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救護隊と共に城へ運ばれたセラを案じながら、僕も城の救護室で手当てを受けた。
折れた柵の破片がいくつか刺さっていたようで、僕の身体は予想以上に傷だらけだったらしい。
打撲なども含めてそこらじゅうに包帯を巻かれてしまったから、ベッドの上で大人しくあの子のことだけ考えていた。
「沖田君、失礼します」
山南さんの声とドアのノックする音が聞こえ、思わずベッドから起き上がる。
近藤さんも同行されていたから、その場で立ち上がり、彼が何かを言う前に頭を下げた僕がいた。
「お嬢様をお護りできず、本当に申し訳ありませんでした」
この世界に来て、近藤さんとこうして会うのは初めてだった。
そしてこれは、以前の僕が近藤さんに言わなければいけないと思っていた言葉でもあった。
あの時の心情と重なり僅かに声が震えてしまったけど、どうしても昨日のように思い出してしまうあの日のこと。
先程意識を手放したセラが、血を流して倒れていた前の世界でのセラと重なって、どうしようもなく怖くなってしまった。
結局僕はまた護ることが出来ていないじゃないかと拳をきつく握って立っていると、近藤さんの手がそっと僕の肩に乗せられる。
彼の顔を見ることが怖かったけど、頭を上げた先には僕に優しく微笑んでくれるあたたかい眼差しがあった。
「総司、俺はお前に感謝の言葉を言いに来ただけだ。そんなに気に病まないでくれ」
「ですが僕は……お嬢様に傷を付けてしまったんですよ」
「いや、違うだろう。総司は二度もあの子を救ってくれたのだ。こんなにぼろぼろになってしまって……すまなかったな。あの子を護ってくれた総司に礼を言いたい。本当にありがとうな」
いつだって優しい言葉を掛けてくれる近藤さんに、僕は前回報いることが出来なかった。
この世界ではこの人を悲しませることがないよう、絶対に彼女を護り切ると決めたのに。
「沖田君、お嬢様は先程無事に目覚められましたよ。なので君も安心して休んで下さいね」
「本当ですか?あの子の容態はどうなんです?」
「頭は君と同じようにどこかに打ち付けたのか切り傷がありましたが、君達の処置が早かったお陰で今は血も止まってますので心配することはないでしょう。左腕は骨が折れているらしく腫れてしまっていますが」
「え?骨折ですか……?」
「ええ。ですが数週間で自然治癒する程度のものなので問題ないそうです。そんな顔をされなくても、お嬢様は元気にされてますから大丈夫ですよ」
僕の顔を見て何故か困ったように微笑む山南さんと近藤さんは、僕にベッドに腰掛けるように告げてくる。
セラの命に別条がないことに安堵した僕は、言われた通りに腰を下ろすことにした。
「セラや平助達から話は聞いたよ。総司が先陣を切ってセラを助け出してくれたそうだな」
「お嬢様が三階から落ちる時、沖田君が一緒になって落ちてくれたから怪我が軽く済んだのだとお嬢様はおっしゃられてましたよ」
「いえ……結局あの子に怪我をさせてますから、僕がいた意味はなかったのかもしれません」
「何を言うんだ、総司。お前が今こんなに怪我をしているのは、セラを護ってくれた証ではないか」
「そうですよ。先程救護隊の方がおっしゃってましたよ、君のこの身体で自力で城まで戻ってきたのは信じられないと。君の身体は、頭やその他の外傷はおろか全身打撲で全治二週間だそうです。鍛えてもいないお嬢様が一人で落ちていたら、恐らく今の沖田君以上に大変なことになっていたことでしょう」
「そもそも僕のせいでセラは落ちたんですよ。僕が斬られそうになったところをあの子が庇ってくれたんです。そのせいで跳ね飛ばされて、ぶつかった拍子に柵が折れて落ちたんですから」
「だからですか……。お嬢様が自分が余計なことをしたせいで、君を巻き添いにしてしまったと先程泣いておりまして」
結局また泣かせているのかと、苦い気分になる。
罪悪感や節操感、自己嫌悪……様々な感情を持て余していると、そんな僕に近藤さんからやわらかい声が掛けられた。
「だがな、俺はセラがしたことを余計なことだとは思っていないぞ。セラが総司を庇ったのは、君が素晴らしい青年だからだと思うのだ。セラは君のことを本当に信頼しているのだろうな」
セラが昔から僕に信頼を寄せてくれているのは十分理解しているつもりだ。
だからこそ、その信頼を裏切ってしまうことが一番苦しいわけだけど、そう考えている僕に近藤さんは言ってくれた。
「人一人護ることがどれだけ大変なことか俺にはわかるつもりだ。自らの命を投げ打ってまで誰かを護るというのは、いくら鍛錬を積んで強くなったところで容易に出来るものではないだろう。だが総司は違う。いつもセラを一番に考えて行動してくれているように俺は思うのだよ。それが俺は嬉しいのだ」
「近藤さん……」
「だからこそ、俺は総司に自分のことも大事にして欲しいと思っている。セラの護衛を頼んでおいて勝手だとはわかってはいるが、俺はお前にだって怪我をして欲しくない。だから強くなってくれ、総司。それでセラのことだけでなく、お前自身のことも護れるようになって欲しいと俺は思っているぞ」
近藤さんの言葉はあまりにも温かすぎて、僕の胸を熱くする。
セラのことは勿論、僕自身をも護れるように僕が強くなることを望んでくれる近藤さんの言葉は、もう一度この人の恩に報いたいという気持ちをより強くしてくれるものだった。
「そうですよ。君が怪我をするとお嬢様はやたら悲しまれてしまいますからね、どうか君は怪我をせずお嬢様を護りきって下さい。ですが、今回は相手が拳銃を持っていたということなので、この程度の怪我で済んだことはむしろ幸運だと言っていいでしょう。三階から落ちてしまった件につきましても、君のお陰でお嬢様は軽傷で済みましたし、今回の護衛任務ははなまるです。ねえ、近藤さん」
「そうだとも!だからそんな顔をしないで、今は早く良くなることだけ考えなさい」
二人からの温かい言葉が嬉しくて、なんだろう……この人達と話すと心がおおらかになり、あまり後ろ向きに悩むことはやめようという気にさえなってくる。
僕は僕らしさを忘れないように、またここで強くなっていきたいと思うことが出来た。
「僕自身が怪我をしないままあの子を護るなんて、結構至難の技ですよね。でも近藤さんと山南さんがそれを望んで下さるなら、そうなれるように頑張って強くなりますよ」
「そうですよ。沖田君であればきっと出来ます」
「ああ、俺も出来ると信じているぞ」
「ありがとうございます、近藤さん、山南さん」
笑顔で去って行く近藤さんに感謝の言葉をもう一度述べて、その後は以前聞いた山南さんの話を再び耳に入れることになった。
その際、今日出向いた街で馬車が追突する事故がなかったか聞いてみたものの、僕達が直面したあの事件以外は特に何も起こっていないらしい。
やはり未来はいとも簡単に変わるということを認識して、部屋から出て行く山南さんを見届けていた。
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