2.
城の大広間には、煌びやかなクリスマスの装飾が施され、豪華なシャンデリアが暖かな灯りを落としていた。
暖炉には炎が揺らめき、窓の外では雪がしんしんと降っている。
中央には大きなクリスマスケーキが飾られ、その周囲では騎士達が楽しげに談笑していた。
アストリア公爵家のクリスマスパーティーは、格式ばった晩餐会というより、誰もが気軽に楽しめる賑やかな夜会のような雰囲気。
お父様の意向で外部からは人を呼ばずに、城内の人間だけで思い思いにクリスマスをお祝いしていた。
「お嬢様、ジュースをお持ちしましょうか?」
山崎さんが丁寧に声をかけてくれたけれど、私は小さく首を横に振る。
『大丈夫です。あの……山崎さん?お顔が赤いですけど大丈夫そうですか?』
「先程、原田さんと永倉さんに無理矢理飲まされまして。ですが俺は問題ありません」
『それなら良かったです。でも、お酒で酔うとどんな感じになるんでしょうか。今から少し興味あります』
「お嬢様がお酒を嗜まれるようになったら、それはそれで心配ですが」
『心配?どうしてですか?』
「どうしてって……」
山崎さんはややぼんやり気味で、真っ赤な顔で私をじっと見下ろしている。
首を傾げて次の言葉を待っていると、私達の間には背の高い誰かが割って入ってきた。
「山崎君?なんだか様子がおかしいけど、何してるの?」
私と山崎さんの間に入ってきたのは総司だった。
私達を交互に見ると、再び山崎さんに話しかけた。
「山崎君、君……顔真っ赤だけど。セラに変なことしてないよね」
「俺がお嬢様に何かするわけないでしょう。沖田さんではないんですから」
「僕がセラに何をしたって言うのさ。セラ、酔っ払いは危険だから向こう行こうね」
「沖田さんこそ、顔が少し赤いですよ。お嬢様を勝手に連れて行かないで下さい、俺は今日、お嬢様についているようにと近藤さんからも頼まれているんです」
「だったら真っ赤になる程、お酒なんて飲んじゃ駄目じゃない」
「それは……今しがた強い酒を原田さんと永倉さんに無理矢理飲まされたんですよ。好きで飲んだわけではありません」
「またまた、山崎君だってたまにはハメを外したかったんじゃないの?」
「俺は酒には興味ありませんよ。あのお二方にはいつも迷惑しています」
確かに私の直ぐ傍にずっといてくれていた山崎さんは、先程お二人にやたら絡まれていた。
あの時に無理矢理飲んだあの二杯が、山崎さんの顔を赤くさせたらしい。
苦い顔をして総司と言い合いをしていた。
『総司、山崎さんはいつも紳士だから大丈夫だよ』
山崎さんは専属騎士に選ばれただけのことはあり、とても真面目で信用できる方だ。
だからそう言ったのに、今度は総司が不服そうな顔になってしまった。
「ふーん、紳士ね。セラは山崎君が僕よりも紳士だって言うの?」
『え、うん』
「はい?本気?」
『だって山崎さんは、本当に騎士の鏡みたいな方だから』
欠点が見当たらない。
立ち振る舞いや言葉遣い、気遣いや剣の腕前。
どれをとっても完璧で、しかも騎士階級特級持ちの希少な人だ。
「お嬢様、ありがとうございます。そう言って頂き光栄です」
『山崎さんにはいつもとってもお世話になっていますから』
「俺は近藤さんには勿論、お嬢様にも忠誠を誓ってますから当然です。君のような方をお護りできることは、騎士冥利につきますよ」
『ふふ、ありがとうございます』
少し照れくさくもあるその言葉に微笑んでいると、直ぐ近くから殺気を感じる。
ふと横を見れば、総司が不機嫌宛らな態度で私のことを睨んでいた。
「へえ、そう。じゃあセラは山崎君に専属騎士になってもらえばいいんじゃない?」
そういうことじゃないんだけど、総司は良くない意味で捉えたらしい。
私を見る瞳がいつになく刺々しかった。
そんな私を庇うように私の前に再び来た山崎さんは、赤い顔のまま柔らかく微笑んでくれた。
「俺は構いません。むしろお嬢様の専属騎士になれるとあらば、どんな役目でも喜んで全うする所存です。勿論、近藤さんに許可を頂ければの話ですが」
『山崎さん……』
「ちょっと、何言ってるのさ。山崎君は近藤さんの専属騎士でしょ?役目を担ってる途中で、志を変えるのってどうなのかな」
「沖田さんが言い出したことでしょう。それに近藤さんはお嬢様のことを誰よりも大切になさっています。中途半端な腕の信用出来るかもわからない輩に任せるよりかは、近藤さんも俺を選んでくれる筈ですが」
「ねえ、山崎君?君、酔ってるの?専属騎士は年齢差三歳以内が理想の筈だよね。山崎君みたいに年食ってたら、そもそも駄目な筈だよ」
「年齢でしたら然程問題はないかと。俺は若く見られますから」
「君、絶対酔ってるよね」
二人の止まらない口論をただ眺めていると、「おーい」と私を呼ぶ声がする。
少し先を見れば平助君と伊庭君が手招きしているから、私の足は二人の方へと向かって行った。
『メリークリスマス。平助君、伊庭君』
「おう!メリクリ!」
「今日のドレスも似合っていますよ」
『ありがとう』
ビロードの赤いドレスは、今日のためにお父様が用意してくださったもの。
先程この姿をお父様にお見せすれば、「まるでケーキの上の苺のようだぞ!」って、面白い例えを出して喜んでくれていた。
「なあなあ、セラはツリーに飾った願い事には何て書いたんだ?」
『えー?それは内緒だよ』
「内緒なんて、気になりますね」
『二人の願い事は?』
「俺は、もっと強くなること!で、もっと騎士団で活躍する!」
「僕も同じような感じです。先にある大会に向けて、日々努力できることや自分の限界を超えて強くなれることを願いました」
『二人らしいね。とっても良い願い事だから、叶いますようにって私も願っておくね』
アストリアの騎士の人達は、皆とても良い方ばかりだ。
規模が大きくて精鋭揃いだと評判の我が公国の騎士団は、その強さもさることながら、所属している人達の人柄が優しくて素敵だと思う。
「セラちゃん!今日も断トツ可愛いぜ!」
私達の目の前に突如現れたのは、完全に酔っ払った様子の永倉さん。
にやりと笑って再びワインを流し込む姿は、何度見ても凄い迫力がある。
「ちょっと、新八つぁん。飲みすぎじゃね?」
「平助、もっと飲みやがれ!クリスマスなんだからよ!」
「だから、俺はまだ飲めないんだって」
「ほら、伊庭の坊ちゃん!お前は飲めんだろ?」
「僕も結構ですよ。それに坊ちゃんって呼ぶのはやめてください」
「あーん?ならセラちゃんが飲むか?」
「だから……セラだってまだ飲めねーの!何回言えば分かるんだよ。ったく、迷惑なおじさんだな」
「おい、こら。なんだと?」
赤ら顔の永倉さんが、平助君の肩をぐいぐい揺さぶる。
「ちょ、やめろって!離れてくれよ!」
「んなつれないこと言うなって」
永倉さんが思いきり平助くんの肩に腕を置いたその瞬間、バランスを崩した永倉さんがよろめき、平助君を巻き込みながら私のすぐ横にあったテーブルに手をついた。
すると目の前で、テーブルの上に乗った巨大なクリスマスケーキが傾き、真っ白な甘いものがふわりと私を包み込んだ。
『…………』
しばらく何が起きたのかわからなくて、ぼんやりしていた。
でも、周りのざわめきが聞こえてきて、ようやく事態を理解した。
『……私……』
頭からケーキを被ったから、頬にも、髪にも、ドレスにもクリームがたっぷり。
甘い香りに包まれて、赤いドレスが本当に苺に見えてしまうくらいだった。
「お嬢様……!」
「セラ、大丈夫ですか!?」
山崎さんや伊庭君が目を見開いて駆け寄ってくる。
「おいおい、新八。お前、やっちまったな」
「わ、悪かった!つーか、平助のせいだ!」
「ちょっと待ってくれって!俺のせいじゃねーじゃん!新八っつぁんだろ!?」
呆れ顔の原田さんと、言い合う永倉さんと平助くんを横目に、私は自分の姿を見下ろす。
全身から甘い香りが漂って、唇についたクリームをさりげなく舐めてしまえば、甘くてとてもおいしかった。
「セラ、大丈夫?」
優しい声がして顔を上げると、総司が身を屈めて私を覗き込んでいた。
「ははっ、なんか美味しそうだね」
くすっと笑うと、総司は私の頬についたクリームを指ですくい、そのまま口に運んだ。
甘いものを口に含んだ総司が、満足そうに微笑んでいる。
「うん、甘いね。おいしいよ」
少し恥ずかしい気持ちになっていると、隣で伊庭くんも目を丸くしながら、私の手についたクリームを見つめていた。
伊庭くんは静かに私の手をとると、そこに乗ったクリームを少しだけ指ですくい、そのまま口に含む。
「……確かに美味しいです」
『伊庭君まで』
「あ、俺も食いたい!」
平助くんまでが、私の手の甲についたクリームを指先で拭い、ぱくりと食べた。
「うわ、うま」
みんなを見ていたら羨ましくなり、思わず自分の両手を広げてみる。
でもさすがに指を舐めるわけにはいかなくてただ黙って立っていると、総司の指が私の頬を掠めた。
「セラも食べる?」
私は本当にクリームだらけみたい。
総司の指には、ぽてっとクリームがのっていた。
口元にそれが寄せられて、誘われるように思わず口を開きかけたその時、今度は山崎さんが私達の間に割って入ってきた。
「沖田さん!お嬢様に何をさせるおつもりですか!」
「なにって、食べたそうにしてたから食べさせてあげようと思っただけだよ。この子についたもの以外は床に落ちて食べられなくなっちゃったしね」
「だからと言ってお嬢様に沖田さんの指を舐めさせるなんて大問題です」
「そうだぜ、総司」
「沖田君はいつもやり過ぎなんですよ」
「ちょっと、なんで僕ばっかり怒られないといけないのさ。そもそも悪いのは新八さんでしょ?」
でも当の永倉さんは、もう原田さんと遠くの方で盛り上がっていて、三人の視線は相変わらず総司を睨みつけている。
私が思わずくすりと笑えば、総司は苦笑いをこぼしていた。
「お嬢様、災難でしたね。直ぐに着替えに行きましょう」
『ありがとうございます、山崎さん。でも私一人でも大丈夫ですよ』
「いえ、ご一緒します」
クリームまみれになった私は、山崎さんに連れられてお城の三階にある自室へと戻ることになった。
けれど私がふと後ろを振り返ると、総司が飄々とした笑みを浮かべながら私達の後ろをついてきていた。
「沖田さん、だめですよ」
山崎さんがそう言いながらも、酔いが回っているのか、少し足元がふらついている。
「本来なら三階には一般の騎士は立ち入り禁止なんですから」
「えー、だって酔っ払った山崎君と二人きりにするのは危険だし」
山崎さんが怪訝そうな顔付きで制止するも、総司は涼しい顔でにやりと笑う。
「俺に危ない要素はありません」
「そう?さっきはいやらしい目でセラのこと見てたじゃない。二人になって何をする気なの?」
「何もしません……!そもそも!俺がいつそんな目をしていたって言うんですか……!」
「今日。ずっと」
「してません!お嬢様、違いますからね。沖田さんの言うことは真に受けないで下さい」
『あ、はい。大丈夫ですよ、分かっています』
「えー、危険だと思うけどな。僕は」
「沖田さん!」
酔っている山崎さんは総司に完全にからかわれていて、申し訳ないけど少し笑ってしまう。
総司には私もよくからかわれるけど、その標的が私だけではないことを知って安堵の息を吐いてしまったのは内緒だ。
「規則なので沖田さんはここから上に上がることは出来ません」
『総司は私が一回案内したことがあるので、別に大丈夫ですよ?』
「な……、そうなのですか?」
『はい。多分総司は言うこと聞かないですし、私も早くクリームを落としたいのでこのまま行きましょう?』
私がそう言うと、山崎さんは困ったようにため息をついたものの、私の許可がある以上、無理に追い返すこともできなかったらしい。
仕方なく渋々と認めてくれた。
それから自室にお二人を待たせたまま、私はバスルームへと直行する。
侍女の方々に手伝って頂きながらベタベタのクリームを洗い流し、新しいドレスを身に纏って、なるべく急いで身支度を整える。
髪の毛はもう諦めて、最低限クリームを取っただけになってしまった。
「お嬢様、とてもよくお似合いです」
用意された深いインディゴブルーのシルクサテンのドレスは、雪の様に白いオーガンジーの袖が揺れている。
裾に細かな雪の結晶があしらわれたドレスで二人の前に出れば、山崎さんが真面目な表情のまま褒めてくれた。
その隣で、総司はじっと私を見つめたまま目を細めている。
「いいんじゃない?」
『ありがとう……』
「沖田さん、お嬢様に対してそれだけですか?」
「だめなの?」
「お綺麗ですね、可愛らしいですね、などいくらでもあるでしょう」
「そんなこと言われても、山崎君が聞いてる前でそんなこと言いたくないし」
『あの、もう行きましょう?せっかくのクリスマス、終わっちゃいますよ』
二人の口論が始まったら、また長引いてしまいそう。
だからそう提案して、先頭を歩く山崎さんの後を歩いて行った。
けれど階段を下りる寸前、不意にぐいと腕を引かれて気付けば壁の角に身を隠すように追い詰められた身体。
驚いて見上げると、総司が人差し指を唇にあてて、にやりと悪戯な笑顔を浮かべていた。
『総司?』
「しー、山崎君に気付かれちゃうよ」
『でも、山崎さんは直ぐに気付くと思うよ?』
「そうだね。だから急ごう」
『……あっ』
総司はぐいと私の手を引いて、三階の廊下を逆方向に走り出す。
わけもわからないのに、気付けば私の足も総司について行くため走り出していた。
そして私の手を引いて前を走る総司を見て、出会った一年前の日のことを思い出した。
ぼろぼろになったドレスで、必死で総司と一緒に走ったあの日の私は、まさかこんな日が訪れるなんて思ってもみなかった。
あの時は、生きて帰ることと、総司への感謝の気持ちしか頭になかったからだ。
でも総司と過ごした一年間は本当に楽しくて、かけがえのない時間になった。
総司といるといつだって心が弾むから、私はこの人の背中をずっと追いかけていきたいと思ってしまう。
「さあ、つきましたよ。お嬢様」
総司が足を止めた場所は、以前二人で一度訪れたことのある星が見えるバルコニー。
ふざけて私をエスコートすると、私がベンチに座ったのを確認してガチャリと鍵をかけていた。
『ふふ、鍵かけてる』
「邪魔が入らないようにね」
『山崎さん、今頃困ってないかな』
「なあに?山崎君のことがそんなに気になるの?」
『そうじゃないよ。でも、総司はパーティーに戻らなくていいの?』
「ずっと室内じゃ窮屈でしょ? せっかくのクリスマスなんだから、ちょっと外の空気を吸いたくてさ。セラは戻りたい?」
先程まで皆でいたからか、急に二人になると少し照れくさい。
でも折角のクリスマス、私も本当は総司とゆっくり話がしたかった。
総司にはそんなつもりはないのかもしれないけど、最近の私は少し変。
総司を見ると、どうしてか心臓が早くなる気がしていた。
『ううん、私も外に出たかったよ』
夜の空気は澄んでいて、静かな冬の空が広がっている。
とても寒いし、辺りは雪。
それでも心が温かいから、周りの気温は全く気にならなかった。
「良かった。でも風邪引かないようにしないとね」
ふわりと肩に総司のジャケットがかけられて、また心音が早くなる。
総司の香りと温もりが、私の口元を自然に笑顔にしてくれた。
『ありがとう、総司は寒くない?』
「僕は大丈夫。今凄くあったかいかな」
『本当?雪が降ってるのに?』
「寒い時に寒さを素直に感じるのも結構好きなんだよね」
澄んだ夜空に、一際輝く星々が瞬いている。
冷たい夜風がふわりと頬を撫でるけど、それすら心地よく感じるほど、このバルコニーには穏やかな空気が流れていた。
総司が傍にいるだけで、胸がほんのりと温かくなる。
空を見上げる総司の横顔がとても綺麗で、そっと盗み見しながら一人微笑みを浮かべていた。
「これ、君にプレゼント」
『え?』
「ちょっとしたものなんだけど、開けてみて」
総司が包みを私に手渡した。
綺麗なリボンがかかった箱を開けると、中には可愛らしい装飾の大きなチョコレート。
とても可愛くて美味しそうで、見るだけで幸せな気持ちになるものだった。
『わあ、ありがとう!』
「これ、今街で人気のチョコレートらしいよ」
『そうなんだ。とっても可愛いし、美味しそう。それにすごく大きいね』
「でしょ?特別なチョコみたいだから、セラにぴったりかなって」
両手で抱えられそうなほどのサイズで、表面には繊細な装飾が施されている。
夜空を思わせる深いブラウンのチョコレートに、星屑のような金箔が散りばめられていて、それはまるで今の夜空を閉じ込めたかのようだった。
「だから頑張って食べてね」
くすっと笑う総司を見上げながら、チョコをそっと傾けると、コロンと不思議な音がした。
『え?中に何か入ってるの?』
「さあ、どうだろうね」
総司は面白がるように微笑む。
なんだか彼のいたずら好きなところが出ている気がして、笑いながらほんの少しだけ頬を膨らませた。
『かじるのは無理だから、割るね。一緒に食べよう?』
チョコの端をそっと押してみると、パキッと心地よい音を立てて割れる。
二人で小さな欠片を手に取って口に運ぶと、ほろ苦いカカオの香りが広がった。
『うん、とっても美味しい』
空洞になっていても、かなりの大きさだから結構量がありそう。
でも少しずつ二人で食べ進めていくうちに、チョコの中から淡いピンク色のものが顔を覗かせた。
『……わあ、可愛い』
丸みを帯びた星のような形をしたピンク色のチョコが中から出てきて、思わず嬉しくなって手に取る。
けれど、そのチョコに書かれた文字を見て私は思わず目を見開いた。
『え?』
そこには、くっきりと「好きだよ」と刻まれていた。
だから文字を見た瞬間、思わず指が震えて、喉が動くのに声が出ない。
まるで告白みたい……そう思った途端、心臓がドキドキ止まらなくなった。
何より心の奥から湧き上がった、嬉しいと思う自分の感情に、私自身が動揺している。
そしてこのピンク色のチョコが、とても大事で愛おしい物に思えた。
「ん?どうしたの?」
総司が私の手の中のチョコを不思議そうに覗き込み、そのまま無意識に声を落とした。
「好きだよ……?」
ぱちり、と視線が合った。
一瞬、時が止まったかのような静寂が広がり、私は総司の声で聞いたその言葉にまた心を掴まれたような気持ちになってしまう。
総司の声が、耳に直接触れるように響いて、どうしようもなく心臓が跳ねた。
『…………』
「…………」
総司もようやく自分が何を口にしたのか気づいたのだろう。
目を見開いて、珍しく一度黙り込んでしまった。
それを見て私の頬にも一気に熱が集まって、私の顔を見つめていた総司も僅かに瞳を揺らした。
「……まさか、こんなチョコが出てくるなんて思ってもみなかったよ」
眉尻を下げ、困ったように呟く総司の横顔が、ほんのわずかに照れているのがわかった。
「ねえ。顔、真っ赤だけど?」
クスッと笑みを含んだ総司の声音に、はっとする。
『だ、だって……このメッセージが総司からかと思ったんだもん』
必死に言い返したものの、声が上ずってしまう。
だって、本当にびっくりした。
総司がこんなことをするなんて思わなかったし、私をからかうための悪戯かとも思った。
それと同時に、ここに書かれたことが総司からの気持ちなのかもしれないと期待した。
でも、総司の様子から考えると総司は何も知らなかったみたい。
その事実が分かって、寂しいような悲しいような変な気持ちになった。
「ちょっと……そんな顔するのやめてくれる?こっちまで恥ずかしくなるんだけど」
ふいに冷ややかな声音が落とされる。
驚いて顔を上げると、総司はそっぽを向いていた。
でもやっぱり耳の端が、うっすら赤い。
『…………』
ドキドキドキドキ……心臓がうるさく鳴っていた。
総司は自分でも気づいていないかもしれないけれど、多分きっと照れている。
それがわかると、胸がどうしてきつく掴まれたような気持ちになってしまう。
それはきっと総司のこんな姿を見たのは、初めてだったからだ。
静寂が流れる中、総司はいまだにそっぽを向いたままだけど、その横顔の僅かに熱を帯びた頬が、はっきりと月明かりに浮かんでいた。
……今、何を言えばいいんだろう。
こんなに心臓が鳴っているのに、どうしようもなくこの時間が愛おしく感じてしまう。
それなのに、うまく言葉が出てこなかった。
けれど、この甘い時間はクリスマスの夜に降る雪のように、静かに心に積もっていくようだった。
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