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そして次の日、私達三人は千ちゃんが勧めてくれたお店でお茶をして、他愛のない話をしながら楽しい時間を過ごした。
千ちゃんと立てた予定通り、一つのお店に入ると彼女が目で合図してくれる。
それに頷いて見せた後、計画を実行するため、総司に話し掛けることにした。


『総司、私ちょっとお手洗いに行ってくるね。そこにあるんだけど』

「うん、わかったよ。行っておいで」


笑顔で総司に手を振って、言葉通りお手洗いに。
でも実はこの店のお手洗いは向こう側にも出入り口があるらしい。
そのもう一方から出た私は、総司に気付かれないようその店を出て、千ちゃんに教えて貰った近道を小走りで進んで行った。


『早くしないと……』


総司に気付かれたら一大事。
息を切らして向かった先は、時計の売っているお店だった。
お目当ての懐中時計を贈り物用として包んで貰うと、渡す日が楽しみで思わず頬が緩んでくる。
それを大事に抱きしめてから鞄へとしまい、もう一度元来た道を走って行った。

でも、この道はメインの通りより薄暗い。
近道にはなるものの、店の看板もどこか暗いイメージで、正直外観だけだと何のお店かわからないくらいだった。
だいぶ息も切れた頃、私が一度走るのをやめると、丁度近くのお店から男の人が三人出てくる。
その人達を避けるように歩いた筈が、彼らは私の目の前で行く手を阻むように立ち止まった。


「うわ、君すっごい可愛いね。ここらへんのお店の子?」

『え?』

「馬鹿、どう見ても違うだろ。どっかのご令嬢っぽいじゃん」

「なんで君みたいな子がこんなところ歩いてるの?」


悪い人達ではなさそうだけど、背の高いその人達に囲まれて少しずつ怖くなってくる。
彼らを見上げながら、その場から動けなくなる私がいた。


「ほら、お前が怖いってよ。可哀想に、怖がらせちゃってんじゃん」

「大丈夫大丈夫。俺達、怖くないし優しいから。そこの店で一緒飲もうよ」

『あの、私急いでて……もう行かないといけないんです』

「やば、声も凄く可愛いんだけど。君いくつなの?」

「つーかお前は邪魔すんなよ。ほら俺と一緒に行こ?」

『いえ……私本当にもう行かないと……』

「大丈夫、少しだけだからさ」


全然話を聞いてくれないその人達は、私の肩を引き寄せるとぐいぐい引っ張って店の中に入ろうとする。
逃げようとしても、違う人に手首まで掴まれて、いとも簡単に引き摺られてしまうばかりだった。

でも店の中に入る手前、私達の目の前に勢いよく現れた一本真剣が風を切る。
驚いて顔を上げると、総司が彼らを睨みつけて直ぐ近くで剣を構えていた。


「その子に何してるんですか?離して貰えます?」

「え?なに?こいつ」

「まさか、この子の護衛とか?」

「お兄さん、別に俺達はこの子とちょっと遊ぼうと思っただけで」


総司はふざけた様子で話す男の人の肩を掴むと、勢い良く壁に押し付ける。
その瞳は相当苛立って見えて、助けて貰った私まで不安を感じてしまうものだった。


「離してって言ってるんですけどね。離さないならその腕、斬り落としますけど?」


静かな声で物騒なことを言う総司に、その男の人達は歯向かうことはせずに去って行く。
総司を追いかけてきただろう千ちゃんが、息を切らしながらも身振りでごめんと私に合図をしたことで、何となく今の状況が理解出来た。


『総司、助けてくれてありがとう……。あの……』

「他に買い物は?全部終わったの?」

『あ……うん、私はもう大丈夫……』

「千ちゃんは?」

「ええ……私も特にないわ。だいぶ暗くなってきたし、今日はもう帰る……?」

「そうだね、そうするよ」


最低限のことしか話さない総司は、明らかに怒っている様子だったから、私と千ちゃんで顔を見合わせながら元いた場所へと無言で歩く。
そして千ちゃんと別れ、総司と馬車に乗り込むと、目の前に座る総司はいつになく苛立った顔付きで私を見つめた。


「で?なんで僕に黙ってあんな場所にいたのかな」

『ごめんなさい……』

「なんでって聞いてるんだけど」


総司は決して声を荒げたり、怒鳴ったりしない。
でも静かなその音色には怒りの感情が含まれていることがわかったから、私の心音は早くなるばかりだった。


「言えないの?」

『あの通りに気になるお店があって、少し覗いたら直ぐに戻るつもりだったの。総司に心配かけてごめんなさい……』

「気になる店って何?」

『それは……』

「ちなみにあの通りって、男が女の子に会いに行くようないかがわしい店ばかりある通りだけど。歩いてて気付かなかった?君みたいな女の子は一人も歩いてなかった筈だよ」


思い返してみれば、すれ違ったのは男の人ばかりだった。
店の看板の雰囲気も少し普通とは違っていたその理由が、今になってようやくわかった。


「それなのにそんな場所に気になる店なんて本当にあったの?」

『違うの、あの道りを抜けたもっと先にあって……』

「もっと先って?そもそもなんで一人で行ったのさ。一人で歩くことがどんなに危険か、君ならわからない筈ないよね。セラのことをいつも心配してる近藤さんの気持ちとか考えたら、そんなことは出来ないと思うんだけど」


総司に言われたことは最もで、返す言葉も見つからなかった。
どうしても総司にあの時計を渡したくて、そのことを最優先にしてしまった結果、私はいつの間にか絶対にしてはいけない選択をしてしまったらしい。
後悔しても遅いけど、自分の浅はかな行動を情け無く思った。

でもこんな状況で時計のことは話したくはないし、話せない。
今日まで努力をし続けてくれた総司にあの時計を渡すことは、私にとってとても大切な想いの形の一つだからだ。
それを今話してしまえば、私の想いごと今日の苦い思い出と重なってしまいそうで、それだけは避けたかった。

けれどいつも私の身を案じて、私を護る為に強くなってくれた総司に対して、私のしたことは裏切りだったと今になって気付く。
それだけは謝りたくて顔を上げたけど、私を見る総司の目付きはいつになく冷たくて。
愛想を尽かされてしまったかもしれないと思えば、スカートの上で握る拳が僅かに震えてしまっていた。


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