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その日の夜、早めにベッドに入ったにも関わらず寝付けなかった僕は、今日一日のことを思い出して一人悶々としていた。
こうなることはある程度予想していたからひたすら稽古を重ねて身体を酷使させたのに、結局全然眠れない。
セラが今頃一人で落ち込んでいたり泣いてるかもしれないと考えれば、身体を起こして着替えている僕がいた。

本当は専属騎士になるまで余計な行動は極力控えようと、セラの部屋に忍び込むことは止めるつもりだった。
それはけじめでもあり、自分を制御する為でもあったんだと思う。
でも二人で話せる機会が中々ないからこそ、あの大公子に何を言われたのか聞いておきたい。
その内容によってはあいつを野放しには出来ないから、僕の足は迷うことなく城の方へと向かって行った。

城の一番端の少し木が生い茂っているこの場所は、相変わらず誰もいない。
念の為辺りを見回して、いつもの如く枝に掴まりながら幹の段差に足を掛けた。
ここまで来ればあと少しでセラに会えるから、一気に心が躍るわけだけど、今夜はいつものようにはいかなかった。


「沖田さん?こんな所で何をなさっているのですか?」


何故ここにいるのか、その声の主は恐らく山崎君だ。
これは拙いと慌てて下りて、にっこりと笑みを作って見せた。


「山崎君じゃない。どうしたの?こんなところで奇遇だね」

「俺は先程落とし物をしてしまったので、見回りついでにこの辺りを探していたんです」


そう言った彼の手には、確かに失せ物探し用なのかランタンが揺れていた。


「それで沖田さんはこんな場所で何をなさってたんですか?」

「えっと……、ちょっと懸垂をね」

「懸垂……ですか?」

「そう。懸垂って腕の筋肉が付いていいじゃない。この木が一番やり易いんだよね」


そう言って頭上の枝を掴んで実際に懸垂をして見せる。


「ですが先程は木に登っておられましたよね?」

「もう少し高い位置で懸垂したらどうなるのかなって、試そうとしただけだよ」


僕の言葉を聞いて少し見上げた山崎君は、そのまま視線を上に辿らせ、急に何かに気付いたように僕を見た。


「まさかとは思いますが、この木を登ってお嬢様のお部屋に侵入するつもりではありませんよね」

「いや、まさか。流石にそんな馬鹿なことはしないよ」

「沖田さんでしたらしそうですが……」

「しないってば。そんなことしたら大問題になっちゃうしじゃない」

「勿論大問題ですよ!沖田さん、ここまで頑張ってこられたのに何をなさっているんですか?今は専属騎士が掛かった大事な時期なんですよ!?」

「わかってるし、僕は別に……」

「そもそもこんな時間に城の周りを彷徨くこと自体、どうかと思います。誰かに見られたらそれこそ要らぬ疑いを持たれることになるんですよ!?」


完全にお説教が始まって、げんなりしながら僕はその場に立ちぼうけ。
あと数メートル上に登ればセラに会えるのに、それが出来ないこの状況が辛い。


「わかってるよ。別にいつもこんなことしてる訳じゃないから」

「当たり前です。まさかこの方法でお嬢様の部屋に行かれたことがあるわけではないですよね?」

「ん?ないよ。全然行ってない」

「怪しいですね……」

「兎に角もうこんなことしないよ、だからこのことは誰にも言わないで貰えると助かるんだけど」


ため息を吐き出した山崎君は、「言いませんよ」と言ってくれる。


「沖田さん、今お嬢様と交際なさっているんですよね。山南さんから先日教えて頂きました」

「え、そうなの?」

「そうでなければ俺だって沖田さんの行動を見逃せません。一応近藤さん公認ということなので、本日の件は見なかったことにさせて頂きますが、今後そうはいきませんからね」

「はい、ごめんなさい」

「ちなみに知っているのは俺と山南さん、近藤さんの三人だそうなので他の人への口外はお控え下さい。騎士団員達に知られてしまうと、騎士団の士気が下がってしまう恐れがありますので気をつけて下さいね」

「はーい、わかりました」

「それでどうしますか?お嬢様に何かご用件があるのでしたら、俺が声を掛けることも出来ますが」

「え?そんなことまでしてくれるの?」


間髪入れずに僕が聞けば、山崎君は僕に呆れたような視線を向けた。


「そのくらいは別に構いませんよ。無断でお嬢様のお部屋に入られるよりずっとマシですからね」

「まあ、確かに」

「お嬢様は十時以降は城の外に出てはならないと近藤さんからきつく言われています。なので城の中の応接間でお待ち下さい。お嬢様が起きていらっしゃいましたら、俺が彼女を連れて参りますので」

「ありがとう、山崎君。恩にきるよ」

「その代わり、今後一切このようなことはお止め下さい。もし誰かに見られて、その者がこの木を伝えばお嬢様の部屋に侵入出来ることということ知ってしまったらどうするんです?危険でしょう」

「それは危険過ぎるね。なんでここに警備を置かないの?それかこの木を全部切るなりしてくれないと心配なんだけど。お願いだからもっとちゃんとしてよ」

「沖田さんがそれを言いますか……?」


冷たい目で僕を見つめる山崎くんに続いて、城の中へと足を進める。
辺りが暗いからか、いつもとは違う雰囲気を感じながら、応接間を目指した僕だった。

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