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あれから日々は流れ、今日はついに学院の入学式。
新しい制服を身に纏った僕達は、四人で馬車に乗り、王都にあるセレスティア王立学院へと向かった。
天気も良いしセラも喜んでるし、僕の気分も明るくなる。
途中馬車の中で平助が煩かったけど、まあそれは許容範囲だ。


「うわあ、でっけー学院。こんなの俺初めて見たかも」

「この規模の学校は世界でも珍しいみたいですよ。設備も整っているみたいですし、多くのことが学べそうで今から楽しみです」

『生徒数も結構多いのかな?今年度の入学者は全部で三百人満たないみたいだよね』

「それでここの経営が成り立つってことは、一人の生徒から相当な学費を貰ってるってことだよね」


その学費を負担してくれた近藤さんには、感謝をしてもしきれない。
護衛は勿論、学びの面でも努力しようと気を引き締めて、学院の門を潜った。


「それにしても皆同じクラスで良かったですよね」

「そうそう。貴族科は三クラスって聞いてたから、ばらばらになっちまったらどうしようかと思ってたんだよ」

「流石に護衛役は離されないんじゃないの?離されたら護衛出来ないじゃない」

「まあそっか。選択クラスも誰かしらがセラと一緒になるように組んでるもんな。他の生徒達もそんな感じで分けられてんの?」

「いえ、基本護衛役をつけて就学される生徒はごく少数だと聞きましたよ。護衛を連れて歩くのは門のところまで、という方ばかりだそうです」

『え?そうなの?』


伊庭君の言葉に真っ先に反応したセラは、少し驚いた顔をして思わず足を止めていた。


「別に護衛役を連れてきてはいけないという意味ではありませんよ。ただ僕が以前耳にした話では、今年度の入学者にルヴァン王国の王太子殿下と王女殿下がいらっしゃるみたいなんですが、護衛をつけていらっしゃるのはその方々だけだと」

『大公子殿下や大公女殿下は……?』

「恐らく連れていないのではないでしょうか?この学院は警備体制が万全らしいので、学院側にお任せしてしまう家が殆どみたいですから」


思えば、先程から門のところで従者と別れている生徒を多数見かける。
セラもそれに気付いたのか、いまだにその足はその場で止まったままだった。


『そうだったんだ……。私全然知らなくて、皆を巻き込んでごめんなさい……』

「なんで謝るのさ。僕達は自分の意志でここに通うことに決めたんだよ。それに護衛を連れてた方が安全なんだから、その方がいいじゃない」

「そうですよ、それに僕はここの学院に通うのが前々から夢だったんです。僕の家の力だけではここに通える程の余裕がなかったので、近藤さんに援助して頂けるという話を頂いた時は本当に嬉しかったんですよ」

「俺も同じ。しかも学校なんて一人で通うより皆で通った方がぜってー楽しいじゃん。だから謝ったりしないでくれって。そもそも伊庭君が余計なこと言うからセラが気にすることになっちまったんだろ?」

「すみません、そんなつもりはなかったのですが」


騒がしくしている平助と伊庭君の横、セラは少しだけ気落ちした表情になってしまった。
どうにか元気を出して欲しくて少し屈んだ僕は、セラの耳元でこっそりと囁いた。


「僕はセラと一緒に通えて嬉しいよ」

『総司……』


下がっていた眉が元通りになったのと同時に、白い頬には赤味がさしてくる。
はにかむように笑ってくれたから、僕の頬も同調して緩んでしまった。


『ありがとう。折角皆が一緒に来てくれたから気にするのやめる、楽しまないとだもんね』

「そうですよ。それに公爵邸にいる時より、君と一緒にいられる時間が増えるのは嬉しいですからね」

「城にいたら月に数回しかセラに会えないもんな。この前伊庭君と話してたんだよ、テラスの横に騎士団の訓練場作ってくんねーかなって」

『ふふ、横に出来たら私は皆の練習風景を眺めながらお茶が出来るね』

「そしたら俺、毎回セラんとこに菓子貰いに行っちまうかも」

「そういうことを言う団員がいるから、テラスの横に訓練場が出来ないんですよ」


結局僕だけでなく、伊庭君や平助もセラと過ごす時間が増えることを一番に喜んでいるわけだけど、今回はセラの顔に笑顔が戻ったから良しとする。


「さあ、そろそろ行くよ。皆で遅刻したら大変でしょ?セラは新入生代表の挨拶だってあるんだから」

『そうだった。うう、やだな……緊張する』

「首席ってまじすげーよな。俺席でめっちゃ応援してるから!」

「僕も楽しみにしています。リラックスして演説されて下さいね」

『ありがとう、頑張るけど心臓壊れそう』


セラの性格的に大勢の前で話すのは苦手そうだ。
先程から一生懸命、挨拶文を唱えながら歩いているから、せめてその緊張だけでも代わってあげたくなる僕がいる。

そして入学式の会場となるホールへ着くと、物凄く盛大な舞台があって、思っていた以上に大勢の人で席は賑わっている。
唖然としたセラは再びその足を止めて、少し身体を震わせていた。


『私、こんな凄いところで話すの?』

「とても広いですね……。一学年の人数はそこまで多くなくても、総生徒数はざっと千人はいるでしょうか?」

「なんか俺、人に酔いそうなんだけど。てかあの舞台装飾すごくない?照明も豪華だし眩しそうだよな、あそこに立ったらすっげー目立ちそう」

「余計に緊張させるようなことをこの子に言わないであげなよ」


僕にも近藤さんの気持ちが移ったのか、新しい場所に旅立とうとしている雛鳥を見守る親鳥ような心情になってくる。
セラは式の途中で離席するため、最前列の端に座るように指示があったらしい。
クラス別に用意された席から離れて行く彼女の後ろを、僕もついて行くことにした。


「沖田君、君の席はここですよ。出席番号順だとこの紙にも書いてあるじゃないですか」

「こんな場所にいたらセラの護衛が出来ないじゃない」

「だからって君は彼女と一緒に壇上まで上がる気ですか?そんなことをしたらセラが悪目立ちしてしまいますよ」

「でも離れてる時に何かあったらどうするのさ」

「この学院は創立してから二十年以上経ちますが、いまだに襲撃や事件など起きたことはないそうです。君も見たでしょう?そこらじゅう衛兵ばかりですよ」

「確かに数はいるけど、あの衛兵達って本当に強いの?」

「しー!そういうことをあまり大きな声で言わないでください」


セラを見れば、僕に身振りで大丈夫だから座ってと言っているようだ。
平助も自分の出席番号のところにちゃっかり腰を下ろしてるし、僕も渋々言われた通りにすることにした。


「えっと、僕は二番だから……」

「君は僕の隣ですよ」

「えー、伊庭君が隣なの?」

「仕方ないじゃないですか、僕は一番なんですから。この席が不服なら名前を変えられたらどうですか?」


伊庭君の言葉にため息を吐き出して、取り敢えず今は着席する。
座るセラの後ろ姿を眺めながら、予想も出来ないこれからの学院生活がどのようなものになるのか、あれやこれや想像する僕がいた。


「セラは制服もよく似合いますね。先程あの子は申し訳なさそうにしてましたけど、正直護衛も付けずにこのような大規模な学院に入れるのは別の意味でも心配ですよ」

「さっきも門のところで視線凄かったしね」

「ですね……」


先輩なのか新入生なのかは知らないけど、男子生徒達の視線が見事にセラ一点に注がれていた。
それとなく睨みながら歩いていたものの、この人数を見てしまうと限りがなさそうでげっそりする。


「……あんたもいるのか」


どこかで聞いたことのある声が直ぐ近くから聞こえて、右側を向きたくない心情にさせられる。
仕方なく顔を上げると、そこには予想通りあの日以来のはじめ君が立っていた。


「僕はセラお嬢様の護衛をしております、アストリア騎士団所属、伊庭八郎です。斎藤君、宜しくお願い致しますね」


わざわざ立ち上がった伊庭君は、騎士らしく丁寧にはじめ君に挨拶をしている。
はじめ君も伊庭君に名乗ると、今度は僕の斜め前で立ち止まった。


「脚を退けて貰いたいのだが」


僕が脚を組んでいたせいでこの先の通路に行けないのだろう、はじめ君は不服そうな顔で僕を見下ろしている。


「ごめんね、脚が長くてさ。跨いで行ったら?」

「沖田君、公子様に対してとって良い態度ではありませんよ」

「でも学院内では生徒は皆平等って書いてあるじゃない。身分制度を作るべからずとも書かれてるよ」

「そうだとしてもそれは学院内で問題が起こらないようにする為です。わざわざトラブルになりそうなことを言ってどうするつもりですか?」


伊庭君に説教をされて、確かに問題を起こすわけにはいかないと素直に脚を引く。
はじめ君は冷たい目線を僕に向けるも、僕の前を無言で通り少し先の席へと腰を下ろしていた。


「あーあ。やだな、はじめ君も同じクラスなんて」

「全体的に男子生徒の方が少し多いですよね。騎士の方達もいらっしゃるので当たり前かもしれませんが」

「さっき護衛付きの人は殆どいないって言ってたけど、騎士団員も入れる学校なのになんでなの?」

「理由の一つとしては、ここの学院は学費が群を越えて高額なので騎士の身分ですと厳しい場合があるということでしょうか。実際は所謂高貴族と呼ばれる方ばかりです。僕達のようにお世話になっている家の方が援助して下さるなんていうことは、まずないことなんですよ。あとは敢えて変える方も多くいらっしゃるとは聞きますね」
 
「敢えて?」

「ええ。やはり従者としては窮屈に感じる場合が多々あるということでしょう。仕える相手によっては、学習に影響が出てしまいますから。その点僕達は近藤さんやセラのような人柄の良い方々の下に仕えられて、恵まれているということです」


嬉しそうに話す伊庭君の横顔を眺めながら、僕も一人納得をする。
肩書きも何もなかった僕が騎士としてここまで成長出来たのも、あの人達の恩恵があったからだと今日まで忘れたことはなかった。


「あ、そろそろ入学式が始まるみたいですね」

「セラは今頃緊張してるんだろうね、可哀想に」

「彼女でしたらきっと大丈夫ですよ。後で労いの言葉をかけてあげましょう」


これから僕達の新しい生活が始まろうとしている。
いまだに実感も湧かないまま、僕は小さく息を吸い込んだ。
城にいる時とまた違うこの場所で、どうかあの子が楽しく過ごせますようにと願いながら、顔を上げて舞台を見つめた。


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