3⭐︎

公爵家に届けられた贈り物。
すぐに黒幕の正体がわからなくとも、実行犯を捕らえれば何かしらの手がかりは得られるはずだ。
正式な指示が下るのを待っていては遅いと判断した僕は、近藤さん達の言い付けを破り独自に動くことにした。

調べると、市場で荷物を検品したのは普段担当しない若い商人だった。
声をかけると、その男はすぐに青ざめて口を割った。


「大金を積まれて、言われた通りに確認しただけだ……相手の顔も名前も知らない……!」


要するに、黒幕は人を駒扱いして、姿を決して見せなかったってわけだ。
彼の証言を頼りに向かった倉庫街では、運び屋たちが「今夜中に別の街へ移動しよう」なんて話していた。
扉を蹴破ると、奴らは慌てて武器を構えたものの、僕がそれを制するのに大した手間はかからなかった。


「指示は手紙屋から受けた。依頼人の顔は知らない」


縄で縛り上げた連中は口を揃えて言う。
でもその手紙屋の居場所を突き止めた時には、もうその男は死体になっていた。
残されていた紙片には「三度で終了」と書かれいたことを考えると、始めからあの贈り物で何か大きな危害を加えるつもりだったというより、公爵家がどのような動きをするのか観察していた可能性がある。
それかただ単にセラを苦しめたかったか。
どちらにしても、悪意ある行動に変わりないし、今後もまた何か仕掛けてくる可能性は十分にある。
僕の頭の中ではさまざまな推測が渦巻いていた。


捕らえた男たちを連れて公爵家へ戻る頃には、夜も更けていた。
城門の前に着くと、丁度見張りをしていた左之さんが驚いた表情で駆け寄ってくる。


「おいおい、こいつらはなんなんだ?」

「贈り物の件に関与していた連中だよ。しばらく地下牢に入れて、詳しく調べてもらう必要があるね」

「だがあれはまだ正式に捜査の指示が下ってなかっただろ?確か明日からだって聞いてたぜ?」

「そんな悠長なことしてたら遅いよ。第一こいつら、今夜逃げるつもりだったらしいからね。僕は近藤さんに報告しに行くから、こいつらを地下牢に連れて行ってくれる?」

「それはいいけどよ。勝手に動いたって知れたら、下手すりゃ処分がくだっちまうぜ?」

「だからってあの子に危害を加える奴を野放しにはできないじゃない。責任は僕が取るから、こいつらの拘束だけお願いしたいんだ。左之さんの権限があれば可能だよね」


左之さんは苦い顔をしていたけど、僕をしばらく見つめると「どうなってもしらねぇぞ」と盛大なため息を吐き出し、了承してくれる。
男たちを拘束して城内へと運んでいくその様子を見届けると、僕は少し息を吐いて肩を回した。

ようやく一つの区切りがついたとはいえ、やはり一歩遅かった。
大元の犯人の正体は依然として不明のままだった。
でも、このまま終わらせるつもりはない。
いつかまた動くことがあれば、僕は必ずそいつを捕える。
そう思いながら、遠くなっていく男達を睨みつけていた。


そしてその後、僕は公爵邸の執務室へと足を運んだ。
夜の帳が落ち、重厚なカーテンの隙間から差す月明かりが、机の上に置かれた書類を青白く照らしている。
近藤さんが腕を組んで座っていて、山南さんと山崎君も同席している室内はひどく静かだ。
今回の件を包み隠さず報告すれば、開口一番、近藤さんは言ってくれた。


「……本当に助かったぞ、総司」


静寂を破った近藤さんの声は、不思議と温かみを帯びていた。


「騎士団が動くより先に、ここまで辿り着いたことはさすがだ。よくやった」

「恐縮です」


素直に頭を下げはしたものの、僕の行動は確実に規約違反だ。
止められていたにも関わらず勝手に動き、結局黒幕を割り出すことは出来なかったんだから。
案の定、山崎君がいつもより鋭い視線を僕に向けながら言った。


「しかし、単独での行動は看過できません。裏通りで情報を探り、直接犯人を追うなど危険すぎます」

「大丈夫ですよ。ちゃんと考えて動きましたから」

「そういう問題ではありません」


僕は小さく肩をすくめる。
でも結局のところ、危ない橋を渡らなければ辿り着けない場所もあるから仕方ない。


「ですが、もし騎士団として大々的に動いていたら、尻尾を掴めませんでしたよ。公爵家の名を背負って動けば、足跡は大きくなりすぎます。黒幕が警戒して、証拠すら消してしまったでしょうから」

「ふむ……」


山南さんは顎に手を添え、考え込むように視線を伏せる。
穏やかな物腰のまま、柔らかい声で言葉を紡いだ。


「一体どうやって、そこまで早く犯人に辿り着いたのですか?」

「それはちょっとした賭けですよ」

「賭け、ですか?」

「公爵家への正式なルートで荷が届いた時点で、内部に協力者がいると考えました。ですが、直接内部の人間が手を汚すにはリスクが高い。だから外部の運び屋が使われていると踏んだんです」

「なるほど……」

「市場で名簿を漁り、新しく雇われた運び屋を洗いました。そこで一人の若い男に辿り着きました」

「……裏通りに出入りする者は、必ず裏の顔を持っている……ということだな」


近藤さんが一度頷き、納得したようにそう呟く。


「ええ。そして、裏通りで大金を手にすれば必ず豪遊する。酒場に出入りしているその男を見つけるのは簡単でした」

「普通なら足取りを追うだけで精一杯でしょうに。心理まで逆算し、確実に罠を仕掛けるとは……沖田君は、恐ろしい方ですね」

「まあ、犯人の思考を逆算すれば行動も見えるってことですかね」

「だがな、総司。一人で突っ走ったらいかん。何かあったらどうするつもりなんだ?」

「ですが、誰かがやってくれるなんて思っていたら、手遅れになるかもしれないじゃないですか。僕はそれが一番怖いんですよ。今回、黒幕を捕えることは出来ませんでしたけど、それでもこうして動いたことに、後悔はしていません」

「まったく……」


山崎さんが呆れたように小さくため息を漏らしたものの、それ以上小言を言うつもりはなさそうだった。


「ですが事実として、今回の功績は大きいですよ。私は素直に称賛すべきだと思います」

「ありがとうございます、山南さん。ですが結局大元の犯人は捕えることができませんでしたから、申し訳ありません」

「報告の通りであれば、黒幕の顔を見た者がいないのですから沖田さんのせいではないでしょう。むしろ迅速に行動されたことで相手へのいい牽制になったと俺は思います」

「総司のおかげで、周りに巣食っていた連中は捕らえることができたからな。これは大きいぞ。今後、送り主とて軽々しく動けまい」


低く響く声に、僕は自然と背筋を伸ばした。
近藤さんの言葉は、いつだって胸の奥にずしりと落ちる。
でも今回の件で痛感したのは、相手は正面から攻め込んでくるだけじゃないということ。
屋敷に送り込まれる一つの荷物ですら、セラの命を脅かす刃になりかねない。
だからそれを少しでも阻止できる方法を、僕は提案してみることにした。


「もしよろしければ、今後公爵邸に届く荷物についてですが、少し対策を講じてはどうかと思うんですけど」

「対策ですか、なんでしょう?」

「届く荷物は必ず門の外で検査し、簡易の検分所を設けます。そこには信頼できる騎士だけを配置し、中身を確かめた上で、送り主の身元がはっきりしているものだけを通すようにします。そして荷物の受け渡しの記録はすべて控え、誰から、いつ、どこから送られたのかを明確にしておくのが良いかと考えます」

「小さなことの積み重ねですが、それがあれば必ず怪しい影も浮かび上がるでしょう。こうした形で、セラや屋敷の安全を確実に守ることができると思います」
僕の提案を終えると、近藤さんが腕を組み、しばらく黙って考え込むように視線を下げた。

「なるほど……沖田、よく考えてあるな。門の外で検分させ、記録も残す……確かに安全性はかなり高まる」
低く響く声に、僕は少し肩の力を抜いた。

「ただな、一つ言わせてもらう。こうした管理を徹底するには、騎士たちの負担も増える。あまり無理をさせるなよ」
近藤さんは重々しくも、どこか思いやる口調で付け加えた。

「もちろんです。騎士たちにはあくまで最小限の負担で済むよう、僕が段取りを組みます」
僕は素早く答えた。

山南さんも微笑みながら頷く。


「沖田君の提案、実に理にかなっています。私も賛成です。ただ、油断は禁物です。どんなに厳重にしても、常に目を光らせていなければならないでしょう」

山崎君は少し照れくさそうに言った。
「……それでも、こうして具体的な案を出してくれるのは助かります。沖田君、頼りになりますね」

僕は軽く頭を下げる。
「ありがとうございます。もちろん、これだけで完全に安心できるわけではありません。僕自身も常に注意を怠らず、皆と連携しながら守っていきます」

近藤さんはふっと笑みを浮かべ、手をひらりと動かした。
「よし、今回はお前の提案を正式に採用しよう。こうしておけば、今後余計なトラブルも減るはずだ」

その言葉に、僕の胸の奥には少しだけ安心感が広がった。
守るべきものを確実に守れる――その手応えが、今の僕には何よりも大切だった。

……本当は、セラにそんな心配をさせないように、すべて僕が先に潰してしまいたい。
そのための仕組みを作ることが、今の僕にできる最善だ。


「総司、今回の件は確かに危うい橋を渡ったが、結果として領内の治安は守られた。褒美をとらせよう」

「褒美、ですか?」

「そうだ。何が欲しいか、遠慮せず言ってみてくれ」


近藤さんはしばし黙し、やがてふっと口元を緩めた。
父親のような、優しい笑みだった


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