないのに、向こうのお部屋の音は音声が増幅されて明瞭に聞こえるだなんて、素晴らしいでしょう?」

「つまり……覗き見するための部屋ということですか?」

「沖田は嬉しいんじゃないの?あいつの本当の姿がようやく見られるんだからね」

「セラさんには三時まで総司さんが来ないことを伝えています。それに安全面を考慮して、内鍵を閉めるようお伝えしてあるの。そうするとね、皆さん安心しきってしまうんでしょうね。本当に色々な姿を見せて下さるの。折角ですから、時間まで一緒に見学しましょう?」

「あいつの化けの皮が剥がれるのが楽しみだよ」


こんな部屋があること自体、王家の人間の品位が疑われる。
貴族特有の趣向は様々でえげつないものも多くあると聞いていたけど、目の当たりにすると胸糞が悪くなるものだった。


「セラを無駄に待たせて、ここで観察することが今回のゲームってことですか?」

「いいえ?総司さんには三時になり次第、向こうのお部屋に移動して貰います。ゲーム開始はそこからですよ」

「僕達にあの部屋で何をさせるおつもりですか?」

「まあ、今は静かにあいつを見てなよ。本来の姿を見たら、お前も幻滅してゲームすらする気にならないかもしれないよ」

「そんなことあるわけないじゃないですか」

「俺は今まで何人もこの部屋に入れられた令嬢を見てきたけど、酷いものだよ。女って表と裏で全然違うってことが良く分かったよ」

「セラさんにお出ししたあのフレーバーティーは、実は普通の紅茶ではないんです。気分を高めてくれる媚薬とアルコールを混ぜていますから、きっとどんどん気が緩んでありのままの愛らしい姿を見せてくれると思いますよ」

「……は?そんな変なものを飲ませるなんてふざけないでください、僕が止めてきます」

「無駄ですよ。セラさんは先程私とお茶をした時から、同じ紅茶を既に二杯も飲んでらっしゃいますから。それにルールを守らなければ、余計にセラさんが辛い思いをすることになりますよ」


理解している、この人に逆らうことは多分得策じゃない。
だから心中で歯噛みして、目の前に座るセラを苦しい気持ちで見つめていた。
けれど座ったままのセラは、相変わらず上品で穏やかで、少し緊張した様子でいながらも凛とした佇まいを見せていた。
鏡の前でそっと髪を整えたり、包みを大切そうに見つめて微笑む愛らしい姿からどうしても目が離せなかった。


「皆、最初はおしとやかに振る舞っているわ。でも少し時間が経つと彼女達の本性が見えるの。下品な仕草、無意味なお喋り、部屋の中を荒らしたり……過去には盗みを働く子もいたんです」

「あの紅茶のせいで酔って歌い出したり、踊り出したり。中には自慰した奴も数人いたね。見られているとも知らずに大口開けて喘いで、あれは見ていて滑稽だったよ」

「セラさんが醜態を晒す姿、早く見てみたいわ。ねえ、総司さんも楽しみでしょう?」

「誰だって一人の時は気が緩みますよね。しかも媚薬やアルコールなんて混ぜられたら、多少乱れたって仕方ないんじゃないんですか?それがありのままの姿だとは思いませんけど」

「ふふ、それは動揺しているからそうおっしゃるのですよね。あなたの中のセラさんが壊れてしまいそうで怖いのですか?」

「お前らの純愛がいかに脆いものか露呈されることになるかもね」


その紅茶の効果がどれほどのものか分からないけど、他にすることがないせいかセラはただ静かに何度も紅茶を口につける。
頼むからそれ以上飲まないでくれと願っていても、セラは一杯目を空にして、ティーポットからさらに注いでいた。


「セラさん、もうだいぶ飲んでいるわね。頬も色付いて可愛らしいわ」

「そろそろ化けの皮が剥がれる頃かな」


あれから三十分、確かに頬は色付いて鏡を見つめる顔は無防備でぼんやりしてしまっている。
けれどそんな自分の顔を見つめて何かに気付いたように姿勢を正す姿は、いつもと何の変わりもないセラだった。
口から出る言葉も紅茶を飲んだ時に溢れた、「美味しい」と呟くその一言だけ。
小首を傾げて髪を耳にかける仕草は妖艶にも見えて、こんな状況でも目を奪われてしまう僕がいた。


「……普段と何も変わらないな。ねえ、あの紅茶、本当にあってるんだよね?」

「ええ。それに私とお茶した時も飲んでいるもの。第一頬があれだけ火照っているんだから、効いている証拠です」

「残念でしたね、期待した姿が見れなくて」

「別に構わないですよ。ゲーム本番は三時からですもの」


三時まであと一時間近く。
その長い間、知らずの間に監視されているセラのことを考えれば胸が苦しくなる。
それと同時にあの子が気の緩みを見せなければいいと願っていた。
けれど暫くすると、セラが少し指先を動かしてもじもじした様子を見せ始める。
そして自分の頬に両手を添え、小さな声で呟いていた。


『熱い……、なんか身体が変……』


吐息と共に吐き出された言葉すら愛らしくて、その姿を気が気じゃない心情で凝視する。
けれど眉尻を下げたまま唇をきつく結んだセラは、時計を見て再び静かに座っているだけだった。


「へえ、効いてるのに変わらない奴なんているんだ。もうだいぶ時間が経つよね」

「本当、つまらない。退屈してきてしまったわ」

「まあ、まだ分からないよ。最初の頃よりかは、確実に落ち着きなくなってきてるからね」


王太子が言った通り、セラは少しそわそわ部屋の中を見渡している。
そしてどこかを見ると立ち上がってしまったから思わず眉を顰めてその姿を目で追ったけど、セラは窓の手前で立ち止まるとふわりと一人微笑んでいた。


「なんか一人で笑ってるけど、頭でもおかしくなったの?」


本当に何故一人で笑っているのか怪訝そうに見つめていると、その数秒後にはセラの高い声が僕達のところまで聞こえてきた。


『小鳥さん、可愛い。とっても寒いのに元気なんだね』


どうやらセラは小窓にとまった小鳥を見つけて微笑んでいたらしい。
紅茶のせいでより甘えた口調になり、王女と王太子も唖然とした顔をしていた。


『もう少しで雪が降るかもしれないから、ちゃんと巣に戻って温かくしてね』

「……あいつは、いつもああやって動物に話しかけてるの?」

「いえ……、僕も初めて見ましたけど」

「セラさんって……不思議な方ですね」

「ははっ、あいつは常に脳内花畑なんだね。ここまでくると、ある意味尊敬するよ」


王太子は愉快そうに笑っているけど、小鳥が飛んで行ってしまったのか、空を見上げて佇む姿は少し寂しそうにも見える。
そして再びソファーに戻ってくると、やっぱりセラは余計なことはせずに気品ある仕草で身なりを整えただけだった。


「はあ……、これは駄目だね。このままずっと、変わらそうだ」

「総司さん、良かったですね。セラさんが思っていた通りの方で」


王女はセラの様子が変わらないことに、少なからず苛立っている様子だった。
でもセラは穏やかな表情を浮かべ、膝の上の包みのリボンを何度も整え直している。
まるで何度も確認しないと落ち着かないというように、今日何度も見た姿だった。
それでもその一つ一つの仕草が丁寧で、以前僕の為に懐中時計を用意してくれたセラを思い出した。


「そろそろゲームの内容を教えてください。あと十分程で三時ですよ」


セラだって忙しい合間を縫ってここに来てくれている筈だ。
こんなくだらないことの為に無駄に待たされて監視されているあの子に、罪悪感ばかりが湧いていた。
でもそんな僕に王女が言った言葉は、僕の心を大きく揺さぶるものだった。


「分かりました。ではゲームについて説明します。このゲームでは私達がここで出した指示通りに、いくつか行動して欲しいことごあります」

「その行動というのは何ですか?」

「まず最初の十分間以内に、セラさんの達した顔を私達に見せて下さい」

「は……?達した顔……?」

「分かってるくせに何惚けてるの?ようはセラをイかせて、その顔を俺達に見えるようにしろって言ってるんだよ」


思考が停止して、うまく物事を考えられなくなる。
あまりにも現実的なこととは思えなくて、僕は思わず言葉を失った。


「セラさんの達してしまわれた顔はきっととっても愛らしいんでしょうね。今からとても楽しみです」

「紅茶のおかげでいつもより凄いかもしれないよ。良かったね、沖田」

「いや、待ってください……。まさか本気ではないですよね?」

「本気ですよ?それがまず一つ目の命令です」

「そんなこと出来ませんよ、僕達はそんな関係じゃないですから」

「お相手はお世話になっている公爵家のご令嬢ですものね、一線は超えていないことは分かっています。けれどあんなキスをしていて、あなたがあの方に触ってないわけはないでしょう?」

「指でも口でもいいよ。ただイかせるだけ。簡単だろ?」

「……お二人はここで見ていらっしゃるんですよね?」

「当たり前です。だからセラさんを守りたければ、身体をうまく隠して触って差し上げて下さいね」


そんな辱めをセラに与えることは出来る筈がないと僕は当たり前に拒否をする。
けれど決定は覆ることはなく、僕がどう否定しても話は次の段階へと進んでいった。


「そして二つ目。二つ目も手段は問いませんが、中を可愛がって差し上げて下さい。外ではなく中の快楽で達してしまったセラさんを見てみたいわ。これは更に二十分以内に済ませてください」

「それは絶対に出来ません、僕達はそんなことしてませんって……!」

「よく言うよ。男のくせにいつまで純情ぶるんだろうね、別に最後までやれとは言ってないだろ?指で構わないんだけど」

「確かに少しは触りましたよ、でも僕はセラの中までは……一度も……」

「そんなに自身ないなら俺が代わりにやってきてあげようか?」

「……っ、そんなことさせられると思います!?」

「大丈夫ですよ、今は媚薬も効いていますしセラさんも大好きな人にして貰えて喜んでくださる筈です」


思わず見た先のセラは、頬を染めてまた嬉しそうに包みを見つめて口元を緩めている。
ただ純粋に僕と会うことを楽しみにしているあの子の初めての経験を、こんな場所で、人に見られながら済ませることなんて僕には到底できることではなかった。
どうにか回避する為二人の前に跪き、頭を下げる。
絞り出すように出た言葉は、悔しさや悲しみから僅かに震えてしまっていた。


「中はご容赦ください……。セラはそういったことにあまり知識もないですし、本当に純粋な子です。簡単に手を出してしまっていい相手ではないんですよ。だからお願いします、他の命令に変えてください……」

「普段は威勢がいい割に、随分とヘタレなんだね」

「折角セラさんの初めての経験をご一緒に見守れると思いましたのに」

「セラの身体に何かあれば、さすがに公爵家も黙ってないとは思いますけど。僕がこの場でそんな乱暴なことをすれば、セラも違和感に気付くと思いますよ」

「まあ確かに、セラのところの騎士団には俺達もお世話になっているからね。事を荒げるのは良くないかもしれないけど」

「薫がそう言うなら、分かりました。それにあまり普段の総司さんらしからぬ行動を取れば、セラさんに私達のことが勘付かれてしまいますものね。けれど最初の十分に外側で、というのは必ず実行してください。時間を過ぎたら無効になるので十分気をつけてくださいね」


会っていきなりそんなことをすればセラは嫌がるだろうし傷付くかもしれない。
それにたった十分という時間制限がある中で、それを熟さなければならないのはかなり厳しくも感じられた。


「沖田、ちゃんとセラの顔が俺達に見えるようにやるんだよ。見えなかったら、俺の手であいつをその顔にするから、まあせいぜいヘマしないようにね」

「ふふ、薫ったら意地悪なこと言うのね」

「千鶴にだけは言われたくないね」


いっそここで二人を斬り殺すことも考えたけど、そんなことになればセラを巻き込んでしまうだろう。
だから今はまだ耐えろと、きつく唇を噛み締めていた。


「では二つ目は……どうしようかしら」

「ああ、そうだ。俺はあいつの泣き顔好きなんだよね。だから一回は泣かせてみてよ」

「それはいい案だわ。私もこの前セラさんが泣いている姿を見て、とても高揚したの。嬉し泣きではなくて、悲しそうに泣くセラさんの姿を見せて下さい」

「どうしてそんなこと……」

「三つ目はもう決まっています。これはあなたからセラさんに伝えて欲しいのだけれど、まず私の病気が思わしくなくて凄く心配していると伝えて。だからたとえ許可がおりても、王女殿下の容態が悪いうちは総司さんの意思でセラさんの公爵家には戻らない可能性があるとセラさんにお話しして下さい」

「なにを……そんなことを言ったらセラは僕の気持ちが信じられなくなるじゃないですか……!」

「だったらその分、好きだって伝えてくればいい。命令を聞けばあとは余計なことを喋らない限り自由に会話させてやるんだから楽勝だろ?」

「ちなみに余計なことを少しでも話したら契約終了です。セラさんを護りたければこの程度の命令は聞けますよね?」

「ほら、見てみなよ。セラがお前を待ってるよ」


三時まであと一、二分程。
セラは時計を見上げて、緊張した面持ちで僕を待ってくれている様子だった。
僕達が見てるとも知らずに、鏡の中で髪を整え笑顔を作ってみせる。
そう思ったら今度は少し頼りなさ気に眉を下げるから、その姿が愛らしい分、僕は心は苦しくなるばかりだった。


「セラのやつ、さっきから妙に落ち着きがないな」


不意に呟やかれた声に誘われ王太子を見れば、頬をつきながら満更でもない様子でセラを見つめている。
その口元には笑みが溢れ、マジックミラー越しのセラの様子に釘付けになっているようだった。


「……何が面白いんです?」

「あの不安そうな表情や仕草を見てると、なんだか護ってやりたい気にもなるかなって思ってね」

「そう。薫がそんなこと言うなんて珍しいわね」

「別に深い意味はないさ」


王太子の発言にも心中を揺さぶられた時、三時を知らせる鐘が鳴る。
王女は僕に視線を向けると、冷たい瞳で僕を見上げた。


「ではここからゲームスタートです。四時にはこちらに戻ってきてくださいね」


たったの一時間。
その短い時間しか一緒にいられないのに、僕は今からセラを傷付ける行為をする。
そんな僕がセラに会いに行っていいのか戸惑いもした。
でも回帰するためのからくりが分からない以上、今はこうするより他はない。
出来る限りセラを傷付けない方法を考えながら、セラのいる部屋をノックした僕がいた。

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