8

あの後、武具の取り扱いや戦い方、学んだ礼儀作法を披露して無事一般的な試験を終えた僕は、晴れてアストリア騎士団の正式な騎士になる資格を得た。
見習いとしての鍛錬を積み、特別試験も突破して、ようやくここまで辿り着いたと思うと感慨深い。
今日執り行われる叙任式で、僕はついにアストリア騎士団の一員になれるんだ。

大広間に足を踏み入れると、空気が一変するのを感じた。
広々とした空間には、公爵家の家紋が刻まれた深紅の絨毯が敷かれ、頭上の豪奢なシャンデリアが厳かな光を放っている。
両脇には整列した騎士達。
団長の左之さんや副団長の新八さんを筆頭に、アストリアの精鋭達がずらりと並びこちらを見つめていた。
 
壇上には、玉座に似た椅子に腰掛けるアストリア家の当主である近藤さん。
その傍らには山南さんと山崎さんが控えている。
そのすぐ後ろには、一際美しい姿で佇むセラの姿もあった。
繊細な刺繍が施されたドレスが彼女の気品を際立たせていて、その整えられた正装姿に、こんな時だというのに胸が熱くなる気がした。

晴れて正式なアストリア騎士団員となる叙任式。
心の準備はしてきたつもりだけど、こうして大勢の視線を浴びるとさすがに少し緊張する。
 
でも視線を向けた先、瞳を揺らしたセラと目が合った。
彼女も少し緊張した面持ちでいながらも、どこか誇らしげにこちらを見つめてくれている。
まるで自分のことのように僕の叙任を喜んでくれているようで、なんだかくすぐったい気分になった。
それと同時に彼女の温かい眼差しが僕を見守ってくれると思えば、不思議と肩の力が抜ける気がする。
背筋を伸ばした僕は、堂々と歩を進め、その顔を上げた。

 
「騎士見習い沖田総司、只今参上しました」
 

しんと静まり返る広間に、はっきりとした声が響いた。


「沖田総司、前へ」


近藤さんの低く響く声に促され、僕は静かに一歩を踏み出した。


「君はこれまで見習い騎士として研鑽を積み、特別試験では立派な姿を見せてくれた。その努力を称え、今日この場をもって正式にアストリア騎士団の一員として認めよう」


僕は膝をつき、頭を垂れる。


「ありがとうございます」


近藤さんは頷き、山南さんが儀礼用の剣を手渡す。
それを恭しく受け取り、誓いの言葉を述べた。


「僕、沖田総司は、アストリア公国の騎士として、この剣に誓います。己の剣に誇りを持ち、公爵家とこの国のために尽くすことを」


剣を胸の前で掲げ、誓いの言葉を終えると、広間に拍手が響いた。
そして近藤さんが静かに言った。


「よくやった、総司。これからは正式な騎士団員として、存分に力を尽くして欲しい」

「はい」


これで僕は念願のアストリア騎士団の一員となった。
ヴェルメルでの過去はとっくに捨てていたつもりでも、ようやく過去とも完全に決別し、新しい人生をここから始められると思えた。


「では、これより祝宴を開くとしよう!」
 

近藤さんが立ち上がり、そう宣言した。

 
「今日は皆、存分に飲んで食べて、新たな騎士の誕生を祝うがいい!今日の宴の主役は特別試験を見事に乗り越え、正式に騎士団の一員となった、総司だ!」

「おめでとう!」

「乾杯!」


その言葉とともに、広間には再び大きな拍手が巻き起こった。
一斉に杯が掲げられ、盛大な拍手が起こる。
僕は目を瞬きながらも、左之さんに手渡されたグラスを軽く上げた。
やっぱりここの城の人達は、無礼講となればがらりとその雰囲気を変えるから笑ってしまう。
そしてそんな僕の元には、騎士団の仲間達が次々に声をかけてきてくれた。


「よくやったな、総司!」


左之さんが豪快に笑いながら肩を組んできた。


「まあ、見習い時代から大したもんだったけどな。ようやく正式に仲間入りってわけだ」

「でもこれで終わりじゃねーからな!正規騎士になったからには、より一層頑張ってもらわねーと」


平助が楽しそうにそう言うと、新八さんも腕を組んで頷いた。


「お前がどこまで伸びるか、楽しみにしてるぜ!」

「うん、期待に応えられるよう頑張るよ。でもなんか、こういうのは慣れないな」

「おいおい、折角の祝いの席だぜ?もう少し嬉しそうにしろよ」


隣で左之さんが僕の背中をばんばん叩くから痛いったらない。


「いや、嬉しくないわけじゃないんだけどね。ただまだ実感が湧かなくて、見習い気分のままかな」

「お前、あんな試験を乗り越えといてそれか?」

「総司らしくねーじゃん。騎士になって、ようやく謙虚さを学べたってーの?」


呆れたように新八さん言った後、平助がにやにや笑いながら僕を見た。
そんなやり取りをしていると、山南さんと山崎君が僕の方へやってきた。


「改めておめでとうございます。沖田君」


山南さんはいつになく穏やかに微笑んでいる。
最初こそ怖くも感じられたこの笑顔も、今はただの優しい笑みに見えるから不思議だ。


「ありがとうございます。正直、五対一はかなりの無茶振りかと思いましたよ」

「確かにそうかもしれませんね。ですがあの試合がなければ、騎士団の皆を納得させることはできなかったのではないですか?」

「まあ、結果的には良かったですけどね。皆にも納得してもらえたようですし」

「今日の試合を見て、沖田さんが強く優秀な騎士だということは騎士全員がよく分かったはずです」


僕達の会話を聞いて、今度は山崎君が腕を組みながらそう言葉を発した。


「ですが沖田さんが本当に認められたのは剣の腕だけではないでしょう。半年間、見習いとして過ごしている間に沖田さんが見せた態度や努力があったからこそ、今日こうして正式に迎えられたのだと思います」


山崎君の言葉は僕にとって嬉しいものだった。
途中、前が見えなくて無理をしたこともあったけど、それらの日々を全てひっくるめてこの半年間は僕にとってとても大切な成長期間だった。


「山崎君、ありがとう」

『総司』


不意に後ろから愛らしい声が聞こえてくる。
振り返ると嬉しそうに僕を見上げたセラが、甘えたように微笑んで僕のそばに来てくれた。


『おめでとう、総司』

「ありがとう、セラ」

『本当にすごいね、とっても強かったよ』

「まあ、僕としては当然の結果かな」


少し得意げにそう言ってみると、セラはふふっと微笑んだ。
セラはきっと、見習いでいた間、僕が不安に思っていたことも焦っていたことも気付いている。
それを知った上で余計なことは言わず、僕を信じて傍で支えてくれた優しい子だ。


『とっても嬉しいよ。総司が正式な騎士になってくれて』

「セラのために頑張ったんだから、嬉しいって言ってもらえるのは悪くないかな」

『私のためだったの?』

「当たり前じゃない。僕が騎士になれなかったら君が泣いちゃいそうだったからね」


セラの頬が少し染まり、図星だと言わんばかりに視線を逸らす。
ここ最近、セラが僕に照れてくれるようになったからそれが密かに嬉しかったりする。
でもこんな場所でセラとずっと話していたら、また変な目で見られ兼ねない。
余計なことを言うのはやめにして、僕はセラや平助と一緒に席につくことにした。


それからしばらくして、宴の席はすっかり盛り上がり、あちこちで笑い声が飛び交っていた。
大広間には騎士達の話し声が響き渡り、お酒の匂いが漂っている。
僕はお酒は飲まずに平助やセラと一緒に席で談笑していたけど、大人の騎士団員達はすっかり酔いが回っていた。
特に新八さんと左之さんのテンションは最高潮で、こちらに来るなり僕達のことまで巻き込んできた。


「がはは!いやぁ、めでたいめでたい!」


新八さんが豪快に笑いながら、盃を傾ける。


「しかしよぉ、総司が正式に俺たちの仲間になるとはな!初めて見た時はこんなひよっこがやっていけんのか?って思ったもんだが!」

「おいおい、新八。それを本人の前で言うかよ」


左之さんが大雑把に新八さんの肩を叩きながら笑った。


「でもまあ、お前も大したもんだよな、総司。五対一の試験に勝って、正規の騎士団員にもなったんだからよ!」

「あはは、ありがとう」


なんかやだな。
この二人は酔っ払うと余計なことを言いそうだ。
セラはにこにこしてるから、この二人が酔ってはしゃぐ人達だということは分かっているみたいだけど。


「ったく、年下のくせに生意気なんだよな、総司は」

「そう言うけど、新八さんも左之さんも、僕とそんなに年離れてないよね?」

「馬鹿野郎、五つ六つ違えばだいぶ大人なんだぜ?飲める酒の量が違うって話だ」


そう言って二人が盃を空けると、セラがくすくすと笑う。
そんな中、宴の端で静かにしている人物がいた。
伊庭君だ。
彼はずっと黙ったままただ苦笑いするばかりで、周囲の騎士達ともあまり会話をしていなかった。
すると、その様子に気付いていただろう左之さんが、伊庭君の肩をがしっと掴んだ。


「おい、伊庭。お前も黙ってないで、ちゃんと総司におめでとうぐらい言えって!」


突然引っ張られた伊庭君は、一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐに表情を整えると、冷静な声で言った。


「おめでとうございます、沖田君」

「ありがとう」


僕はとりあえず微笑みながら返事をする。
伊庭君の言葉は少し固かったけど、それでもちゃんと言葉をかけてくれたのは意外だった。
セラはそのやり取りを静かに見守り、優しく微笑んでくれていた。


「なあ、総司も伊庭君もさ。もうちょっと打ち解けてくれよな。俺が気まずいんだけど」


平助がぼそっと言ったけど、伊庭君はそれには何も言わずただ視線を逸らすだけだった。

それからしばらく、左之さんと新八さんの飲み比べが始まり、団員達もそれを囃し立てる。
そしてすっかり宴もたけなわになった頃、二人が突然セラの方に向き直った。


「にしても、セラちゃんもすっかり大きくなっちまって。初めて会った時は、ちんちくりんのお嬢様だったのによ」


新八さんが、セラの頭にがしがしと手を置く。
その雑な触り方に僕の眉はぴくりと揺れたけど、取り敢えずは苛立ちを抑えてその場に座っていた。


「俺の可愛い妹分だからよ!お前ら、ちゃんと護れよ!」

「だがあと数年もすりゃ、いい女になりそうだよな。デビュタントが今から楽しみだ!」


左之さんは豪快に笑いながら、セラの肩をぽんぽんと叩いている。
セラは大男二人に挟まれすっかり身を固くしてるから、なんだか見ていて可哀想だ。


「ねえ、新八さん?左之さんも。セラが困ってるからそろそろ絡むのはやめたら?」

「第一、おじさん達はセラに触りすぎなんだよ。離れろって」

「お二人の言う通りですよ。騎士という立場でお嬢様にべたべた触るのはどうかと思います」
 

僕の言葉を筆頭に、平助が憤慨しながら二人を睨みつけ、伊庭君も眉をひそめて抗議した。
そして頭の片隅では、ふとセラのことを思う。
デビュタントを迎えた暁には、いずれ身分の高い誰かと結婚するのだろう。
それがこの国の公爵令嬢としての定められた道なら、僕はきっと遠くから見守るだけだ。
そんなことを考えていたら、不意に左之さんが酒の勢いで爆弾を落とした。


「そうだ。セラはこいつら三人の中で、どいつが一番好みなんだ?」


平助、僕、伊庭君、その三人を顎で指して、左之さんが楽しそうに言う。


「お、セラちゃんの好きなタイプか。確かに気になるな」


新八さんも興味津々で顔を近づけると、セラの顔が一瞬で真っ赤になった。


『えっ?あ……それは……』

「お、まさか答えにくいってことは、誰かいるのか?」

『ち、ちが……』


にやりと笑った左之さんの言葉を聞いてセラは慌てて首を横に振るけど、明らかに焦っているだろうその仕草がまた余計に怪しく見える。
 

「ほらほら、どんな男が好みなのか言ってみろって。年の近い騎士の中で選ぶなら誰だ?」

「やめてください、左之さん!セラが困ってます!」

「そうだって!セラに絡むのはやめろよな!」


ずっと静かにしていた伊庭君が食い気味に止めに入ると、平助もそれに便乗して声を荒げた。


「ははっ、お前達の方がセラちゃんより焦ってるじゃねえか!」


新八さんが面白そうに茶化し、左之さんは僕を見てにやりと口角を上げ、酒の盃を傾けて話しかけてきた。


「なあ、総司。お前はどう思う?セラはどんな奴が好きだと思うんだ?」

「うーん、そうだね……」


僕は困ったように笑いながら、セラをそっと見つめる。


「セラが困ってるなら、無理に聞かなくてもいいんじゃない?」

「おいおい、そんなこと言って、お前も気になってんじゃねえのか?」

「僕は別に?」


興味ないふりをしてそう答えたものの、気にならない筈がない。
何故ならセラの好みや恋愛観的なものは、何一つ知らないからだ。
セラは、どんな人を好きになるのだろう。
どんな相手なら、隣にいて幸せになれるのだろう。
でも、今それを聞くのはなんとなく怖い気がした。


「別にってなんだよ。総司はセラちゃんのこと気にならねぇのか?」

「ああ、ちなみに俺や新八を選んでもいいんだぜ?」


そう言って、左之さんはセラの肩をがっしりと抱き寄せる。
セラが目を丸くしながら、頬を染めて固まるから、そんな顔を他の男に見せて欲しくないと苛立ちが募った。


「おいおい、左之。セラちゃんを怖がらせんじゃねぇよ」

「別にいいだろ?いくら年が離れてるって言ったって、俺達も候補に入れてもらうくらいの価値はあるはずだぜ?」

「ま、確かにな。今はまだ子供だが、セラちゃんが大人になるまで待っててやんよ?」


新八さんまで、からかうように笑ってセラに片目を閉じて見せている。
セラは顔を引き攣らせながら二人から離れようとするけど、左之さんの腕はしっかりと彼女を引き寄せたままだ。
その様子に、僕や平助、伊庭君は思わず動いた。


「ちょっと左之さん、新八っつぁん!セラが困ってるだろ!」

「離れてください。セラに対してあまり馴れ馴れしいのはどうかと思います」


伊庭君も、少し険しい表情を浮かべながら睨みつける。
僕も、セラの困った顔を見るのは気分が良くなかった。
だからそっと近づきながら、二人の間に割って入ろうとしたその時。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


落ち着いた声が響き、そこに立っていたのは山崎君だった。
多分酷い絡まれ方をしていたのを見ていたのだろう。
怪訝そうに左之さんと新八さんを見つめると、静かな声で言葉を続けた。


「お嬢様、ここにいては危険です。違う場所に行きましょう」


山崎君は紳士的な態度でセラの手を取ると、ゆっくりと左之さんと新八さんの間から彼女を遠ざける。


「お、おう……山崎?」


左之さんが、やや驚いたように彼を見上げる。


「なんだよ、また山崎がセラちゃんを独り占めか?」

「まったく、お二人とも酔いすぎですよ」


新八さんの絡みに山崎君は呆れたようにため息を吐きながら返し、毅然とした態度でセラを護ろうとしていた。


「なんだよ、セラを連れていってどうするつもりだ?」

「まさか、お前もセラちゃんを狙ってるんじゃねえだろうな?」

「俺はお嬢様の護衛として、酔っ払いからお護りする務めを果たしているだけです」

「なんか怪しいな」

「前々からセラちゃんのことになると手厳しいんじゃねぇか?」


左之さんがにやりと笑い、新八さんも腕を組みながらからかうような視線を向ける。
山崎君はそんな二人を横目に、冷静な態度を崩すことはしないまま静かにため息をついた。


「お二人とも、もう少し酒を控えられては?絡み酒は最悪ですよ」
 

山崎君はセラを庇うように立ちながら、呆れを含んだ声で言った。
でもそのやり取りを見ていた僕は少し複雑な気持ちになる。
山崎君とセラはよく一緒にいるし、年が離れていても彼女が成長すればそんなことは問題にはならない。
専属騎士がいないセラにとっては、山崎君が一番身近な護衛だからだ。

でもそう思ったのは僕だけではなかったらしい。
平助までもが少しムスッとしながら、山崎君に声をかけた。


「なあ、山崎君。セラを連れていって何するつもり?」

「何をするって……。何もしませんよ。ただお嬢様を少し静かな場所へご案内するだけです」

「ふーん。山崎君がそう言うなら、別にいいけど」


平助は腕を組みながら、まだ疑いの目を向けていた。


「お嬢様、行きましょう」

「なあ、山崎。お前、ただ単にセラを俺らに取られるのが面白くねぇんじゃねぇのか?」

「常に傍に置いとかなきゃ気が気じゃないってか?」

「……は?」


山崎君が驚いたように目を瞬かせる。
彼のわずかな反応を見逃せなくて目を細めたけど、平助と伊庭君まで息を呑んで山崎君を見つめていた。


「な……まさか山崎君が……?」

「私的な理由で連れて行くというのでしたら、僕も見逃せませんよ」

「私的な理由なわけがないでしょう。お嬢様の護衛である俺が、そのような邪な感情を抱く筈がありません」


山崎君は冷静に言いながらも、どこかぎこちない。
やだな、これで山崎君がセラのことを少しでも意識していたとしたら。


「おいおい、こりゃあ面白いな。セラちゃん、この中でどいつが一番タイプなんだ?」

『ちょ、ちょっと待ってください!どうしてまたその話になるんですか?』

「さあセラ、どれが好みだ?答えてくれるまで終わらねぇぜ?」

「答えて貰えなけりゃあ、次回、さらにそのまた次回と、この質問は永遠に繰り返されちまうだろうな」


左之さんと新八さんの少し意地悪な物言いに、セラは明らかに困惑していた。
でも、この中で選ぶなら誰だ?、なんて問い詰められたら答えにくいに決まってる。
だけど左之さんと新八さんは面白がって彼女の反応を楽しんでいるし、僕も平助も伊庭君も自然と彼女の答えを待ってしまっていた。

セラは、誰を選ぶんだろう。
そんなことを思いながら、彼女の次の言葉を待つ。


『え、えっと……私は……』


セラの視線が揺れて、真っ先に僕と目が合ったような気がした。
けれどすぐにそれは逸らされて、その余裕のなさそうな表情から僕だったら嬉しいという淡い期待が膨らむ。
だけど……


『……山崎さん……です』

「……は?」


その場が、一瞬で静まり返った。
驚いたのは僕だけじゃない。
平助も伊庭君も、予想外の結果に目を見開いている。
新八さんが眉を上げ、左之さんがにやりと笑い、指名された山崎君本人が、一番困惑した顔をしていた。


「……俺、ですか?」

『だって、いつも護衛してもらってますし、一番付き合いも長いですから……』


セラは苦し紛れに言い訳をする。
セラは、純粋にずっと傍にいたからという理由で山崎君を選んだんだ。
恋愛感情とか、そういうのは関係なく。
そう思うしかない。


「おいおい、山崎を選ぶなんざ予想外で面白いじゃねぇか」

「こりゃ近藤さんの専属騎士どころか、セラちゃんの心まで掴んじまったんじゃねぇか?」

「……俺は何もしていませんが」


山崎君は真面目に捉える気はないのか、深々とため息をついた。


「なんだよ、まさか山崎君に持ってかれるとか思ってなかったんだけど……」

「ですが山崎君でまだ良かったです。近藤さんの専属騎士ですので、セラの専属騎士にはなれませんからね」


ショックを受けている平助の横で、伊庭君はため息を吐きながらも淡々とそんなことを言う。
セラはまだ赤くなった頬を隠すように、山崎君の後ろへ身を隠した。
その姿を見ながら、僕はなんとも言えない気持ちを抱えてしまうけど。
付き合いの長さでいったら僕は最下位だから、思わずため息を吐き出した。


「さあ……そろそろ行きましょう。お嬢様が酔っ払いの相手をする必要はありませんよ」


山崎君はそう言ってセラをこの場から遠ざけるため、彼女を導き歩き出す。
僕はそっと息をついて、セラの背中を見送った。
宴の喧騒はまだまだ続く。
でもさっきまでとは違う、妙なざわめきが僕の胸の中に残ったままだった。

- 28 -

*前次#


ページ:

トップページへ