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あれから季節が過ぎて、再び春を迎えようとしている頃。
私は図書室に差し込む光に瞳を細め、本を両手に抱えながら一人歩いていた。

気付けば総司と出会ってから二年以上が経ち、思い返してみても色々な思い出が蘇る。
いつからか庭園で待ち合わせて話すことが日課になった私達は、会える少しの時間を積み重ねて沢山の話をしてきた。
総司の前では飾らない自分でいられるから、彼と過ごす時間が心地良かったし、総司も変わらず私の隣で優しく笑ってくれる。
それが何より幸せで、総司を想う気持ちは前よりも更に強くなっていった。

そして総司は任務での功績を称えられ、騎士の階級が第一級へと昇格した。
専属騎士に必要な条件をこの短い年月で達成した騎士は異例らしく、お父様も彼の努力を買って総司のことを可愛がっているらしい。
今では総司がいない以前までの生活が信じられない程、私の中での彼の存在は大きくなっていた。


「セラ」


図書室から出て階段の踊り場を歩いていると、任務から戻ってきただろう総司が階段の下で私を見上げて微笑んでいる。
出会った頃より更に背が伸びた総司は、今では立ち振る舞いも洗練されて以前よりもっと素敵な騎士になった。


『総司、お疲れ様』


総司に会えるとその日一日は明るく色付くから、自然と私の足は彼に向かって小走りになる。
気品は常に大切に、立ち振舞いは淑女の嗜み。
そうわかっていても、少しでも早く総司の傍に行きたかった。


『今日ね、お父様が……』


総司に話があるから一緒に食事をしようというお父様の言葉を総司に伝えようと口を開く。
でも新しい靴の尖った先端が階段の絨毯に引っ掛かり、私の身体は急に前のめりになった。


『あっ……』


ふわりと浮いた身体は完全に階段の下に落下することを教えていた。
目を見開いた総司の顔を見てすぐ反射的に目をきつく瞑ってしまったけど、包まれた身体は痛みもないまま床に倒れていた。


『……っ……、ごめ……』


総司を下敷きにして倒れていた私は、彼の腕にしっかり包まれていたから痛くなくて当然だ。
その分総司の身体に負担をかけてしまったことに申し訳なく思いながら顔を上げたけど、総司は目を閉じたまま動かなかった。


『総司……?総司っ……』


頭を強く打ったのかもしれない。
それとも首の骨だったらどうしよう。
そんな不安から総司の肩に触れた私の手が震える。


『総司、やだよっ……目を開けてっ、死なないで……』


早く人を呼んでこないとと思った時、総司の瞳はぱちりと開かれる。
意地悪そうに微笑み私を見上げる顔を見て、直ぐに嘘だと分かった。


「僕がこんなことで死ぬと思う?」

『びっくりした……総司に何かあったらどうしようかと思った……』

「はは、涙目になってるけど」

『もう……こういう冗談はやめて』

「ごめんごめん。なんかセラを見てると、ついからかいたくなるんだよね」


総司曰く、私のことは護ってあげたいけどいじめたくもなるらしい。
意地悪紛いのことをされるのは日常茶飯事だから、もう慣れた。
でも今回のは心臓に悪かったから、思わずほっと息を吐き出した私がいる。


「それよりいつまで僕の上に乗ってるつもり?」

『あ、ごめん』

「そんなに僕の上は居心地がいいの?」

『そんなこと思ってません』


まさか総司の上に乗ったままだとは思わなくて、慌てて彼から身体を離す。
立ち上がってドレスを払った私の横、総司もやれやれという様子で腰を起こした。


『助けてくれてありがとう』

「気をつけなよね。この階段は長いし段差も結構あるから、落ちたら真っ逆様で危ないよ」

『うん。なんか絨毯に靴が引っかかっちゃったの』

「本当?危ないね、ここらへんだっけ」


そう言って私が転んだところ付近まで階段を登った総司は、しゃがみ込むと絨毯を念入りに調べている。


「あ、ここだ。絨毯が少し古くなって弛んでるね。直さないと危ないから、後で山南さんにでも僕が報告しておくよ」

『ありがとう……』


いつからだろう。
総司はとても真面目になったと思う。
以前から剣術や任務においては真面目で努力家だったけど、最近は日頃の生活においてもそれがよく垣間見えるようになった。
やっぱり騎士の階級が上がると意識も変わるのか、問題も何一つ起こしていない。
あるとすれば、たまに可愛い悪戯をすることくらいだけど、そんなところも好きだった。


「それで、さっき何か言い掛けてなかった?」

『あ、うん。あのね、お父様が今日の夕食に総司を招待したいから声を掛けておいてくれって仰ってたの。何か話があるみたい』

「話?なんだろう、怖いな」

『大丈夫だよ、お父様はにこにこしてたし悪い話ではなさそうだよ?』

「それなら良いんだけど。近藤さんのことは大好きだから、嫌われたくないんだよね」


お父様も総司を可愛いがっているけど、総司もお父様のことは慕っているらしい。
お父様に会えると満面の笑みになるし、お父様の前だとより模範的な騎士になる。
私とお父様、どちらの方が好きなの?
なんて……恥ずかしくて聞けないけど。
思わず聞いてみたくなるくらい二人は良い関係を築いているようだった。


『お父様は総司のこと凄く可愛いみたいだよ、総司みたいな息子が欲しかったんだって』

「近藤さんの息子か、それもいいね。なろうかな」

『ふふ、お父様にお願いしてみたら?』

「そうしたら完全に君は僕の妹になるね」


ぐりぐりと頭を撫でられて、やっぱりそれは嫌だと思う私がいる。
兄妹になってしまったら、好きでいることすら許されなくなる気がしたからだ。


『総司がお兄様になるのはちょっと……』

「なに、嫌なの?こんなに妹想いのお兄さんはいないと思うけど」

『でも今更総司のことをお兄様なんて思えないよ』

「そう?あ、そうだ。試しに呼んでみてよ」

『何を?』

「お兄様って」

『え、嫌……』

「いいでしょ、一回くらい」


全然呼びたくないのに、総司は早くと急かしてくる。
こういう少し子供っぽいところは変わっていなくて、思わず笑ってしまった。
そんなに呼んで欲しいなら今だけは妹に成り切ろうと、総司をお兄様だと思うことに決めた。


『総司お兄様、私と一緒に庭園に行きませんか?』

「はは、庭園行きたいの?」

『はい、お兄様と話したいことが沢山あるんです』


庭園に行って話したいのは本当だけど、総司の腕を少し引っ張ってみても動いてくれない。


『お兄様?早く行こう?』

「嫌がってたわりに随分乗り気でやってくれるね」

『総司が喜ぶかなって思って』

「そうだね。可愛い過ぎるかな」


総司の言う可愛いは、本当に妹みたいに可愛いらしいって意味なんだろうから、これ以上妹感を出したくなくて総司の腕からぱっと離れる。


『兄妹ごっこはこれでお終いにする』

「えー残念」

『庭園、行かない?』


たとえば、私がもう少し頼りなくなければ。
もう少し背が高くて大人びていたら。
総司は私を妹扱いしなかったのではないかと考える私がいる。
私は私以外にはなれないからこんなことを考えても意味はないのに、おかしな話だ。

それに総司が私をどう思っていても、私が総司を好きな気持ちは変えられないから私はただこの気持ちを大切にすればいい。
きっと神様が良い方へ導いて下さると考えて、後ろ向きに考えるのはやめようと思う私がいた。

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