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街に着くと、はしゃぐ面々とは裏腹にセラの口数が減った様に感じられた。
元々皆でいる時は大人しい彼女のことだから、きっと馬車の中での会話に疲れたんだろう。
そう考えて、特に気に留めてはいなかった。
そんな中、新八さんと平助は、無駄に大きいお菓子を買ってきたり、変な仕掛けの箱を開けさせみたりと彼女への気遣い方が自由奔放で。
伊庭君に限っては、話しかけられたお年寄りの手伝いに手を焼いてるから、結局僕一人でセラのことを見護っていた。
そもそも護衛が四人もいると逆に気が緩むのか、誰かしらが見ているに違いないという変な安心感を抱いてしまうのが人間の心理らしい。
正に今がその状況で、側から見たらセラが一人でいるように見える時間は度々あったと思う。
だからだろう、彼女の様子を傍で見ていると、僕が連れだと思っていないだろう男がセラにぶつかり、今にも言い掛かりをつけようとしている。
これは見過ごせるわけがないとセラを引き寄せ、その男を追い払ったのがほんの数秒前だった。
でも振り返った先、不安そうに腕を抱く姿を見て思い出す、初めて出会った時のこと。
あの時のセラも、今のような表情で一人恐怖と戦っていた。
周りにとっては解決された過去の事件でも、この子にとってはきっとそんなに単純なことではない。
セラの中にはまだ終わらずに続いている不安や恐怖があることを知り、それに気付きもしなかった自分に腹立たしさを感じた。
だから少しでもこの子の不安を拭えるように声を
掛けたけど、セラは僕を見て少し瞳を潤ませている。
その顔を見て内心で落ち着かない心情になっていると、そんな僕にセラは言ってくれた。
『ありがとう。私、総司がいてくれて良かった』
どうしてだろう。
セラの言葉は真っ直ぐ過ぎて気恥ずかしいのに、僕の心にすんなりと入って心の奥深いところで根を張るように広がっていく。
まるで乾いた心を潤す水のようで、かと思えば心を掻き乱す時もあって。
この子の言葉に一喜一憂している自分に気付いても、それも悪くないと思ってしまうからそれが一番厄介なんだけど。
「そうだね。良かったでしょ、僕がいて」
『ふふ、自分で言ってる』
「駄目?これでも僕、あの人達よりずっと頼りになると思うんだけど」
少し離れた場所からこちらに歩いてくる三人を見ると、セラはくすりと笑っている。
愛らしい顔に笑顔が戻ったことに満足していると、彼女はふと思い出したように僕に話しかけてきた。
『そう言えば、さっきあの人に何て言ってたの?』
「ん?何のこと?」
『総司が何か言ったら、あの男の人が急にどこかに行ったから』
「ああ、あれね」
別に大したことは言っていない。
僕はただ存分に殺意を込めて、「お嬢様に何かする気なら、腑引き摺り出してぐっちゃぐちゃに殺してあげるけど、今から裏で僕とやり合う?」って言っただけだ。
あまり綺麗な言葉ではないからセラに聞かせたくなくて小声で言ったわけだけど、それが逆に相手の恐怖心を煽れたなら良かったよ。
まあ、あの程度で逃げ出すなんて所詮小物だったということだ。
「大したこと言ってないよ。あっち行けって言っただけ」
『そうなんだ?もっと長く話してた気がするけど』
「気のせいでしょ。あんな奴と話すことなんてないよ」
この話は終わりにしようとセラの頬を摘んでみると、白い肌は柔らかく伸びて、整った顔が面白い顔になった。
「はは、可愛いかも」
『もう、やだよ……やめて総司』
「こっちも摘んであげる」
『やあ……離してっ』
綿菓子と先生への贈り物で殆ど手が塞がっているセラは、僕のされるがままになっていてなんだか可愛い。
お気に入りの玩具になりそうだと優しくむにむに摘んでいると、背後から頭を叩かれてしまった。
「おい、セラちゃんに何やってんだ?可哀想じゃねぇか」
「しょーもねーことするなよ、総司」
「そうですよ。そもそも僕達は護衛対象に過度な接触は禁止だと言われているじゃないですか」
「え?そうなの?」
「そうだって。セラを護る為の接触なら仕方ねーけど、無闇矢鱈と触っていいはずねーじゃん」
「その程度のことは考えれば分かることだと思いますけどね」
「ったく、困った奴だな」
三人各々に罵倒されて、先程感じていた苛立ちがまたふつふつと湧いてくるのを感じる。
護衛対象に過度な接触をしてはいけないことは今知ったけど、この人達に責められる筋合いはないと思ってしまうのは当たり前だ。
『あの、私は大丈夫だから……』
「あのさ、だったら僕からも一つ言わせて貰うけど」
セラが僕を庇おうとして言ってくれた言葉を遮り、僕は思っていたことを言うべく口を開いた。
「今日の任務は護衛だよね。それなのになんでこの子をそっちのけで他のことしてるのかな。理解出来ないんだけど」
「いやいや、俺達だってちゃんとセラちゃんに危険がないよう見護ってるぜ?」
「じゃあ今この子が変な男に絡まれそうだったのも知ってるってこと?知ってて助けに来なかったんだ」
「え……?そうだったのですか?大丈夫だったんでしょうか?」
「勿論大丈夫だよ、僕がいたからね。で、君達はその時どこで何をしてたわけ?」
知らなかった事実を知り、流石に気まずそうに黙り込む三人組。
開口一番に言葉を発したのは、眉を少し下げた平助だった。
「いや、ごめん……。俺これ買いに行ってて、店戻ってたんだ。まさかそんなことになってるって知らなかったんだよ」
「ああ、そのくだらない箱ね。そんなのでこの子を驚かせてどうするの?」
「楽しいかなって思って。ほら、こんな玩具見たことないだろ?セラも喜ぶかと思ってさ」
「馬鹿なの?そんなので喜ぶわけないし、護衛中も玩具で遊びたいなら騎士を辞めて玩具屋で働けば?」
黙り込んだ平助は、言い返す言葉が見つからなかったらしい。
少ししょげた顔で僕を見上げていた。
「俺はよ、セラちゃんが喜びそうな菓子を探してたんだよ。で、あっちにでっかいバームクーヘンを見つけちまって」
「どうせそれ自分で食べたいだけなんじゃないの?」
「いやいや!あれは絶対美味そうなんだって!セラちゃんも気に入ってくれると思ったから、俺は列に並んで……」
「呆れるんですけど。そもそもこの綿菓子とかいうやつも大き過ぎだし、お菓子の為に護衛疎かにして喜ぶ人なんているの?新八さん、一応この中で最年長だし今日のまとめ役だよね。全然務まってないと思うけど」
ばっさりと切り捨てれば、新八さんはショックを受けたように固まってしまった。
でも僕の言っていることは間違っていない。
一番の年長者としての自覚をもっと持ってよ。
「あとは伊庭君だけど」
「僕は……その、彼女から目を離してしまったことは謝ります。ただ、向こうでご老人が困っていて助けを求められてしまったので、無視することは出来なかったんですよ」
「そうみたいだね。ずっとあのお婆さんと一緒にいたし」
「ええ。騎士には街の民を助ける使命もありますので」
「最もらしいこと言ってるけど、それは護衛対象から目を離して良い理由になるのかな」
「いえ……それは、違いますね。僕はきっと、どなたかがセラの傍についていると思ってしまっていたんだと思います」
「皆してそんなこと考えてたら、誰もまともに護衛しなくなっちゃうじゃない。伊庭君もさ、セラよりあのお婆さんを優先させるなら、いっそあのお婆さんの専属騎士にでもなれば?お似合いだよ」
いつもは何かしら言い返してくる伊庭君も、今日ばかりは言葉が見つからないようだ。
優先順位をつけられないようじゃ、騎士として失格だからね。
「今回ばかりは沖田君の言う通りですね。護衛としての役割を果たせなかったこと、申し訳なく思っています。セラ、君を気遣えずにすみませんでした」
「セラ、ごめんな。総司も……悪かったよ。俺次から気をつける!絶対気抜かずに護衛するから!」
「セラちゃん、本当にすまなかった。最年長らしからぬ行動を取っちまったよ。気を引き締めなおす良い機会になったし、総司もありがとうな」
『いいえ、私は大丈夫です。皆さんのお手を煩わしてしまって申し訳ないくらいなのに、そう言って頂けて有難いです。これからも頼りにしています』
三人は反省した様子でセラに謝罪をしたからよしとして、この子の謙虚で優し過ぎるところは何だかなって思ったり。
頼りにしていますなんて言うから、三人共嬉しそうにしちゃってるじゃない。
まあ近藤さんと同じで、権力を振りかざないところがこの子の良さの一つではあるんだけど。
『総司もありがとう。いつも気にかけてくれて』
「いいえ。このあとはどうする?あとは見たい店とかないの?」
『もう買い物は終わったんだけど、今日の朝、お父様から護衛の方々と美味しいものでも食べてきなさいって金貨を頂いたの。なので良かったら皆で何か食べに行きませんか?』
セラの言葉に喜んだ皆は、近藤さんのご厚意に甘えて軽い食事を摂ることになった。
アフタヌーンティーをすることになった僕達は、綺麗な店内へと入り、正装した客しかいないこの場所で休息を取ることにした。
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