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今日はセラの十四歳の誕生日。
城では立食パーティーが開かれ、騎士階級二級を取得していた僕は、無条件で参加できる立場になった。

今回は街で左之さんに出くわすこともなかったから、例の貞操事件に悩まされることもない。
前回同様表彰してもらった僕は、その後は一人気ままに参加をしながら、遠くから愛らしく微笑むセラを見守っていた。

そしてようやくやってきた二人の時間。
噴水の前に座るセラに会いに行くと、前回同様髪をアップにしたセラが綺麗なドレス姿で微笑んでいる。
この姿を二回見られるのはやっぱり嬉しいと思うから、今回も目に焼き付けるようにいつもより大人びて見える彼女を見つめていた。


『今日は来てくれてありがとう。それに表彰式のこと、おめでとう。私もとっても嬉しい』

「こちらこそありがと。このままどんどん昇格出来るように頑張るよ」

『総司ならきっと出来るよ、応援してるね』


僕達の距離が前回より近いのか、そうでもないのか。
正直今のところはよく分からない。
でも以前の時に比べ、より多くの言葉を交わしている僕達は、この絆を強められていると信じたい。
それに何より僕自身が、より一層この子に想いを寄せてしまっているから。
たとえ何度時間が戻っても、僕の足はこの子がいる方向に向くのだろうと確信していた。


「セラ、誕生日おめでとう」


微笑むセラの前、前置きもなく箱を差し出すとセラが瞳を揺らして僕を見上げる。
驚いたのかその顔には笑みはなくて、だけど箱をゆっくり受け取ると照れた様子でまた微笑んでくれた。


『ありがとう……。総司からプレゼント貰えるなんて想像もしてなかったから、凄い嬉しい』

「そうなの?誕生日の贈り物くらい僕だってするよ」

『でも入り口で集めてるのもあるよね?』

「ああ、あれはセラの好きな桜館のゼリーにしたよ」

『え?よく私があのゼリーが好きだって知ってるね?』


しまった。
それは以前の世界でセラに聞いたことだったと自分の過ちに気付く。
ともあれ、この程度のことなら然程問題はないだろうから、上手くごまかすことに決めた。


「前に侍女さんが言ってたのを偶然聞いたんだよね」

『そうなんだ。ゼリーも好きだから嬉しいよ、でもこれはもっと嬉しい。開けてみてもいい?』

「どうぞ、気に入ってもらえるといいんだけど」


贈り物は前回と同じスフェーンのペンダントにした。
これは前回の僕が悩みに悩んで決めたものだけど、亡くなる直前までセラが毎日欠かさず付けてくれていた僕にとって大切な思い出の一つだ。
だからこれだけは変えたくなくて再び選んだけど、目の前のセラも同じように喜んでくれるのか気になり、ただ真っ直ぐその様子を見つめていた。


『わあ、とっても可愛い!凄いキラキラしてて綺麗……、形も四葉型で可愛い……』

「気に入って貰えた?」

『とっても……!これ毎日付けるね、宝物にする』

「適当につけて貰えれば大丈夫だよ」

『私が毎日付けたいの、だって凄い気に入ったんだもん。見て?光を当てるとこんなにキラキラするんだよ』


前回と同じように喜んでいるセラは、掌に乗せてペンダントを眺めているから、僕もまた満足して微笑みを浮かべる。
そして前は言わなかったこのペンダントのことを、今夜は少し話してみようと思った。


「この石はスフェーンっていう七月の誕生日なんだって。光を当てると、光の屈折で虹色に見えるみたいだよ」

『それでこんなにキラキラしてるんだね。あと七月の誕生石なのも嬉しい。私、ルビーしか知らなかったよ』

「ここ最近、七月の誕生石になったらしいよ。ちなみにスフェーンの石言葉知りたい?」

『うん、知りたい』


最初は誕生石に拘るつもりはなかった僕だけど、色もさることながらその石言葉がセラに贈るのに僕のイメージとぴったり合っていたから、このペンダントを贈ることにした。
それを言うのは少し照れくさくて前回は言わなかったけど、今回は聞いて欲しいと思うから僕の言葉の続きを待つセラに告げることにした。


「いくつかあるんだけどね、スフェーンには純粋、永久不変、成功、幸運っていう意味があるんだって。まず純粋っていうのが僕の中で君のイメージにぴったりだったし、この色も君に似合うと思ったっていうのが選んだ理由の一つ目かな」

『ふふ』


嬉しそうに聞くセラが真横でじっと僕を見ているから、それはそれで話し難い。
だからセラから視線を逸らして真っ直ぐ夜空を見上げながら、残りの理由を話すことにした。


「あとこの石って人生を成功や幸運に導いてくれる石って言われてるんだ。セラがこの先の人生、夢を叶えて幸せな毎日を送れますようにっていうのが二つ目。あとは君を変わらず僕が傍で護れますように、僕がセラを大切に想う気持ちは永遠に変わらないよってことで三つ目。そんな感じかな」


思いの外長くなってしまったけど、全て伝えることが出来たから満足する。
でもセラから何の返事もないから不思議に思って右側を見れば、セラは僕を見るなり顔を歪ませ泣き始めた。


「え、なんで泣くのさ……」

『だって嬉しくて……凄く嬉しかったから………』

「はは、泣いちゃう程嬉しいの?」

『うん、嬉しい……』

「セラ、泣かないで」

『うん、ありがとう……。私総司が言ってくれたこと絶対忘れないね。このペンダントもずっと大切にする』


喜ぶ顔を見た時から、ずっと抱きしめたい衝動に駆られていたけど我慢していた。
でも目の前でこんなに可愛いく泣かれてしまったら、手を伸ばさずにはいられない僕がいた。
何故って、セラが泣いている時はそこがどんな場所でも誰からも見られないように護ってあげたい。
小さな身体を抱きしめながら心地良いセラの香りを吸い込んで、震える背中を優しく撫でた。


「大丈夫?泣き虫なお嬢様だね」

『だって総司が、優しいから……』

「なにそれ。僕はいつも優しいでしょ」


僕は決して優しい類いの人間ではないのかもしれないけど、セラにだけは誰よりも優しくしてあげたいし、この子が望むことならなんだってしてあげたい。
その気持ちは永久不変だから、そのことを伝えられて良かった。


『うん、優しいけど……』

「けど、何?」


少し涙が止まってきたのか、鼻を一度啜ると少し僕から離れて涙目で僕を見上げている。


『ふふ』

「今度は何の笑いなの?」

『わからない、ただ嬉しくて笑っただけ』

「はははっ、嬉しくて泣いて笑ってで随分忙しいね」

『ねえ、総司。これつけて貰ってもいい?』


強請るように愛らしい言い方をするところは相変わらず少し狡いなって思うけど、勿論返すのは肯定の返事だ。
一回目の時は、僕がやらかしてペンダントをセラのドレスの中に落としてしまったから、今度はそんな失敗がないように慎重に付けることにした。


「はい、つきましたよ」

『ありがとう、似合うかな?』

「うん、似合ってるよ」

『嬉しいな。あ、私の名前も入ってるよ。すごい……』


指先でペンダントのヘッド向きを変えていたセラは、裏に英語で掘られた自分の名前に気付いたらしい。
再び嬉しそうにしながら、光にあてて遊んでいた。


「そうだよ。落としてもまた君の手元に戻ってくるようにね」

『落とさないよ?大切にするもん』

「僕とそのペンダント、どっちが大事?」

『えー?それは、どっちも大事だよ』

「じゃあ質問ね。僕とペンダントが海で溺れてたら、セラはどっちを助けてくれるのかな」


他愛ないやり取りにセラはくすくす笑うと、また僕を見上げて愛らしい声で言葉を紡ぐ。


『それは勿論総司だよ』

「違うでしょ、そこはペンダントを選んでくれないと」

『どうして?』

「だって僕は泳げるから溺れないよ。それに僕を助けようとしたら、逆にセラが溺れちゃうしね」

『ふふ、何それ。それだと問題の趣旨がずれちゃってるよ』


同じ日の同じ時間。
同じものを贈っても、僕達の会話はこの前とはまた違う。
どちらも比べものにならないくらい大切で、過ごす時間が増えれば増える程、僕は君を好きになる。
その笑顔を見る度、僕は君を手放したくなくなる。
こんな感情なんてきっとない方が楽に生きられるのに、それでも切望してしまうから困ったものだ。


「セラ」

『うん?』

「今日の髪型可愛いね。ドレスも似合ってて綺麗だよ」


僕の言葉に頬を染めたセラは、照れくさそうに僕を見上げる。


『ありがとう。総司もスーツ、凄くカッコ良いよ』

「それなら良かったよ、似合ってるか心配だったんだけどね」

『とっても似合ってるよ、最初見た時からずっと思ってたんだ』

「セラにそう言って貰えるのは嬉しいかな」


彼女の右手に自分の左手の指を絡め、空いた右手でそっと彼女の髪を梳く。
瞳を揺らしたセラは僕が距離を詰めるだけで見るからに動揺の色を見せるから、警戒したその表情がまた愛らしい。


『総司、ちょっと近いよ……』

「近いと駄目?」

『うん、だってあんまり近いのは困るから……』

「どうして困るの?」

『それは……』

「ねえってば、どうして近いと困るの?」


今しか見られないセラの余裕のない表情をずっと見ていたくて、つい困らせたくなるのは僕の良くないところかもしれないけど。
髪を撫でていた手で小さな耳を遊ぶように撫でると、身体をびくんと揺らすから、その様子を見てぞくぞくとしたものが自分の中で湧き上がってくるのを感じていた。

早く僕だけを見て欲しいのに、こうしている時間も好きで堪らない。
それに恥ずかしそうにしてる顔とか、少し甘えたそうにしている表情なんかが可愛い過ぎて、最近少しツボだったりする。


『や、擽ったいよ……』

「そうなの?撫でてあげてるだけなのにどうしてだろうね」

『総司……、や……め……』

「ははっ」


本当に可愛いくて、優しくしたいのに無性にいじめたくもなるこの感覚はなんなんだろう。
そんなことを思っていた時、セラはついに僕の胸元をぐいと押した。


『も、もう離れてっ……』

「あーあ、顔真っ赤になってるよ」

『誕生日までからかわないで』

「ごめんね。セラがあんまり可愛いからつい意地悪したくなっちゃって」


本音を言っただけなのに、セラには睨まれてしまったからこれ以上は良くないと自制することに決めた。


『折角素敵なペンダント貰えて幸せな気分だったのに、もう台無し』

「ええ?そんなこと言わないでよ」

『総司はちょっと悪戯が過ぎると思う。私より年上なんだから、もう少し自重してくれないと困るよ』


最も過ぎることを言われて、苦笑いしかできない。
膨れてしまったセラに「ごめんね」と告げれば、ようやく僕の方を見てくれた。
そしてまた照れくさそうに笑ってくれるから、そんなところも可愛いくて。
もう少しこのまま、今のセラとの時間を心に刻みたいと考えていた。

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