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お父様が帰宅されたのは、いつもよりだいぶ遅い時間だった。
夕食の席で私とはじめ、お父様は大きな丸テーブルを囲んで食事をしていた。


「今日はのんびり過ごされたかな?」

「はい。お陰様で充実した一日を過ごさせて頂きました」

「それならば良かったぞ。ずっと城にいては退屈してしまうのではないかと心配していたのだが、二人で何をしていたんだ?」

「テラスで茶を頂いたり、城内を案内して頂きました」

「そうかそうか」

『あとは騎士団の稽古場にも顔を出しましたよ』


はじめがお父様に報告しなかった騎士団の見学のことを口に出すと、彼の動きがぴたりと止まる。


「おお、騎士団も見て下さったのだな!我が家の騎士団はどうだったかな、誰かと手合せなどはしたか?」

「いえ……」

『総司と手合せしてたよね。しかもすごーく、激しく』

「……ん?そんなに激しくやり合ったのかね?」

「そういうわけでは……」

『とっても激しい試合でした、山南さんが見兼ねて止めに入るほどに』


おっとりしたお父様が私とはじめを交互に見て、首を傾げているから少し可愛らしい。
そして私が投下した爆弾をうまく回収出来ないはじめは、若干青い顔をして黙っていた。


「そんなに激しく打ち合いをして怪我でもしたら大変ではないか。いかんぞ」

「はい、申し訳ありません」

「謝ることではないが、君や総司が心配なのだ。何故そのようなことになってしまったんだ?」

『二人とも剣術に目がないので、つい熱が入ってしまったみたいです。幸い怪我はしなかったので大丈夫ですよ』


流石にこの公爵家との関わり賭けて戦っていたことはお父様には報告できない。
当たり障りなく答えると、はじめは明らかに安堵した表情を浮かべていた。


「うむ、熱中出来るものがあるというのは良いことだ。総司との打ち合いはいかがだったかな?」

「久しぶりに腕の立つ相手とやり合えて嬉しく思いました」

「総司は確かに強いからな、互角にやり合えるはじめ君も相当なものだと思うぞ」

「いえ、俺はまだまだ修行中の身です。ですが次会った時は、あの者を負かそうと思っています」

「あははは、そうか!ならばこれからも剣術を腕を頑張って磨いてもらいたいものだな」


お父様は何も知らないから楽しそうに笑っているけど、私としては二度とあんな戦いは見たくないと思ってしまう。
賭け事をしていなかったとしても、あそこまで激しい打ち合いをしていたらいつかは大怪我をしてしまいそうだ。


「それにしても随分と遅くなってしまってすまなかったな。こんな夜分に公子様をお返しするわけにはいかんだろうし、良ければ今夜はここに泊まっていかれないか?」

「しかし……宜しいのでしょうか」

「構わんとも。その方が私も安心だ。今は来客用の離宮が使用できない状態でな、セラの隣の部屋が開いているからそこを使って下されば良いぞ。同じ階に私や山崎君もいるから、何かあれば遠慮なく言ってくれ」


私の部屋の隣ということは、いずれ専属騎士が生活するあの部屋のことを言っているのだろう。
私とはじめは思わず顔を見合わせてしまった。


「ご厚意、有り難く存じます」

「折角来て下さったのだ。今晩はゆっくり過ごしておくれ」


お父様の言葉に頷いて、実感のないままはじめをそのお部屋へと案内する。
おやすみと告げて自分の部屋に戻ろうとすると、はじめは少し困った様相で私を引き留めてきた。


「今日はすまなかった。セラはまだ怒っているのだろうな」


お父様にちくりと告げ口をしたからか、はじめは気にしてくれているらしい。
終わったことをいつまでも責め続けたいわけではないから、私は首を横に振り微笑んで見せた。


『ううん、もういいよ。これからはしないでもらえれば、もう気にしないよ』

「ああ、あのようなことは今日限りにする。大人気なかったと反省しているつもりだ」

『でも……こちらこそごめんなさい。総司がはじめを刺激するようなことを言ってしまったから、良くなかったよね』

「セラが謝ることではないだろう。それに、あの者と打ち合えたこと自体は良かったと思っている。あそこまで夢中になれる試合は久しぶりだった」


確かに二人の戦いは、剣術に詳しくない私から見ても互角でどちらが勝ってもおかしくない試合だった。
その迫力の凄さから、木の剣が真剣に見えてしまう程だったと思う。


『それなら良かった、って言って良いのか分からないけど……でも二人が怪我しなくて本当に良かった』

「真剣を持っているつもりで戦っていたからな。かなりの緊張感だった」

『ふふ、そんなに?』

「当たり前だろう。負けてしまえばセラと金輪際会えなくなってしまうところだったからな」

『本当だよ。この家を賭け事に使わないでね』


真面目なはじめは、私が少し怒るとすまないと本気で謝ってくれるから思わず笑ってしまうけど。
落ち着いて見えても、むきになることもある彼の意外な一面を知ることが出来たから、まあいいかと思える。


「今日一日付き合ってもらえて感謝している」

『こちらこそありがとう。疲れたと思うからゆっくり休んでね。隣にいるから、何かあったらいつでも声掛けて』

「ああ、ありがとう。おやすみ」

『おやすみなさい』


はじめにそう告げて、内接したドアから自分の部屋へと入るけど、なんだかとても変な気分。
いつもは隣に誰もいないから、今夜は少し安心出来るような、逆に落ち着かないような言いようのない気持ちだった。

私の専属騎士が決まった暁には、誰が隣で生活することになるんだろう。
そっとそのドアに指先を滑らせて、思わず総司の顔を思い浮かべてしまう私がいた。

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