7
セラの言葉を聞いた時、胸の奥が熱くなった。
悲しそうに紡がれたその言葉が、僕と同じ想いを抱いてくれている証だとわかって、込み上げる感情を抑えられそうになかった。
伸ばした手が触れた小さな手。
指を絡めた瞬間、これまでの想いも思い出もすべてが溢れて蘇ってくるようだった。
実際僕は、セラのいない世界を知っている。
君がいない世界はただ暗くて寂しくて、何の意味もなかった。
あの時の僕は同じことを思いながら自ら死を選んだけど、こうして今はまた目の前に君がいる。
この手の温もりを感じられることがどれほどの奇跡なのか、君はきっと知らないだろうね。
儚くて、愛しくて、どうにかして護りたくて。
それでも今の僕では何もかも足りなくて、強くなることでこの想いを抑えつけてきた。
でも本当はいつだって怖くてたまらない。
またこの手から君がこぼれ落ちてしまうんじゃないかって、どうしようもなく不安になってしまうんだ。
そんなことは誰にも言えないし、セラにだって言えない。
それでもこの気持ちだけは君に届いてほしい。
だから迷うことなくまっすぐに彼女を見つめていた。
「今日はセラに報告したいことがあってここに来たんだ」
『報告したいこと?』
「うん、二つね」
いきなり僕が話題を変えたからか、セラは一度はきょとんとしていたものの、すぐに頷いて僕に微笑む。
『ふふ、なにかな?良いお知らせ?』
「それはセラ次第かな」
『私次第なの?なんだろう』
「僕としては喜んでもらえると嬉しいんだけど」
『それならきっと、私にとってもいいお知らせだね』
セラは嬉しそうに顔を綻ばせると、僕を見上げて言葉を待ってくれている。
「一つ目は、昨日騎士階級一級を取得できたんだ」
目を見開いたセラは、片手の指数本を口にあて、驚いた表情で僕を見つめた。
「自分で言いたかったから、山崎君や山南さんにはセラに言わないようにお願いしてたんだよね」
『凄いよ、総司……。こんなに早く一級を?』
「セラに待っててって言ってから、半年以上経っちゃったけどね」
『ううん、とっても凄いことだよ!私も凄く嬉しい……』
「セラがそんなに喜んでくれるなら、頑張った甲斐があったよ」
僕がそう言うと、セラはぱちぱちと瞬きをして、ふっと表情を緩めた。
『だって本当に凄いことだと思うよ。半年で騎士階級一級を取得するなんて……そんなに簡単にできることじゃないよね?』
「まあ、普通なら数年かかるとは聞いたけどね」
騎士階級は、武術、戦術、指揮能力、そして実戦経験など、さまざまな要素が評価されて決まる。
特に一級はただ戦いが強いだけじゃなく、部隊を率いる能力や冷静な判断力も求められるものだった。
『それなのに、総司は半年で?どんな方法でそんなに早く取得したの?』
「必死だったからね。セラに約束したし、何より早く君の隣に立てるだけの力を証明したかったんだ」
正直これでもまだ足りない。
前回の僕は騎士階級一級を取得していても、セラを護れなかったんだから。
でも今の段階で一級に届いていれば、あの惨劇が起きる前に特級取得も夢ではない。
あの日を二度と繰り返さないためにも、僕は以前の自分を絶対に超えるべきだと考えていた。
「この一年はできる限りのことは全部やったつもりだよ。毎日朝から晩まで鍛錬して、上級騎士たちとの模擬戦もできるだけ多くこなした。剣技だけじゃなく、戦術書も山ほど読んで、実際の戦場を想定した訓練も重ねたんだ」
『……そんなに……』
「最初のうちはどれだけ努力しても上には上がいることを痛感させられたよ。でも躓くたびに考えて工夫して何度も挑んだ。この一年はその繰り返しだったかな」
そう言うと、セラは絡めていた僕の指を優しく握った。
『総司がそんなにたくさん努力していたなんて……私、全然知らなかった』
「わざわざ言うことじゃないからね」
『でも、知りたかった……。総司がどんなふうに頑張っていたのか、もっと早く知りたかったよ』
「そうなの?」
『うん。だって総司はすごく努力して、たくさん頑張って、それでやっとここまで来たんでしょ?それを聞いたら……なんだか涙が出ちゃいそう……』
「はは、別に泣くほどのことじゃないよ」
そう言って笑うと、セラはそっと首を横に振った。
『でも頑張ってる総司のこと、本当に尊敬してるよ。真剣に夢を追いかけてる総司がすごくかっこいいと思う』
心の奥が温かく、熱い。
セラは今にも泣き出しそうなほど潤んでしまった大きな瞳で、僕をまっすぐに見つめていた。
『総司の努力が報われて本当に良かったって思うし、すごく嬉しいよ。きっとたくさん苦しかったこともあった筈なのに、弱音も吐かずに努力し続けられる人って凄いと思う。だから総司はすごい人だよ』
「君がそんなふうに言ってくれるなら、全部報われるよ」
『よかった、本当におめでとう』
ほっとしたように微笑むセラが、あまりにも愛おしくてそっと彼女の髪を撫でた。
「それでね、もうひとつの報告があるんだけど」
『うん?』
「今の一つ目の報告が、いいアピールポイントになればいいんだけど……どうかな」
セラは柔らかく瞬きをして、小首を傾げる。
その仕草が可愛くて、胸の奥が甘く疼いた。
『アピールポイント?』
「うん。僕にとっては、一番大事なことなんだよね」
真剣に言葉を選んだつもりだったのに、セラはますます不思議そうな顔をする。
僕が何を言おうとしているのか、まだ気づいていないんだろう。
でもそれもきっと今日までだと、僕は息を吸い込んだ。
「セラ、僕は君が好きだよ」
ようやく伝えられた言葉に、セラは驚いたように目を見開いた。
次第に頬は染まり、僕を見上げる表情がさらに愛らしく変わる。
その顔を見れば今の言葉だけでは全く足りなくて、思わず彼女の華奢な肩に手を添えた僕がいた。
「僕はずっと君が好きだったよ。どれだけ時間が経っても、どんな未来が待っていても、それだけは絶対に変わらない。もし君が僕以外の誰かを選んだとしても、それでも僕は君だけが大好きだ」
二度と伝えられないと思っていた言葉を、また君に届けられる。
それがどれほどの喜びか、言葉では言い表せない。
この時間が巡り巡って戻ってきたこと、そして何よりもう一度セラに想いを告げられることが信じられないほど幸せで、それと同時に返事を待つこの一瞬がどうしようもなく怖かった。
でも一つはっきりとしていることは、僕は何度時間が巻き戻ったとしても、いくら同じことを繰り返さなければならないとしても、君と過ごす未来のためにこの選択をするだろう。
これだけは何があっても変わらない、真剣で揺るぎない僕の心そのものだった。
そしてそんな僕の前、セラはゆっくり顔を上げる。
綺麗な瞳に涙を浮かべたまま、まっすぐ僕を見つめてくれていた。
『……総司、わたし……』
声が少し震えていて、唇は何度も動いているのに言葉がうまく出てこない様子だった。
そのたびにセラは視線を落として、何かをこらえるようにぎゅっと唇を結ぶ。
そして小さな指先を胸に当てて、ようやくぽつりと紡いだ。
『わたしも……ずっと総司のことが、好きだったよ……』
絞り出すように、でもその声はまっすぐ僕へと届いた。
『気づいたのは……きっと、もっとずっと前。だけど怖くて言えなくて……言ったら何かが壊れちゃいそうで……そのまま言わないで大事にしてきたの』
涙が一粒、ぽろりと頬を滑る。
その泣き顔は何度も見てきた筈なのに愛しくてたまらなくて、今すぐ抱きしめたくなるのを寸前のところで耐えていた。
『でも、ほんとは……何度も言いたかった。総司が好きって。すごくすごく大好きって……』
この一瞬を、何度夢に見ただろう。
ようやくたどり着いたこの場所でようやく聞けたこの想いが、なによりも大切でなによりも嬉しい。
言葉一つで世界がここまで変わることを僕は今まで知らなかった。
「嬉しいよ、セラが同じ気持ちでいてくれて。僕はいつだって君を見ているし、いつだって君のことだけ考えてるよ。本当に大切なんだ、君が」
セラを優しく腕の中に抱きしめると、あの頃のセラにも会えたような感覚になる。
そして時間が戻っても、こうしてまた僕に愛情をくれる彼女が愛しくて堪らないと思った。
『私もいつも総司のことばかり考えてるよ。ずっと総司しか見てないし、ずっと総司だけが大好きだよ。それは絶対に変わらない。そう思ってるのは私だけだと思ってたから……総司が私と同じ気持ちでいてくれて、今凄く嬉しい』
耳元で聞こえるセラの涙声が、僕の心を溶かすように優しく広がっていく。
僕と同じように日々悩み、僕のことを一生懸命考えてくれていたことを知り、それが嬉しくて堪らなかった。
「僕はあれだけ君に好意を伝えてたのにね」
『総司はいつも優しくしてくれたけど、その理由までは分からなかったの。総司は騎士団のお仕事が大変で、ずっと頑張ってたから……だから私が好きなんて言ったら、総司の負担になっちゃうかもしれないって思って……』
「そんなわけないでしょ。君が好きだって言ってくれることが、どうして僕の負担になると思うの?」
彼女は唇を噛んで、首を横に振る。
『分からないけど、でも……好きだからこそ、総司の迷惑になりたくなかったから……』
「そんなこと考えなくていいのに」
僕はセラの頬を両手で包み込む。
拭ってもこぼれ落ちる綺麗な涙を拭うと、セラの潤んだ瞳は僕を映してくれていた。
「僕はね、セラが笑ってくれるとそれだけで幸せになるんだ。でもセラが悲しそうにしてたらどんな理由でもそれをなくしてあげたくなる。きっと僕は君に甘いんだろうね」
息を詰めたセラが、ぎゅっと両手を握る。
セラはじっと僕を見つめたまま、また涙をこぼしそうな瞳をしていた。
「だから本当はもっと早く言いたかったよ。でも君に想いを伝えるのは、騎士階級一級を取ってからにしようって決めてたんだ」
『それは、どうして?』
その声音は少しの戸惑いが混ざっていて、でも僕の言葉をじっと待っているようにも聞こえた。
「君を護れる自信が欲しかったんだよ。僕は君に想いを伝えるなら、それに見合うだけの力をまずは持つべきだと思ったんだ」
そっと彼女の頬を撫でると、セラはふにゃりと顔を歪ませる。
ぽろぽろと僕の手にこぼれた涙は温かくて、それだけでその子が生きてることが実感できて嬉しかった。
『そんなふうに考えてくれてたんだね……』
「君は僕の大切な人なんだから、当たり前のことだよ。だからどんなことがあっても、君だけは僕が護る。そう思えるだけの力が欲しかったし、これからもそのための努力は惜しまないつもりだよ」
『……総司』
「大丈夫だよ。これからはずっと君のそばにいるし、僕が絶対君を護るよ。だからもう泣かないで」
そう言うと、セラは小さく頷いて、潤んだ瞳のまま微笑んだ。
この笑顔が見れるなら、僕はどれだけの時間を費やしたってかまわない。
この世界にきて一年と数ヶ月経った今、ようやくまたセラと想いが通じ合えたことが本当に嬉しかった。
『ありがとう、総司』
「僕のほうこそ」
『今日のことだけじゃなくて、出会った時から今日まで……ずっと……本当にいつも……ありが……とう……』
「セラ……」
『私、総司がいてくれるから……毎日、とっても……幸せ……』
セラはいつも僕の前では素直に涙を見せてくれる。
泣かないでと言っても、今日のセラは声を押し殺すように泣きじゃくり、でも嬉しそうに笑っている。
「もう……泣いてるのか笑ってるのかわからないな」
『ふふ、どっちも』
「僕も幸せだよ。君と出会えたことが、僕にとって一番の幸せだ」
抱き締める腕を緩め温かい頬に触れると、素直に色付くこの子が好きだ。
互いの意思を確かめ合うようにゆっくり距離を縮めて、優しく唇を重ねた。
そっと一度、触れるだけのキスをする。
またこうしてセラに触れられたことで、少しずつ胸の痛みが癒やされていくようだった。
「セラ、大好きだよ」
赤く染まった頬を撫で、そっと前髪越しに額にもキスをする。
そんな僕を恥ずかしそうに見上げるセラの唇にもう一度唇を寄せて、そっと撫でるように口付けた。
『緊張して……心臓が壊れそう……』
「大丈夫だよ、壊れる前に僕が治してあげる」
『どうやって?』
「ん?こうやって」
今度はきつく目の前の身体を抱きしめると、セラはくすくす笑っている。
そして僕の背中に手を回すと、同じように抱きしめ返して僕の胸に擦り寄ってきた。
『総司大好き、凄く好き』
「うん、僕もだよ」
『朝起きたら夢だったりしないよね?』
「夢だったら起きてからまた君に言うよ、好きだよって」
『ふふ、嬉しいな』
こうしてまたセラが腕の中で笑ってくれると、今までのことが全て悪い夢だったのではないかと思えてしまうほど幸せを感じる。
再びセラの頬に手を添え顔を上げさせると、柔らかい唇に自分のを重ねた。
何度も何度もその温もりを確かめるようにキスをして、今まで触れられなかった時間を埋めるようにその温もりを確かめる。
唇を離した時の瞳を潤ませた表情が可愛くて、また僕は君が好きになるんだ。
「ねえ、もう一回君の好きって言葉を聞かせてよ」
『どうして?』
「だって嬉しかったからさ。何度でも聞きたいんだけど、だめ?」
セラは少し恥ずかしそうに俯いたけど、そっと僕の胸に顔を埋めながら、囁くように言った。
『大好き。ずっとずっと総司が大好きだよ』
「僕も、セラが世界で一番で好きだよ」
セラの頬を包み込み、そっと一度キスをする。
甘くて、優しくて、触れれば触れるほど愛しさが募る。
この先どんな未来が待っていようとも、僕は君を護り続ける。
それだけは絶対に変わらないと心に決めていた。
「セラは僕のどこが好きになってくれたの?」
腕の中でセラの髪を撫でながら、ふとそんなことを聞いてみる。
すると顔を上げたセラは、嬉しそうに微笑み僕に言った。
『理由は沢山あるけど、聞きたい?』
「うん、聞かせてよ」
『一番は優しくて、いつもさりげなく私を気にかけてくれるところかな。私を大切に思ってくれてるのかなって幸せな気持ちになるから、そういうところがとっても好き。あとたまに可愛いところとか、笑った顔も好きでしょ。一緒にいると楽しくて、私に気を遣わないで接してくれるところも好きかな。あと剣術が強いところと、凄い努力家なところも大好きだし、カッコいいところも好き。総司の温かくて大きい手も、優しい声も大好きで。あ、あとね。たまにちょっと意地悪なところも好きかな……』
つい先程まで泣いていたのに、今は嬉しそうに照れて思いの外沢山のことを話してくれる。
「へえ、セラは僕に意地悪されるのが好きなんだ」
『もう、どうして最後のだけ掻い摘んで言うの?』
「聞いててそこが一番好きそうだったから」
『違うよ。一番は優しいところって言ったの、聞いてなかったの?』
少し膨れた様子に思わず笑いながらも、僕を想ってくれるセラの気持ちが嬉しいと思う。
それなら僕もお返ししないとね、ということで、セラにこの想いを細かく伝えることにした。
「僕はセラの優しくて思いやりのあるところが好きだよ。素直だし可愛いし、見てて心が洗われるって言うのかな。とにかく表情がころころ変わるところとかも好きで、ずっと見ていたくなるんだよね。あと頑張り屋なところや明るいところも好きだし、ちょっと頼りなくて護ってあげたくなるところも好きかな。あと照れて顔真っ赤にするところも可愛いし、女の子らしくて純粋なところも良いなって思うよ。それと君の声も好きでさ。ちょっと甘えた感じで僕の名前を呼ぶから堪らなくなるんだよね」
すらすらと思い付くことを言葉にしていくとこれでも全然足りないくらいだけど、セラを見れば顔を赤らめて物凄く恥ずかしそうにしている。
「まだまだあるけど、聞く?」
『もう大丈夫……、ありがとう』
「また顔が真っ赤になっちゃったね」
『あんまり見ないで、言わないで……。最近よくこうなっちゃうから困ってて……』
「いいじゃない、そんなところも僕は好きだよ」
『でも私は嫌だよ』
「君がそう思ってたとしても、僕は本当に全部が好きなんだよ。自分でも驚くくらいセラのことが好き過ぎて、たまに夜も眠れないくらいだよ」
『ふふ、それは絶対嘘だよ』
「嘘だと思う?」
君への気持ちに、何一つ嘘はない。
この想いが大き過ぎて、正直自分でも持て余しているくらいだ。
でも今夜からはこうしてセラが僕の気持ちを受け止めてくれるから、少しは楽になるのかもしれない。
その代わり僕は君に触れることをやめてあげられないから、それだけは許して欲しいけど。
『ん、総……』
腰に回した腕で引き寄せて、セラの頬に触れながら、何度も唇を重ねた。
たまに垣間見えるとろんとした瞳のセラがどうしようもなく愛おしい。
触れるたびにようやくこうして彼女を抱きしめられることが、ただただ幸せだった。
『……総司、そんなに何度もしたら……』
セラが恥ずかしそうに頬を染めながら僕を見上げる。
その表情が可愛くて、何度だって触れたくなる。
「だって、ずっとこうしたかったんだよ。もう止まらないかもね」
くすぐったそうに肩をすくめながらも、上目遣いで僕を見つめるセラの瞳が揺れる。
ほんのり上気した頬がますます愛らしくて、僕の理性を試すみたいだった。
「僕は君を誰にも渡したくないから、ずっと僕の傍にいてもらうつもりだよ」
耳元で囁くように言うと、セラはびくっと小さく肩を震わせた。
僕の腕の中で、ふわっと甘い香りが広がる。
『私もずっと総司の傍にいたいよ』
甘えるように袖を引っ張るセラの仕草が可愛くて、顔を上げたセラの唇を、ふっと奪った。
彼女の唇が微かに震えて、僕の方まで熱を帯びていくようだった。
「ん……セラ……」
セラの唇は柔らかくて、触れるたびに甘い気持ちが膨らんでいく。
僕はそっと彼女の頬を包み込み、もう一度、ゆっくりと口づけた。
『……総司……』
息を継ぐように小さく名前を呼ばれるだけで、胸が締めつけられる想いだ。
この眼差しも僕を呼ぶ声も、以前の世界のセラと何も変わらない。
僕が大好きで堪らない、セラそのものだ。
「僕のことだけ見ててよ、どこにも行かないで」
『うん、行かないよ。総司のことだけ大好き』
その言葉が嬉しくて、僕はもう一度セラを強く抱きしめた。
君が僕の腕の中にいる。
それだけで、どんなことも乗り越えられる気がするから不思議だ。
だからこの世界では、僕は何があっても君を絶対護り抜く。
二度と失わないと心に決めて、セラを真剣な眼差しで見つめた。
「セラ、一つだけ約束して欲しいことがあるんだ」
『うん、何?』
「城の中は騎士や見張りが多くいるからまだいいけど、城の外に出たら絶対に一人にならないで欲しい。どこかに行く時は必ず僕に声を掛けて欲しいし、僕の傍から離れないで欲しい。僕が絶対君を護るから、それだけは約束して貰える?」
セラは何故僕がこんなことを言うのか分からない様子だったけど、素直に頷くと笑顔で言ってくれた。
『うん、分かった。お城から出る時は総司に声掛けさせて貰うし、離れないようにするね。気にかけてくれてありがとう』
「絶対だよ、それだけは約束して」
『約束するね。でも総司もお父様みたいに心配性なんだね。私は全然大丈夫なのに』
「大丈夫なんかじゃないよ。僕は君にどんな時でも手を伸ばせば触れられる位置にいて欲しい。僕にとって何よりも大事なのは君自身の存在なんだ。分かってくれるよね?」
僕があまりに真剣に言うから、セラもその気迫に押されて真剣な面持ちで二度首を縦に振る。
これだけ念を押したから流石に無鉄砲に一人でいなくなることはしないだろうけど……まだ心配だな。
『なんかごめんね、私総司にそんなに心配掛けちゃってるのかな?』
「そういうわけじゃないよ。僕が君を護りたいだけだから、謝らないで」
『でもお父様も山南さんや山崎さんも……皆私のことを凄く心配してくれるの。それってやっぱり私が頼りないから皆にそう思わせちゃってるのかなって思うと申し訳なくて……』
確かにこの城の作りもセラの置かれた境遇も、普通より過度にセラを囲い込み、外の世界を遮断している環境ではある。
それは過去のことや、数ある組織がセラに目を付けていることが関係していて、加えて僕はこの子が一度辿った死の結末を見ているからこそ、不安にならざるを得なかったからだった。
けれどセラは何一つその理由を知らないのだから、周りの態度に違和感を持つのは当たり前だ。
決してこの子に原因があるわけではないのに、悲しそうに話す彼女の言葉を聞いて、胸が痛むのを感じた。
「違うよ。君がどうこうじゃなくて、ただ君が大切なんだよ。外は実際危険なことも多いし、何かあってから後悔しても遅いでしょ?だからなんとしてでも君を護りたいだけなんだ」
『うん、分かった。そう思って貰えるのは嬉しいし、私も気をつけるようにするね。でも総司も自分の身体を大切にしてね?いつも一生懸命私のこと考えてくれて嬉しいけど、私は総司に総司自身のことも大切にして欲しいって思うよ』
「そうだね。僕に何かあれば君を護れなくなるから、そこはちゃんと考えて行動しようと思ってるよ。だからあんまり心配しないで」
僕の返答を聞いて嬉しそうに頷くセラを抱き寄せて、この温もりが永遠に消えないことを願うばかりだ。
セラとの日々をまたやり直せている理由すら分からない今、全てが不確かでこの世界自体が僕の作り上げた妄想ではないかと感じてしまう時もある。
それでも今確かに君がいて、僕に温かい言葉をかけてくれるから、僕はただ信じたい。
ここがまやかしでも何でもなく、本物のかけがいのない世界だということを。
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