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騎士団見習いとして入団することになった僕は、城内で契約を交わした後、同じ敷地内にある騎士団専用の住居へと案内された。

アストリア騎士団は、公爵家を守護するために設立され、その規模の大きさから公爵邸の敷地内に専用の訓練場や騎士団員の住居が備えられている。
騎士団員の中には家族を持つ者もいて、独身者向けの寮と家族向けの住居が用意されていた。
また常に屋敷を護る必要があるため、一部の騎士は交代制で当直につき、警備を強化しているようだった。

独身寮に足を運ぶと、皆で食事を摂るスペースがあり、それ以外は個人個人の一人部屋がある。
毎月の給金に加え、衣食住まで与えられた何不自由ない暮らしがあまりに優雅で、信じられない程だった。
でもそれもその筈、本来騎士団に入団出来るのは貴族出身の者だけであり、幼い頃から剣術の稽古や学を積んだ文武両道の人間だけだ。
僕のように国を追われた人間が馴染めるかは分からないけど、セラと近藤さんがくれた折角の機会を逃したくはなかった。


そしてそれから数日後。
僕が見習いとして騎士団の活動に参加する日がやってくる。
騎士団の訓練場に立つ僕に向けられるのは、団員達の厳しい視線ばかりだった。
歓迎されないと分かってはいたものの、ここまで露骨に警戒心を向けられると複雑な心境になる。
例の誘拐事件に関わっていたことは目撃していた数人の団員から瞬く間に全体に広まったらしい、敵意に似た感情ばかりが向けられていた。

でも当然だ。
見習い騎士になるには厳格な選抜があり、並の者ではここに立つことすらできない。
それなのに僕は、誘拐犯の一味だった挙げ句、セラの推薦でここにいる。
騎士団の誰もが、その事実を知れば余計に快く思わないことは予想できた。


「さて、今日はお前らに新しい見習い騎士を紹介する」


騎士団長である原田左之助という男が腕を組みながら、軽い口調でそう言った。
けれど彼の鋭い視線は、場の空気をしっかりと把握していることを示しているように思えた。


「こいつは色々と事情があってな、推薦で今日から特別に入団することになった」


一度訪れた静寂。
そして次の瞬間には「特別?」「推薦?」「何の冗談だよ」と騎士たちの間にざわめきが広がった。


「見習いになるには試験を受けなきゃならないはずだろ?」

「推薦って……犯罪歴のある奴に誰がそんなことを?」


その問いに、原田団長は自然と視線を向ける。


「セラお嬢様からの推薦だ」


彼がそう言った瞬間、場の空気が変わった。
騎士達が、思わず背筋を正す。
それまで不満を口にしていた者たちも、ぴたりと口をつぐんだ。


「セラお嬢様が?」

「本当なのか……?」


半信半疑の声が飛び交う中、彼女が前に進み出た。
セラの存在が場の空気を変え、彼女が一歩踏み出した瞬間、騎士たちの視線は一斉にセラへと向けられた。
セラは公爵家の令嬢として、皆にとって何よりも大切な護るべき存在なのだろう。
その場にいた騎士たちの多くが僅かに頬を染め、彼女に見惚れたように動きを止めていた。


『お忙しい中、お時間を作って頂きありがとうございます。今日は皆さんに大切なお話があります』


澄んだ声が響く。
セラは皆の前に立ち、静かに深呼吸をした後、丁寧に頭を下げた。


『まず初めに……今回のこと、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。皆さんが私を探し、助け出すために尽力してくださったこと、心から感謝しています』


その言葉に、騎士たちの顔つきが和らいだ。
無事に戻ってきた彼女をこうして目の前にできることに、誰もが安堵しているのがわかった。


『私が森で皆さんに救出していただけたのは、奇跡のような幸運でした。ですがあの場所にたどり着けたのは、この方が助けてくださったからなんです』


セラがそっと僕を振り返る。
その瞳には、僕を信じる気持ちが宿っているかのようにも見受けられた。


『彼がいなければ、私はまだ地下室に閉じ込められたままでした。おそらく、生きてここに戻ることはできなかったと思います』
 

その言葉に、騎士たちの表情が変わった。
最初は厳しく僕を見つめていた者たちも、少しずつ彼女の言葉に耳を傾け始めていた。


『この方は訳あって見張り役をしていましたが、私の身に危険が迫った時、彼はその場で私を助ける決断をしてくれたんです。私が脱出するための策を考え、一緒に逃げてくれました。七人もの男の人達が私を殺そうと剣を構えている中で、たった一人で戦い、私を守り抜いてくれたのです』


セラの声が少し震えると同時に、
それを聞いていた騎士達は驚いたように僕を見た。


「は?七人相手に……?」

「一人でってまじかよ」

「それは、本当なのか?」

『はい、本当です。私がこの目で見ました。彼の剣術の腕や体術、機転も全て素晴らしいんですよ』


セラははっきりと頷いてそう告げる。
その瞬間、騎士たちの視線が変わったのが分かった。


『戦いの中で腕に深い傷を負いながらも、最後まで私を守ってくださいました。私はそんな彼の勇気と誠実さを信じています』


騎士たちは無言のままだったけど、先ほどまでの敵意に満ちた空気は、少しずつ変わり始めていることは感じ取れる。
セラはもう一度僕を振り返ると、穏やかに微笑んで言葉を続けた。


『彼……沖田総司がこの騎士団に加わることを、私が推薦しました。勿論すぐに信じてほしいとは思っていません。ですが彼が努力する姿を見てくださったら、きっと皆さんにもご理解頂けると思います。私は彼がここで騎士として生きていけるように願っています。だからどうか、皆さんも彼を支えてあげてください』


静寂が訪れ、しばらくの間、誰も何も言わなかった。
でも当たり前のことながら、すべての者が納得したわけではなかった。


「それでも、こいつは元々誘拐犯の一味だったんだろ?」

「いくらお嬢様を助けたとはいえ、一度でもそんな輩と関わっていたなら……」

「俺、こいつが捕えられたところを見てたぜ。また裏切らない保証はあるのか?」


疑念に満ちた視線が、僕に突き刺さる。
当然だろう。
けれど、『私が保証します』、そうセラは一切の迷いなくそう言った。
それでもなお、疑念を捨てきれない者たちはいる。
その空気を変えたのは、藤堂平助と呼ばれる僕と年齢が近そうな一人の団員だった。


「つーか、今ぐちぐち言ったって意味ねーじゃん。どんな奴かは、これから見て決めればいいんじゃねーの?」


彼は気楽に言いながらも立ち上がり、僕の肩を軽く叩いた。


「疑ってる奴らもいるみたいだけどさ、お前が本当に強いなら、すぐに認めてもらえるって!」

「そうだな。口で言うより、行動で示せばいいってだけだぜ」

「お前は今日から見習いとして鍛錬を積むんだ。実力を見せたければ、まずは皆と肩を並べられるようにならねぇとな」


永倉副団長、続けて原田団長が笑顔でそう声を掛けてくれたからかその場も静まる。
笑顔で礼を告げ、皆の前で名前を名乗れば、取り敢えず僕の見習い騎士としての入団挨拶は終了した。


『総司、頑張ってね』


セラは僕の方へと歩いてくると、緊張をほぐそうとしてくれているのか柔らかく微笑んでくれている。
まるですべてを信じているとでも言うような優しい眼差しが、僕にとって何よりの救いだった。


「ありがとう、わざわざ練習場まで来て貰ってさ」

『ううん、このくらいのことはしたかったから。上手く説明できてたかな?』

「うん、十分だよ」

『昨晩からお父様は、視察のために遠征に出掛けているの。その護衛としてついてくださってる騎士の方々が他にもいらっしゃるから、これで全員ではないんだけど……』

「大丈夫だよ。その人達には僕が自分で説明できるから」

『うん。何か困ったこととかあれば、すぐに教えてね』


当たり前だけど、セラが生活している城内と騎士団エリアは同じ敷地内といっても距離がある。
普段は中々この姿を見られないのかもしれないと思えば、少しだけ名残惜しい。
ただ黙って彼女のことを見つめてしまう僕がいた。


『どうかした?』

「あのさ」


見習いの僕は、当たり前のことながら城内には入れない。
だからこどこに行けはセラに会えるのか聞いてみようと思っていたけど、そんな僕達の会話を割って入ってきたのは、つい先程僕を援護してくれた平助と呼ばれる団員だった。


「セラ、平気だったのか?めっちゃ心配したんだぜ」


躊躇いなく呼び捨てで、しかも僕よりも気楽に彼女に話す様子に僕は思わず目を瞬いた。


『うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね』

「それはいいんだけどさ……セラが誘拐されちまってから、まじ気が気じゃなかったんだ。伊庭君と毎日セラのこと探してたんだけど、見つけてやれなくてごめんな」

『ううん、ずっと地下に閉じ込められてたから仕方ないよ。それに探してくれてありがとう。私はほら、もうこんなに元気』

「無理しないでくれよ。もう今日からレッスン始まるのか?」

『うん。あと少ししたら始まるよ、最初はヴァイオリン』


そう言って演奏の弾き真似をして笑う彼女は、思っていた以上に気さくな面もあるらしい。
その様子を見て平助の頬も完全に緩んでいた。


『あ、私そろそろ行かないと』

「おう!レッスン、無理ない程度に頑張ってくれよな」

『ありがとう。平助君と総司もね。あ、平助君。総司のこと宜しくね。仲良くしてあげてね』


セラは愛らしく微笑むと、あまり時間がないのか急ぎ足で練習場から去っていく。
その後ろ姿を眺めながらも、これからの見習いとしての毎日を気合いを入れて頑張ろうと意気込む僕がいた。

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