3

一日の終わり。
寝支度を整えた私は、当たり前のように机の前に腰掛け、中からレターセットを取り出した。
そして総司の顔を思い浮かべてペンを手に取ったけど、我にかえって、ふとその手を止める。


『あれ……?私、何を……』


あまりにも自然に動いた身体。
それに反して、自分自身が何故総司に手紙を書こうとしたのかわからなかった。
眉を顰めて考えてみてもその理由は何一つ浮かばない。
でも文字の書かれていない手紙を見つめれば、また言いようのない痛みが心に浸食していくようだった。


『……今日、変……』


昼間感じた悲しい気持ちも、今の言動も……今日の私は少しおかしい。
今日の総司もいつになく悲しそうで、彼の顔を思い出せばまた心がぎゅっと痛くなった。

考えるのはやめて、もう寝た方がいい。
そう考えながらレターセットをしまおうとした時、机に置かれていたコップにぶつかってしまった。
溢れた水は私のナイトドレスをあっという間に濡らしてしまったから、私はため息を一つこぼして足元にこぼれた水を近くのタオルで拭き取った。

ふと見上げた先には、見慣れたドアがある。
今はまだ誰もいない、隣の部屋へと隣接しているドアだ。
そのドアを眺めていると、柔らかく微笑む総司の顔が思い出される。
そしてそれと同時にまた悲しい感情が湧き上がり、気付いた時には瞳に涙が溜まっていた。


『どうして……』


本当にどうしてだろう。
総司を思い浮かべてしまうと、悲しくて堪らない。
好きで好きで、大好きなのに……どうしてこんなに不安で泣きたくなるんだろう。


『好き過ぎちゃうのかな……』


意味のよくわからない感情に振り回されながらも、二度目のため息をこぼしてナイトドレスを脱ぐ。
代わりのナイトドレスをクローゼットから出そうとしたけど、また総司を思い出してしまえば首元のスフェーンのペンダントに手を伸ばしていた。


『総司……』


総司は今日も、変わらず優しかった。
なかなか自由に会えるわけじゃないけど、たまにふたりきりになれると、まるで時が止まったみたいにあたたかくて、すごく大切な時間になる。
ほんの数分でも、総司の言葉や仕草ひとつひとつに包まれて、私はいつも充分に満たされていた。
だから次に会える日を楽しみに過ごせていたし、会えない時間も寂しいと思いながらも、自分にできることを頑張ろうと思えた。
だけど……今日はどうしてだろう。
もっと深いところからくる何かが、どうしようもなく胸を締め付ける。
総司に会いたくて堪らなくて、この気持ちの鎮め方がわからないくらい胸が苦しくて仕方なかった。


「セラ」


優しい音色が耳に届いた時、私の身体はそっと後ろから抱きしめられる。
背中越しに伝わる体温と頬に触れる呼吸を感じて、心の奥が甘く痺れるみたいだった。


『総司……?』

「勝手に入ってごめんね。どうしてもセラに会いたくてさ」


嬉しかった。
私が会いたくて堪らなかった今の時間、総司が同じ気持ちでいてくれることが幸せだった。
でも幸せなはずなのにまた涙が湧き上がって、言葉一つ出なくなる。
どうしよう、今日の私は本当に変だ。


「セラ……」


震える唇を隠すようにきつく結べば、総司の温かい手が私の頬を労わるように包んでくれた。


「どうしたの?悲しいの?」

『ううん、総司に会えると思ってなかったから嬉しくて……。今ね、総司に会いたいなって思ってたんだ。だから総司がここに来てくれて嬉しい』

「セラに会いたくなって、いてもたってもいられなくなっちゃったんだよね。急に来たら怒られるかなって思ったんだけど、セラが喜んでくれたなら良かったよ」

『私は総司と会えるならどんな時も嬉しいよ』

「僕もだよ。君に会えるならどんな場所でも走って行くしね」

『ふふ』


総司の腕の中に包まれて、身を預けるように肩に頬を寄せる。
大好きな総司の香りを吸い込めば少しずつ不安はなくなって、この胸の痛みも落ち着いていくようだった。


『また木を登ってきたの?』

「勿論、頑張って登ってきたよ。あの木があることに感謝かな」

『見つからないようにしてね?』

「気をつけるよ。それで、セラはどうしてそんな格好してるの?」


総司の手が私の肩から腕を滑るように撫でる。
肌に直接触れる感覚に違和感を覚えて自分を見れば、ナイトドレスを脱いでしまった数分前のことを思い出した。


『あ、さっき着てたナイトドレスがお水で濡れちゃって……』

「そんな格好でいられると変な気分になっちゃうんだけど」

『今着るからあんまり見ないでね。ごめん、はしたない格好で……』

「着なくていいのに。はしたなくないし、むしろ凄く可愛いよ」


総司からの言葉に顔が熱くなってしまうから、咄嗟に目を逸らした。
でも頬に触れた手に顔を上げさせられて、総司の視線を感じれば鼓動は早くなるばかりだった。
総司の瞳は私から離れることなく、優しさと熱が溢れている。
心音が静まらない中、総司の名前を呼ぶ私の声は少しばかり震えてしまった。


「あははっ、顔真っ赤だけど」

『そんなことないよ……』

「セラは本当に可愛いよね」


状況的にも心臓が跳ねるから総司を見ないようにしていたけど、総司の優しさに心が揺れる。
再び抱き寄せられれば、緊張しながらも総司の背中に腕を回した私がいた。


「大好きだよ」


総司の声が耳元で優しく響く。
その言葉に身体の力が少し抜けた時、総司が突然私を抱き上げた。
その力強さに驚いてしまったけど、総司腕の中でふわりと浮くような感覚が広がっていく。
私を柔らかなベッドの上に寝かせてくれると、彼の手が優しく私の髪を撫でた。
指先が私の髪の間をゆっくりと通り抜ける度、気持ち良くて心がくすぐられるような気分。
私を見つめる翡翠色の瞳があまりにも綺麗だから、早くなった鼓動はなかなか治らなかった。


「今日、僕もここで一緒に寝ていい?」

『え?ここで?』

「勿論何もしないよ。ただ一緒に寝るだけ。だめ?」


私が驚いて総司を凝視すると、総司の真剣な瞳は私の気持ちを確かめるように見つめていた。
言葉は穏やかではあるものの、その瞳はどこか切なげだったから、私は触れていた総司の服をぎゅっと握りしめた。


『だめじゃないよ』

「ありがとう」


総司と一緒にいられるのことは、とっても嬉しい。
嬉しいんだけど私は結局薄手のシフトドレスのままだし、総司はずっと私を見下ろしてるし、しかもここはベッドの上。
恥ずかしくなって総司に背を向けてしまうのは、仕方のないことだと思う。


『じゃあ……おやすみなさい』

「え?もう寝るの?」

『総司も早く寝た方がいいよ』

「ははっ、分かったよ」


何がおかしいのか総司は笑うと、私にコンフォーターをかけるなりそっと後ろから抱き締めてくれる。
ても丈が短く肌が出ているシフトドレスだからか、脚や腕に総司の身体が触れると落ち着かない。
ドキドキし過ぎて、とても眠れる状態じゃなかった。


「すごいドキドキしてるね」

『え、分かるの……?』

「分かるよ。どうしてこんなにドキドキしてるの?」

『だって総司が……』

「僕が何?」


総司の顔は見えないけど、今絶対意地悪な笑みを浮かべてる。
声質で分かるから、少し悔しい気持ちで「なんでもない」と答えた。


「こんなにドキドキしてて眠れるの?」

『眠れないと思う……』

「ははっ、素直でいい子だね」

『ねえ、少し離れて?』

「なんでさ、嫌だよ」

『でもこのままだと眠れないよ』

「眠くないなら少し話そうよ。セラの顔が見たいから、こっち向いて」


耳元で小さく囁かれて、私の心に優しく響く音色に思わずシーツを握りしめた。
迷いながらも結局総司の方を向けば、総司は嬉しそうに微笑みゆっくり顔を近付けてくる。
でも唇が触れるか触れないかの距離で、それは一度、躊躇うように止まった。


「さっき何もしないって言ったけど、キスはしてもいいの?」


改めて聞かれると余計に恥ずかしい。
でも私も総司に触れたいから、自然と微笑み頷いていた。
総司はゆっくりと顔を傾けて優しく唇を重ねる。
触れた瞬間、胸の奥が甘く痺れるような感覚が広がって、私の心全部を包み込んでくれるみたいだった。


「好きだよ」

『私も……』

「もう少しだけ君に触りたい。いい……?」


総司の指が私の頬から首筋へそっと辿る。
その指先が熱くて、私の体温まで上がってしまいそうだった。
私が迷うことなく頷けば、総司の腕が優しく私を抱き寄せ唇がもう一度重なる。
なぞるように優しく、けれど確かに求めるようなキスだった。


『……っ……』


唇が少しだけ開かれそこに総司の舌先が触れる。
驚いて身体が強張ると、総司が一度唇を離し私の瞳を覗き込んだ。


「嫌じゃない?」

『うん……』


恥ずかしくて消え入りそうな声だったけど、総司は私の返事を聞いて微笑むと、もう一度そっと唇を重ねた。
今度はゆっくりと舌先が絡められて、初めての感触に戸惑いながらも総司が優しく導いてくれるから怖くなかった。
優しくて甘くて、今までとは違う溶けるような感覚。
総司の温もりが全身に広がっていくようで、私はもっと総司が好きになるような気がした。


『……ふ、……ぁ……』


思わず声が漏れてしまうと、腰に回されていた腕にぐっと力が入り、身体が余計に密着する。
キスも更に深くなり息も上手く吸えなくなって、総司の肩を掴む手に力が入った。


「ごめんね、つい夢中になっちゃって」

『気絶しちゃいそうだった……』

「ははっ、そんなに?」


息苦しいからじゃなく、緊張し過ぎてだけど。
最近ようやく普通のキスに慣れてきたと思っていたけど、今のはなかなか慣れなさそうだとコンフォーターで口元を隠した。


「なにそれ。もしかしてガードしてるの?酷いな」

『そういうわけじゃないけどね』

「じゃあ、退かしちゃおっと」


コンフォーターは剥がされて、再び柔らかく唇が重なる。
何度も何度も、さっきよりもずっと長く繰り返されて、頭がくらくらしてくる。
それでも凄く気持ち良くて、幸せで。
この夜がずっと続けばいいのにと思ってしまうくらい。


『……は、総司……』

「セラ、……ん……」


あ、また……。
どうしよう、止まらない。
総司は再び私に唇を重ね、その存在を確かめるように柔らかな舌を絡めた。
優しく気遣うように触れてくれるのに、私の身体を包むその腕は力強い。
思わず瞳が開いて総司を見ると、総司の瞳も開かれて、回された腕の力が強められた。


『……ん……、ふ……』


総司の身体の普段絶対に触れることのない部分と触れ合っていると思うと、少し興奮に似た感覚が芽生えてくる。
口の中の潤いもどちらのものかわからないくらいに溶け合っているのに、それすら全然嫌じゃなかった。
あまりに長くそうしていたせいか、ただ受け身だった私も気付けば夢中になって総司の舌に自分のを絡めていて。
唇が離れた頃には、今の行為に完全に心が溶かされたみたいだった。


「そんな可愛い顔されると堪らなくなるよ」


総司の言葉で自分が完全にぼんやりしていたことに気づいて、唇をきつく結ぶ。
そんな私を見て総司はまた笑っているけど、今日心無しか元気のなかった総司が今は笑顔になってくれたから良かったと思っていた。


『あと少しだね』

「ん?何が?」

『大会まで。早く早くっていつも思ってるんだ。総司に早く隣の専属騎士の部屋に来て貰いたい』


総司に擦り寄って話し掛けると、総司は私の髪を撫でながら微笑んでくれる。


「そんなに待ち遠しく思ってくれてるの?」

『うん。その日まで飛んでいきたいくらい』

「ははっ、そうだね。でも隣の部屋で生活できるようになったら、僕はもっと欲張りになるかもしれないよ」

『何を欲張るの?』

「君にもっと触りたいってこと。セラが可愛い過ぎて、全部僕のものにしたくなるんだよね」


ようやく少し緊張が解れてきたと思っていたのに、総司のその言葉でまた心臓が煩くなるし顔に熱が集まってしまった。
固まったまま何も言えない私を組み敷いていた総司は、私を見下ろしたまま思い切り吹き出していた。


「ふはっ……、その顔」

『笑わないで、総司が変なこと言うからだよ』

「別に変なこと言ったつもりはないんだけど?」

『破廉恥なこと言わないでってこと……』

「はははっ……、破廉恥って……」

『も、もう……笑わないでっ……』


総司はおかしそうに笑ってるけど、もし総司とこのままずっと一緒にいられたら、そのうちそういうこともするのかなって考えてしまう私がいる。
でも具体的に何をどうするのか正直よく分かっていないし、恋愛小説にもそのような描写は書かれていないから上手く想像出来なかったりする。


「あーあ、笑い過ぎてお腹痛いや」

『総司、一人で笑ってたよ。私は全然面白くなかった』

「そんな酷いこと言わないでよ。でも楽しみだね、専属騎士になれたら色々できると思うと」

『だから、変な言い方しないで』

「どうして?僕は朝になったら君の髪を梳かしてあげたり、寝る前に温かい紅茶を淹れてあげたりしたいだけなんだけどね」

『それは……ありがとう』

「ははっ、まあ色々期待してて。君のために尽くすし、誰にも負けない専属騎士になるよ」


総司のその言葉が嬉しかった。
嬉しくて嬉しくて、思わず瞳が潤んでしまったくらい。
出会った頃から何年もずっと、総司が専属騎士になってくれることを夢みてた。
総司が変わらずその役職を目指してくれていることが、何よりも嬉しい。


『ありがとう。私は総司に相応しい女の子になれるように頑張る』

「セラは今のままで十分過ぎるくらいだよ。むしろこのまま変わらないでいて欲しいかな」

『変わらなかったら成長してないってことになっちゃうよ?』

「僕はセラの可愛いくて優しくて何にでも前向きで、僕を一番に想ってくれるところが好きってこと。それは変わって欲しくないってことだよ」


そんな風に言って貰えたら、総司が好きだと言ってくれたところは変わらないでいたい。
いつまでも総司に想い続けて貰えるように。


『総司のことはずっと一番だよ。それは絶対変わらない』

「僕も同じだよ。セラがずっと一番だし、絶対に変わらないよ」

『ふふ、本当かな?』

「本当だよ。僕はね、セラと出会ってから君のことを考えなかった日は一度もないし、今日は何をしてたのかなってどこにいても何をしていても自然と考えてしまうんだ。だからこれから先も、ずっと君のことを考えるよ」


総司は、そっと私の髪を撫でながら微笑んだ。
この距離で見る顔はどこか切なげで、でもすごく優しくて。
月明かりだけが照らす薄暗い部屋の中、二人きりでベッドに横になっていることをふと思い出して、少しだけ頬が熱くなる。


『そんな風に言われたら、本当にそう思ってくれてるって信じたくなっちゃうよ……』

「うん、信じてて。僕の心はずっとセラにしか向いてないから」

『嬉しいな。私も総司のこと、ずっと大好き。総司だけが特別だよ』


少し眉を下げて微笑んだ総司は、私の手を取って彼の胸の上にそっと置いた。
そこから伝わる鼓動がほんの少しだけ早くなっている気がして、私までドキドキしてしまう。


『……総司の心臓、ちょっと速いかも』

「セラが可愛いことばっかり言うからいけないんじゃないの?」

『私?何もしてないよ』

「してるよ。僕を特別に想ってくれるだけで、すごく幸せになる」


どちらからともなく唇が重なり、優しく私を包み込むぬくもりに触れて、次第に瞼も持ち上がらなくなる。
溶け合うような感覚に、私はただ身を委ねることしかできなかった。
総司の舌がそっと私の奥をなぞるたび、胸の奥がふるふると震える。
唇の感触や息づかいが熱を帯びて絡み合っていくたびに、心がふわりと浮かぶようにほどけていって、もう他のことは考えられなかった。


『……ん、……総司……』


小さな声でそう呟いた時、総司が私の肩を撫でた。
体温が高くなって指先まで熱くて、もう時間の感覚さえわからなくなっていた。


『……総司……もっとそばにいて……』


自然とこぼれたその声に、私を抱きしめる総司の腕の力が強くなる。
身体ごと包まれるようなあたたかさに、溢れてしまいそうになる涙をこらえた。
こんなにも誰かを求めたことなんてなかったのに、総司だけは違う。
この人とだったら、これから先もずっと一緒にいたいと思えてしまう。


『大好き、総司の全部が大好きだよ』

「僕も……全部大好きだよ。セラがどんな表情をしても、どんな言葉をくれても、全部が宝物だって思ってる」


肩に触れた手がそっと押されると、総司が私に覆い被さるように体勢を変える。
そのまま引き寄せられるようにして、唇がそっと重なった。
一度、また一度と息を合わせるように何度も繰り返されるキス。
優しくて深くて、でもどこか切なさを含んだ熱に侵されそうだった。
触れ合う唇の間に自然と舌先が伸びて、どちらからともなく絡まり合う。
その感触が愛おしくて苦しくて、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような想いに包まれた。


『……ん……、……総司……』


かすかに名前を呼ぶと、総司は唇を離すことなく、まるで応えるように深く息を吐きながら舌を滑らせてくる。
お互いを求め合うような熱が確かにそこにあって、それを感じるたび、涙が滲みそうになるほど幸せで、どうしようもないほど総司が愛しくてたまらない。


『もっと……』


自分でも驚くほど甘えた声がこぼれる。
だけどそれは止めようのない、心の奥の奥から湧き上がる想いだった。
だって今夜だけは全部伝えたい。
どれだけ総司のことが好きか、どれだけこの人を求めているか、全部感じてほしいと思った。


「僕も君にずっと触れたかったよ」


その囁きに、胸の奥が熱く疼いた。
愛しさがそのまま形になったみたいな声で、そっと私の頬を撫でながらまた唇が落ちてくる。
ゆっくり、丁寧に、私を飲み込むように深くキスされて、舌が絡まるたび心が満たされていく。


『……ん、離れたくない……』


思わず零れた言葉に、総司がふっと笑って、でもすぐにその笑みは熱を孕んだものに変わった。
真剣な眼差しで私を見つめながら、甘く穏やかな声で言う。


「僕もセラとずっとこうしてたいよ」


その言葉が嬉しくて胸がいっぱいになって、思わず総司の首に腕を回す。
離れたくなくてもっと近づきたくて、そっと顔を寄せてまた唇を求めた。

キスは甘くて、でもどこか焦がれるように切なくて。
唇や舌が触れ合うたび心が奥底まで満たされていく気がした。
このまま朝になってもずっとこうしていられたらいいのに……そう願ってしまうほど、総司の存在が愛しくて堪らなかった。


『……総司……だいすき……ほんとに好き……』

「僕もセラが好きだよ。これからもずっと大好きだからね」


囁いてくれる声が優しくて、また涙が滲んでしまいそうになる。
でも今だけは泣かない。
だって、ようやく心の奥底にあった深い想いを伝えられた気がするから。

触れ合う唇も絡めた指先も全部が大切でたまらなくて。
私はその夜、総司の腕の中で何度も想いを確かめ合いながら、深く深く愛を育んでいった。


「大好きだよ。だからこれからもずっと僕の傍にいて」


初めて総司と過ごす夜は、とても幸せだった。
心地良い温もりに包まれて、改めてまた総司が大切だと思った。
「大好きだよ」と返した言葉に総司は嬉しそうな笑顔を向けてくれるから、私もまた笑顔になる。
これからもこんな毎日が続いていくことを願いながら、温かい手に自分の手を重ねた私がいた。


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