6

総司がアストリアの公爵邸に来てから、気付けば半年の月日が過ぎていた。
総司と出会った日は真冬だったのに、今は初夏の訪れを私に教えている。
気分転換に庭園へと足を運んだ私は、強くなり始めた日差しに目を細めながら、つい先日のことを思い出していた。


その日は、騎士団で団体戦が行われた日。
私はお父様と山南さん、山崎さんと共にその試合を見学をさせて貰っていた。
けれどその団体戦は、実は総司の今後を左右する大切な一日だった。
明かされていなかっただけで、総司の戦い方は事細かに厳しくみられていたらしい。
私も試合の後にそのことを聞いたから、その時は驚いてしまったんだよね。

団体戦での総司は、予想通り誰よりも強かった。
瞬時の判断能力にも長けているし、動きも俊敏で負け知らず。
でも一番私を驚かせたのは、その力の凄さだけではなく、周りを見て仲間と共に動く総司の姿が見られたことだった。
お父様や山南さんは総司が剣の腕に優れていることは当然理解している。
それに加えて騎士に求められる資質が総司にあるかどうか、見極めるための団体戦だったというわけだ。

団体戦が終わった後、総司はお城の談話室へと呼ばれ、何事かという少し緊張した面持ちでソファに腰掛けた。
そんな彼に、お父様は優しく微笑み言葉をかけた。


「総司、お前には特別試験を受ける資格があると判断した」

「……え?」


突然の言葉に、総司は一瞬理解が追いついていない様子を見せた。


「お前は今日の団体戦で、仲間と連携しながら戦い騎士としての資質を示した。アストリアの騎士はただ強いだけでは務まらない。仲間と共に国を守る力が必要だ。その点、お前は立派に立ち回れていたよ。合格だ」


ようやくその時が来たんだと、私も嬉しくて顔を綻ばせる。
総司も嬉しそうに笑顔を見せると、「ありがとうございます」と頭を下げていた。


「正規騎士になるためには、特別試験を受ける必要があるが、総司ならば乗り越えられると信じているぞ。内容は当日また伝える。一週間後、訓練場で行う予定だ。体調を整えておきなさい」


そう言ったお父様の言葉を聞いて、ついに総司が見習い騎士から卒業できる機会が巡ってきたことに、喜ばしい気持ちになった。
総司が辛さや過酷な練習を乗り越えたからこそ迎えられる日だと分かっていたから、余計に胸が熱くなった。


そして、あの日からもうすぐ一週間。
ついに明日は特別試験が行われる日。
私の方が緊張してしまって、今も本を片手に総司のことばかり考えている。
先程から空を見上げてはため息を吐いて、本なんてそっちのけだった。


『神様、どうか明日は総司が実力を出し切り、今までの努力が報われて良い結果が残せますように。総司が無事にアストリアの正規騎士に就任することができますように』


小さい頃から不安な時、悲しい時、何かを乗り越えなければならない時はこうしてお祈りをしている。
このアストリアがキリスト教国であることは勿論、こうして願いを口にすると心が不思議と落ち着くからだった。
神様の力でどうにかしてもらおうという気持ちがあるわけではなく、ただ願いを口にすると叶う気がする。
信じることが大切な世の中で、お祈りは効果覿面のように思えた。


『どうか総司を幸せのある方にお導きください……』

「アーメン」


突然聞こえた声に身体がびくんと跳ねて、膝に置いていた本が落ちてしまった。
いつの間にか私の後ろにいた総司は、苦笑いをしながら落とした本を拾って、ベンチの上へと置いてくれた。


「あーあ、本汚れちゃうよ。相変わらず呑気だね」

『……呑気じゃないよ』

「呑気だよ。だって僕が後ろから近づいたの、まったく気づかなかったよね?」


だってお祈りに集中してたし、お祈り中は目も閉じていたし、仕方ないと思うけど。
それに、せめて驚かすならお祈りが終わってからにして欲しかった。


『そもそもだよ?総司が後ろから近づいてくるからいけないんでしょ』

「どうして駄目なの?そんな決まり、このアストリアにあったっけ」

『それはないけど……』

「警戒心ゼロだよね、セラお嬢様は」


くすくすと笑う総司に、私は少し頬を膨らませた。
折角総司のために心を込めてお祈りしてたのに、台無し。


「でもありがとう。僕のために呪文みたいなの唱えてくれて」

『呪文じゃないよ……!お祈り……!』

「あはは、そうだっけ」

『もう……私は魔女じゃないんだからね。それより、総司はこんなところにいていいの?』

「どうして?」

『明日は特別試験でしょう?身体を休めた方がいいんじゃないかなって』

「今休めに来たんだよ。それに変に構えるより、普段通りにしてた方が調子も出るしね」


総司はいつからかよく庭園に来るようになった。
だからといってお互い長居ができるわけではないし、時間が合わなければ何日も会えない日々が続くこともある。
それでもここに来れば総司に会える気がして、私は以前に増して、空いた少しの時間に庭園に足を運ぶことが増えていた。

でも総司はどうしてここに来るんだろう。
お花が好き?自然が好き?
その理由がどうしてか気になった。


『総司はお花とか自然が好き?』

「ん?まあ嫌いじゃないかな。どうして?」

『よくここに来るみたいだから、お花を見て癒されてるのかなって思ったの』

「ううん、そういうのは全くないかな」

『全くないんだ……』


その言い方はお花に対して少し失礼だと思う。
こんなに綺麗に咲いているし、木々の緑だって夏に向けて青々と深みを増しているのにね。


「セラはどうしてここによく来るの?」

『私は小さい頃からお花が好きだからだよ。庭園は貴族の嗜みでもあるけど、お父様が図鑑を通さなくても沢山のお花を実際に見て感じられるようにって、庭園や温室をたくさん作ってくださったの』

「ふーん、それだけ?」

『え?うん……』


少し前までは、本当にそれだけだった。
総司と出会う前から庭園にはよく来ていたし、ここで自然を感じながら本を読む休憩時間が私は好きだった。
でも最近はこの場所に来ても、なかなか読書が進まない。
それなのに迷わず庭園に来てしまうその理由を、正直に総司に話すのは躊躇われて短い返事で終わらせると、総司が言った。


「僕が、本当は君に会いたくてここに来てるって言ったら?」

『え?』

「素直に受け止めてくれる?」


頬杖をつきながら私の顔を覗き込むようにそう聞いてくる総司の瞳は、私の気持ちを探るようで少し居心地が悪い。
でもその笑顔はいつもより優しくて甘くて、どこか心をくすぐるようで落ち着かなくもなる。


『またどうせ嘘だよね。騙されないもん』

「僕はからかうことはあっても、嘘は言わない主義なんだけど」

『よく言うよ。からかって、嘘ばっかり言うのに』

「僕がいつ嘘言ったのさ」

『……もう、自分で考えて』


拗ねるようにそっぽを向くと、総司がくすくすと笑うのが聞こえた。
本当に総司のことはつかめない人だと思うけど、どうしてだろう……嫌な気持ちにはならなかった。


『総司って、もともとこういう性格だったの?』


私が何気なくそう尋ねると、総司は少し考え込むような顔をした。


「どうだろうね。僕も昔の自分がどうだったかなんて、よく分からないんだ。ヴェルメルにいた頃は、雁字搦めだったからね」


総司はふっと遠くを見つめるような目をした。


「大公国の貴族としての振る舞いを求められて、常に礼儀正しく冷静に、無駄口を叩かないようにって……だからこういうふうに誰かと冗談を言い合ったり、軽口を叩いたりすることなんてなかったかな」

『そうだったんだ、ちょっと意外かな。無駄口叩かない総司なんて、もう総司じゃないよね』

「その言い方もどうなのさ」

『だって今の総司は楽しそうだもん。だから今の総司が本当の総司なんだよね?』

「うん、そうだね。ヴェルメルを追われて自由になって、街で僕みたいに行き場のない小さな子どもたちと遊んだりしてるうちに、気づいたんだ」


総司は少し笑いながら、懐かしそうに語る。


「僕ってこんな性格だったんだって。それまでは自分のことなんて、よく分かってなかったのかもね。でもここに来て、君や他の騎士団の仲間と話したりしてると、さらに驚くことがあるよ」

『驚くこと?』

「こんなふうに誰かをからかって笑うのがこんなにも楽しいなんて思わなかったんだよね」


総司は、にやりと悪戯っぽく微笑んだ。


「だから、多分これはセラのせいだね」

『どうして私の?』

「君が思ってた以上に表情がくるくる変わるから、ついからかいたくなっちゃうみたいでさ。だからもうちょっとだけ意地悪されるの、我慢してくれる?」

『嫌だよ。なにそれ』


思わずそう言うと、総司が楽しそうに笑った。


「そう言うわりには、君もなんだか楽しそうだけど?」

『そんなことはありませんよ』

「えー、本当かな」

『じゃあ今度は私が総司に意地悪してあげるね。そうしたら総司も、やられる側の気持ちがわかるんじゃない?』

「へえ、君が意地悪してくれるの?それは楽しみだな。今、やってみてよ」

『そんな急に言われても……』

「ほら、早く」


急かされても困るけど、人に意地悪したい時ってどうしたらいいんだろう。
いじめることに興味はないけど、逆に考えてみたらいじめる側を経験してみれば総司の気持ちが少し分かるかもしれないと気付いた。
でも……どうしたら総司を困らせることができるのかはよく分からない。


『……うーん……』

「ねえ、まだ?」


総司は私の反応を面白がるように笑いながら、じっとこちらを見つめてくる。
やっぱりいつもみたいに意地悪をされる側のほうが慣れているから、いざする側になると難しいみたい。
でも私がこうして考え込んでいる間も、総司はずっと余裕そうな顔をしていて、それが少し悔しかった。


『じゃあ、とりあえず目を閉じて?』

「へえ?」


総司は片眉を上げて、興味深そうに私を見た。


「目を閉じればいいの?」

『そうだよ。そうじゃないと意地悪してあげないよ?』


私はちょっとだけ勝ち誇った気分になって、総司の顔をじっと見上げた。
総司は一度目を瞬いてみせたけど、すぐに「面白いね」と呟いて素直に目を閉じてくれた。

……うん、これで少しは主導権を握れるかも。

私はそっと近づき、総司の目の前で手をひらひらさせてみる。
もちろん、見えていないはず。
でもこんなことをしても意味がないからどうしよう。
何かもっと意地悪なことをしないと意味がない。


『ねえ、総司?』

「ん?」


総司は目を閉じたまま、穏やかに返事をする。


『もしかして、ちょっと不安だったりする?』

「いや?全然」


即答だった。
何も動じていない声に、少し肩を落とす。


『じゃあ、もし私がここから黙って立ち去ったら?』

「うん、それならそれでいいけど」

『……え?いいの?』

「でも君のことだから、黙って行ったふりをしてすぐ戻ってきそうだよね。それか隠れて見てたりとか」


読まれてる……。
私は少し瞳を細めて、総司を睨んだ。
でも彼は目を閉じたままで、まるで何も気にしていないように平然としている。


『……あとちょっとだけ待ってね』


思い浮かぶ意地悪は、あとはもうこのくらい。
近くに落ちている綺麗なお花をいくつか手に取って、それらを総司の髪の毛の上に置いて飾ってみた。
気付かれないように静かにそっと。
一枚一枚丁寧に飾れば、中々可愛いくできあがった。


『うん、目を開けていいよ』


ぱちりと目を開けた総司が、じっとこちらを見つめてきた。


「結局なんだったの?」

『内緒だよ。何されたか分からない意地悪もたまにはいいでしょ?』

「気付かない意地悪なんて意地悪のうちに入るの?」

『えっと……実はね、もう諦めたの。総司には意地悪なんて無理だよ。全然困ってくれないし』

「じゃあもう終わり?」

『うん。だって、総司は私が何しても全然動じてくれないもん……』

「それは君の作戦が甘いからだよ」


そう言いながら、総司はふっと笑って私の髪をそっと撫でた。


「でもまあ、可愛いから許してあげるよ」


可愛いって言われると頬が熱くなる気がするからやめてほしい。
少しだけ総司を睨んで、聞いてみた。


『……それも意地悪なの?』

「え、どうして?」


総司はとぼけたような顔をするけど、絶対わざと言ってる。
私が恥ずかしがるのを見て楽しんでるに決まってる。
でも……


『総司の方がずっと可愛いと思うよ』


だって頭に沢山お花が乗ってるから。
これで騎士団の皆のところに戻ることを考えたらおかしくて、私はついくすくす笑ってしまった。


「ちょっと、何に笑ってるの?」

『ううん、なんでもない』

「本当に?」

『本当になんでもないよ。私、そろそろ中に戻るね』


そう言って立ち上がろうした瞬間、手首がふわりと掴まれた。
驚いて振り向くと、総司が黒い笑みを浮かべてこちらを見ている。


「ねえ、セラ。何を隠してるの?」

『何も隠してないよ?』

「へえ?」


掴まれた手首に少しだけ力が込められる。
でも痛くはない。
ただ優しく握られているだけなのに、まるで逃げられないようにしっかりと捕らえられている気がして、心臓が少し早くなった。


『総司、離して』

「それは僕が納得したらね」


総司の声はどこまでも穏やかだったけど、その目は明らかに私を疑っていた。
逃げようと少し身じろぎしても、手を離してくれそうにない。
私が困りかけたその時、ひらりと総司の髪から淡い花びらが一枚落ちてきた。


『っ……』


私の背筋がピンと張る。
気づかれないようにそっと飾ったはずなのに、まさかこんなタイミングで落ちてくるなんて。
総司はそれを見て、一瞬きょとんとした。
そしてすぐに、彼は指先でそっと髪を触り始めた。


「あれ?」


ひらり、ひらり。
また花びらが数枚、地面に落ちてくる。


「……セラ?」


私の心臓が嫌な予感で跳ねる。
総司はゆっくり自分の髪に触れながら、残る花をつまみ上げた。


「これは?」

『……さあ?』

「さあ?じゃないよね」


くすくすと喉を鳴らしながら、総司は指先で花をくるくると回す。
その顔には明らかに、やられたと理解した上での余裕があった。


「ねえ、セラ」

『なに?』

「君、僕の髪に花を飾った?」

『私がやったっていう証拠は?』

「ふうん、証拠ねえ」


総司は花を軽く揺らしながら考えるふりをした後、私の手首を掴んでいた手をするりと離した。
一瞬、解放されたと思ったけど、総司は私との距離を詰めてくる。


「素直に認めない悪い子には、お仕置きだね」


すぐに距離を取ろうとしたのに、総司が私の腕を軽く掴んで引き寄せる。


『そ、総司……?』

「なに?」

『ちょっと、離して』

「駄目かな。セラがやったことに対する報復だから」


くすくすと笑いながら、総司は私の頬をそっと撫でるから、何故か心臓がうるさく鳴り始めた。


『やっ、なにするの?』

「さあ?」


総司の指先がすべるように私の頬をなぞる。
それだけで息を呑んでしまうのが悔しい。
 

「君が僕を飾ったみたいに、僕も君を飾ってあげたいなって思って」


そう言ったかと思うと、総司は拾い上げた花を私の耳元にそっと添えた。


「うん、似合うね」

『……え?』

「お返し。僕とお揃いだよ」


総司は満足そうに笑いながら、私の髪にも小さな花を飾る。
先程まで総司の髪を飾っていた花が、今は私の髪を飾ってくれていると思うと、その可愛らしい仕返しに心がほんわりと温かくなった。


『そういう仕返し?』

「何か別のことを期待してた?」


総司がわざとらしく小首を傾げる。


『別に……』

「ふうん?」


じっと私を見つめる目が、明らかに何かを企んでいる。
思わず視線を逸らしてみても、総司の視線を感じるから心は落ち着かないままだった。


「じゃあ、もう少しだけ意地悪してもいい?」


その言葉と一緒に、総司の手が私の髪にそっと触れると、そのまま彼は柔らかな声で囁いた。


「目、閉じて?」

『え?』

「ほら、さっき君が僕にやったみたいに」


今度は、総司が私に目を閉じてと言う番になったらしい。
想像したら恥ずかしいから、私は直ぐに首を横に振った。


『絶対にいや』

「なんで?さっきは僕が素直に閉じたのに、セラはしてくれないの?」

『でも、それは総司がいつも私に意地悪を……』

「ねえ、早くってば」 


私がまだ話しているのに、その途中でやわらかな声で促されてしまう。
素直に従ってくれた先程の総司を思い出せば断りづらくて、私はしぶしぶ目を閉じた。

すると耳元で笑う気配がして、総司の手が優しく髪を撫でる。
見えないから予期できなくて、総司の指が耳を掠めるだけで思わず肩がびくんと揺れてしまう自分が恨めしかった。


「セラ、ちょっとドキドキしてる?」

『してないよ』

「ほんと?」

『ほんとだよ』

「そっか」


なぜか嬉しそうに笑う気配がした。


『……ねえ、もういい?』

「ううん、まだ。もう少し」

『……まだなの?』

「さっきのお返し、もう少しだけするから」


頬がじわじわと熱くなっていく。
でも、総司は何もしてこない。
ただ、近くで私をじっと見つめている気配だけがする。
何もされないのに、何かを待ってしまうようなこの沈黙がいたたまれない。


『……も、もう無理だよ……!』


私は目をぱっと開けて、総司を見上げた。
すると、彼は穏やかに微笑んでいるだけだった。


「うん、もういいよ」

『なにをしたの……?』

「それは内緒」


理由は全然分からなかったけど、物凄く恥ずかしくなる。
私は耳まで熱くなったから、思わず両手で両耳を隠した。


「ははっ……、顔も耳も真っ赤だよ」


どうしてこんなに恥ずかしくなるんだろう。
その理由すら分からなくて、それが余計に悔しいから総司を睨み上げた。


「君って本当に反応が素直だよね。可愛いお嬢様に仕えられて僕は幸せかな」

『そういうところが意地悪って言うんだよ』

「えー、僕はただ本当のことを言ってるだけなのに」

『絶対嘘、もうやだ……』


総司はまた楽しそうに笑った。
私は一刻も早く身体の熱を冷まそうと、小さく息を吐き出した。


「まあ、君のおかげで明日の特別試験、頑張れそうだよ」


不意に、総司が優しく言った。
驚いて彼を見上げると、総司はいつもの悪戯っぽい笑顔ではなく、穏やかな笑みを浮かべていた。


「絶対乗り越えてみせるから、信じてて。応援しててよ」


その言葉を聞いて、心の奥がふわりと温かくなった。
総司は、こうやって急に優しくなる。
私が一番聞きたかった言葉を、何も言わなくても分かっているみたいに、さりげなく伝えてくれる。


『うん、信じてるよ。総司なら、絶対大丈夫だよ』

「そんなに信じてくれるの?」

『もちろん。だって、総司だもん』


少し得意げに答えると、総司は一瞬驚いたように目を瞬かせたあと、微かに笑った。


「へえ。僕ってそんなに信頼されてるんだ」

『当たり前だよ。総司は私が初めて自分で選んだ騎士だからね』


私はあの日助けて貰った時のことを、毎日のように思い出す。
総司は私の言葉を味わうように一拍置いて、それからゆっくりと口を開いた。


「そっか。そんなこと言われたら益々頑張るしかないね」


小さく笑って、総司は私の髪を軽く指で梳いた。


「じゃあ、セラ。約束してよ」

『約束?』


そう聞き返すと、総司は少し楽しそうに目を細めた。


「うん。僕が試験に合格したら、そのときはご褒美がほしいな」


いたずらっぽく笑う総司に、私は思わずきょとんとする。


『……えっと、何か欲しいものがあるの?』

「うーん、どうしようかな」


総司は考え込むふりをしながら、ちらりと私を見つめてくる。


「じゃあさ、試験が終わったら一つだけ僕のわがままを聞いてよ」

『わがまま?』

「うん。君に迷惑をかけるようなことは言わないよ。ただ、ちょっとだけ甘えさせてほしいなって」


総司がそんなふうに素直にお願いをしてくるのは珍しい。
いつも意地悪ばかりするのに、こういうときだけ可愛い顔をするから笑ってしまう。


『本当に変なことじゃないわがまま?』

「もちろん」

『それならいいよ、約束する』


そう言って微笑むと、総司は満足そうに口元を緩めた。


「じゃあ決まりだね。絶対に試験に合格するから」

『うん、楽しみにしてるね。明日は思い切り頑張って』

「頑張ってくるよ、セラ」


総司の瞳は、自信に満ちていた。
それを見て、私はもう何も心配しないことにした。
そして交わした小さな約束が、どうしようもなく胸を温かくする。
目の前の総司の笑顔を見ていると、私の心に綺麗な花が咲く気がしていた。

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