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それは僕が騎士団の任務にもだいぶ慣れてきたとある日の午後。
午前中の任務を終えた僕が稽古場に向かえば、いつもより団員達は騒がしく、ああでもないこうでもないと話をしている。
何かと思いながら、人が集まる方向に歩いて行くと、山南さんが若干の呆れ顔でいつものため息を吐き出していた。


「山南さん、こんにちは。ここにいらっしゃるなんて珍しいですね」

「こんにちは、沖田君。騎士団での任務にはもう慣れましたか?」

「はい、お陰様で。今日は午前中に任務があったので、今帰ってきたところなんですよね」

「そうだったんですか。ではこの後引き続き任務が入ると流石に厳しいでしょうね。残念ですが他の人にお願いしましょうか」

「僕に何か任務が入る予定だったんですか?」

「ええ。四人程、引き受けて頂ける方を探しています。急でしたので人数が集まるか心配してたのですが、あの有様でして……」


山南さんの視線の先、騎士団の面々が何やらじゃんけんで争っている。
恐らく負けた団員が任務に就くことになるんだろう。
山南さんがため息を吐くのも納得する光景だ。


「いいですよ、僕が引き受けますよ」

「本当ですか、沖田君。とても助かります、君は話に聞いていた通りとても真面目で頑張り屋ですね」

「いえ、別に普通ですけどね。ただ少しでも早く強くなりたいんで、出来ることはしたいだけです」


任務で功績を上げれば、その分騎士階級が早く上がると聞く。
普通の任務では中々飛び抜けた活躍をする機会がないからこそ、多くの任務に参加をしてその分功績を上げる機会を増やしたかった。


「いよっしゃあ!俺の勝ちー」

「僕も勝ちましたよ」

「俺も勝ったぜい!」


じゃんけんの勝敗が決まったのか、平助と伊庭君、新八さんはこちらへとやってくる。
負けた団員が任務を引き受けると思っていただけに予想外だったけど、細かいことはどうでもいいか。


「では今日はこの皆さんで任務遂行をお願いしますね」

「あれ?沖田君も同行されるのですか?」

「沖田君には私から直々にお願いしたのですよ」

「えー、それ狡いじゃん。俺達せっかく勝ち上がったのにさ」

「勝ち上がったもなにも、たかだかじゃんけんじゃない」

「まあまあいいじゃねぇか!五人で楽しく出掛けようぜ!」

「永倉君、楽しくお出掛け気分では困りますよ。任務ということを忘れないで下さいね」


結局何をするんだか分からないまま、山南さんに連れられて城の外門へと歩いて行く。
するとそこには大きくて立派な公爵家の馬車と侍女が数人。
そしてその中心にはいつもより着飾ったセラがいた。


「お嬢様、今日もとっても可愛いらしいので私は心配です。気をつけてお出掛けなさって下さいね」

『ありがとう。気をつけて行ってまいりま……』

「あ、お嬢様!折角のおリボンが曲がっておりますよ」

「お嬢様、こちらの髪留めもお直しさせていただきますね」

「まあ、可愛い。こちら、喉が渇いた時は是非お飲みください。お嬢様の大好きなアップルティーですよ」


セラは侍女四人の真ん中で、やたらちやほされている。
大人しくされるがままになっている彼女の様子に思わず笑ってしまえば、アイスブルーの丸い瞳が僕の姿をとらえた。


『あれ?総司』

「出掛ける前は準備が大変そうだね」

『どうしてここにいるの?』

「沖田君にも護衛をお願いしたのですよ。彼がいるとお嬢様も心強いかと思いまして」


笑顔でそう言った山南さんの言葉を聞いて、ようやく任務の内容を知る。
何も知らずに引き受けたけど、思いがけなく舞い込んだこの仕事は僕が待ち望んでいたセラの護衛任務だったようだ。


『わあ、総司が来てくれるの?嬉しい』


素直過ぎるその言葉を聞いて、いつもの如く若干返答に困るけど、そんな僕に山南さんは満面の笑みで話し掛けてきた。


「だそうですよ。喜んで頂けて良かったですね、沖田君」

「まあ、嫌がられるよりかは良いですけどね」

「なあ、俺達もいること忘れないでくれよ」


少し不服そうに平助が言うと、セラが他の三人にも目を向ける。
いまだに侍女達に弄られていて大変そうだけど、その姿は確かに彼女達が夢中になるだけのことはあった。


『騎士の皆様、今日はお忙しい中、私の為にお時間を割いて頂きありがとうございます。宜しくお願いします』


スカートを翻して会釈する姿は様になっていて、改めてこの子がここ一帯を領地として持つ公爵家のご令嬢だということを認識させられる。
普段は普通の女の子と変わらない素振りをしているけど、一歩外に出るとこの子は立派な公女様で、少し前の僕なら決して言葉を交わすことも許されない相手だということに気付かされた。


「では、気をつけて行ってらして下さい。君達も前回と同じようなことは起きないよう、しっかりお嬢様をお護りして下さいね」


前回の誘拐事件では、お金で買収された侍女の策略により、この子は護衛をつけずに街に出掛けるはめになったわけだけど。
本来ならば城の外では、護衛をつけるのは当たり前。
だからこそ、こうして今回の任務が舞い込んできたというわけだ。

僕達は山南さんに挨拶をして馬車へと乗り込むと、暫く馬車に揺られ、この近辺で一番栄えている都市を目指した。
そこは僕が窃盗を繰り返していた街とはまた逆の位置にあり、少し遠くから目にしたその明るい街の光景には思わず目を見開いた。


「今日はこの街で買い物するんだろ?セラちゃんは何を買う予定なんだ?」

『まだ決まってないんです。一つ贈り物をしたくて、それを今日探す予定でいます』

「贈り物ですか。それはどなたに渡す予定の物なんですか?」

『いつもご指導して下さっているヴァイオリンの先生に。もう直ぐ誕生日なので、何かお渡したくて』

「なあなあ、それって男の先生?」

『ううん、女性の先生だよ』


馬車の中、ずっとこんな調子で質問ばかりされているセラは若干大変そうに見える。
終始微笑んでるからこの子は気にしていないのだろうけど、僕だったら質問攻めに合うのは嫌だからね。
そんな理由から黙ったまま馬車から外を見ていたけど、ようやくお目当ての街まで到着したらしい。
馬車が止まると伊庭君は真っ先に降りて、セラをエスコートするためその手を彼女に伸ばした。


「足元気を付けて下さいね」

『ありがとう、伊庭君』


あーあ、今日は幸運が舞い込んできたと思っていたけど、よく考えたら他の連中に微笑むこの子をずっと傍で眺めていなければならないんだから、正直言って面白くない。
仕方ないこととは言え、身勝手な独占欲はなくなってはくれないから、そっとため息を吐き出した。

こうも人数が多いとセラとは二人で話せないだろうし、最重要事項は護衛であって、ただの付き添いとはわけが違う。
ちょっとした隙が命取りにならないよう気を引き締めた僕は、周囲を警戒しながら皆の傍を黙って歩いて行った。


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