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就学の話をお父様に聞いてから数週間。
総司は入学試験を無事乗り越え、正式に私と同じ学院に就学することに決まった。
専属騎士の候補者である総司と伊庭君、平助君は、私が学院にいる間も護衛役を引き受けてくれるらしい。
今日は皆で学院に通う準備として、城内の一室に集まっていた。

私達が通うことになるセレスティア王立学院は、王国でもっとも格式の高い学び舎。
貴族や王族、そしてその護衛を務める騎士たちが通う場所であり、学問だけでなく礼儀作法や芸術、護衛としての戦闘技術まで幅広い知識と技能が求められる。

その中でも、私達が入学するのは貴族科。
貴族の子女とその護衛騎士がともに学ぶクラスで、外交や歴史、文学、礼儀作法などの一般授業は一緒に受けられるけど、専門科目だけはそれぞれが自由に選択できる仕組みになっていた。

そんな王立学院の生活を目前に控えた今日は、制服の採寸をするために仕立て屋さんがお城に来てくださっている。
サンプルの制服を身に付けた私は、慣れない自分の姿を眺めながら新鮮な気分でいた。


「制服、似合っています。とても可愛いですよ」

「本当だ、めっちゃいいじゃん!絶対学校一可愛いと思う!」

『ふふ、ありがとう。みんなもよく似合ってるよ』


制服は上品なデザインで、女子は淡いクリーム色のブラウスに、胸元で結ぶリボン。
リボンの色は学科ごとに違い、貴族科の女子はルビー色だった。
上から羽織るボレロは白地に金の刺繍が施されていて、スカートはボルドー色。
裾にフリルがあしらわれているから、ふんわりと揺れるシルエットがとても可愛い。

男子の制服は、白地のジャケットに金の装飾が入り、シャツは淡いグレー。
ネクタイはリボンと同じ色で、総司や伊庭君、平助君の貴族科の男子には深いブルーが指定されているらしい。
ズボンは黒で、全体的に洗練された雰囲気だった。


「んー、袖がちょっと長いかも」


平助君が試着室の前で袖をひらひらさせると、仕立て屋の方が丁寧に直しながら「サンプルよりも少し詰めて作りましょうね」と微笑む。
一方、伊庭君は鏡の前できちんと襟を整えながら、「上着の装飾が意外と細かいですね」と感心したように言っていた。


「では藤堂さんは別室で袖の採寸を行いましょう」

「あ、僕もいいですか?ズボンの丈が少し短い気がするんです。シャツも少し肩がきついので」

「わかりました、ではあちらのお部屋で測定しましょうか」


仕立て屋の方と一緒に別室に行く伊庭君と平助君を見送った私は、隣でジャケットを羽織っている総司に声をかけた。


『総司、制服とっても似合ってるよ』


私に目線を落とした総司は、いつものようににやりと微笑んで、「セラに言われるとちょっと照れるね」と、からかうような口調で言う。


「セラの制服姿もなかなかいいんじゃない?」

『ありがとう』


新しい制服に身を包みながら、私は秋から始まる学園生活を想像する。
総司や伊庭君、平助君と一緒に授業を受けたり、お昼を食べたり、時には剣の訓練を見学することもあるかもしれない。
今までの生活とは違う新しい時間が始まると思うと、胸が弾む思いだ。


「セラは学院に通うの楽しみ?」


総司がすぐ隣に立って、薄く微笑みながら聞いてくる。


『うん。でも少し緊張もするよ。総司は?』

「んー、僕も楽しみでもあるし心配でもあるかな」

『何か心配事があるの?』


総司にしては珍しい。
私が不思議そうに首を傾げると、総司はちょっとだけ悪戯に笑った。


「うん、心配だよ。セラって危なっかしいところあるし」

『え?私のことが心配なの?私、危なっかしくなんてないよ』

「だって君はきっと誰にでも優しくするでしょ?そうすると変なのに懐かれたりしそうじゃない」

『変な人がいるかはわからないけど……でも友達とは仲良くしたいよ』

「へえ。でも、学院で新しい知り合いが沢山できたら、僕のことなんてすぐにどうでもよくなっちゃいそうだよね」


総司の言葉に思わず目を瞬く。
冗談なのか本気なのかも分からないその言葉を聞いて、私はすぐに首を横に振った。


『総司のことがどうでもよくなるなんて、絶対ないよ』


強く否定してみたけど、総司は「ふーん」と、どこかからかうような目で私を見た。


「ほんとかな。例えばだけど、学院でセラのことをすごく褒めてくれる男子がいたら?」

『え?』

「セラお嬢様って素敵ですねとか、一緒にいるとすごく楽しいですとか言われたら?」

『…………』

「それで毎日その人と一緒に過ごして、気づいたら僕と話す時間が減って。最後には、そういえば総司とは昔はよく一緒にいたなー、今は全然話さなくなったなーとか思うようになるんだろうね」

『もう、なに?その変な話。そんなこと絶対ないよ』

「でもまあ、そうなったらそれはそれで仕方ないことだけど」


総司のことが大好きな私からしたら、あり得ない話。
でも私がどんなに否定をしても、総司はわざとらしくため息をついて、困ったような顔で仕方ないなんて言ってくる。


「学院にはたくさんの生徒が通うみたいだから、その中にはセラの理想に合う人がいるかもしれないし、君にも好きな人とかできるかもしれないね」

『私はそんな簡単に誰かを好きになったりしないよ』

「へえ?そうなの?」

『そうだよ』


どうしてこんな話になったんだろう。
このままだとひた隠しにしているこの想いすら見破られそうで、胸が騒めくからやめてほしいのに。


「まあどっちでもいいけどね。でも万が一好きな人ができたら、ちゃんと僕に教えてよ」

『どうして?』

「だってセラが誰かを好きになったら、それなりに警戒しなくちゃいけないでしょ?ちゃんとした相手なのか、信用できるのか、僕が見極めてあげるよ」

『嫌だよ。そんなの総司には関係ないと思う……』

「関係あるよ。だって、僕はセラを護るためにいるんだから」


ずっと冗談めいた言い方をしていたのに、最後の言葉や私を見る眼差しだけは真剣味を帯びていて、どう返したらいいかわからなくなる。
そして総司の瞳の奥に隠された感情もわからないからこそ、ただ胸が少し痛くなるのを感じた。

だって私に好きな人ができることをどっちでもいいとか、相手ができたら教えて欲しいとか……そんなことは総司の口から聞きたくなかった。
思わず少し泣きたいような衝動に駆られてしまったけど、その気持ちを振り切るように私は総司に微笑みを向けた。


『心配してくれてありがとう。でも私は誰も好きにならないと思うよ』

「そう?」

『うん』


ようやく今の話が終わって、ぼんやりとこれからのことを考える。
すっかり大きくなってしまった総司への想いを隠しながら、この先も今のような会話を何事もないようにやり過ごさないとならない現状が少し辛かった。

それに私ではなく、総司に好きな子ができてしまったら?
そんなことを考え始めてしまえば、私の唇は無意識のうちにきつく結ばれていた。

そんな時、不意に名前を呼ばれて顔を上げると、いつの間にか総司が私のすぐ目の前にいた。
私のリボンを直してくれると、柔らかく微笑んで私を見つめてくれている。


「制服似合ってるよ」

『……本当?』

「うん。可愛い過ぎて心配だから、ちゃんと護ってあげないとね」


総司からの言葉が嬉しくて、私の口元にも自然と笑みが溢れる。
たとえ他意がなかったとしても、総司の瞳に映してもらえることは嬉しかった。


『ありがとう。私、総司に可愛いって言って貰えるのが一番嬉しい』


きっと世界中の誰に言われるより嬉しいと思う。
だから素直な気持ちを総司に伝えた。
すると総司は少し苦笑いをしながら、私に言った。


「セラって結構恥ずかしいことを平気で言うよね」

『え?別に恥ずかしいこと言ってるつもりないんだけど……』

「自覚ないの?それだと余計に心配になるな。学院で愛想振り撒いて、変な男に気に入られたりしないようにしなよ」


総司は私が誰彼構わず愛想を振り撒いていると思っているのか、呆れ顔でそう言ってくる。
私は別に愛想を振り撒いてるわけでもないし、総司には本心を伝えているだけなのに、ずっとそう思われていたとしたらそんなの悲しい。
そもそも私は総司が好きなのに、今日はどうして他の男の人と仲良くなること前提の話ばかりされないとならないの?
その不満が溢れてしまったのか、少しだけ低くなった声で不服そうに返事をしてしまった。


『私は別に、愛想振り撒いてるわけじゃないです……』

「それならいいけど。とにかく、余計なこと言って勘違いされないようにね」

『それは総司だって同じだよ』

「なんで僕も同じなのさ」

『総司だって、他の女の子に可愛いって言うこととかあるでしょ?私に言うくらいだもん、学院に言ったらきっと毎日のように女の子に言うんだろうね』

「はい?」

『せいぜい勘違いされないように気をつけてね』


嫌味な言い方になっちゃったけど、想像したら少し腹立たしいから冷たく言い返して顔を背けた。
これから総司が沢山の女の子達と交流を深めると思うと、心の中がもやもやする。


「僕がいつ他の女の子に可愛いなんて言ったのさ。そもそも、君以外に話す女の子もいないよ」

『今はそうかもしれないけど、学院に行ったら女の子だって沢山いるよ』


今は総司の周りに同じ年齢層の女の子は全くいない。
それが今後変わると思うと、急に不安になる私がいた。
勿論総司は専属騎士になる為に就学してくれたけど、人の気持ちだけはどうにもできない。
総司にだって好きな人が出来る可能性もあるということだ。

そうなった時、総司と私の関係はどう変わってしまうんだろう。
たとえば総司が私以外の女の子と二人きりで話してたり、可愛いねって言ったり……見つめ合って手を繋いでいるところなんかを想像してしまったら、きっと私は耐えられないのではないかと考えてしまう私がいた。

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