5

優しく唇が重なり、舌先が触れると甘い痺れが身体中を広がっていく。
ドキドキするのに心地良くて、総司の温かい手に肩を撫でられると、身体がぴくんと揺れた。


「嫌だったらちゃんと教えて」


耳元で言われた言葉にぞくりと身体が湧き立って、私は瞳をぎゅっと瞑る。
ナイトドレスや上半身を覆っていた下着が脱がされれば、恥ずかしさから総司の顔を見られなくなった。


「セラ、可愛いよ」


沢山可愛いと言ってくれたこの前の夜を思い出し、余計に顔には熱が集まってきてしまう。
今の総司はお酒に酔っている時より意識がはっきりしていると思うと、前回以上に恥ずかしく感じられた。


『恥ずかしいからあんまり見ないでね』

「どうして?セラの全部、見せてよ」


胸の前で交差していた腕は総司に手首を掴まれ、シーツの上に優しく押さえつけられる。
胸の膨らみは総司の前に晒されてしまうから、私は恥ずかしさから下唇を噛み締めた。


「凄く綺麗だよ」


総司の顔が近付いてきて、優しいキスが繰り返されると、少しだけ心音が落ち着いてくる。
でも総司の唇が離れ、彼の髪が顎付近に触れて擽ったさを感じた時、胸の先端には甘い刺激が与えられた。


『……んっ……』


総司の口の中に含まれた先端が柔らかい舌に撫でられると、身体が思わず震えてしまう。
舌先で転がされる感覚が気持ち良くて、お腹の奥が疼くようなもどかしさ広がった。


『……や……あ……』


総司の温かい二つの手は、それぞれ私の胸の形を変え、繰り返し甘い刺激を与えてくる。
お腹の奥の方が熱くなって、私が私でなくなってしまいそうだった。


「セラの声って可愛いよね」

『……え?』

「もっと聞かせて」


耳元でそう囁かれた後、総司の唇が優しく耳たぶを挟む。
熱い舌が優しく耳を這えば、身体はビクッと揺れて総司の肩を思わず掴んでいた。


『あ、や……ぁ……やめ……』

「耳弱いもんね」

『ん……ん、……あっ……』

「……可愛い……」


耳元で囁かれるだけでも身体がぞくぞくしてしまうのに、総司の舌は優しく耳を遊び、指先は胸の先端を幾度も刺激する。
その度に身体の奥が疼いて苦しくて、私は腰を動かしながらこの熱をどうにか逃がそうとしていた。


「……苦しいの?」

『……うん、少し……』

「じゃあこっちも気持ち良くしてあげるね」


この後何をするのかは、この前の夜のことがあるから少しはわかってる。
改めて恥ずかしくなったけど、私は総司に触って欲しいみたい。
されるがままになっていると、総司は私の下半身を覆う下着を脱がせて、そっと脚を開かせた。


『……や、見ないで……』

「なんで?僕には全部見せてよ」


総司の視線がどこに向いているのかはわかってしまうから、恥ずかしくて堪らない。
思わず脚が少し閉じかかったけど、総司はそれを阻止して脚を開かせると、熱い舌先を敏感な部分にそっと滑らせた。


『……あっ……やぁ、総司……』


嫌だと思っても、くちゅりという音と共に優しく刺激されればあまりの気持ち良さに頭がクラクラして何も考えられなくなってしまう。
脚の力は抜けて身体は溶けて、ただ息を吸い込むことしかできない。


『あ、あっ……や……ぁ……』

「はあ……セラっ……」


総司の様子が興奮しているようにも見えて、恥ずかしさからも奥歯を噛み締める。
でもこの感覚に呑まれているのは私自身も同じ。
唇から漏れてしまう甘い声は、自分のものではないみたいだった。


『……ぁ、あ……あっ……』

「……ここ、気持ちいいの?」

『……ん……気持ち……』


上下に擦ったり左右に揺さぶる舌の器用な動きに腰は僅かに浮き、迫ってくる熱から逃げようとしてしまう。
でも総司はそんな私を引き寄せるなり、唇や舌全体で深く味わうようにそこを刺激し始めた。


『や……っあ……、だ……め……』

「ん……ふ……」

『……ぁあっ……そ……じ……あっ……』


この前と同じ大きな波が迫ってきて、息もうまく吸えなくなってくる。
総司から与えられる感覚だけが身体中に広がって、それと同時に総司の舌先が熱く敏感なところに絡められれば、私の中の熱は思い切り弾けた。


『……や、……ああっ……』


甘く痺れるような気持ち良さに頭が真っ白になった。
その瞬間だけは恥ずかしさも何もかも忘れて、ただこの感覚に身を委ねてしまっていた。


『……あ……はあ……』

「セラ、可愛い……」


総司は私の額にキスを落とすと、今度は唇にもそれは重ねられる。
幾度となく舌が絡められれば、先程の余韻と相成って何も考えられなくなった。
そっと抱きしめられた身体は総司の腕の中で横向きに寝かされて、後ろから伸ばされた腕は優しく私の身体を包んでくれていた。


「気持ち良かった?」


甘い声が耳元で聞こえて、ぴくりと身体が揺れる。


『うん……』

「良かった。もっと気持ち良くしてあげる」


そんな総司の声をどこか遠くで聞いていると、総司の腕は後ろから私の左脚を少しばかり持ち上げる。
そして腹部に回された総司の右手が、再び私の下半身へとのばされていた。


『あ……』

「セラ、力抜いてて」


総司の唇が耳に触れ思わず目をきつく瞑った時、何かが私の中へゆっくりと入ってくる。
それが総司の指だとわかって、私はまた目を見開いた。


『……え……、あ……やあ……』

「……ん……セラの中……熱い……」

『……んんっ……総司……』


総司の長い指が私の中でゆっくり輸送を繰り返す。
言いようのない感覚に熱い吐息が漏れて、私は目の前のシーツをきつく握った。


『や……あ、それ……』

「……セラ、痛くない?大丈夫?」

『……う……ん……、で……も……』

「僕に身体預けてくれて嬉しいよ。大好きだからね」


優しくて甘い言葉に心ごと溶かされて、ただ総司から与えられる感覚に溺れることしか出来なくなってくる。
最初は違和感しかなかったその場所も、総司の指の腹が中を撫でる度に段々と熱を高めていった。


「……すごい濡れてる。気持ちいいの?」

『あ……気持ち……いい……』

「じゃあ中もいっぱい擦ってあげるね」

『……あっ……』


控えめな総司の動きが少し変わり、今度は二本の指がゆっくり沈められていった。


「……大丈夫?」

『あ……やだ、総司……』

「ん?」

『ゆび……が……』

「セラの中、僕の指を凄い締め付けてくるよ」

『ああっ……』


擦られるだけでも気持ちいいのに、お腹側を指で押すように撫でられるともっと甘く痺れるような感覚が広がっていく。


「ここ、気持ちいいんだね」

『……ちが……』

「違うの?これも?」

『あっ、……それ、やあ……』


ぐちゅぐちゅと耳を塞ぎたくなるような音が部屋に響いて、私をより恥ずかしくさせる。
優しく、でも執拗に抜き差しが繰り返えされれば指先は震えて、堪えきれずに自分の人差し指を噛んだ。


「……セラ、可愛い……」

『……ふ……ぅぅ……』

「……そんなに気持ちいい?」

『あ……んんっ……』

「僕にこうされるの、すき?」


総司は私を見下ろしながら、甘い言葉をかけてくる。
うまく返事もできないまま頷くことだけすれば、総司がくすりと笑った気がした。


『あ……やぁ、そ……じ……』

「まさか……セラのこんな可愛い姿、見せてもらえるなんて思ってもみなかったよ。本当……堪らなくなる」

『……あ……待っ……』

「ほら、もっと気持ち良くなって。我慢しなくていいよ」


恥ずかしくて声を押し殺してばかりいた私の唇に総司の唇が重ねられる。
ぐちゅぐちゅという音が聞こえる部屋の中、総司の舌先と触れ合う感覚に余計感情が昂っていくようだった。
息もうまく吸えなくて苦しくて、でもお腹の奥はどんどん熱く何かが込み上げてくる。
その感覚が怖くもあったけど、総司の指に追い上げられてしまえばその快楽に逆らうことはできなかった。


『あ、あ……だめ……あっ……』

「……セラ……僕のこと考えながらイッて」

『総司……ああっ……あっ……』


ずっとずっと総司のことだけ考えてるよ。
今も私を優しく見つめる総司を見れば、胸はドキドキして収まることを知らない。
大好きな人にこうして愛されているんだと実感したら、一気に快楽が押し寄せてくるようだった。


『あ、もうっ……ぁっ……ああ……』


びくんと身体は揺れてお腹の奥がとてつもない気持ち良さに襲われる。
達してしまった身体は総司の指を締め付けることをやめられなくて、肩で息する私を総司は優しく抱きしめてくれた。


「セラ……、好きだよ」

『……総司……』

「身体無理させられないし、今日はここまでにしておこうかな」


ぼんやりとしていた私を見てくすりと笑うと、総司は私にコンフォーターをそっとかけてくれる。
幸せな気持ちで総司の腕の中で温もりを心地良く感じていたけど、私はふと大切なことに気が付いた。


『あの、私は……?』

「え?」

『私……まだ総司に何もしてあげられてないよ。私も……するよ?』


私一人で気持ち良くなってしまっただけで、総司に何一つしてあげられていない。
私に触れる度、時折見せる辛そうに顔を歪めた総司の表情を思い出したからこそ、告げた言葉だった。


「ははっ、するって何をしてくれるの?」

『それは……わからないけど……総司が気持ちいいと思えることするよ?』


知識不足の自分が情けなくなりながらもそう言うと、総司は苦笑いをして私の髪を撫でた。


「そんな必要はないよ。別に君に何かして欲しいわけじゃないしね」

『でも、私は総司に何かしたいよ』

「今はその気持ちだけで十分かな。それに僕はセラが僕に身を預けてくれて、気持ち良さそうに可愛く喘いでくれたから大満足だし」

『そんな……恥ずかしくなる言い方しないで……』

「えー?どうして?凄く可愛かったのに」


私はさっきどうかしていたのかもしれない。
あんな……何も身につけていない状態で総司にあんなことを……


『うう……』

「ははっ、耳まで真っ赤」

『今は見ないで……』


顔を両手で隠していたけど、耳はどうしても隠せない。
居た堪れない気持ちになっていると、総司が私の手首を掴んで顔を覗き込んでくるから、微笑む総司を目の前に私の目は見開かれた。


『やだよ……見ないでって言ってるのに……』

「見たいんだよ。僕はセラのそういう顔、大好きだからさ」

『総司は意地悪だよ……』

「うん、知ってる」


総司はそう言ってにやりと意地悪そうな笑顔を向けるけど、私は総司がとても優しい人だということを知っている。
たまに意地悪だけど本当はとても優しくて、私の心まで護ろうとしてくれる私の世界一大好きな人だ。


『やっぱり私も総司に何かするよ?』

「あ、そう?そんなに言うならしてもらおうかな」

『うん、どうすれば……いいのかな?』

「そうだね。じゃあまずは僕が触りやすいようにっと……」

『え?……なに?触りやすいって……』


一瞬、何のことか理解できずにぽかんとしていると、総司は私を見下ろしながらすぐに笑いを堪えるように言葉を続けた。


「うん。例えばね、こうして……」


そう言いながら、私の前髪をそっと撫でて、指先で耳のあたりに流す。


「髪をよけておいてもらえると、頬に触りやすくなるんだよね」

『え、あ……』

「あと、こうやって少し顔を上げてもらうと……」


総司は私の顎にそっと指を添えて、そのままふわりと持ち上げる。
そして触れるだけの軽いキスが、そっと私に落とされた。


「ね、キスもしやすいでしょ?それから……」


総司の口の端が少しにやりと上がった気がして眉を顰めると、総司は私の脇腹を撫でて、コンフォーターの下で私の片脚を掴んで開かせた。


『やっ……』

「脚は広げておいてもらえると、セラを気持ち良くしてあげやすいかな」

『や、やだよ……離してっ……』


恥ずかしさから総司の肩を押すと、脚は離して貰えたけど総司は悪びれた様子もなくにこにこしている。


『もう、何するの?』

「君が僕のために何かするって言ってくれたから、どうしようかなって考えてあげてるだけだけど?」

『それって私がしてあげる側になる筈なのに、逆に総司にされる側になっちゃってるよ』

「うん、だってそうなってもらうための導線なんだから当然じゃない」


もう……
総司はいつもこうして悪戯に微笑みながら、私のことをからかってくる。
出会った頃からそうだったけど、そんな些細なことも今では大切な思い出だ。


『私は真剣に総司に何かしたいって思ってるのに……』

「セラは何もしなくていいよ。自分の欲を果たすために君にそんなことをさせたら、僕は多分自分が嫌いになっちゃいそうだし」

『どうして?』

「好きだから君に触りたくはなるけど、今は本当にそれで満足なんだよね。大切なことを形にする前に君にこれ以上求めてしまったら、それは僕の中の理想とは違うんだ」


総司が私を大切に想ってくれることが嬉しかった。
それと同時に何もしてあげられないままの自分に少し複雑な心情になった。
でも総司はきっと私がそう考えていることにも気付いたんだろう、また少しからかうような笑みを浮かべて言った。


「そんな顔しなくても大丈夫だよ。君の隣に立てるって胸を張って言えるようになったら、その時は目一杯相手してもらうから」

『え?』

「その時は、君が泣いても嫌がっても、もう止めてあげられないかもしれないけど、それは覚悟しておいてよ」

『覚悟……?』

「当分は寝不足になるかもね。でも毎晩したい放題だと思ったら楽しみだな。結婚したらたくさん気持ちいいことしようね」

『毎晩……』


思わず間の抜けた声が漏れてしまったのは、総司があまりに真面目な顔で、とんでもないことを言うからだ。
けれどその目はどこか冗談めいていて、ほんの少しだけ口元がいたずらっぽく緩んでいる。


「なに驚いてるの?結婚したら夫婦なんだし、当然の権利だよね?」

『権利って……そういう話じゃないと思うけど……』

「でもさ、毎晩ってことはセラも僕のことを忘れる暇がないってことでしょ?それって凄く安心できるな」

『そんな安心の仕方ってあるの?』


顔が熱くなって視線を泳がせてしまうと、総司はくすっと笑って、また優しい声で言った。


「まあだから、今はたまに触らせて貰えるだけで十分幸せってこと。君がさっき、可愛い顔で僕の名前を呼んでくれたのとか、もう忘れられないし」

『や、やだよ……そういうのは忘れて』

「それは無理かな。全部可愛かったから、ちゃんと全部僕の宝物にするもりだしね」

『宝物とか……そんな言い方……』

「でも今ひとつだけ困ってることがあってセラのあんな可愛い姿を見ちゃったせいで、すぐにまた触りたくなっちゃうんだ。僕、君に関してだけは我慢強くないんだよね」


そう言いながら総司は優しく私の頬を撫でる。
私は総司を凝視したまま何も話せなくなってしまって、そんな私を見て総司は途端に吹き出した。


「あっはは、凄い固まってる。そんなに警戒されると傷付くな」

『もしかして、また私をからかったの?』

「んー?どうかな、半分冗談で半分本気って感じかな」


飄々と言ってのける総司を睨んでみたけど、総司は嬉しそうに笑っている。
私も結局つられて笑い、総司の胸に頬を擦り寄せた。


「でもね、さっき君が僕のために何かしたいって言ってくれて僕は嬉しかったよ。そう思ってくれること自体がもうご褒美みたいなものだからさ」

『ご褒美になるの?』

「そうだよ。僕は出会ってから今日まで、君からのご褒美が欲しくて君に優しくしてきたんだから」

『ふふ、それだとまるで見返りを求めて優しくしてたみたい』

「強ち否定はできないかな。だって君が笑ってくれると嬉しかったからね。それに僕は君に好かれたくて堪らなかったんだ。こんなことを言った格好悪いけど、君の一番になりたくてずっと必死だったんだよね」


知らなかった。
総司が出会ったばかりの頃から、そんな風に私のことを考えてくれていたこと。
でも今の話を聞いてようやく全部が繋がった気がした。

総司が自分の身体を顧みずに、夜中まで一人で剣を振っていたこと。
血の滲むような稽古を、誰にも見せずに黙々と続けていたこと。
いつも体調を崩すギリギリまで無理をして、何もなかったように振る舞っていたこと。

私がその理由を何も知らずにいたその隣で、総司はずっと命を懸けるようにして強くなろうとしてくれていた。
どんなに傷を負っても、どんなに辛くても、私のために……ただ、それだけの理由で。

昔から私を護るために、何度も前に出て危険を遠ざけてくれてたよね。
そしてそのたびに笑って「大丈夫だよ」って言ってくれた。
さりげなく肩に羽織るものを掛けてくれたり、人混みから庇って歩いてくれたり。
ひとつひとつがあまりに自然で、私はそれを優しさとしか思っていなかったけど……全部、私のことが好きだから、そうしてくれていたんだ。


『私、総司が出会った頃からそんな風に思ってくれてたなんて全然知らなくて……』

「知らなくて当然だよ。ここに来たばかりの頃は気付かれないように気をつけてたしね」


胸がいっぱいになって、こらえきれずに涙が溢れた。
目の奥が熱くて、泣きたいわけじゃないのに嬉しくて。
どうしよう、この気持ち……うまく言葉にできない。


「セラ、泣かないで」


温かい手が今日も私の涙を拭ってくれる。
翡翠色の瞳が優しく細められ、総司に見守ってもらってきたこの数年間を思い出した。

総司は何度私の涙を拭ってくれたんだろう。
他の人の前ではあまり泣かない私が、こうして総司の前だけでは涙を溢してしまうのは、きっと私が知らず知らずのうちに総司の優しさに沢山甘えさせてもらっていたからだと気付いた。

だからこれからは私も総司を護れる人になりたい。
総司の心も幸せも全部。


『ありがとう。総司の気持ち、とっても嬉しいよ。全部ちゃんと届いてるからね』

「うん、わかってるよ」

『私、総司が一番大好き。世界で一番、本当に大好きだよ』


精一杯の真心を込めた気持ちが総司に届いて欲しい。
そんな気持ちで告げた言葉を聞いて、総司は僅かに頬を染めると嬉しそうに笑ってくれた。


「ありがと。でも、僕の方が君のこと好きだけどね」

『ううん。絶対、私の方が好き』

「なんでさ。僕の方が先に君を好きになったんだから僕だよ」

『私だって結構最初の段階で総司のこと気になってたよ』

「気になってたレベルでしょ?その程度じゃ全然話にならないな、僕は君を護るためなら死んだっていいって思ってたし」

『私だって、総司に何かあるくらいなら自分が死んだ方がいいって思ってたよ』


お互い譲らずそんな言い合いをしていたけど、目が合って思わず二人して笑ってしまった。


「この試合は持ち越しね」


笑った総司の横顔が、今まで見たどの表情よりも柔らかくて愛おしくて、私の胸の奥が熱くなった。


『持ち越しでもいいけど、私は絶対負けないからね』


そう言いながら、私は総司の肩に頭を預ける。
心臓の鼓動がゆっくりと落ち着いていくのに、心の中には優しい気持ちが広がって、その余韻に包まれたままずっとこうしていたいと願った。


「じゃあ、次はどうやって勝負しようか?」


総司が小さく笑いながら、私の髪に指を通す。
その動きが心地よくて、私はくすぐったそうに身を縮めた。


『えっと次は、優しさ勝負とか?』

「それなら僕、負ける気がしないんだけど」

『えー?私は結構本気で優しいつもりだけど?』

「僕の方が君に優しいよ、きっと」

『じゃあ今少し寒いのに、どうしてぎゅっとしてくれないの?』


総司を見上げてそう言ってみれば、総司は少し驚いたように目を丸くしてから、くすっと笑って温かい腕で私を抱きしめてくれた。


「温めて差し上げますよ、お嬢様」


おでこがこつんとぶつけられて目を瞬いた私に、総司は不意打ちのキスをする。
いきなりのことに息は一度止まってしまったけど、すぐに瞳は閉じられその温もりを受け止めていた。

この時間を、これからも大切に守っていきたい。
たとえ未来がどうあっても、たとえどんな運命が待っていたとしても、私はこの人の隣にいたい。
心から、そう思った夜だった。

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