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セラの療養生活が始まった。
宮中の人間に知られるわけにはいかないから、彼女の部屋には僕と王太子以外は、誰ひとり立ち入ることを許されていない。
日中は僕が、夜は王太子が交代でセラの傍に付き添い、彼女の容態を見守っていた。
王太子の知り合いだという医師も毎日のようにセラを訪ね、その都度親身に診察をしてくれていた。


「体力は着実に戻ってきていますね。瞳孔の反応も正常に戻りました。薬はしばらく続けていただきますが、この調子であれば必ず快方に向かうでしょう。少しずつ、できることを増やしていきましょうね」


診察を終えた医師は、聴診器を外しながら小さく頷き、柔らかな微笑みを浮かべた。
彼の言葉に、ベッドの上で静かに耳を傾けていたセラがほっとしたように笑みをこぼす。
その笑顔があまりに嬉しそうで、僕もつられるように口元が緩んでしまう。


『先生、ありがとうございます。最近は食欲も戻ってきましたし、少しずつ身体を動かせる時間も長くなってきました。先生には沢山お力になっていただいて、本当に感謝しています』


セラはそう言って、心からの微笑みを浮かべながら頭を下げた。
医師の頬がほんのり赤く色づいたのが見えて、胸の奥に小さな苛立ちが灯る。
あの笑顔を向けられて、平然としていられる男なんていないだろうから仕方ないことだけど。
だからといって面白いものでもなかった。


「いえ、私は当然の務めを果たしているだけです。ただ、殿下が羨ましいですね」


不意に医師がそう呟き、セラが瞬きをして首を傾げた。


『薫様が……ですか?』

「ええ。セラ様のように可憐な方が婚約者であれば、殿下も毎日どれほど癒されていることでしょう」


その言葉に、セラはわかりやすく困ったように手を振った。


『い、いいえ……私など、婚約者とは名ばかりで……薫様のために何もして差し上げれていないのです。こうして身体を崩してしまっているくらいですから……』

「いいえ」


医師はきっぱりと首を振り、懐かしむように目を細めた。


「殿下から診療を託された時、仰っていたのです。大切な人だからどうか助けてやってくれ。俺にできることがあるなら何でもする、と。私は幼少の頃から殿下と付き合いがありますが、あれほど必死な殿下を見るのは初めてでした。セラ様のことをとても大事に想われているのだと、伝わってきましたよ」


僕は思わず、手のひらをきつく握りしめた。
王太子が本気でセラを想っていることなんて、嫌というほど知っている。
だけどそのことを他人の口からセラに伝えられるのが、たまらなく嫌だった。
優しいこの子のことだ、こんな話を聞けば王太子に情を寄せてしまう。
そう思うだけで、喉の奥が焼けつくように痛くなった。


「余計なことを話しましたね。この件は、どうか殿下にはご内密に」

『はい……、わかりました』

「早く全快されて、殿下を安心させて差し上げてください」


そう言い残し、医師は深々と頭を下げて退室していった。

部屋には柔らかな日差しと静かな空気だけが残る。
ベッドに腰かけるセラが、ちらりと僕を見上げてきた。
視線が重なると、少しだけ気まずそうにしながらも儚げな笑みを浮かべている。


「だいぶ回復してきてるみたいで、良かったよ」

『うん。これも総司がいつも傍にいて看病してくれてるからだよ。本当にありがとう』


療養が始まってから、こうして日中ずっと一緒にいられる時間は、僕にとってかけがえのないものになっていた。
最初の頃は会話もおぼつかない時があったけど、今はもうしっかりとしたやりとりができる。
まだ幻覚や幻聴が残っているのは確かだし、気分の波も油断ならない。
でも僕といる時のセラは穏やかで、むしろ以前よりも甘えた眼差しを向けてくれるようになった。

ただ、一つだけ気になっていることがある。
それは夜、僕と交代でやってくる王太子とこの子がどんなふうに過ごしているかということだ。
弱っているセラに、王太子が無理やり何かするとは思っていない。
でも二人きりの時間にどんな会話が交わされているのかを考えると、どうしようもなく苛立ちが込み上げてしまう。
勿論、情緒が安定していない今のセラにそれを問いただすわけにはいかないから、このもどかしさは胸の奥に押し込めておくしかなかった。


「お礼なんて言わなくていいよ。僕はこうしてセラと過ごせるだけで、幸せだから」


そう囁きながら、セラの髪を指先ですくい上げ、頬を撫でる。
耳のあたりをかすめると、セラの頬がほんのり赤く染まった。
その表情が愛おしくて、こうして触れるたびに僕はこの子が大好きでたまらないと実感してしまう。

だから早く元気になってほしい、心からそう願っている。
けれど療養が終われば、僕はもう自由にこの子の部屋に入ることも、こんなふうに触れることもできなくなってしまう。
そう思うと、回復を喜ぶ気持ちと同じくらい、この日々が終わることへの恐怖が胸を覆っていくようだった。

……だから、今だけは。
僕はセラの髪に唇を寄せ、触れるか触れないかの距離で留めた。
セラの吐息が震えるのを感じながら、どうかもう少しだけこの時間が続きますようにと祈るしかなかった。


『総司……だいすき』


その一言は、胸の奥でずっと欲し続けてしまうものだから、息が詰まるほど嬉しかった。
僕が言おうとしていた言葉を、こうして先に口にしてくれるから、それだけで世界が報われるように思える。
この言葉を、あとどれくらい僕に向けてもらえるのかわからないからこそ、一つ一つが宝物のように胸に刻まれいくようだった。


「僕も、大好きだよ」


セラはほんのりと赤く染まった頬で、潤んだ瞳を僕へ向けた。
その視線は僕に触れてほしいと訴えているようで、自分からは滅多に触れてきてくれない子だからこそ、余計に心を揺さぶられる。
正直少し狡いと思うけど、その仕草さえ愛おしかった。


「セラ……」


言葉にした名前に精一杯の愛情を込めて、そっとセラに唇を重ねる。
互いの吐息が混ざり合い、その柔らかさと温かさに意識すべてが溶けていくようだった。
角度を変えては口付けて、その身体に刻むように幾度もその唇を堪能する。
唇を離した時にはセラの瞳はとろんとしていて、僕に全てを預けてくれているその眼差しが可愛かった。


「身体は大丈夫?眠くない?」

『少し眠いけど、大丈夫』

「薬が効いてくる時間でしょ。眠いなら無理しないで」

「ううん、総司とこうしてたいから……まだ寝たくないの」


薬を飲んだ後は、どうしても深い眠りに落ちてしまうのを僕は知っている。
けれど今の言葉が嘘ではなく、僕との時間を大切にしてくれている証だと思うと思わず微笑んでしまう僕がいた。


「そっか。でも、無理はしないで。今は回復を一番に考えないとね」

『でも眠ったら、総司がこの部屋からいなくなっちゃいそうで嫌なの……』

「僕が?そんなことしないよ。王太子が来るまではずっとここにいるでしょ?」

『でも最近夢の中で、総司がどこかへ行っちゃうの。だから起きたらいなくなってるんじゃないかって……もう会えなくなったらどうしようって考えたら、凄く怖くて……』


そう言って涙をこぼすセラは、いまだこうして感情をうまく制御できていない。
一度泣き出すとなかなか止まらなくて、麻薬の成分がいまだセラの身体や精神に影響を与えていることは明らかだった。

でもそう思う反面で、これはセラの本心でもあるのではないかと考えてしまう僕がいる。
いつも微笑んでくれるその心の中で、こうして不安に思っていることがきっとあるはずだから、こんな形でも知れることが嬉しかった。


「僕はどこにも行かないよ。君を置いてなんていけないよ」

『絶対?』

「うん、絶対。僕はずっとセラの傍にいるよ」

『じゃあ、明日もまた会いに来てくれる?』


その言葉は、ここ最近のセラの口癖のようになっていた。
くすりと笑って、僕もまたお決まりの言葉を返す。


「勿論。明日も明後日もそのまた次の日も、僕は君に会いに行くよ」


僕がそう言うとセラは安心するのか、泣き止んで微笑んでくれる。
その顔がまた可愛いくて、僕も笑ってしまった。


「元気になったら、前に約束してたアイス、食べに行こうね」


セラの手をそっと包み、嬉しそうにしている彼女に微笑みを返した。


『うん。約束、したもんね』

「そうだよ。約束破ったら針千本……は可哀想だから、どうしようかな」

『ふふ』

「じゃあ破ったらキス百回ね」

『すごい沢山。総司がしてくれるの?私がするの?』

「んー。君にしてもらいたいところだけど、さすがに百回は疲れそうで可哀想だし、僕がしようかな」


くすくす笑うセラを横目にその笑顔を見れて満足していると、セラは上目で僕を見つめて言った。


『それなら約束、破ろうかな』

「ええ?なんでさ。そんなに僕にキスしてほしいの?」

『うん。だって足りないもん』


セラはほんのり頬を染めて、視線を逸らしながら小さく答えた。


「そんなこと言われたら、今すぐ君を抱きしめたくなるんだけど」

『じゃあ……抱きしめてほしいな』


潤んだ瞳で見上げられたら、抗えるはずがない。
小さな身体を腕の中に抱き寄せてそっと唇を重ねると、セラは安心したように目を閉じ、微かに微笑んだ。


『あったかい』

「セラの方があったかいよ」


もう一度、唇を重ねる。
今度は少し長く、名残惜しさを込めて。
セラは嬉しそうに小さく笑いながら、僕の胸に額を寄せてきた。


『百回でも、千回でもしてほしい』

「僕もだよ。でも、そんなにしたらセラが眠れなくなっちゃうかもね」

『眠れなくてもいいよ?』

「でもセラはまだ本調子じゃないでしょ。無理はさせられないじゃない」

『でも総司のこと大好きだから、総司とこうしてると一番元気になれるよ』


囁くような声が耳に触れて、胸がまた熱くなる。
幸せなのに切なくて、どうしようもなく想いが積もってしまうから困ったものだけど。


「僕も。誰よりも、君が好きだよ」

『嬉しいな。もっと言って?』

「ははっ。何度でも言うよ、僕はセラが大好きだよ」


セラは嬉しそうに微笑んで、僕の首に腕を回してくる。
その抱きつく仕草が愛おしすぎて、また唇を重ねた。


「ねえ、セラ。欲しいのはキスだけ?」

『ううん……本当は総司の全部が欲しいよ』


その言葉に誘われるようにセラの身体を支えながら後ろへと倒せば、その身体はベッドへと沈む。
覆い被さるように重なり、再び深く口付けを落とした。


『……ん……、そ……じ……』

「あんまり可愛いことばっかり言ってると、襲うよ」


耳元で囁いた僕の言葉に、セラは頬を赤らめながら小さく震えた。
けれど拒むどころか、首に回していた腕の力を僅かに強めて、甘えるように寄り添ってくる。


『いいよ、襲って?』

「そんなこと言ったら本当に止まらなくなるけど」

『うん。総司にもっと触ってほしい』


喉の奥が熱くなり、唇が深く重なるだけで息が荒くなる。
その言葉だけで、彼女がどれほど僕を欲してくれているかが伝わってきて身体中が熱を帯びた。


「僕にどうしてほしいの?」

『もっと……ぎゅってしてほしい。キスも、たくさん……』

「それだけで足りる?」

『本当は足りないけど……でも……』

「僕もだよ。セラの全部が欲しいし、誰にも渡したくない。君の声も、身体も、心も……全部ね」

『……本当?』

「うん、ずっと君に触れていたいよ」


再び唇を塞ぐと、彼女は切なげに吐息を漏らしながら僕に縋りつく。
胸の奥から溢れる愛しさに、もう抑えは効きそうになかった。


「どうしてこんなに君を好きになっちゃったんだろうね」

『私もいつも同じこと思ってるよ』

「じゃあ確かめていい?君が本当に僕だけを見てるって」

『うん。私には総司しかいないから』


その答えに、もう理性なんて必要ないと思えた。
彼女の細い手を握りしめ、指先まで大切に確かめるように撫でる。


「セラの声、もっと聞かせて」


唇を重ね、途切れ途切れに言葉を交わす。
触れるたび、確かめるたび、愛しさが溢れて止まらない。
胸の膨らみに手を添えればぴくりと反応する身体は可愛いし、漏れる小さな声ごと全て飲み干したくなる。
胸元の紐を緩め桃色の先端を指先で遊べば、セラの頬も色づいていった。


『……ん……総司……』

「もっと触ってほしい?」

『……うん、たくさん……して欲しい』


まずいな、可愛い過ぎる。
本当は休ませてあげないとならないのに、鍵をかけたこの部屋が密室であることと、こうしてセラに触れることが酷く久しぶりなこともあって、自分を止めることが出来なかった。

それにセラもいつになく恥ずかしがらずに僕を求めてくれている。
勿論これもあの忌々しい薬のせいだろうけど、好きな子にこんなことを言われたら拒む理由なんてどこにもなかった。


『……っ、ん……』


寝着の下に手を差し込み、ゆっくり太ももの内側を撫でていく。
じらすように触れる手の動きにセラのまつ毛はふるりと揺れた。
下着の中、そっと手を滑り込ませてセラの花びらを撫でると、そこはもう温かく潤っている。
指を滑らせるたびにくちゅりという音が小さく耳に届いてて、僕の欲望を掻き立てていくようだった。


「もうこんなに濡れてるの?」

『……だめ……?』

「いいよ。でも下着が濡れちゃうから、脱がないとね」


とは言え、あまり脱がせ過ぎると、万が一人が来た時に慌てることになる。
だからこそ寝着はそのままに、下着だけを脱がしていった。
脚を開かせれば、顔を赤らめ僕を見つめるその表情は純粋そのものなのに、僕の前に開いたその場所は思わず喉を鳴らしてしまうくらい艶めいている。
誘われるようにセラの小さな突起に唇を寄せ、快楽を与えようと優しく舌で愛撫した。


『……や……あ……総司……』

「……ん……セラのここ、おいしいよ……」

『……っ……だ……め……、それ……』


本当にたまらない。
まさか王宮でセラのこんな乱れた姿を見ることかできるとは思ってもみなかった。
こんなにも気持ち良さそうによがって、涙目で僕を見つめるセラの姿に興奮しないではいられない。
苦しいくらい下半身に熱が集まってしまったけど、それでももっとこの子を気持ち良くしてあげたいと、彼女の膣内にゆっくりと二本の指を沈めていった。


『……あっ……ん……』


いやらしい水音と僕の大好きなセラの香りが、この行為に僕をより没頭させていく。
舌先で突起をいじりながら指を折り曲げ中を刺激すると、膣内は締まり僕の指を締めつけた。


「これ、気持ちいい?」

『……んんっ……気持ち……いい……』

「久しぶりだもんね。いっぱい気持ち良くしてあげる」


指の動きを早め小さな粒をを口内に含んで転がすと、セラの膝は僅かに震える。
そして小さな甘い声を漏らして絶頂を迎えると、汗ばんだ身体は先程よりも熱を帯びていた。


『そ……じ……』


絡めた指をさらに強く結び、互いの熱に溺れるように身を寄せ合った。
セラの瞳は僕だけを映し、僕の心も彼女一色だった。


「セラ、大好きだよ」

『私も総司が大好き。総司とずっとこうしてたい……』


もう他の言葉なんて要らなかった。
ただ、互いを求め合う声だけが重なって、甘く深く溶けていった。
重ねた唇は柔らかくて、甘すぎて、離れるのが惜しい。
けれどもっと深く欲しくて、そっと舌を滑り込ませれば、彼女も恥ずかしそうに舌を絡め返してきた。


「……ん……、セラ……上手になったね」

『だって……総司が教えてくれたから……』

「はは、可愛いこと言うんだね」


互いの吐息が混じり合い、湿った音が重なるたび胸の奥が痺れる。
セラは小さく震えながらも、僕にしがみついてさらに深く求めてくる。


『……ん……もっと……』

「もっと欲しい?」

『……うん……やめないで欲しい……』

「僕もだよ。君のことが好きすぎて、もう止められない」


耳元に唇を寄せて囁くと、彼女はくすぐったそうに身を捩じりながらも、甘く笑う。


『ふふ、擽ったいよ』

「セラ、もう一回触らせて?」


今度はセラを後ろから抱きしめて片脚をやんわり拘束し、セラの膣内に指を埋めた。
優しく抜き差しを繰り返すと、すぐにその場所は僕の指を締め付け、ひくつくように動き始めた。


『……あっ……や、あ……』

「可愛い、セラ」


囁きを重ねながら首筋に口付け、頬に、耳に、何度も唇を落とす。
そのたびにセラは震える吐息を零し、秘部を触る僕の腕を強く掴んだ。


『……や……ぁ……また……きちゃう……』

「うん……イっていいよ」

『……ああっ、……だめ……そ……じ……』


ああ……ほんとに可愛い。
腕の中でとろけるみたいに頬を赤くして、僕の視界のすぐ前で口元を緩める君が、たまらなく愛しい。
その姿を見ているだけで、胸の奥がどうしようもないくらい熱を帯びてしまう。


『……っ、や……ああっ……』


ぴくんと身体を揺らして果てると、セラは息を僅かに荒くしながら身体から力を抜く。


「そんな顔、僕にしか見せちゃだめだよ」

『……うん……総司だけ……』


後ろから抱き寄せたまま、首筋にそっと唇を落とすと、セラは小さく震えてくすぐったそうに身を捩る。
その反応が可愛すぎて、またもっと触れたくなる。


「動かないで。逃げられたら、僕が困るから」

『ふふ、逃げないのに』

「まあ、逃がさないけど」


そう囁きながら、また首筋に甘い口付けを重ねる。
吐息が触れるたびにセラの肩が揺れて、僕の心はさらに乱される。
もう一瞬だって目を逸らしたくない。
愛らしいこの顔も声も仕草も全部僕だけのものにして、ずっと見つめていたい。


「好きだよ、セラ」


耳元に唇を寄せ、囁きながら強く抱きしめた。
セラが小さく僕の名前を呼べば、愛おしさで心が満たされていくから不思議だ。


「もう少しだけ、このままでいさせて」


腕の中で身を委ねるセラの温もりを確かめながら、僕は繰り返し首筋や髪に口付けを落とし続けた。
ただこの子だけを求めて、抱きしめる力を強めてしまう。
でもふと気づけば、セラは僕の腕の中であっという間に眠りに落ちていた。


「やっぱり眠かったんだね」


腕の中で、かすかな寝息を立てて眠るセラを見つめながら、僕の口元は自然と緩んでいた。
頬にかかる髪を指先でそっと払い、柔らかく開いた唇から零れる安らかな息づかいを確かめる。
安心しきった顔で僕に身を委ねて眠っている姿を見るたびに、また抱きしめたくてたまらなくなる。


「可愛いなあ、もう……」


愛らしい寝顔に、胸が締めつけられるような切なさと、どうしようもない幸福が同時に溢れてきた。

セラを起こさないように気を配りながら、丁寧に身なりを整えていく。
乱れた衣服を直し下着を履かせてあげると、その細い身体はほんの少し身じろぎをして、また深く眠りに落ちていった。
まるで僕の手を疑うことなく受け入れてくれているようで、そのことがたまらなく愛しい。

すっかり整ったセラに、ベッドの傍に掛けてあったコンフォーターを手に取り、そっとかける。
肩口を覆った布越しに、微かに体温が伝わってくるのが嬉しくて、気づけば額へ静かに口づけを落としていた。


「おやすみ、セラ」


ほとんど聞こえない程度の小さな声だったけど、セラに届いてほしいと思う。

今日は僕のいる間に、目を覚ますことはないだろう。
だからこそこの時間を少しでも長く抱きしめていたいと思った。
セラの寝顔を見ているだけで、胸の奥からこみ上げるものがある。
手を伸ばせばすぐそこにあるのに、永遠に得られないものに触れているような切なさと、確かに隣にいるという幸福とが絡まり合って、どうしようもなく苦しくなった。

僕はただ黙って、彼女の寝顔を見守り続けた。
長い睫毛の影、緩やかな吐息、幼さを残した頬、そのひとつひとつを目に焼きつけるように。

明日がどうなるかなんてわからない。
セラとこうして過ごせる時間が、あとどれくらい残されているのかも。
だから、今この瞬間を決して手放さないように、ひたすらその寝顔を見つめ続けるしかなかった。

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