7

広い訓練場の中心に立つと、肌に刺さるような視線を感じた。
騎士団の者たちが集まり、皆が僕を品定めするような目で見ている。
ざわめきが止まらないのは、僕が試験を受けることに驚いているからだろう。

半年間、見習いとして過ごしたこのアストリアの騎士団。
組手ではすでに負けることはなくなっていたし、求められる以上の働きをしてきたつもりだ。
それでも僕がここで認められるのは容易ではなかった。
犯罪歴のある過去を持つ身として誰よりも慎重に見極められ、なおかつ厳しく評価されるのは当然だ。

そんな中で執り行われる特別試験。
おそらくこれが見習いである僕の最後の試練になるんだろう。


「静粛に」


山崎君の鋭い声が響き、場が一瞬で引き締まった。

前に立つのは近藤さん、そして山南さん。
騎士団の中でも重鎮とされる人達が僕を見つめている。
そしてその様子を見守るように、セラが訓練場の端で緊張した面持ちで立っていた。


「では、これより見習い騎士沖田総司の特別試験を執り行う。この試験をもって、彼が正式にアストリアの騎士として相応しいか判断する」


近藤さんの重厚な声が響いた。


「総司はこの半年間、並々ならぬ努力を重ね剣の腕を磨いてきた。その実力を試すため、本日ここに特別試験を課す」


訓練場の端に立っていた騎士たちがどよめく。


「特別試験ってことは、もう見習いじゃなくなるってことか?」

「ああ、でもそれにしては妙だよな。普通の試験じゃなさそうだし」


騎士たちの間で交わされる会話が聞こえてくる。
どうやら試験の内容は、まだ伝えられていないらしい。
僕も何一つ分からないまま、ただその時が来るのを待っていた。


「では、試験の内容を発表します」


山南さんが一歩前に出ると、訓練場が静まり返った。


「沖田君、君の試験は五対一の模擬戦です」


その瞬間、周囲がざわめいた。


「五人相手……?」

「流石に無理があるだろ」

「相手は誰なんだ?」


次々に囁かれる騎士たちの声。
確かに、五対一というのは異例だ。
模擬戦は通常、一対一、あるいは二対一が限度。
五人も相手にする模擬戦なんて、聞いたことがない。


「なあ、これって要するに試験って名目の処刑じゃねえのか?」

「さすがに公爵様も、ここでコイツを認める気はないってことだろうよ」


僕の試験を疑問視する声が次々に飛び交う。
でも山南さんと山崎君は微動だにせず、ただ静かに僕を見つめていた。


でも違う。
この試験は僕を潰すためのものじゃない。
むしろ僕が騎士団に認められるための、最後の機会なんだ。
山南さんと山崎君の目がそれを物語っていると気付いた。


「試験の相手を発表する。第一剣士、原田。第二剣士、永倉。第三剣士、藤堂。第四剣士、伊庭。第五剣士、佐伯」


山崎君が淡々と告げる対戦相手の名前が呼ばれるたびに、騎士達が息を呑むのが分かった。
左之さんと新八さんは言わずと知れた剣豪。
平助は若い団員の中で一番腕は立つし、伊庭君は僕を快く思っていないが故に手加減は一切しないはず。
そして佐伯君は慎重な剣筋で、相手の隙を突くのが得意な男だ。
五人とも、騎士団の中でも並の騎士ではない精鋭揃いだ。


「……なるほどね」


僕は思わず、そういうことかと笑みを零した。
遠巻きにこちらを見ながら、騎士達がひそひそと話している。
その中には面白がっている者もいれば、明らかに僕が負けると決めつけている者もいた。
騎士たちがざわめく中、近藤さんが僕を見つめた。


「総司、お前にこの試験を課した理由は分かるな?」

「僕がアストリア騎士団に必要な存在か、皆に示すためですね」

「そういうことだ。この半年、お前の頑張りは見てきたつもりだよ。だが騎士団全員が納得する形でお前を迎え入れるためには、明確な証明が必要だ」

「反対する者を黙らせるには、誰もが認めざるを得ない形が必要だったのですよ」


山南さんの口調は穏やかだったけど、その目には鋭い光が宿っていた。


「確かに仰るとおりですね」


納得がいった。
この試験を乗り越えれば、誰も僕の存在を拒めなくなる。
僕がこの場に立つ資格があると、正式に認めざるを得ないということだ。


「では、始めましょう」


山崎君が静かに言った。
左之さん、新八さん、平助、伊庭君、佐伯君、その五人が僕の前に並ぶ。
左之さんは苦笑いをしながら、僕に微笑みかけてくれた。


「悪いな、総司。俺たちも手を抜くわけにはいかねぇんだよ」

「それはそうだよね。むしろそっちの方が燃えるかな」


五人の剣士を前に、僕はゆっくりと剣を抜いた。


「始め!」


山崎君の声が響く。
その瞬間五本の剣が、一斉に僕に向かって振り下ろされた。
中でも左之さんと新八さんが一気に距離を詰めてくるから、すぐに剣を構え、迫る刃を受け止める。
鋭い衝撃が腕に響くも、何とか耐えた。
でもそれだけでは終わる筈がない。


「甘い!」


新八さんがさらに踏み込んできた。
僕はとっさに足を滑らせるように後退し、左之さんの剣を新八さんの剣へと導く。


「おっと!」

「くっ!」


二人の剣がぶつかり合い、一瞬の隙が生まれた。


「……なるほど、そういう戦い方か」


左之さんの笑みを見ながら、僕はすかさず横へ跳び攻撃の軌道から外れる。
でもそこへ平助がすぐに回り込んできて、にやりと口の端を上げた。


「逃がさねーよ!」


それとほぼ同時、伊庭君が後ろから切り込んでくる。
挟み撃ちだ。
僕はギリギリのところで身を低くし、二人の攻撃をかわす。
すると伊庭君が瞳を細め、わずかに口元に弧を描かせた。


「沖田君は、相変わらず厄介な動きをしますね」

「そっちこそ、随分息が合ってるね」


苦笑いをしながら、素早く位置を変える。
次の瞬間、佐伯君が僕の正面に立ちはだかった。


「今度こそ終わりだ」


彼の剣が振り下ろされるも、僕は咄嗟に剣を立てて防ぎながら視線を動かす。


「ちょっと借りるよ」


僕は剣を佐伯君の剣に滑らせるように動かし、力の流れを変えた。


「何っ?」


佐伯君の剣が少し逸れ、平助の剣とぶつかる。


「おわっ、危ねえ!」

「くっ……!」


ほんの数秒の混乱。
その間に僕は左之さんと新八さんの間に滑り込んだ。


「さあ、次はどうします?」


僕は息を整えながら、にやりと笑う。
こんな状況だというのに、この戦いには胸を躍らせていた。
平助もつられて笑っていて、その顔はいつになく楽しそうに見える。


「なんかさっきから総司に踊らされてる気がするんだけど?」

「まだまだ、これからだよ」


伊庭君が再び詰め寄るも、その動きを読んで僕は一歩引いた。
彼らの剣の動きを利用し、互いをぶつからせるように仕向ける。
五人の息が少しずつ乱れ始めるのが分かった。


「面白くなってきたじゃねぇか!」


新八さんが笑いながら言った。
続けて伊庭君は剣を握る手を強め、僕を真っ直ぐ見据えていた。


「でも、まだ終わりません」

「そうだね」


僕は剣を構え直し、次の攻撃に備えた。
五人の猛攻をかわしながら、僕は確実に彼らの動きを封じていく。
それを続けていくと、やがて五人が息を切らしながら間合いを取った。

その中で、再び仕掛けてきたのは新八さん。
真っ向から勢いよく振り下ろされた剣を紙一重でかわしつつ、横から平助の突きが迫るのを察知し、素早く身体を捻って避ける。
その直後、背後から左之さんの斬撃が迫ってきた。


「……くっ」


僕が咄嗟に地面を蹴って前に転がり、伊庭君の剣をかわすも、佐伯君が狙いすましたように横薙ぎの一閃を放ってきた。
この五人、先程までとは違って考えるまでもなく連携が取れるようになってきている。
互いに位置を把握し、僕を挟み込むように動いていた。

もう逃げ道はない。
でもそれを崩さなければ、僕の勝ちはないんだ。


「――っ!」


刹那、僕は剣を振り上げ、佐伯君の斬撃を正面から受け止めた。
その衝撃が腕に伝わるけど、気にせず彼の剣を押し返し、体勢を崩した隙を突いて踏み込む。


「っ!」


佐伯君はすぐに距離を取ったものの、それで十分だった。
一瞬の隙を突き、僕は左之さんと新八さんの間に割って入り、二人の動きを封じる位置へ移動する。


「おいおい、俺たちをまとめて抑えようってのか?」


左之さんがそう言った言葉に僕は答えず、冷静に状況を見極める。
五人の戦力を分断し、同時に複数人を相手にしないように立ち回る。
これが僕の戦略だ。


「甘いぜ!」


平助が叫び、低い軌道で足元を狙ってくる。
間一髪で跳び上がるが、その直後新八さんが追撃を放つ。


「これで終いだ!」

「……終わるのは僕じゃないよ!」


僕は剣を逆手に持ち替え、新八さんの一撃をいなすと同時に、彼の懐へ踏み込む。
そして、新八さんの肩を剣で軽く叩いた。


「は……?俺、今斬られたのか?」

「うん、今ので一本」

「ちっ……!くそっ、負けたか!」


新八さんが舌打ちしながら後ろに下がる。


「ひとり、脱落!」


山崎君が冷静に宣言すると、訓練場がどよめいた。


「一対五なんだぞ!?本当に一人倒しやがった!」

「永倉さんがやられたら、やばいな……」


でも試合はまだ続いている、気を抜く暇はない。
そこから先の戦いは、熾烈を極めた。
一人減ったことで、相手の連携は少しずつ崩れ始めた。
僕はそれを見逃さず、動きの乱れを突いて次々と仕掛けていく。


「――くっ!」


次に脱落したのは平助だった。
僕の剣が彼の脇腹に触れ、彼は苦笑しながら剣を下ろした。


「二人、脱落!」


そして、三人目は佐伯君。
彼の攻撃を防ぎながら左之さんの隙を突くように立ち回ると、混乱した佐伯君の隙を突くことができた。


「三人、脱落!」


残るは、左之さんと伊庭君。


「お前、ほんとに強くなったな」


左之さんが苦笑しながら剣を構え直す。
その横では、伊庭君は無言で構えている。
彼は僕のことを認めていない。
だからこそ、彼に勝たなければ本当の意味でここにはいられない。
最後の戦いが始まったのだと思った。

続いて、四人目の脱落は左之さん。
そして最後の決着がつくまでは、一瞬だった。
伊庭君が一歩踏み出し僕を斬ろうとした瞬間、僕は彼の動きを読み寸前で剣を弾いた。
そして、そのまま彼の肩を叩いた。


「……っ」


伊庭君の目が見開かれる。


「最後の一本!決まり!」


山崎君の声が響くと、場が静まり返った。

僕は剣を地面に突き立て、深く息を吐いた。
五人を相手にした模擬戦、正直身体は限界に近い。
腕が痺れ、足も震えている。
それでも最後まで残っていたのは僕だった。

そんな僕に、新八さんが息を整えながら言った。


「なるほどな。こりゃ、文句のつけようがねぇや」

「ああ、まさか総司が俺達相手ここまでやるとはな」

「総司、お前やっぱり強過ぎ!」


左之さん、平助もお手上げというように僕に向かって微笑みを向けた。


「……沖田が、勝った……?」


誰かがそう呟いた瞬間、訓練場がどよめきで満たされた。


「まさか、本当に……」

「五対一で勝つなんて……」

「いや、俺は驚かないぜ。だってあいつ、この半年間、誰よりも努力してたからな」


ざわめく騎士達の声を聞きながら、僕はゆっくりと剣を納めた。
胸の奥に、静かな達成感が広がっていく。
これでようやく、僕は見習いを卒業できるんだ。


「よくやった、総司!」


ふと低く穏やかな声が耳に届いた。
顔を上げると、僕のところまで歩いてきた近藤さんが僕を見つめていた。


「お前は、己の力を証明した!今日をもって、お前を正式にアストリア騎士団の一員と認める!」


その言葉に、再び騎士達の間で歓声が起こった。
言葉の意味を噛み締めるように、何度も繰り返す声が聞こえる。
でもそんな周囲の反応よりも、今は近藤さんの表情のほうが気になった。
彼はいつになく優しい目をして、僕の肩をがっしりと掴むとそのまま力強く抱きしめてくれた。


「たいしたものだ、総司!!」

「うわっ……」


豪快に抱きしめられるのは今回が二度目だというのに、僕はまた驚いて素っ頓狂な声を出してしまった。
近藤さんの豪快さには笑ってしまうけど、間違いなく心の底からの喜びだと分かったから嬉しかった。


「強いだろうとは思っていたが、ここまでとはなあ!誠に見事だったぞ!」

「ははっ、ありがとうございます」


喉の奥が熱くなる。
言葉にするのが難しいくらい、胸がいっぱいだった。


「近藤さん、少し離れてあげてください。沖田君が息苦しそうですよ」

「おお、すまなかったな」


近藤さんが僕から離れ、今度は山南さんが一歩前に出た。


「素晴らしい試合でしたね。君は厳しい状況下でも決して感情に流されず、仲間を傷つけずに戦い抜きました。その判断力もまた、騎士として相応しいものだったと思いますよ」

「ありがとうございます」


山南さんの言葉は、僕が何よりも求めていたものだった。
剣の強さだけではなく、騎士としての在り方を評価されたことが嬉しかった。
僕も少しずつ騎士としての闘い方を身に付けることが出来ているのだと実感できたからだ。


「沖田さんの動きは本当に見事でした」


今度は山崎君が口を開く。


「力任せではなく、相手の動きを読み最適な行動を選んでいましたね。相手が誰であれ冷静さを失わなかった。それが勝因だと思います」

「山崎君、ありがとう」


普段はお説教ばかりされてきたけど、山崎君に認めて貰えるなんて、正直感慨深い。
頻繁に僕のところに来ては僕の様子を気にかけ、稀に手当をしてくれた山崎君は、多分騎士の誰よりも僕のことをわかってくれているのかもしれない。


「まったく、沖田さんはどこまで強くなるんでしょうね」

「沖田君、君にはこれからも期待していますよ」

「総司なら、きっと素晴らしい騎士になれるぞ!」

「ありがとうございます」


自分でも驚くほど素直に頭を下げた。
心の奥から、じんわりと温かいものが広がっていく。
張り詰めていた緊張が和らいできた時、気がつくとセラが駆け寄ってきてくれていた。


『総司……っ』


小さく、でも震えるような声。
涙ぐんだ瞳が僕を真っ直ぐに見つめたかと思うと、そのままセラは両手で僕の手をぎゅっと握りしめた。


『総司、おめでとう』


温かいぬくもりがゆっくりと掌に伝わっていく。
こんなふうに無邪気に喜ばれるなんて思ってもいなかったから、心が擽ったくなるような気分だ。


『今日のこと、信じてたけどすごく心配もしてたの。でも無事に試験を突破してくれて本当に……本当に嬉しい』


その瞳は僕のことをまっすぐに映していて、今にも涙がこぼれそうだった。
でもセラが僕のことをここにいる誰よりも気にかけてくれたことは、僕自身が一番よく分かっている。
僕のために一緒に悩み、僕のために色々な物を準備して、いつも笑顔で支えてくれた。


「ありがとう。僕も嬉しいよ。君がいつも気にかけてくれたから、ここまで頑張れたしね」

『ううん、全部総司が今日まで努力してきたからだよ。私、総司がたくさん頑張ってきたこと、知ってるよ』


セラは涙を堪えるようにしながら、少し首を振る。
でもその頬はほんのりと染まっていて、その顔が物凄く可愛いかった。


『総司がアストリアの騎士になってくれて、私本当に嬉しい』

「君がそうやって喜んでくれるなら、僕はもっと頑張れそうな気がするよ」

『……うん……すごく、かっこよかった……』

「あはは、ありがとう。でもセラ、みんなが見てるんだけど」


手を握って貰えるのは嬉しいけど、先程から周りの視線が気になって仕方がない。
少しだけ冗談めかして言ってみたものの、セラはまるで気にした様子もなかった。


『でも、本当に……嬉しいから』


心からの笑顔だった。
大衆の前でこんな顔をされて、どうしろっていうんだろう。
このままこの子を連れて、誰の目も気にしなくていい場所まで行きたいくらいだ。


「君の方が泣きそうだね」

『だって……』


言葉が途切れ、セラの瞳から涙がこぼれ落ちた。


「ちょっと、どうして君が泣くのさ」


僕は苦笑しながら、そっと彼女の頭を撫でる。


「大丈夫。僕はこれからも、ちゃんとここにいるよ」


柔らかい髪を指先で梳くように撫でると、セラが大きく目を見開く。
そして次の瞬間には、迷いなく僕の胸に飛び込んできた。


「……え」


ふわりと広がる髪の香り。
胸元に感じる彼女のぬくもり。


『本当によかった……』


震える声で呟かれる。
それがどれほどの想いを込めた言葉なのか、痛いほど分かった。
僕のために、ここまで喜んでくれている。
僕がこの場所にいることを、こんなにも肯定してくれている。
それが堪らなく嬉しかった。


「……ありがとう」


正規騎士になれたことは勿論、こうしてセラが喜んでくれることが何よりも僕の自信に繋がる。
僕はずっと、この子の心から喜んだ顔を見たかったのだと分かった。
でもそうしている間にも、僕たちを見つめる周囲の視線が……なんというか、どんどん鋭くなっていくことにも気付いた。


「お前達はいつのまにそんなに親しくなったんだね?」


近藤さんがなんとも言えない表情でこちらを見ている。


「おやおや、これはこれは……」


山南さんは楽しげに微笑んでいるけど、その目が何を考えているのかはいまだに読めない。


「沖田さん!何をされてるんですか!今すぐお嬢様から離れてください!」


山崎君の鋭い声に、僕は少しだけ肩をすくめてみせた。


「いや、離れるも何も……」


セラの方から抱きついてきてくれてるんだけどね。
それを振り解くなんて僕にはできないみたいだ。
だからそのままにしていると、騎士たちの間からも小さなざわめきが起こった。


「おい!総司!いつまでくっついてんだよ!セラから離れろって!」

「……沖田君、君は何を考えているんですか?」



歓声と称賛に包まれていたはずなのに、いつの間にか若い騎士団員達の視線が、嫉妬に変わっていた。
ぎゃぎゃー言ってる平助はいいにしても、伊庭君なんて今にも僕を刺し殺しそうな目で僕を見ている。


『総司……おめでとう……』


そんな周り様子なんてまるで目に入っていない様子で、セラは胸元で小さく呟く。
そんな彼女を抱きしめてしまいたい衝動を、僕は抑え込むことしか出来なかった。


「うん、ありがとう」


そして周囲の騎士たちを横目に、僕はひそかにため息をつく。


「あーあ、これからが大変そうだな」


苦笑いしながら、僕はそっと彼女の頭に手を置いた。


「僕もこの場所で、君を護れるように頑張るよ」


セラの瞳が、嬉しそうに揺れた。
そんな彼女を見て、僕はそっと空を仰ぐ。
澄み切った青空が、僕を祝福してくれるかのようにどこまでも広がっていた。


「……僕の戦いは、ここからだね」


アストリア騎士団の一員として、これから何が待ち受けているのかは分からない。
でも今日のこの温かい時間は、きっと僕の支えになるだろう。

騎士団のみんなや近藤さん、山南さんに山崎君、そしてセラ。
大切な人達がいて、僕はようやくここで生きていく覚悟ができた。


「さあ、宴の準備をしないとな!」


近藤さんの陽気な声に、騎士達が歓声を上げた。
僕の新しい騎士としての人生が、ここから始まる。
セラの隣に立てる日を夢見ながら、新しい一歩を今踏み出そうとしている僕がいた。

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