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暖かな陽射しが窓辺を照らす昼下がり。
父に呼ばれた私は、山崎さんに付き添われて、お父様の執務室へと向かっていた。


「今回のお話、おそらくお嬢様にとって良いものになると思いますよ」

『そうなのですか?なんでしょう……とても気になります』


山崎さんは柔らかく微笑んでくださるから、その顔を見ればお父様のお話に少しだけ期待してしまう。
けれどどうして呼ばれたのかは分からなくて、少し緊張しながら歩いていた。
やがて部屋の前にたどり着くと、山崎さんが静かに扉を叩く。


「近藤さん、お待たせ致しました」

「おお、来たか。入ってくれ」


お父様の声が聞こえ、山崎さんが扉を開けると、そこにはお父様と山南さん。
そして総司と、伊庭君、平助君までいる。
思わず目を見開いた私を見て、三人も同じように目を瞬いていた。


「あれ?もしかして君も何の話か知らずに来たの?」


総司が微笑みながら、少し意地悪そうに言う。
私がこくりと頷くと、伊庭君と平助君も顔を見合わせていた。


「実は僕達もまだお聞きしていないんですよ」

「でも、セラも一緒だったらきっと悪い話じゃないよな」


平助君がにこにこと笑いながら言うから、私もつられて笑顔になる。
期待半分、緊張半分で、お父様からのお話を待っていた。


「よし、それなら今から説明をしよう」


お父様が軽く咳払いをして、話を始めた。


「セラには、以前より専属の護衛をつけると言っていただろう」

『はい』


公爵家の娘として、そして次期当主として、私は護衛なしで外に出ることが許されない。
これまでは、数人の騎士の方々が交代で私を護衛してくださっていたけど、専属騎士を決める前にまずは護衛役を数人に絞るという話になっていた。


「今後、お前が城の外へ出る際は、基本的にこの三人が優先的に選ばれることになる」

「僕達が?」


お父様が視線を向けたのは、総司と伊庭君と平助君。
すぐに総司が問い返すと、お父様が頷く。


「お前達はそれぞれ剣の腕も立ち、セラとも気心が知れている。何よりセラを護ることに相応しいと判断した」

「光栄です」

「やった!」 

「なんだか嬉しいな」
 

三人はそれぞれ喜びを滲ませるように微笑んでくれる。
その様子を見ていたら、私も自然と頬が緩んでしまった。


「セラ、この三人で良いか?」


お父様にそう問われ、私は迷うことなく答えた。


『はい。総司も、伊庭君も、平助君も……皆とても頼りになるし、いつも優しくしてくださるからとっても嬉しいです』


そう言うと、三人がそれぞれ目を細める。
総司は少し笑いながら、いたずらっぽく私を見た。


「優しく……ね。僕、そんなに優しかったかな」

「僕は君に優しいですよね」

「なあなあ、俺が一番優しいだろ?」

『ふふ、三人とも同時に話さないで』


くすくすと笑いながらそう言うと、三人も穏やかに笑っていた。


「では、今後はこの三人が中心となってお嬢様をお護りするということで宜しいですね」


山南さんが穏やかに微笑みながら言う。


「当然ながら、ただの護衛ではありません。公爵家の護衛としての誇りを持ち、セラお嬢様の安全を第一に考えて行動することが君達にとって最優先になります」

「心得ました」


三人が揃って頷く。
それを見て、私も姿勢を正し、丁寧に頭を下げた。


『これから、どうぞよろしくお願いします』

「よろしくね、セラ」

「頼ってくれよ」

「精一杯護らせて頂きます」


それぞれの言葉を聞きながら、私は静かに胸を高鳴らせた。
これから先、この三人が私の傍にいてくれる。
それが今、とても心強く思えた。


「この三人が選ばれた理由を、詳しく説明しようと思う」


お父様の言葉に、私は姿勢を正して耳を傾けた。
総司たちも同じように、真剣な表情でお父様を見つめている。


「まず、今回の決定にあたり、騎士団内での働きを改めて評価した」


お父様が視線を向けたのは山南さんだった。
山南さんは静かに頷くと、穏やかな口調で説明を始めた。


「公爵家の騎士としての技量はもちろん、お嬢様の護衛という任務には、冷静な判断力や、状況に応じた柔軟な対応力が求められます。その点、原田君、永倉君といった歴戦の騎士たちも優秀でしたが、彼らは騎士団全体を統率する立場としての役割があり、常にお嬢様に付き従うことは難しい。それにこれから長い付き合いになることを考えれば、元より年齢差が少ない方が理想です。そこで、より機動力があり、お嬢様と直接関わる時間が長くとれる者を優先して選びました」


たしかに、原田さんや永倉さんは騎士団を率いる立場だから、彼らが常に私の護衛に就いてしまえば騎士団内部に支障が出てしまう。
来年には私も王立の学院へと通うことなるし、そうなればお二人が護衛をするのは不可能に近いと思える。
だから以前、専属騎士は年齢差三歳以内が理想だと言っていたのだろうと理解した。


「それに加えて、先日の模擬戦の結果も大きな要因の一つとなりました」


山崎さんの言葉に、私は思わず三人の顔を見た。
 

『模擬戦?』

「そうか。セラは見ていなかったな。先日、騎士団内で、お前の護衛候補を決めるための選考試合が行われたのだ」

『え、そんなことが……?』


初めて聞く話だった。
私の護衛を決めるために、騎士団の人たちが模擬戦を?


「もちろん、ただの剣技の試合ではありません」


山崎さんが真面目な顔で、言葉を続ける。


「お嬢様を想定した護衛対象を守りながらの戦闘試験です。どれだけ的確に動けるか、どのように対象を防御しながら戦うか、実戦を意識した形式で評価しました」

「なるほど、それで僕達が選ばれたんですね」

「ああ、そういうことだ」


総司の呟きに、お父様が頷く。


「結果として、お前たち三人は単独での戦闘力もさることながら、周囲と連携しながら対象を守る技術に優れていた。特に、総司と八郎は、防御と攻撃の切り替えが見事だったそうだな」

「へえ、そうだったのか?」


平助君が驚いたように伊庭君を見た。
伊庭君は少し恥ずかしそうに微笑む。


「ええ。沖田君とは何かとよく試合をしていますから、動きの癖もよくわかってはいるんですよ。なのでお互いに無駄なく動けたとは思います」

「なるほどな」

「それに、平助。お前も十分優秀だったぞ」


お父様が静かに言った。


「お前は迅速な判断力に長けていた。周囲の動きをよく見て、即座に適切な行動を取っていたと聞いている」

「お、そう言って貰えるのはめっちゃ嬉しいかも」

「つまり、三人とも、それぞれ違う強みを持っているということですよ」


山南さんが穏やかに言葉を続けた。


「沖田君は剣の腕前が突出しており、相手を寄せ付けない圧倒的な攻撃力があります。伊庭君は防御と戦術のバランスがよく、状況判断に優れています。そして藤堂君は、素早い判断と機動力で、臨機応変に戦える」

『だから、この三人が選ばれたのですね』


私は静かに呟いた。
総司が強いのは知っていたけど、伊庭君や平助君もそれぞれに素晴らしい力を持っている。
そんな三人がこれから傍にいてくれるなんて、身に余る話だ。


「お前達には今後、より実戦的な訓練を受けてもらう。対象を護るための動き、戦術、あらゆる状況を想定した訓練を積んでもらうつもりだ」

「承知致しました。何に変えてもお嬢様を護れるよう尽力致します」
 

総司がお父様の言葉に対して真剣な表情で答えると、それに続いて伊庭君も頷いてくれる。


「僕もお嬢様を護るためでしたら、どんな訓練でも精一杯受けるつもりです」

「俺もどんなことがあっても、セラを傷つけさせないように努力する」


最後に平助君が拳を握りしめながら、私に微笑みを向けてくれた。
彼らの真剣な言葉に、私は胸が熱くなるのを感じた。

この人達が、私の傍で守ってくれる。
きっと、どんなときも。
それがとても嬉しくて、心が温かくなる。
そして私はこの三人に見合うような、立派な人でありたいと思った。


「頼もしいな。これからお前たちは正式にお嬢様の護衛としての役目を果たしてもらう。覚悟はいいかね」

「はい」


お父様の言葉を聞いて三人が揃って頷く姿を見て、私は改めて丁寧に頭を下げた。


『ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします』


すると総司がふっと微笑んで、私の頬を覗き込むように言った。


「そんなに改まらなくてもいいよ。僕達は元より君を護りたくてここにいるわけだしね」

「そうですよ。僕達はどんな時も君の味方です」

「いつも通り気軽に頼ってくれれば嬉しいからさ!」

『ありがとう。頼りにしてるね』


これから先、私はみんなと一緒に歩んでいける。
それが嬉しくて心から顔を綻ばせた私がいた。

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