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前回の時同様、軽食を摂ることになった僕達は一つの店へと足を運んだ。
あの馬車が突撃してくる可能性を危惧して、違う店にさり気なく誘導したものの。
あの事故が再び起きるのかどうかは、正直とても気になることだった。

何故ならこの先の未来が、必ずしも前回と同じ道を辿るとは限らない。
誰かの強い意志が働いている場合は別として、他愛のないことや自然現象的なものはだいぶ不確かだと、ここ最近になってわかってきた。
だからまだ手探りだけど、取り敢えず危険な場所を避けることは必要不可欠な筈。
このまま無事に護衛任務を終えられることを祈りながら、嬉しそうに食事を摂るセラを眺めていた時だった。


「全員手を上げろ!」


店の中に入って来た賊数人が、客一人を人質に客や店員にナイフを向ける。
咄嗟に剣に手を伸ばしたものの、賊のうちの一人が僕達の方に向かって拳銃を向けた。


「まじかよ、拳銃……?」

「量産体制は整っていないと聞いていましたが……」


以前聞いた話によれば、今の段階では爆発し易く命中精度も低いため戦闘で使えるようになるにはまだ相当の年月を費やす必要があるということだった。
だからその男の持つ銃がただのハッタリなのか、それとも精度を高めた完成品なのかも見当がつかずに、僕達は動きを封じられるしか道はなくなった。


「武器は全て床に置いて、手を上げたまま外側を向くように立ってろ!逆らったら命はないと思え!」


今日は戦闘任務ではなかった為、僕達は皆軽装備。
懐の剣を床に置けば丸腰同然になるから、素直に指示に従うべきか悩んだ。
しかもこの建物の一、二階は土産売り場になっていて、僕達が飲食していた場所は店の三階。
外に逃げられる環境でないことも、僕達にとっては劣勢だった。

けれど騎士団制服の内ポケットに短剣を忍ばせていることを思い出し、取り敢えずは言われた通りに行動する。
不安そうにしているセラの肩を抱いて、店の壁側に立つことになった。


「お前らは金を全部ここに出せ。店員は店の金を全部持ってこい!」

「は、はい……!」


奴らは金銭目的の犯罪集団らしい。
それならば素直に金を出せば余計なことはしない可能性もある。
それぞれが財布を出し床の上を滑らせると、奴らは
溜まった金銭や店の売り場にある骨董品や宝石などをを大きな布袋に入れ始め、満足した笑みを浮かべていた。


「……なあ、新八っつぁん。俺ら、このままあいつらを野放しにしちまっていいのか?」

「悔しいが、それしかねぇな。この状況じゃ、下手にやり合っちまえば客の誰かが怪我するかもしれねぇだろ」

「なにせ一人は銃を持っていますからね……。剣を取りに行ったとしても、下手すればその瞬間撃たれてしまいますよ」

「取り敢えずこのまま様子をみようか。一番に考えないといけないのはこの子の安全だしね」


四人で頷き合って奴らの様子を窺っていたものの、一人の男が客を見回し、他の四人に指示を出す。


「他に金になりそうなもんはねぇか探せ」


ナイフを構えて客に歩みを寄せる男と、銃口を客一人一人に向けながら歩く男の動向は、僕達を殺気立てるものでしかない。
新八さん、平助、伊庭君と、彼らの頭部には順々に銃口が当てられ、セラにもそれはあてがわれた。
緊迫した中で神経を背後の男に集中させていると、セラからもその銃口は離されたから、取り敢えず安堵する。
けれど僕の頭部に触れた銃口は直ぐに離され、再びセラに押し付けられていた。


「お前はこい」

「セラ……!」


思わずセラを庇おうとすれば、僕の首元にはナイフがあてがわれる。
彼女の頭部にも銃口が押し付けられたまま、背後から腕を首に回され苦しそうにしていた。


「余計な動きしてみろ。この嬢ちゃんの頭に穴が空くだけだぜ」


セラを護るのが目的であるにも関わらず、彼女自身が人質になってしまえば僕達になす術はない。
そもそも何故この子の周りでは物騒なことが多く起こるのか、それがただの偶然なのかもわからないまま、きつく拳を握ることしか出来なかった。


「この嬢ちゃんを売り飛ばせば、それこそ良い金になりそうだな」

「かなりの上玉じゃねぇか。そいつも一緒に積んでおけ」


腕で首を固定され苦しそうにしているセラは、抗おうとしているもののほぼ引き摺られるように僕達から離されていく。
その様子を見て節操感から今にも動き出しそうになっていると、そんな僕に向かって「後ろを向いてろ!」と男のうちの一人が叫んだ。


「総司、今は落ち着け。無鉄砲に動くには危険過ぎちまう」

「だからってセラはどうすんだよ!くそっ……あの銃さえなけりゃ直ぐにやっちまえるのに……」

「……取り敢えず、銃を持つ男の注意を彼女から他に移さなければなりませんね」


あの銃口が少しでもセラから離されれば、僕達四人で一気に反撃することが可能かもしれない。
勿論誰かが怪我をするかもしれないし、客の命も保障できない。
だからと言って迷っている場合ではないと、背を向けたままこっそり取り出した短剣で、思い切り自分の左掌を斬りつけた。


「なっ……沖田君?何をしているのですか?」

「上手くいくかはわからないけど、まあ見ててよ。奴らに隙が出来たら一気に捕まえてね」


三人にそう言って、掌に溢れた血液を口に含む。
口の中が鉄臭くて最悪だったけど、時間もなければこれ以外策が浮かばなかったんだから仕方ない。

僕がよたつくように振り返ると、案の定「後ろを向け」と言う男の声が聞こえる。
奴らの場所やその周りにあるものを瞬時に確認して、僕は敢えて数滴だけ血を垂らしながら一歩二歩と彼らに近寄った。


「おい、てめぇ!動いたらっ……」

「うっ……、苦しっ………」

「あ?なんだ、お前」

『総司っ……?総司、どうしたのっ……!?』

「てめぇは黙ってろ!」


セラが僕の演技に乗ってくれる上、他の客まで悲鳴をあげてくれるから、より緊迫感が増してきて良い感じだ。
見兼ねた一人の男がナイフを片手に僕の近くに来たところで、僕は口に含んだ血を盛大に吐き出した。


「かはっ…………」

「な、なんだこいつ!まさか……何かの感染病か!?」

『そ、総司………』

「くっ……は……」


ぼたぼたと垂れる血を見て、奴らは完全に引いて怯えている様子だ。
斬った掌を口にあて、再び奴らに近寄り血を吐き出しそうな演技をして見せれば、効果は敵面だったらしい。
切羽詰まった声で一人が言った。


「おい!また詰め終わらねぇのか!?」

「まだ半分しか入ってねえよ……!」

「ちっ、ならさっさとそいつを殺せ!」

「だ、だが近寄ったら移るじゃねぇか!」

「くそっ、ならそいつを撃ち殺せ!」


少し離れた場所で銃を持っていた男が、セラにあてていた銃口を、計算通り僕の方へと向ける。
その隙に一気に目の前のテーブルへと飛び乗ると、頭上の電気にぶら下がり勢いのままその男へと飛び掛かった。


「総司に続け!」


背後の様子は見えなかったけど、僕は銃の男を殴りつけ、その拳銃を一階へと蹴飛ばす。
まずは気絶でもさせておこうとそいつを思い切り殴ると、別の男が僕に向かってその剣を振り上げていた。


『総司……危ないっ……』


咄嗟に剣を引き抜こうとしたものの、剣はいま手元にはない。
振り下ろされる剣を見ながら、胸元の短剣へと手を伸ばすも、このままでは間に合わないことは分かっていた。

するとセラがそいつの腕にしがみついて阻止してくれたから、間一髪で短剣は取り出せたけど。
その男によって蹴り飛ばされたセラは螺旋階段の踊り場の柵へと激突し、衝撃によって折れた柵と諸共、三階から放り出された。


「セラ……!」


僕は勢いのまま飛び出して、セラの身体を庇いながら、そのまま二人で落ちて行く。
大きな音と共に三階から一階の室内へと落ちた僕達は、その衝撃から思わず声を漏らした。


「……く……っ……」

『……っぁ……う……』


……まずい、全身に激痛が走っている。
どこが辛いと言うよりほぼ全てが痛くて、直ぐには身体を動かすことが出来なかった。
それでもセラの安否が気掛かりで腕の中の彼女を見ると、僕より先に上体を起こしたセラが不安そうに僕を見下ろした。


『総司、大丈夫……?』

「……うん、平気だよ。セラは?」

『良かった……。私も大丈夫。ありがとう……』


ふわりと微笑んで僕を見下ろすセラが愛らしくて、彼女が無事であることに安堵しながら手を伸ばす。
けれどその髪に触れる前に瞳を閉じたセラは、僕に身を預けるように倒れてきたから、思わずその身体を抱き止め上体を起こした。


「セラ……?」

「総司!平気か!?」

「今全員捕獲して永倉さんが縛ってるところです。お怪我はありませんか?」

「セラの意識がないんだっ……、早く救護隊を……!あと外傷は!?」

「おい、頭から血出てるぞ!早く止血しねーと!」

「伊庭君、綺麗な布探して!」

「わかりました……!」


僕達はセラを寝かせ、あまり頭を動かさないようにしながら傷口に圧迫止血を行う。
彼女は落ちる途中に頭の左側をぶつけた可能性が高く、僕の腕だけでは彼女の身体を庇い切れていなかったことがわかった。


「左腕も腫れていますね、打撲か……骨折でなければ良いのですが」

「総司、お前も頭から血出てんぞ!腕も腫れてるし、平気か?」

「僕は大丈夫だよ、それよりセラが心配なんだ」


折角時間を巻き戻せたのに、また彼女を護れなかった自分が許せなくて堪らなかった。
そもそも僕が、銃の男の動きを封じることに集中し過ぎたせいで起こった事故だ。
せめて剣があれば、あいつら二人くらい簡単にねじ伏せられたって言うのに。


「頭皮は血管が多く密集していますので少し切れただけでも結構出血します。脳に衝撃がいってなければ大丈夫ですよ」

「それでも怪我をさせたことには変わりないよ、僕のせいだ……」

「君だけのせいではありません。むしろ君の機転があったからこうして奴らを捕えることが出来たと思っていますよ」

「そうだって。それにあのまま連れ去られてた方が一大事だったからさ、それを阻止したお前はすげーよ」


伊庭君と平助は僕を庇うような言葉をかけてくれたけど、状況は違えど以前の僕はこの子を傷一つ付けずに護り切れていた。
だからこそセラの身体に怪我をさせたことに、言いようのない苛立ちや不安を感じていた。

もしこのままセラが目を覚さなければ、どうしたらいい?
歯をきつく食い縛りながらセラを見つめて、その瞳が開くのを待つことしか出来なかった。

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