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セラがいなくなると、入れ替わりで騎士団長である原田左之助が話しかけてくる。
僕に向かって感じ良さそうに微笑むと、その手を僕に差し出してきてくれた。
「よう、新入り。名前、なんだっけか」
「沖田総司です。宜しくお願いします」
「総司だな。俺は騎士団団長の原田左之助だ。これから仲間になるんだ、敬語なんざなしにしようぜ」
「宜しいんですか?」
「ああ、むしろそうしてくれ。畏まられるのは好きじゃねぇんだよ」
苦笑いしながらそう話すこの人は、団長という立場でありながら下の団員に気負わせないよう配慮してくれる人らしい。
以前の団長のような傲慢な男でなくて良かったと考えながら、僕もその場で微笑みを返した。
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」
「おう。で、こっちが副団長の永倉新八で、こっちは平助だ。平助はお前と年も近いと思うぜ」
「宜しくな、新入り」
「宜しく、総司!平助って呼んでくれよな」
平助や新八さん、左之さんは快く僕を迎え入れると、城での決まり事や騎士団の任務など色々なことを教えてくれた。
新しく団長になったばかりの左之さんが、騎士団内の雰囲気を変えるべく敬語の使用を不用にしたのもつい先日のことだという。
「なあ、お前めっちゃ強いみたいだよな。どこで剣術習ってたの?」
以前、大公子だった頃は大公国が抱える騎士団内で日々剣術の稽古に励んでいたけど、詳しくは話せないから当たり障りなく答えることにした。
「残念ながら習ったことないんだよね。強いて言うなら小さい頃、父親に教えて貰ったことがあるくらいかな」
「へー、お前の父さんって凄いんだな。てかさ、お前なら専属騎士だって夢じゃないんじゃねーの?」
「専属騎士って?」
「近藤さんには山崎君がもうついてるけどさ、うちのお嬢様にはまだなんだよ。本来はデビュタントを迎えてから騎士をつける予定だったらしいけど、ほら。今回あんなことがあったじゃん。近藤さんが早めに専属騎士をつけるべきだって騒いでるらしくって」
「へえ。それってどうやって決めるものなの?」
「詳細は俺たちも教えてもらってねーんだけど、騎士階級が高い程有利だっていうことは間違いねーよ。それに数年に一回、騎士団主催の大きな大会が開かれるらしくて、その大会で良い成績を残すことが大事だろうって言われてる。あとは任務の功績は勿論、普段の素行とか、護衛対象との相性も見られるって話だぜ。あとはセラはこれから学院にも通うようになるし、年齢差が三歳以内だと理想だって言われてる」
そう言って三の指を立てて見せた平助は、にやりと笑う。
「ちなみに俺、セラとは一歳差」
「じゃあ候補に入るんじゃない?」
「だといいんだけどなー。でも、まずは俺ももっと騎士階級上げねーと話にならねーよ。で、総司は何歳?」
「僕は十四だけど」
「げ、俺の一つ上ってことは総司も専属騎士の候補になれるじゃん。言っておくけど大会では俺が勝つからな!」
人懐っこいだろう平助は、僕に人差し指を向けて牽制してくる。
まるで子犬が吠えてるみたいで、思わずくすりと笑ってしまった。
「はは、平助は元気だね」
「元気だねって何だよ。てか総司は専属騎士になりたくねーの?」
「んー、そもそも専属騎士の仕事が何なのかよく分かってないんだよね。そんな役職があることだって今知ったし」
「そうなのか?でもここには、専属騎士になれることを期待してる奴ばっかだぜ」
「ふーん。専属騎士ってそんなに待遇いいの?」
「そりゃ勿論、ここみたいな別邸じゃなくて城に住めるしさ。飯だって美味もんが食えるし、部屋だってグレードアップするじゃん」
「ああ、なるほどね。だからなりたいんだ」
「馬鹿、ちげーって!」
「え?違うの?」
意味が分からなくて間髪入れずに聞き返す僕に、平助は周りをきょろきょろと見渡す。
誰の視線を気にしてるかは知らないけど、平助は無邪気に笑って言った。
「そんなの、みんなセラと仲良くなりたいからに決まってんじゃん」
「ああ、お嬢様と?」
「そうだって。可愛いし良い子だし、あの立場なのにわがままとかも言わねーし。しかもたまに差し入れとか持ってきてくれるんだぜ?セラの専属騎士になれたら最高なんだけどなー」
「確かに良い子そうだよね」
「だろ?だから男としては、自分の手で護りたいって思っちゃうわけ。総司だってそう思ったから誘拐犯から護ったんだろ?」
まあ、それは当たり前だ。
あの子に危険が迫ってきた時は、僕が真っ先に助けたいとは思う。
でも専属騎士という役職は、正直今の自分には程遠い気がした。
まずここ数日は色々なことがあり過ぎて、先のことを考えるより今の生活に早く慣れることで手一杯だというのが本音。
それに今までの素行も見られるとしたら、国を追われた挙げ句、罪を犯した僕が専属騎士になることは不可能に近いだろうという現実が心中に影を落とした。
でも今は多くを望むより、正しい剣術を身につけたい。
力をつけてこの騎士団で誰よりも強くなることが出来た時、初めてその役職を望むことが許される気がした。
「確かに護りたいとは思うけど、専属騎士のことは僕にはまだ分からないや。ここのルールにも馴染めてないしね」
「そっか。まあ、今直ぐ専属騎士を決めるってわけじゃねーと思うから、他の奴にも色々話聞いてみるといいと思うぜ。それよりさ」
じっと僕を見つめ、いきなり顔を近づけてきたと思ったら、平助は再び小さい声で話しかけてきた。
「総司ってあの事件に関わってたんだろ?なんか騎士団内ですげー噂になってんぞ」
「あー……まあ、ちょっと?」
「でも捕まってたのに騎士団入団ってどう考えてもよく分かんなくってさ。まじでセラに推薦して貰ったのか?」
「そうだね、一応」
平助は直球で色々聞いてくるから、下手なことは言わないように言葉には気をつける。
けれどきらきらした大きな瞳には邪心はなく、ただ単に好奇心で僕に話しかけてきてくれることは伝わってきた。
「俺たちも全力で探してたけど、誘拐犯がどこにセラを隠してるのか全然分からなくてさ。時間が経つにつれて、みんな焦ってたんだよ」
「酒場の下が隠れ家のような地下室になってて、ずっとそこに閉じ込められていたんだ。地上の酒場は表向き普通の酒場と変わりないから、ちょっとやそっとじゃ割り出せないような仕組みになってたよ」
「そりゃ見つからない筈だよな。だからセラが森の中で見つかったって聞いた時は、めっちゃ驚いたんだよ。しかも後から見張り役だったお前が助けたって話を聞いて、正直信じられなかったんだ」
「まあ、そうだろうね」
僕は苦笑いを浮かべた。
誘拐犯側にいた人間が、急に助ける側に回るなんて、誰だって疑問に思うだろう。
「でもさ、俺はセラが言うなら本当なんだろうなって思ったんだよ」
さらりと平助の口から出た言葉に僕は思わず目を瞬く。
「セラは嘘をつく奴じゃないし、誰かを推薦するなんてよっぽどのことだろ? だから俺は、お前のことちょっと気になってたんだよな」
平助はにかっと笑って僕を見つめる。
純粋な興味を持たれていることに嫌な気持ちはしないから、僕もさりげなく笑顔を返した。
「あんまり期待されても困るけどね」
「でも七人相手はすげーって。まあでも、なんでよりにもよって総司なんだ?って思ってるやつは正直まだ多いと思う。なにせ、セラはみんなの憧れだかさ」
「憧れ?」
「そう。だってうちのお嬢様は騎士団の皆の自慢なんだぜ。若い騎士団員達はみんなお嬢様のために戦ってるし、そりゃいきなりお前みたいなのがセラの推薦で入って来たら面白くねーよ」
「へえ、そういうもの?」
「当たり前だろ。だって推薦なんて初めてだし。なんか総司だけ特別みたいで狡いじゃん。俺だって面白くねーもん」
きっと騎士団の誰もが、あの子を護ることを誇りにしている。
そして多分僕は良くない意味で警戒されているらしく、先程からたまに感じる団員達の視線は鋭い。
その点、目の前で不服そうにしている平助は、ある意味言葉通りでわかりやすくてありがたいくらいだ。
「だからさ、お前がどういう奴なのか俺はちゃんと見極めるつもりなんだ」
「そっか」
「そっかって。そんだけ?他になんかねーの?」
「なんかって言われてもね。まあ、僕は厳しい鍛錬や試験を乗り越えないと正規騎士団員になれないから、これから死に物狂いで頑張るつもりだよ」
「頑張ってくれよな。総司とやり合うの、俺楽しみにしてるから!」
平助は陽気に笑いながら、僕の肩を軽く叩いた。
でも平助の言葉には、どこか真剣な気持ちが込められていた。
それが僕にはとてもありがたかったし、セラがいるからこそこの場所に立てている。
だから僕も早く見習いを卒業して一人前になりたいと思う。
セラが僕に与えてくれた、その一歩を踏み出す勇気が、少しずつだけど確実に芽生え始めている気がした。
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