5

セラと過ごす、二度目の彼女の誕生日。
他愛ない話をしながら笑い合う日々が少しずつ当たり前になる中で、この子にはいつまでも変わらず僕の隣にいて欲しいと思った。

例えば今のセラのお気に入りが仮に僕だったとしても、数年前は他の誰かだったかもしれないし、一年後、二年後はまた別の誰かかもしれない。
今から先のことを考えたところで無意味だと分かっていても、彼女の未来まで欲しくなるなんて、僕は思っていたよりずっと貪欲みたいだ。


『それでね、総司の誕生日のことなんだけど……』


正直、自分の誕生日程どうでも良い日はない。
誰かに盛大にパーティーを開いて欲しいわけでもなければ、プレゼントとかご馳走とか。
そう言ったものにも然程興味はなかった。
でも、そんな考えも今では少し変わって、誕生日にセラが隣にいてくれたら嬉しいとは思う。
目の前で僕を見上げたセラは、立ち上がって噴水の裏に回ると、また僕の元に戻ってくるなり僕に小さな包みを差し出した。


『これ、総司に。お誕生日おめでとう』


わざわざ噴水の裏にプレゼントを隠していたところが可愛らしくて、そして少し面白くて笑ってしまいそうだった。
でもふわりと微笑んで箱を差し出すセラは愛らしくて、その顔を見れば今度は胸が熱くなる想いだ。


「ありがとう。でも、プレゼントまで用意してくれなくても良かったのに」

『折角だから何か贈りたかったの。私の場合は総司みたいに自分で稼いだお金で買ったものじゃないけど……』

「そんなこと気にする必要ないよ。セラからなのには変わらないでしょ?」

『うん。気持ちは沢山こもってるからね』


小さな箱を受け取ると、セラが少しそわそわしているのがわかった。
僕の顔をちらりと見て、そして恥ずかしそうに俯く。
だから僕も箱のリボンをほどきながら、ちらりと彼女を見つめた。


「ははっ、そんなに緊張しなくてもいいのに」

『別に緊張なんてしてないよ?』


僕が気にいるかどうか心配そうに見つめているところが可愛い。
箱を開くと、そこには上品な白金のタイバーが収まっていた。


「タイバー?」


騎士の正装にも合う、洗練されたデザイン。
上品なのにとても目を引く華やかなデザインはセラらしさを感じる。


『その……総司がさりげなくつけられるものがいいなって思って』


僕はタイバーを指で持ち上げ、裏側に目をやる。
そこには、小さく「souji」と刻まれていたから、思わず笑みを作った。


「名前まで入れてくれてある」


指先でそっとなぞり、目の前のダイバーに釘付けになる。
これは間違いなく、セラが僕のためだけに考えたものだから余計に嬉しく感じた。


「すごくいいよ、デザインも綺麗だし気に入ったよ」

『本当?』

「うん。ちゃんと僕のために選んでくれたんだなって思えるし」

『良かった。使ってくれる?』

「勿論、大切に使うよ」


セラが僕のために選んでくれただけで特別だし、過ぎた誕生日を少しでも祝おうとしてくれるこの子の気持ちが嬉しい。
それだけで、なんだか妙にくすぐったい気持ちになる。


『それでね……』


セラは、まだ何か言いたそうに、もじもじしている。
そして意を決したように、小さな手をそっと開いた。
するとそこには、僕のタイバーと同じデザインの小さな白金のブローチがあった。


「ん?」

『これ、私の分……』


セラは少し恥ずかしそうに、上目遣いで僕を見上げる。


『総司とお揃い、なの』

「お揃い?」

『だって……可愛かったから、つい……』


セラは恥ずかしそうに視線を逸らしながら、小さな声で続けた。


『お揃いのものってなんだか素敵かなって思って……。でも、勝手にダメだったかな……』


駄目なわけがない。
むしろ僕とお揃いの物を持ちたいと思ってくれるこの子の気持ちが嬉しくて、思わずタイバーをそっと握りしめた。


「何言ってるのさ、セラとお揃いなんてむしろ嬉しいよ」


セラは瞬きをして、それからほっとしたように微笑んだ。
その笑顔がどうしようもなく可愛くて、僕は思わず小さく息をつく。


「なんか、まいったな」

『え?』

「こんなに可愛い贈り物をもらっちゃったら、これからどんな顔してセラに会えばいいのかわからなくなるんだけど」

『それは……普通に会えばいいと思うよ……?』


セラは少し照れくさそうにしながらも、ちらりと僕を見上げる。
その様子も愛らしくて、今日はもう頬が一日中緩みっぱなしかもしれない。


「そう?」

『うん、そう……』

「ははっ、そっか」

『そうだよ』

「ありがとう、大切に使うよ」

『……うん』


夜の静寂の中、噴水の水音がやさしく響いていた。
セラは照れくさそうに髪を耳にかけているけど、その横顔はなんだかとても嬉しそうに見える。
だから僕も余計に嬉しくて、こんなに幸せな誕生日は間違いなく生まれて初めてだと思っていた。


『あ、それは去年の分ね?』

「え?」

『今年の分は……』


そう言って再び噴水の後ろに取りに行くから今度こそ笑ってしまったけど、まさか二年分?
さすがにそれは貰い過ぎじゃないかと、苦笑いをこぼす。


『じゃん、これが今年の分。お誕生日おめでとう、総司』

「ははっ、さっきもおめでとうって言ってもらった気がするんだけど」

『あれは総司が十五歳の時のおめでとうで、今のは十六歳の総司に』

「ありがとう、セラ。でも君の誕生日に僕が二つも贈り物を貰うのは、流石に申し訳なくなるよ」

『総司が気にしちゃうかなって思って、こっちは敢えて軽めのプレゼントなの。だから気楽に受け取って?』


その言葉で確かに少し気軽に受け取れるから、こうして気遣ってくれる彼女の優しさが心を温めてくれる。

僕は微笑みながら、ゆっくりと包みを受け取った。
セラが僕のために選んでくれた二つ目のプレゼント、いったい中は何だろう。
期待と興味を抱きながら慎重にリボンを解き、包みを開いた。
そして出てきたものを見て思わず固まる。


「……これって」

『どうかな?可愛いでしょ?』


セラが嬉しそうに微笑む。
僕が手にしたのは、ふわふわの猫耳付きのルームウェア。
しかもよくよく見ればふわふわの尻尾までついている。


「セラ?」

『ん?』

「これは、僕に?」

『そうだよ』


セラは無邪気に頷く。


「いや、ちょっと待って。なんでこれを選んだのさ」

『だって、総司が着たら可愛いかなって思って』

「僕、可愛いものが好きって言ったことあったっけ?」

『ううん。でも、絶対似合うと思うんだ。総司のイメージにぴったりだったから』


セラは確信に満ちた表情で言うけど、僕は一体この子の中でどんなイメージなんだろうと些か不安になる。


「セラが着るならわかるけど、僕が着るの?」

『うん』

「僕のイメージってそんな感じなんだ?」

『ううん。普段の総司はかっこいいよ?でも、たまには可愛いのもいいと思って』

「ふーん、たまにはね」

『うん』


……いや、うんじゃなくてね。
悪気のかけらもない笑顔で即答されると、反応に困る。
 

「まさか僕にこれを着ろって言いたいの?」

『うん。せっかくだから、お部屋で着てみてほしいな。きっと似合うよ』


セラがきらきらと期待に満ちた瞳で僕を見つめるから、こんな顔をされると断れない。
ルームウェアを持ち上げてみると、ふわふわした手触りで着心地は確かによさそうだけど……。


「僕がこれを着たら、セラは満足するの?」

『すごくする』


即答だった。
僕は苦笑しながら、ふわふわの猫耳を指でつまんだ。


「うーん、僕に似合うのかな」

『似合うよ、絶対。それとも……総司はこういうの、あんまり好きじゃない?』


セラはあまりに愛らしい顔で心配そうに僕を見上げてくるから、そんな顔でそんなことを言うのはずるいと思う。
でも僕は君の好きなものは全て好きになりたいし、君がこれを僕に着て欲しいと思うなら着てあげたい。
そう考えてしまう自分の単純さすら、今は素直に認められた。


「ううん、そんなことないよ。むしろ持ってない感じで、着るのが楽しみかな」

『良かった、そう言って貰えて嬉しい』


僕もセラの喜ぶ顔が見れて嬉しいよ。
でもセラは僕の横で、再びもじもじと指を絡めながらちらりと僕を見上げた。


『あのね……実は……これもお揃いなの……』

「……え?」

『……私の分も……買ったの』


そう言ってちらりと僕を見上げる瞳は、まるで僕の反応を気にしているみたいだった。
それがやっぱり可愛すぎるから、見ていて堪らなくなる。


「へえ、セラはそんなに僕とお揃いの物が欲しかったんだね。知らなかったよ」

『うん……』


あまりに素直に肯定されたら、からかう言葉すら飲み込まれてしまう。


『総司がいずれ私の専属騎士になってくれたら、お部屋が隣同士になるでしょ?その時、お揃いで着られたらいいなって思ったら、どうしてもこれが欲しくなっちゃって』


まるでどこか夢を語るみたいに、少し照れた声で言うセラの頬は、さっきよりももっと赤くなっていて、それがまた可愛かった。
それにこのプレゼントは、僕がセラの専属騎士になる未来をセラが当然のように考えてくれているということで、しかもその時にお揃いで着ることまで考えてくれているということになる。
そんなの嬉しい以外の何物でもないから、僕の頬は緩んでしまった。


「そんな先のことまで考えてくれてたんだ。僕が専属騎士になるの、そんなに待ち遠しいの?」

『それは……そうだけど』


小さな声で肯定しながら、セラはますます顔を伏せてしまった。
こうやって恥ずかしそうにしている姿を見ていると、もっと何か言いたくなってしまうけど、今はただ、この愛らしさを噛み締めるように、彼女の姿を静かに見つめることしかできなかった。


「あのさ、セラ」

『うん?』

「これからもっとたくさん、お揃いのものを増やしていこうか」


セラは、ぱちりと瞬きをして僕を見つめた。
何を言われたのかわからない、という顔をしているけど、僕はにこりと笑って、その可愛い反応を楽しむように続ける。


「だって、一つだけじゃ足りないでしょ?お揃いのものをもっとたくさん増やしたら、きっともっと楽しいよ」

『そう……なのかな?』


頬を染めながら、ぎこちなく視線を逸らすセラの姿に、思わず小さく笑ってしまった。
この子は本当に、どこまで愛らしくなれば気が済むんだろう。


「だから今度一緒に選びに行こうよ。何かお揃いのものをさ」

『うん、行きたい』


だってセラが僕との未来のを考えてくれているなら、僕もそれをもっと確かなものにしたいと思うから。
この想いがいつか形になった時には、もっともっと幸せな瞬間が訪れるだろうと思いながら、僕はセラを見つめ続けた。


『あ、総司。ちょっと待っててくれる?』

「ん?別にいいけど。何か用事?」

『うん。直ぐ戻るから絶対いなくならないでね?』


セラは念を押すようにそう言って、僕に背を向けどこかに行ってしまう。
一人取り残された僕は、城と月の光を浴びた噴水の前、ぼんやりと空を眺めていた。

考えるのは勿論、セラのこと。
あの純真な笑顔を見ていると、まるで自分まで純粋であるかのように振る舞いたくなってしまう。
僕は決してそんな類の人間とは程遠いのに、あの子に見合う自分になりたくなってしまうのかもしれない。

そしてそんな日々は直ぐに飽きると思っていたのに、僕はいまだセラのことが大好きでたまらない。
むしろ以前より大きくなった感情は、こうして今も僕と共にあった。


しばらくすると、僕の元にはセラが戻ってきて、少し嬉しそうに微笑んでいる。
何かを持ってきたらしい彼女は、それを僕の目の前に差し出してきた。


『少し遅くなっちゃったけど、お誕生日おめでとう、総司』


僕の前に出されたのは、お皿の上に載ったカットされた一つのケーキ。
その上には蝋燭が一本立てられていて、火がゆらゆらと揺れていた。
予想もしていなかったことに少し驚いたけど、ただ僕を想って行動してくれるセラの気持ちが嬉しいと思う。
その行動一つ一つが愛らしく思えてしまう今、好きになる要素しかないから困ったものだけどね。


『わかってる?総司が火を消すんだよ』

「はは、分かってるよ。わざわざ持ってきてくれなくても良かったのに」

『私がやりたかったの。これで総司のお誕生日しよう?』

「うん」


蝋燭の火を吹き消すことなんてしたことがなくて、なんだか無性に照れくさい。
童心に戻ることはもうできないけど、彼女のお陰でただ純粋に嬉しいと思うことが出来ている気がする。


『わあ、十六歳おめでとう!パチパチ!』

「何一人で歓声上げてるのさ」

『だって誕生日の火を消した後ってこんな感じでしょ?』

「まあ、そうかもしれないけどね」

『小さいケーキでごめんね、来年はもっと大きいケーキでお祝いしようね』

「ありがとう。これで十分だよ」


にっこり笑うセラの横、僕も釣られて笑顔になる。
一緒にこのケーキを食べようと思ったけど、フォークがどこにも見当たらなかった。


『ケーキ一緒に食べよ?』

「うん。そう思ったんだけど、フォークとかって持ってきた?」

『あ、すっかり忘れてた……。ごめんね、直ぐ取ってくる』

「待って」


離れて欲しくないから、立ち上がろうとしたセラを引き止める。
別にここは城の中でもなければ、人もいない。
それならばとスカーフを襟横のポケットから出した僕を、セラは不思議そうに見ていた。


「知ってる?こうやって食べてもケーキは十分美味しいよ」


スカーフで一応手を拭いて、お皿に載ったケーキを鷲掴む。
そしてそのままそれを一口食べると、セラはぽかんとした顔をして僕を見ていた。


「ん、美味しい」

『素手で食べちゃうの?』

「うん。フォークがなくてもこれで食べられるでしょ」

『あはは、大胆過ぎるよ』

「セラも食べる?」


かじりかけを勧めるのもどうかと思うけど、彼女の前にケーキを持っていくと満更でもなさそうな顔をしている。
そして少し照れた様子で僕を見上げると、顔を少し斜めに傾けてぱくりと一口食べていた。


『うん、美味しい』

「でしょ。良かったね、貴重な体験が出来て」

『うん、こんなことするの、初めて。でも総司の手についたクリームとかはどうするの?』

「そんなのはそこの噴水で洗えば大丈夫だよ」

『ふふ、総司のやってることめちゃくちゃ。噴水がクリームでベトベトになっちゃうよ』

「セラのせいだよ。素手で食べろって意味でフォークを持ってこなかったんでしょ?」

『あはは、何言ってるの?もう、違うってば』


よく笑うセラにまたケーキを持って行くと、この食べ方も満更ではないのか戸惑いなく食べてくれる。
そして僕が囓り、この子が囓りと繰り返していくうちに残りは指三本で掴める程度になった。


「ほら、最後食べて」

『なんかちょっと汚い……』

「うわ、酷いな。僕の指が汚いってこと?」

『ええ?違うけど……ふふっ、もう、食べる前に笑わせないで』

「汚いとか言うからでしょ。ほら、食べないの?」

『食べていいの?』

「汚いので良ければどうぞ」


再びくすくす笑ったセラは、最後のケーキを小さな口で上品に食べる。
その表情や指に触れた柔らかい唇の感触に気を取られていると、直ぐ近くから物静かな声が聞こえてきた。


「ほう……手づかみでケーキですか。しかも外でとは……中々大胆ですね」


僕はすっかりこの子以外に注意を払えていなかったらしい。
山南さんに見られていたことには全くもって気付かなかった。
彼の登場にはセラも驚いたのか、ケーキを食べて直ぐ少しばかりむせていた。


「沖田君。仲良くするのは良いですが、お嬢様に変なことを教えないで下さいね」

「はい、すみません。フォークがなくてつい手づかみで食べちゃったんですよね」

「つい……で手で食べてしまうなど、ここではあり得ませんよ。今後は剣術だけではなくマナーも学べる良いですね」


山南さんの笑顔は有無を言わさぬ強さがあって、僕は一人で苦笑い。


「それで、その汚れてしまった手はどうするおつもりですか?」

「え……っと、これは」

「まさかとは思いますが、そこにある噴水の水で洗おうなんて馬鹿げたことは考えていませんよね?」

「…………」


流石は山南さん、僕の思考なんて見抜いていたかのように言い当ててくれる。
勿論惚けるつもりでいたのに、セラが笑いを堪えるように僅かに肩を揺らすから、山南さんのこめかみがぴくりと揺れた。


「図星ですか……」

「いえ、まさか。違いますよ。ほら、このスカーフで拭く予定でしたよ、最初から」


新品のスカーフで仕方なく手を拭くと、そんな僕を見てやれやれという表情を浮かべる山南さん。
この人は何かと怖そうだから、なるべく敵には回したくない。


「気をつけて下さい。こんなところを近藤さんに見られでもしたら大事になりかねませんよ。あの人はお嬢様を大変可愛がっておられますからね」

『心配お掛けしてごめんなさい、山南さん。もうしないので、お父様には言わないで頂けませんか?』

「勿論告げ口はしません。ですが今後このようなことのないように。特に沖田君、お嬢様に悪影響を与えないよう言動には十分注意して下さい」


山南さんはそれだけ言うと、僕達の側を離れ再び城の中へと入っていく。
顔を見合わせた僕達は思わず一度無言になったものの、直ぐに二人して吹き出してしまった。


『総司のせいで怒られちゃったよ』

「君がフォークを持ってきてくれなかったからでしょ?そもそも殆ど僕しか怒られてなかったと思うんだけど。それも不公平だよね」

『ふふ、そうかも。可哀想だね、総司』

「しかも君が笑うから噴水で洗うことバレちゃったじゃない。なんであのタイミングで笑ったのさ」

『だってもう、おかしくて我慢できなかったんだもん。山南さんに全部見抜かれちゃってたね』

「本当にね。もう勘弁して欲しいよ」


あの程度のお説教で済んだから良かったものの、近藤さんに見られて幻滅されるのは避けたいところ。
マナーは日々学んでいるつもりだけど、気が緩むと命取りになりそうだと小さなため息を吐いた。


「あーあ、僕ももっとちゃんとしないとね」


出来るかはわからないけど。
でもセラの横にいても恥ずかしくない男になりたいと思う。


『総司は今のままでいいよ?』

「なんで?そんなに手掴みが似合ってた?」

『ふふ、違うよ。今のままの総司が素敵だよってこと。だから変わらないでいてね』


今のままで良いと言ってくれる優しさが嬉しかった。
それと同時に、セラから向けられる好意の理由が気になった。

からかうたびに少し膨れる顔も、意地悪だと言って拗ねる仕草も、どれも可愛くてたまらない。
でも、それだけじゃなくて。
優しくしたら、嬉しそうに笑ってくれる。
意地悪をやめたら、安心したようにほっとする。
僕の言葉ひとつで、彼女の表情がくるくる変わるのがわかるから、僕はきっと期待してしまうんだろう。

僕がもっと優しくしたら、セラは僕のことを好きになってくれるかもしれない。
僕がちゃんと大事にしたら、僕のそばにいてくれるかもしれない。
そんな淡い願望を胸に抱きながらも、本心ではわかってる。
そんなことで簡単にこの子の心が手に入るはずない。
僕はそんなに綺麗な人間じゃないし、正直狡いところだってたくさんある。
釣り合わないことは百も承知だ。

それでもセラが僕を見てくれるなら。
少しでも好きになってくれるなら、僕は何度でも優しくするよ。
君のためにできることなら、なんだってしてあげるよ。

まだ今の僕には好きだなんだって言える程の力や経歴は備わってないけど、僕は君が変わらないことを願いながら、この気持ちを大事に温めようと思う。
この想いをいつか伝えられるその日まで。

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