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総司さまのアストリア到着を今か今かと待っていた時。
総司さまからお手紙が届いた。
でもそれは、読むととても悲しくなってしまうお手紙だった。


――


セラ嬢へ

いつも優しい手紙、ありがとう。
セラ嬢からの手紙が本当に嬉しくて、何度も読み返しいます。
字を追っていると、セラ嬢の声が聞こえる気がして、胸の奥があたたかくなります。

今日はとても大事なことを書かなくてはいけません。
実は、僕は怪我をしてしまいました。
剣術の稽古で無理をして、左腕を骨折し、肋骨にもひびが入ったそうです。
医師からは、しばらく動かさずに、きちんと休むように言われました。

そのせいで、この冬はアストリアへ行くことができなくなってしまいました。
約束していたのに、突然こんなことになって本当にごめんなさい。
謝って許されることではないけど、本当に申し訳なく思っています。

この手紙を書きながら、もしセラ嬢を悲しませてしまっていたらどうしようと、ずっと考えていました。
セラ嬢が泣いてしまわないか、それが心配です。
僕が来る日を楽しみに待ってくれていたことをわかっているから、約束を守れなかったのが悔しくて胸が苦しくなります。
僕のことを待つのが嫌になってしまわないか、僕のことを忘れてしまわないかと考えると、それもとても怖いです。

でも僕は、離れていても、会えなくても、毎日セラ嬢のことを考えています。
朝に剣を振るときも、夜に手紙を書くときも、気がつくとセラ嬢のことばかりです。
会えなくなったからといって、僕の気持ちが変わることはありません。
それだけは信じてほしいです。

それに、次の冬には必ず行きます。
怪我を治して、また剣を振れるようになって、元気になった姿でセラ嬢に会いたい。
今みたいな情けない姿のままじゃなく、セラ嬢には胸を張って会えるように努力します。
だからどうか、僕のことを待っていてもらえませんか?
僕のこと、嫌いにならないでもらえませんか?
勝手なお願いだとわかっているけど、セラ嬢との約束だけはどうしても守りたいんです。

今回は暗いお手紙になってしまって、ごめんね。
ですが、僕の今の正直な気持ちをセラ嬢に伝えたくて書きました。

またお手紙を書きます。
これからアストリアも寒くなってくると思うので、風邪をひかないように気をつけてください。
セラ嬢が元気でいてくれることが、今の僕の支えです。

総司


――


いつもより元気のないお手紙。
それでも、総司さまの今のお気持ちが痛いほど伝わってくる手紙だった。
部屋でひとり、わたしは手紙の文字をみつめたまま動けない。
そしてぽたりと手の甲に水滴が落ちてきたと気付いた時には、それは沢山溢れてこぼれ落ちていた。


「セラ……」


部屋がノックされると、お母さまとお父さまがお部屋へと入ってくる。
お二人は少し悲しそうな顔で、わたしのことを見つめていた。


「アンナから手紙が届いたの。総司さんからのお手紙にも、この冬来られないことは書かれてあった?」

『はい……』

「そう……」


お母さまとのやりとりを黙って聞いていたお父さまは、椅子に座るわたしをそっと抱き上げると、ベッドへと座らせてくれる。
そしてその右側にお父さま、左側にはお母さまが座り、泣いているわたしを慰めるように優しい眼差しを向けてくれていた。


「残念ではあるが、またすぐに会えるだろう」

「ええ。アンナも総司さんもとても残念に思ってくださってるそうよ」


会えないことはとても悲しい。
庭園は総司さまが来た時に喜んでいただけるように綺麗に整えてあるし、手作りのクッキーだって食べてもらいたかった。
でも本当に悲しいのはそのことではなくて。


『総司さまのお手紙が……』

「ああ、どうしたんだ?」

『……とても……っ、悲しそう……なのです……』


怪我をしたと書いてあった。
それだけでもとても心配なのに、お手紙の文字がどこか泣いているみたいに見えた。
総司さまがひとりで悲しい気持ちを抱えているんじゃないかと思ったら、胸がぎゅっと痛くなった。

いつも優しくてあたたかい、総司さまのお手紙。
読むたびに、わたしの心の中にはお花がひとつずつ咲くみたいだった。
でも今日は読むたびに悲しくなって、涙が止まらなくなってしまう。


『……わたしは……総司さまのこと……ずっと大好きなのに……。忘れたり……嫌いになったりなんて……絶対にしないのに……』


わたしが泣きじゃくりながらそう言うと、お母さまはそっと手を差し出してきた。


「そのお手紙、少し見せてくれる?」


わたしはこくんとうなずいて、胸に抱えていたお手紙を差し出した。
お母さまとお父さまはお手紙を読み終えると、またわたしのほうを見て微笑んだ。


「確かに、とても悲しそうなお手紙ね」


お母さまはそう言ってから、少しだけ言葉を選ぶように続けた。


「でも、とても真心の伝わるお手紙だとも思うわ」


その言葉に、わたしはひっくと小さく息を吸って、お母さまの顔を見上げた。


「もしセラが、逆の立場だったらどう思う?」

『……逆……?』

「約束をしていたのに、セラが怪我をして総司さんに会いに行けなくなったとしたら、どんなことを考える?」


そんなことは考えたこともなかった。
でも言われてみて、胸の中にいろんな気持ちが浮かんできた。


『……総司さまに申し訳ないって思うと思います。約束を守れなかったから……嫌われちゃったらどうしようって……。会えない間に……ほかの女の子と仲よくなって……わたしのこと……もう、いいやってなったら……やだな……とか』


そこまで言ったところで、お父さまがふっと笑った。


「はははっ。セラも、総司殿と同じだな」


わたしは、ぱちぱちと目を瞬いた。


「男というのはな、強いように見えても案外女性よりもずっと繊細なところがあるものなのだ。俺も昔、母さまに少し冷たくされた時に、何か嫌われるようなことをしてしまったんじゃないかとひどく悩んだことがあってなあ」

「あなた?」


お母さまが少しだけ睨むように言った。


「私たちの話はしなくていいの」

「んん?駄目だったか?」


お母さまは「まったくもう」と小さく言いながらも、くすっと笑ってわたしの頭をやさしくな撫でてくださった。


「人はね、相手を大切に想えば想うほど、不安になったり心配になったりするものなのよ。総司さんがこんなに心配しているのは、それだけセラのことを大切に想ってくれている証だと思うわ」

「そうだとも」


お父さまも、頷いて言った。


「だからこれは、悲しいだけの手紙じゃないぞ」


その言葉を聞いて、わたしはもう一度お手紙を開いた。
総司さまの文字は、やっぱり少し泣いているみたいで、胸がちくんとした。
でもそれよりも強く、わたしのことを想ってくれている気持ちが前よりもはっきり見えた気がした。


『……ほんとうです。わたしのことを心配してくれる……とても、あたたかいお手紙です』

「ああ、そうだろうとも」

『でも……』


わたしは少し迷ってから、また口を開いた。


『総司さま……とても悲しそうです。どうしたら総司さまの悲しい気持ちを……なくして差し上げられるのでしょうか……?』


お母さまは少し考えてから、やさしく微笑んだ。


「それならセラからの素直な気持ちを、お手紙に書くのが一番じゃないかしら」

『……わたしの……気持ち?』

「ええ。さっき言っていたでしょう?。総司さんが大好きなこと。忘れたり、嫌いになったりしないこと。そういう気持ちを正直に書いてあげれば、きっと伝わるわ」


わたしはぎゅっとお手紙を握った。
胸の中にあたたかいものが、少しずつ広がっていくのを感じながら。


『全部、気持ちを正直に書いてみます』

「ああ、そうしなさい」

「セラの気持ちはきっと届くわ」


わたしは涙を手のひらで拭って、お二人に微笑みを向けた。

書きたいことも伝えたいこともたくさんある。
大切なわたしの気持ちがどうか伝わりますようにと願いながら、総司さまに届ける言葉を一生懸命綴ったわたしがいた。


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