9

その日の夜もすっかり更け、屋敷の中が静けさに包まれ始めた頃。
湯浴みを終えた私は、鏡台の前に腰掛け、エイミーに髪を乾かしてもらっていた。
指先がさらさらと髪を梳くたび、甘くやわらかな香りが広がり、思わず頬が緩んでしまう。


『今日、エイミーが使ってくれた香油、とてもいい香り。凄く気に入っちゃった』


振り返ってそう言うと、エイミーは嬉しそうに微笑んだ。
エイミーが私専属の侍女になってくれてからというもの、毎朝晩欠かさず丁寧に肌や髪を整えてくれるおかげで、以前とは比べものにならないくらい肌はなめらかになり、髪も指がするりと通るほど艶を取り戻していた。
とくに湯浴みの後は、全身がほのかな香りに包まれ、それだけで穏やかな気持ちになれる。
そんなささやかな幸せを感じられることが、今の私には何より嬉しかった。


「それは良かったです。今日使った香油は白百合の香りなんですよ」

『白百合……』


百合はアストリアを象徴する花。
私が心惹かれた香りが、故郷を思わせるものだったことが嬉しくて、それと同時に、遠く離れた懐かしい景色が胸の奥に滲み、どうしようもなく恋しくなる。
ぼんやりと鏡に映る自分を見つめていると、不意に部屋の扉を叩く控えめな音が静寂を揺らした。


「誰でしょう?」


エイミーと顔を見合わせ、小さく首を傾げる。
彼女が扉を開くと、そこには相馬卿が立っていた。


「こんばんは。夜分に申し訳ありません。今、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」

『相馬卿、こんばんは。もちろん大丈夫ですよ』


立ち上がって相馬卿の元に向かう。
屋敷の中ですれ違うことは珍しくないけど、こうしてゆっくり言葉を交わすのは久しぶりだった。 


「今から庭園に出ていただくことはできますか?」


不意に落とされた小さな声に、私は目を瞬かせる。


『今からですか?』

「はい。隊長がお待ちです。庭園までは俺がお供しますので、よろしければご一緒いただけるとありがたいです」


もう間もなく就寝の時間になるというのに、この時間に総司様が呼ぶなんて珍しい。
何か大切なお話なのだろうか。
それとも何か良くない出来事があったのだろうか。
心に小さな不安は浮かんだけど、それ以上に総司様が待っているという言葉が気になって、私は迷うことなく頷いた。


『わかりました。でも、もう夜着に着替えてしまったので、少しだけ待っていただいてもいいですか?』

「その必要はありません。隊長から、こちらを着るよう預かっております」


そう言って相馬卿が差し出したのは、深い紺色のローブだった。
内側には柔らかな起毛があしらわれていて、触れただけでも暖かさが伝わってくる。
夜風が冷える季節でも、これなら寒さを気にせず過ごせそうだった。


「こちらを羽織りましょう」

『わかりました』


部屋の中でローブを羽織り、エイミーに一声かけてから部屋を出る。
廊下に出た相馬卿は周囲を静かに見回し、人がいないことを確かめると、私の頭上にそっと手を添え、ローブのフードを優しく被せてくれた。


「では、参りましょうか」


そう言って歩き始めた相馬卿の後ろについて歩き出したものの、向かった先は正面玄関とは反対の廊下だった。


『相馬卿、どうしてそちらに向かうんですか?』

「秘密の通路があるんですよ」


こそっと囁くようにそう言って、相馬卿はどこか少年のように柔らかく笑った。
その表情に思わず目を瞬かせながら、私は後を追う。
いつも歩く廊下とは反対の道を進み、人の気配が感じられない屋敷の一角にたどり着くと、相馬卿は壁際にひっそりと設けられた重厚な扉の前で足を止めた。
普段なら物置か使われていない客間だと思って通り過ぎてしまいそうな場所だった。
腰に提げた鍵束から一本を選び、静かに錠を外す。
軋む音とともに扉が開き、室内に足を踏み入れると、中は家具も装飾もほとんど置かれていない殺風景な部屋だった。

けれど相馬卿は迷うことなく部屋の奥まで進み、壁際に掛けられた大きな織物をそっと脇に寄せる。
するとその陰に隠されるようにして、人ひとりがようやく通れるほどの細い石造りの階段が静かに姿を現した。
まるで屋敷そのものが大切な秘密を抱え込んでいるようで、私は思わず息を呑む。


『このお屋敷、こんなに凝った造りになっているんですか?』

「はい。万が一の際、敵の目をくらませて屋敷から離脱できるよう造られたそうです」

『確かに、お部屋の中に階段が隠されているなんて、思いもしませんでした』

「この場所は極秘なんです。屋敷の中でも知っているのは隊長と俺だけなので、どうかご内密にお願いします」

『え?お二人だけなんですか?』

「ええ。普段は閉ざされていますから、実は俺も通るのはまだ二回目なんですよ」


少し照れくさそうに笑う相馬卿につられて、私も思わず笑みを零した。


「なので、自分も少しだけわくわくしています」


そんなふうに素直な気持ちを口にする相馬卿が何だか可愛らしく見える一方で、それほど大切な秘密の場所を私が歩いてしまっていいのだろうかという戸惑いも胸に生まれる。


『確かにわくわくしますね。でも……真っ暗ですね』


階段の先を覗き込む。
明かりはほとんど届かず、石段は闇の中に吸い込まれるように続いていた。
胸が高鳴る反面、足元を見つめていると少しだけ怖さも込み上げてくる。
誰も知らない秘密の通路というだけで自然と緊張してしまう。


『この階段は、どちらにつながっているんですか?』


一足先に石段へ足をかけた相馬卿は、振り返って穏やかに微笑んだ。


「庭園ですよ。庭園側の出入り口も木々や蔦に巧みに隠されていますから、外から見つかることはまずありません」

『そうなんですね。そちらに総司様が?』

「はい。こんな場所を歩いていただくことになって申し訳ありません。ですが俺が責任を持ってご案内しますので不安にならなくても大丈夫ですよ」


私の表情から緊張を読み取ったのだろう。
相馬卿は安心させるように微笑み、静かに片手を差し出してくれた。


「足元が悪いですから、ここからは手を繋ぎましょう。隊長からも、暗い場所では必ず支えて差し上げてと言われています。どうぞ、お手を」

『ありがとうございます』


そっとその手に指先を重ねると、相馬卿は私が歩きやすいよう歩幅を合わせながら、力を入れすぎない優しい手つきで導いてくれた。
石造りの螺旋階段はひんやりと冷たく、壁に触れる空気まで少し湿り気を帯びている。
一段、また一段と慎重に降りるたび、足音だけが静かに反響し、まるで屋敷の奥深くに吸い込まれていくようだった。


「もう少しですよ」


その一言に励まされながら階段を降り切ると、今度は細い石造りの通路がまっすぐ続いていた。
壁の高い位置に小さな明かり取りがわずかに設けられているだけで、辺りは相変わらず薄暗い。
静かな通路をしばらく歩いていくと、不意にその先は石壁で途切れていた。


『あれ?行き止まり……?』

「実は、まだ仕掛けがあるんですよ」


相馬卿は壁際まで歩み寄ると、何気なく積まれた石の一つに手を添える。
その石をゆっくり押し込むと、壁の奥から小さく金具が噛み合う音が響き、続いて重たい石が擦れる低い音とともに、壁だと思っていた一面がゆっくりと横に動き始めた。
現れたのは、人ひとりが通れるほどの細い出入り口だった。


『わあ……凄い……』


思わず感嘆の声を漏らす私を見て、相馬卿はどこか誇らしそうに、それでいて照れくさそうに笑う。


「ですよね。俺も初めて見た時は、本当に驚きましたから」

『ふふ、冒険してる気分でした』


相馬卿に差し出された手を再びそっと取り、その温かな導きに身を任せながら短い石段を上がっていく。
やがて行き着いた先には、もう一枚の木製の扉が静かに佇んでいた。
相馬卿が扉を横に滑らせると、目の前を覆うように青々と茂る葉が現れた。
まるで庭園そのものが、この秘密の出入り口を優しく包み隠しているようだった。


「少し失礼しますね」


相馬卿は枝葉を傷つけないよう丁寧にかき分け、私が通りやすいよう細い道を作ってくれる。
その隙間から一歩外に足を踏み出した途端、目の前に広がった景色に私は思わず息を呑んだ。


『……わあ、綺麗……』


そこは、昼間に目にする庭園とはまるで別世界だった。
月明かりは銀色の薄絹を広げたように一面を照らし、濃淡の異なる緑の葉は夜露を纏って宝石のように煌めいている。
咲き誇る花々も決して華やかさを競うことはなく、多くは艶やかな葉陰にひっそりと寄り添い、時折覗く花弁だけが月の光を受けて淡く浮かび上がっていた。
少し先には、小さな湖を思わせる静かな水辺が広がっている。
風が吹き抜けるたび、水面には月が揺らめき、砕けた光が幾つもの星になって踊っていた。
湖畔には白い東屋があり、その柱には瑞々しいシダの葉が美しく絡まり、柔らかな緑の帳を作っている。
蔦や葉に囲まれたその姿は、まるで小さな隠れ家のようだった。


「待ってたよ」


庭園に見惚れたまま立ち尽くしていると、すぐ近くから聞き慣れた優しい声が届く。
はっとして振り返ると、月明かりの中で穏やかに微笑んでいたのは総司様だった。


『総司様……』


その姿を目にして、胸が高鳴る。
銀色の月光が総司様の髪や肩を淡く照らし、エメラルド色の瞳は夜の光を映して宝石のように静かに輝いていた。
美しい庭園の景色に溶け込むその姿は、現実とは思えないほど綺麗だった。
全てが夢を見ているのではないかと錯覚してしまうほど幻想的で、私はしばらく言葉を失ったまま立ち尽くしてしまう。
そんな私の隣で、相馬卿が総司様に軽く頭を下げた。


「隊長、お待たせ致しました。道中、問題ありませんでしたよ」

「ありがとう、助かったよ。それじゃあ予定通り、庭園周辺の警護をお願い」

「承知致しました」


相馬卿は静かに頷くと、今度は私のほうを向き、優しく微笑んだ。


「では、ごゆっくりお過ごしください」

『案内してくださり、ありがとうございました』


私が頭を下げると、相馬卿も柔らかく会釈を返し、静かに庭園の小径を歩いて行った。
その背中を見送っていると、不意に頭上をふわりと影がよぎる。
気付けば総司様が目の前まで歩み寄り、ローブのフードを外してくださっていた。


「寒くない?」

『はい。このローブのお陰で、とてもあたたかいです』

「それなら良かった」


そう言って安心したように微笑むと、総司様は私に手招きをした。


「おいで」


ここに呼ばれた理由もまだわからないまま、私は総司様の後ろについて静かな庭園を歩いていく。
小径を抜け、水辺のすぐ近くまで来たところで、その足が止まった。
そこには白く塗られた大きな木製のガーデンスイングが静かに置かれていた。
ゆったりと二人並んで腰掛けられる幅があり、肘掛けや背もたれには繊細な蔦模様の彫刻が施され、頭上を覆う屋根には白い薔薇と緑の蔓植物が優雅に絡み合っている。
細い鎖で吊るされた座面は風が吹くたびにゆっくりと揺れ、その動きに合わせて湖面に映る月の光も静かに揺らめいた。
そのすぐ前には小さな丸いテーブルが添えられ、硝子のランタンが淡い琥珀色の光を灯している。
すべてが穏やかに溶け合い、この場所だけ時間の流れがゆっくりになったように感じられた。


『わあ、可愛いお椅子』


思わず弾んだ声が零れると、総司様がガーデンスイングが揺れないように押さえてくれた。


「はい、どうぞ。座っていいよ」

『ありがとうございます、失礼します』


そっと腰を下ろすと、ふかふかの羽毛を詰めた淡い生成り色のクッションが優しく身体を包み込み、ガーデンスイングは重みに合わせてゆるやかに揺れた。
耳を澄ませば、水辺を渡る風が葉を揺らす音だけが静かに響いている。
見上げた空には雲ひとつない夜空には満天の星が瞬き、その中央には丸い月が穏やかな光を降り注いでいた。
目の前には静かな湖面、周囲を彩る深い緑。
夜露に濡れた葉が月明かりを映してきらきらと輝き、その景色を眺めているだけで自然と心が癒されていく。


『すごい……綺麗。まるでお伽話の世界に来たみたい』

「気に入ってくれた?」

『はい、とっても』


間髪入れず笑顔で答えると、総司様は満足そうに目を細め、私の隣に静かに腰を下ろした。
小さな丸テーブルには銀の盆が置かれ、その上には白磁に金彩が施されたカップが二客並んでいる。
総司様はその片方を手に取り、私に差し出してくださった。


「夜は冷えるからね。温まるよ」

『ありがとうございます、いただきます』


両手で受け取ると、指先に心地よい温もりが伝わる。
立ち上る湯気からは、紅茶と蜂蜜と林檎、それに少しだけ香辛料が香ってきた。
恐る恐る口をつけると、甘さの中に爽やかな酸味が広がり、身体の芯まで温まっていく。


『美味しい……』


揺れる椅子に身を預けながら景色を見渡していると、ふと胸に浮かんだことを口にした。


『いつもの庭園と全然違う場所みたいです。それに私、この辺りは歩いたことがありません』

「そうだろうね」


総司様は湖面を眺めたまま、小さく笑う。


「じゃあ今度、昼間に庭園を歩きながら探してみたら?」

『ふふ、それは楽しそうです。でも、見つけられるでしょうか?』

「さあ、どうかな。自力で頑張って探すんだよ」


にやりと微笑む総司様。
昼間の庭園を歩きながら秘密の場所を探す自分を想像すると、それだけで少し胸が弾んだ。
温かな飲み物をもう一口飲み、私は思い出したように総司様を見上げる。


『それに、あの隠し通路もすごかったです。まるで冒険家になったような気分でした』

「確かに普通は通る機会なんてないからね」

『本当に秘密基地みたいで、少しドキドキしちゃいましたし』

「相馬も似たようなことを言ってたよ」

『ですが、総司様と相馬卿しか知らない通路を、私が知ってしまっても良かったんでしょうか?』


そう尋ねると、総司様は迷うことなく頷いた。


「問題ないよ。ただ、このことは誰にも話さないでくれる?」

『もちろん、誰にも言いません』


そう答えると、総司様は「ありがとう」と優しく微笑んだ。
私も微笑み返しながら、そっとカップを両手で包む。
私がいつかこの屋敷を出て行く人間だから、総司様も私になら知られても構わないと思ってくださったのかな。
湯気の向こうに揺れる月を眺めながら、そんなことを考えていたけど、そもそも総司様はどうして今夜この場所に私を呼んだんだろう。
人払いもしているみたいだし、まさか私に何か大切な話があるとか?
例えば、今後の処遇についてとか。
本当は昼間に話すつもりだったけど、二人してお昼寝をしてしまったから、仕方なく夜にこうして私を呼んだのかもしれない。
そう思うと緊張と不安から、落ち着かない気持ちになってしまった。


「夜ご飯はちゃんと食べられた?」

『はい、沢山食べました。今日のお食事もとてもおいしかったですし、ケーキも大好きな味でした』

「口に合ったなら良かったね。昼間は確認出来なかったけど、腕の傷はどう?」

『以前よりもっと薄くなってきましたよ。もうほとんど目立たなくなりました』


そう言って袖口から少しだけ腕を見せると、総司様は月明かりの下で静かに目を細めた。


「本当だ、順調だね」


思い返せば最近の私たちは、顔を合わせるたびこんな会話ばかりだった。
総司様が一つひとつ気にかけてくださり、私はそれに笑顔で答える。
そんなやり取りを思い返しているうちに、何だか可笑しくなってしまい、思わずくすりと笑ってしまった。


「どうしたの?」

『いいえ。ただ最近の総司様、まるで私の保護者みたいだなって思ったんです』

「え?」

『色々気にかけてくださいますから。総司様って、意外と子煩悩になりそうですね』

「いや、僕は別に君の保護者になったつもりはないんだけどね」

『ふふ、それは勿論わかっていますよ』

「それないいけど」


総司様は呟くようにそう言って、私の隣で紅茶に口をつける。
その横顔を眺めながら、ふと頭に浮かんだ疑問をつい口にしてしまった。


『そう言えば、総司様はご結婚されてもう二年ですよね。お子様は作らないんですか?』

「げほっ……」


私の言葉を聞いた途端、総司様は飲んでいた紅茶を勢いよくむせ込み、苦しそうに何度も咳き込んだ。


『あっ……』


あまりにも突然のことに驚き、慌てて身を乗り出す。


『総司様、大丈夫ですか?』

「……大丈夫じゃないかもね」


苦しそうに息を整えながら返ってきた言葉に、私はますます心配になってしまう。


『本当に大丈夫ですか?苦しそうですけど……』

「いや、体は大丈夫」


そう言って髪を柔らかい仕草で掻き上げた総司様は、困ったように小さく笑った。


「君はどうしてそう、不意打ちばかりするのかな」

『不意打ち……ですか?』

「普通、夜景を見ながら、そんな話題になるとは思わないでしょ」

『そういうものなんですか?』

「そういうものだよ」


私は自分がおかしなことを聞いたのだろうかと少しだけ不安になる。


『ごめんなさい。失礼なことを聞いてしまいましたか?』

「いや、失礼ではないよ。ただ、君がそんなことを聞いてくるとは思ってなかったから、あまりにも予想外だっただけ」


そんなに驚くような質問だったのかな。
ご結婚なさって二年。
仲睦まじいご夫婦なら、お子様のお話が出ても不思議ではないような気がしたのだけど。

しばらく静かな時間が流れ、湖面を渡る風が葉を揺らし、ガーデンスイングがゆっくりと小さく揺れた。
やがて総司様は、手元のカップを見つめたまま静かに口を開く。


「今はまだ、子どもはいらないかな」


その声は驚くほどあっさりとしていた。
最初から答えは決まっていた、と言わんばかりの落ち着いた口調だった。


「今は必要だとも思ってないし、作るつもりもないよ」

『そうだったんですね。総司様はなんとなくお子様がお好きなのかと思っていました』

「嫌いじゃないよ。でも、それと欲しいと思うかどうかは別だから」


私にはその理由までは尋ねることはできない。
きっと、ご夫婦にしかわからない考えやご事情があるのだろう。
私のような立場の人間が軽々しく踏み込んでいいことではない気がした。


『確かに、そう簡単な話でもないですもんね。貴族の子どもは、生まれた瞬間から色々なものを背負うことになりますし、跡継ぎのお話もありますものね』

「そういうこと」


それだけ言うと、総司様は湖面に視線を戻した。
私は温かい紅茶を一口飲み、ふと笑みを浮かべる。


『でも、もし総司様にお子様ができたら、きっと可愛いでしょうね。エメラルド色のお目々だったら、とっても素敵だと思います』


そう言うと、総司様の手がぴたりと止まった。


「そうかな」

『はい』


私が迷いなく頷くと、総司様は私を見つめたまま、ふっと笑った。
揺れる木々の向こうでは月が優しく輝き、お伽話のような庭園だけが、変わらず穏やかな時間を包み込んでいた。

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