7

研修を全て終え最終試験に合格した僕は、指示されていた通り王太子の部屋へと足を運んだ。
この場所は以前の世界で、セラと一切の関わりを断つよう誓約書を出された場所でもある。
理不尽な命令にただ従うしかなかった以前の自分を思い出しながら、僕はこの世界でもまた王太子の前に立っていた。


「さすがだよ、沖田。こんなに早く研修を終えるなんて期待以上だ」


この世界の王太子が実際のところ僕をどう思っているのか、いまだによくわからない。
敵に回せばセラと引き離されるのは目に見えているから、敢えて忠誠を尽くしているかのように見せかけて微笑んでいた。


「ありがとうございます。折角殿下に頂いた好機ですから、僕なりに精一杯取り組みましたよ」

「途中経過や最終試験の結果も確認させてもらったけど、素晴らしい成績だね。さすが俺が見込んだだけのことはある」

「そう言っていただけると励みになります。これでようやくセラの護衛に戻れると思うと、少し安心できますよ」


正直この数週間は気が気でなかった。
セラの護衛役があの男だと知ってからは余計に。
王宮の人間を誰一人として信用していない僕からすれば、近衛騎士だろうがセラに近づかせたくはない。
この悶々とした想いも今日で終わりだと思えば、今夜からは少し安らかに眠れそうだった。

けれど僕の言葉を聞いた王太子は、何故か一度押し黙る。
その態度に嫌な予感はしたものの、僕は黙ったまま言葉を待った。


「そのことなんだけどね、沖田。実はセラの護衛を担当している騎士が先日俺のところに訪ねてきてさ。セラの護衛を引き続き自分に任せてもらいたいと言ってきたんだ」


ああ……やっぱり、そうなったか。
セトの態度や言葉の端々、それに王女がわざわざ仕掛けてくる相手だということからして、ろくでもない展開になるんじゃないかと薄々は感じてた。
でもそれを、はいそうですかと素直に受け入れるほど、僕は従順でもお人好しでもない。
ましてやそんな展開、最初の約束とまるで違う。
僕は苛立ちを抑えながらも、低い声で言葉を絞り出した。


「ですが僕は、セラの近衛になるためにここへ来たんです。気まぐれでそんな要求をされても困りますよ」

「確かに沖田の言う通りだ。それにセラもお前が近衛になるのを心待ちにしてるだろうしね」

「でしたら予定通り、僕がセラの近衛騎士に就くということで問題ないですよね?」


そう言い切る僕を、王太子は少しの間じっと見つめた後、肩をすくめるようにして微笑んだ。


「俺は構わないよ。ただ千鶴がどうしてもその騎士の実力を見てから決めたいって、聞かないんだ」


あの王女ならいかにも言いそうな台詞だと思った。
本心はどうせ、僕たちに嫌がらせをしてその様子を見て楽しむことが目的だろう。
この世界でもあいつの娯楽道具にされるのは御免だと、僕は拳を強く握っていた。


「俺と千鶴の近衛は、自分たちで選べって父上から言われていてね。この王宮では正式に実力で役職を勝ち取るのが通例なんだ。試合をして勝った者が望む役職を手にするルールなんだけど、沖田さえ良ければ、一度その形式で競ってみるのはどう?」

「……つまり、勝った方がセラの近衛になる、ということですか?」

「そうだね。それにお前の実力を周囲に知らしめるには、ちょうどいい機会にもなるんじゃない?もちろん、気が進まないなら断ってもらって構わないよ。その場合、俺の方から千鶴にうまく話しておく」


王太子はまるで僕の気持ちを汲んでいるかのように、にこやかにそう言った。
でもその微笑が薄皮一枚の仮面に見えたのは気のせいじゃない。
もし本当に不要だと思っていたなら、そもそも僕にこの話は持ちかけてこない。
王女にだって、王太子の口から直接必要ないと言えば済む話だ。
それをしないということはつまり、こいつは僕がどう出るか敢えて試している。
ここで断れば、その程度だと見切りをつけられる可能性も十分あると考えた。


「僕は構いませんよ。試合をしても」

「へえ、本当に?負けたらセラの近衛には当分なれないけど、いいの?」

「いいですよ、僕は負けませんから」


あの男が以前セラにしたことを王太子に報告することも考えた。
けれど信憑性や証拠のないことを語ったところで大して意味はない。
それなら完膚無きまで叩きのめした方が、今後干渉されずに済むだろうと考えての言葉だった。
だからさも当たり前にそう言えば、王太子は僕を見てくすりと笑った。


「大丈夫なの?威勢だけはいいけど、俺と勝負した時も勝つって言っておきながら負けたじゃないか」

「あれは狩猟だったからですよ。僕は然程弓の扱いには慣れていません。でも剣術では負けない自信があります」

「沖田がそう言うなら、近いうちセラの近衛をかけて二人には試合をしてもらうけど、それで構わないんだよね?」

「はい、いいですよ。そのかわり僕が勝ったら、速やかにセラの近衛に任命して頂けますか?」

「ああ、いいよ。約束しよう。お前を引っ張った俺の顔を立てるためにも頑張ってくれ、沖田」

「ええ、言われなくても」


実力のある者が上にいく、それはこの世界で至極当たり前のことだ。
それがわかっていたからこそ、僕はこの剣一つでここまでのしあがってきた。
でも僕が一番に望むのは、あの子の幸せをこの手で護ること。
世界を渡り磨いてきたこの腕で、僕は絶対に勝ち取ってみせると王太子に向かって微笑みを向けた。


そして翌日、僕とセトの試合が行われることになった。
指定された場所に向かうと、すでに王女付きの近衛騎士が数人集まっていて、立ち合い人は王太子ただ一人。
セラや王女の姿がないことに意外さを覚えたものの、それ以上考えることはせず気を引き締めていた。


「では試合をしよう。千鶴は体調を崩してしまったから、今日は俺一人が立ち合うことになった」


小さな闘技場のようなこの場所は、初めて王宮に足を踏み入れた時から気にはなっていた。
使われていないようにも見えて、手入れだけは丁寧にされていた場所。
今になってようやくその意味を知ることになる。

ただ、本来なら用意されているはずの木剣がどこにも見当たらない。
僕は周囲を一瞥してから、静かに王太子に問いかけた。


「木剣が見当たりませんけど、どこにあります?」


その瞬間、後方に控えていた近衛騎士たちが、声を殺して笑い出す。
くすくすと含みのある笑いが、場に妙な空気を広げた。
何が可笑しいのか分からず、僕はわずかに眉を寄せる。
そんな僕に向かって、王太子は楽しげに唇を弓なりにしながら、こう告げた。


「ああ、沖田には言い忘れていたね。この王宮では役職をかけた試合をする時に、木剣を使わないんだ」

「木剣を使わない?では何で試合をするんです?」

「真剣さ」


さも当たり前のように返された言葉に、一度耳を疑った。


「実際敵襲があった時、お前達騎士は真剣でやり合いながら主人を護らなければならない。だからここでは限りなく実戦に近い形で実力を見てるんだ。ちなみに細かいルールも何一つない。真剣を武器に、それぞれが自由に戦っていい場だ」


あり得ないその決まりに、一度言葉を失うのは無理もない。
けれど思えば前の世界ではじめ君が言っていたかもしれない。
王太子が自分のクラスの騎士を集めて、真剣での勝負をさせたと。
これが正にその勝負なのかと考えていると、向かい側に立つセトが小さく笑みを浮かべて僕に声をかけてきた。


「驚かれるのは無理もありません。ですが、実際木剣の時はやたら威勢がいいのに真剣になると急に怖気づく人もいるんですよ。残念ながら」


そう言いながら、セトはゆっくりと腰の剣を引き抜く。


「総司君はここに来てまだ日も浅いですし、このことを知らなかったのであれば棄権されても構いませんよ」


わざとらしい優しさと、隠そうともしない優越感。
この空間にはどこか狂っている空気が漂っていた。
王族の騎士同士に真剣で斬り合いをさせて実力を測るなんて、正気の沙汰とは思えない。
そしてこれが王女の狙いだということも見えてくる。
野心だけが強くても上には上がれないと、王女は僕に知らしめたかったのかもしれない。

でも残念ながら僕にとっては、またとない好機だ。
セラを騙して狡猾に近づこうとするこの男を、正々堂々と自分の手で罰することができるのだから。


「まさか。僕は棄権なんてしませんよ」


そう言って、僕もセトの正面で静かに真剣を抜いた。
柄に添えた指先に、一瞬だけ力がこもる。
金属の軋みを含んだ音が小さく響いて、空気がぴんと張り詰めた。

そのとき。
王太子が、軽く身を乗り出して僕を見た。


「沖田、本当に平気なの?この試合を受けるっていうことは、多少の怪我は覚悟してもらうようになるよ」

「でも受けなければセラの近衛にはなれないんですよね」

「まあ、一度試合を受けたからにはそうなるね」

「ならやるしかないじゃないですか」


これはあくまでも僕の意思ではない。
お前達が勝手に始めたルールに、僕が合わせてあげるだけだ。
つまりここで僕がこいつを誤って殺してしまっても、誰も文句は言えない筈だよね。


「……そう。沖田がそう言うなら、始めようか。健闘を祈るよ」


好奇心に光る王太子の目から視線を逸らし、僕は目の前の男をまっすぐ見据えた。
そして試合の開始を告げる合図と同時に、セトが迷いなく斬りかかってきた。

さすがは騎士階級特級持ち、一太刀ごとの威力が重くて速い。
斬撃の軌道も正確で、無駄がない。
でも僕は一切、攻めなかった。

すべてを受け、流し、見極める。
その剣筋、その癖、その呼吸の間まで。
わざと崩れたように見せて間合いをずらしながら、僕は目でセトの全てを見ていた。


「……受け身ばかりで攻撃されないんですね。怪我をすることがそんなに怖いですか?」


皮肉に満ちた声が聞こえてくる。
でも僕は応える代わりに、頭の中で淡々と考えていた。

僕は何度も、同じ時間を繰り返してきた。
その度に剣の稽古を積み重ね、任務の中で何度も真剣を持った敵を相手に戦ってきた。
三人、五人、それ以上を一度に相手にしたこともある。
その命のやり取りの緊張感に比べれば、こんな一対一なんて遊びにもならなかった。

でもこれはただの試合じゃない。
セラの隣にいられるかどうか、それを試されている。
だからこそ負けるつもりなんてこれっぽっちもなかった。

剣と剣が交わるたび、耳の奥で金属の音が反響する。
渇いた音が静かな闘技場に鋭く響くたびに、試合を見ている騎士達の息が止まる。

そんな中、僕はただ相手を見ながら感じていた。
この男には、純粋な忠誠心なんてまるでない。
こうして今剣を握っているのだって、己の私利私欲を満たすためだけだ。


「退屈ですね、保守的と言いますか……王女殿下から聞いていた通り、あるのは野心だけで、主人を護ろうとする忠誠心は総司君にはないのではないですか?僕達が護らなければならないのは、己の身体ではなく護衛対象ですよ」


僕もかつてはそう思っていた。
自分のことなんてどうでもいい、ただセラを護ることができればそれでいいって。

でも僕が傷つくたびに、あの子は泣く。
苦しそうな顔をして声を震わせながら、僕に傷ついて欲しくないと言う。
その姿を見るのが何よりも堪えるし、何度も胸を締め付けられてきた。

だから今は、無傷で護れる強さが欲しいと思うようになった。
それがどれほど難しくても、あの子の笑顔を護るにはそれしかない。
セラにはもう、悲しい顔はさせたくないから。

それに自分の身ひとつ護れないようでは、大切な人なんて護れるはずがない。
僕はほんの少し口元に笑みを浮かべながら、そっと呼吸を整えた。


「勿論、わかっていますよ。僕はセラお嬢様の専属騎士ですから。彼女を護れるなら、この命を捧げても構いません」

「言葉のわりに、随分と大人しい戦い方をされるのですね……!」


次の瞬間。
脇腹を狙った一太刀が振り下ろされ、僕はその剣を確実に止める。
鋭い音と共に弾かれた剣と剣の間に、呼吸ひとつ分の間ができた。


「あの子を護るために、こんなところで怪我はできないじゃないですか。だから念のため、慎重になっただけですけどね」

「そんなことばかり考えているようでは、気付いた時には命を落としていますよ」

「でしたら試してみましょうか。僕とセトさん、どちらが強いのか」


もう、わかった。
この男の癖、動き、考え方まで全部。
だから今度は、僕の番だ。
僕は一歩踏み込み、そのまま一気に斬り込んだ。

斬撃が連続する。
怒りを帯びた視線が、セトを逃がさない。
重く、鋭く、そして速い僕の剣を、セトはただ受けることしかできない様子だ。
一閃がセトの肩を浅く裂き相手が怯んだ隙に、僕の剣先はその手元へと正確に突き込み、剣を握る指先を斬りつけた。


「……っ!」


カンと甲高い音と共に、セトの剣が弾き飛ばされる。
セトがそれを拾おうとしたその瞬間を狙って、僕はもう一度容赦なく斬りつけた。
脚を、腕を、肩を、次々と。


「……ぐあっ……!」


至るところから血が噴き出しセトの悲鳴が響くけど、僕は止まらなかった。

あの時。
わざとペンを落とし、セラに拾わせていた時のあの目。
柔らかな彼女の身体に視線を這わせていたあの表情。
僕の大切なあの子に向けられたこいつの醜い欲望を思い出すたびに、怒りが抑えられなくなる。

殺してしまいたい、いっそここで。
僕がこの手で、その腐った命ごと摘み取ってやる。
そう思った瞬間、僕の剣は迷いなくセトの心臓を貫こうとしていた。


「そこまでだ!もう勝負はついている!」


王太子のよく通る声が響き、はっとして僕は剣を止めた。
間一髪で止められた剣は、セトの胸元すれすれで空を斬り、彼の制服は綺麗に割れていた。

ふと目をやると、倒れたセトが恐怖の色を浮かべて僕を見上げている。
その身体は気付けば血塗れで、かなりの切り傷がつけられていた。
周囲で見守っていた近衛騎士たちは皆、騒然として動けずにいる。
空気が止まっていた中、その中心にいた僕だけが傷ひとつ負っていなかった。
そして胸の奥が、まるで興奮しているかのように妙に熱くて仕方ない。
それが怒りか、あるいは何かもっと深く暗い感情だったのかは、僕自身にもわからないくらいだった。


「お前達、こいつを今すぐ救護室に連れて行け」

「はい、承知いたしました……!」


近衛騎士たちに抱えられ、傷だらけのセトが足を引きずるようにして連れ出されていく。
血の匂いと高揚とわずかな虚脱がしんとした訓練場に残された。

静かになった場に残るのは、僕と王太子の二人だけ。
血で汚れた剣を忌々しく思っている僕の前、王太子は怪訝そうな面持ちで歩み寄りながら言った。


「お前、あいつを殺す気?」

「まさか、殺す気なんてないですよ」

「いや、俺が止めてなかったらお前は確実にあいつを斬っていた」

「ですがルールはない、多少の怪我は覚悟してもらうと殿下が仰ったんじゃないですか。なので僕は、その言葉通りに動いただけですけどね」


間違ったことは何一つ言っていない筈だ。
悪びれもなくそう告げれば、王太子は目を瞬いた後、おかしそうに笑い始めた。


「あはははっ、面白いね、沖田。確かにお前の言うことは間違ってない」

「どうも。殿下にそう言っていただけるなら、僕も斬った甲斐があります」

「そうやってさらりと言うから余計に怖いんだよ、お前は」

「僕はただ、あの近衛兵に僕の主人を欲しがるなと言いたかっただけですよ」

「確かに沖田が面白く思わないのは当然だ。でも結果良かったじゃないか。こんな試合を見せられたら、誰もお前から役職を奪おうなんて思わないだろ」

「そうだといいですけど。その度に真剣勝負なんてやってられませんから」


そう呟くと、王太子はふと僕の顔を覗き込むようにして尋ねてきた。


「……だけどさ、殺す気はなかったって本当?見てたよ、あの目。完全に獲物を仕留めにいく目だった」

「それは、セトさんが僕によっぽど好かれてたってだけじゃないですか?僕はセトさんの熱意に、つい全力で応えてしまっただけですから」

「ふうん……応えたってわりに、あっちはボロボロでお前は無傷だ」

「運が良かっただけですよ」


王太子は一瞬だけ目を細めたけど、それ以上追及することはなかった。
代わりに、僕が足元に立てかけたままの剣に視線を落とすと再び口を開いた。


「でも真剣であそこまでやって、血の一滴も浴びてないっていうのは、普通ならあり得ないと思うんだけど」

「そうですか?ちゃんと斬る場所を選べば、飛び散らないものですよ。あまり暴れられると掃除が大変になりますし」

「……まったく。あの状況でそんなことまで考えていたとしたら、沖田は思っていた以上に危険だね。何かあれば次は俺が斬られるんじゃないかって、そんな気さえする」

「殿下を斬るなんて恐れ多くてできませんよ、今のところは」

「今のところか、言ってくれるね。お前が言うと冗談に聞こえない」


笑い出す王太子に僕も笑みを返すけど、残念ながら冗談ではない。
でも王太子の表情にはいつもの余裕に加えて、ほんの少し好奇の色が混じっていた。


「セラはお前のその顔、見たことがあるの?」

「どの顔のことをおっしゃってるんです?」

「相手を確実に殺そうとしてる時の顔だよ。殺意と狂気に満ちた獣みたいな目。思い出すだけで、ぞっとする。だけど……」


言葉を切ると、王太子はゆっくりと目を細めた。
その横顔には、なぜか高揚にも似た熱が灯っていた。


「……あの瞬間の空気、脊髄が震えた。張りつめた気配やあの視線は、まるで死神でも見ているようで興奮したよ」

「それはどうも。僕としてはなるべく、柔らかい印象で生きていきたいと思ってるんですけどね」

「ははっ、お前には無理だろ。気づいていないかもしれないけど、刃を持った瞬間、お前はまるで別人になる」


剣を振るうと、確かに何かが切り替わる。
命のやり取りをするたびに、自分でも感じることではあった。
だからこそ誰にも触れてほしくない一面を、言い当てられたような気がしていた。


「まあ、一つ俺からアドバイスするとしたら、セラにあんな顔は見せないことだね。きっと怖がられるか、下手したら嫌われるよ」

「僕も自分の顔を鏡で見ながら戦えるわけじゃありませんからね。気をつけますよ」


王太子は肩をすくめて笑った。
その笑い方には飄々とした軽さがあったけど、同時にどこか愉しんでいるようなところもあった。


「まあ、いいさ。俺はね、お前がどこまでやれるのか見てみたかったんだ。セラの近衛に相応しいこともわかったし、予想以上に面白いものを見せてもらえて満足している」

「それは何よりです。お役に立てて光栄ですよ」

「約束通り沖田をセラの近衛騎士に任命しよう。明日からはお前がセラの傍についてやってくれ」


その言葉が落ちた瞬間、胸の奥に静かな熱が生まれた。
ようやく戻れる、もう一度セラの隣に立てる。
そのことがただ嬉しかった。


「承りました。ありがとうございます、殿下」


僕は姿勢を正し、頭を下げた。
セラが嬉しそうに微笑んでくれる様子を目に浮かべながら、静かに微笑みを浮かべた僕がいた。


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