月は出ない

真夜中。
屋敷での仕事を終え、猫の彼女に会いに行くセバスチャン。


しかし愛しい猫の彼女にふられてしまい、本でも読もうかと思った瞬間



月がセバスチャンを照らした。



それもいつもと違い、熱さを感じる。


そして何よりも近い。


セバスチャンはいつもと違う月に目を奪われ、眺めて居ると月から何か落ちてきた。



人より視力のよいセバスチャンには、人が落ちて来るのがハッキリと見えた。




手を伸ばし、落ちてきた人を抱き止めた。




金髪にウェーブのかかった長い髪。
美しく、見とれる美貌を持った女性。



そして目に入ったのはボロボロの汚れた衣服に傷だらけの腕と脚。



セバスチャンは、女性を抱きかかえ、屋敷へ戻って行った。




「息はしていますね」

女性の呼吸を確認するとセバスチャンは傷の手当てを始めた。



消毒をし、包帯を巻く。
血が滲む。




「どうしたらこんな傷だらけになるのでしょうね」


「セバスチャン、この人間は一体誰なんだ?」



屋敷の主、シエルはセバスチャンに訪ねた。



「おそらく…月の女神ではないかと…」


「冗談だろ。女神なんて」


「悪魔も死神も存在するのですから、この世に女神も存在すると思いますよ。それに、外をご覧になって下さい」




シエルは驚いた。




闇を照らす月は消えて、外は真っ暗だった。





女性は3日程眠り続け、目を覚ました。


目を覚ました女性はとても美しく、セバスチャンは目を奪われた。



「お加減はいかがですか?」


「…大丈夫です…」


「傷の方が酷かったので、手当てさせて頂きました」


「…ありがとう…ございます…」


「あと、お召し物もボロボロでしたので…」


「…」
女性は顔を赤らめる。


「着替えはハウスメイドが致しましたのでご安心を」


「ありがとうございます」


「包帯のお取り替えをしてもよろしいでしょうか?」


「…お願いします」




包帯を外すと、あんなに酷かった傷は全て綺麗に治癒していた。





やはり人間ではない。

「あの…私…」


言葉に詰まる女性。




「わ…私…ずっと貴方の事を見ていて…ずっと会いたくて、月からやってきました」




セバスチャンの予想通り女性は月からやってきたようだ。




「私は、月の女神のマリアと言います」


「私はこのお屋敷の執事、セバスチャン・ミカエリスです」




『ググー』

彼女の腹の音が鳴る。


「ご、ごめんなさい」
彼女は手で自分の顔を覆う。





セバスチャンはリゾットを運んで来た。


「お口に会うか分かりませんがどうぞ召し上がれ」



彼女はリゾットをぱくぱく美味しそうに平らげた。


「初めて食べましたが、とても美味しかったです。」


「あれはリゾットと言うのですよ」


「リゾットですか」


「傷、治ってよかったですね。とても酷かったので跡が残らないか心配でしたが」


「はい。えっと…こんなにたくさんよくして頂いてありがとうございます」



彼女は自分の腕に触れながら言った。



「私、セバスチャンに会いたくて会いたくて、気持ちが抑えられなくなって、茨の道を抜けて月から飛び出して来ました。手脚の傷はそれが原因です」



茨の道。
とても痛かっただろう。



「痛い思いまでしてわざわざ私に会いに?」


「はい。セバスチャンの顔が近くで見たかった。だから痛みも我慢できました」



見つめ合うセバスチャンとマリア。









月の女神が地上に降りてから、夜空を月が照らす事はなくなり、巷では大騒ぎとなった。




永遠に月は出ない。