13/赤い刹那

キャッキャしているエリザベスとシエルを眺めながらマリアとフランシスは椅子に座っていた。



「本当にすまなかったな、マダムレッドの事。」

「気になさらないで」







マダムレッドの葬儀にマリアは出席しなかった。

何故なら、マダムレッドの死後、机から遺言のようなものが出てきて“もし私に何か起きたら全て済んでからマリアに知らせるように”と書いてあったのでその通りになったからだ。






マダムレッドと会う約束をしていた。

寒空の下、マリア数時間待つがマダムレッドは来なかった。
その時は急患でも入ったのだろう、と気にしなかった。





それから大学の飛び級テストが無事終わって数日後。





フランシスから連絡が来た。


『もしもし、フランシス叔母様…』




マダムレッドの死を聞かされた。



『そう…』





何も言葉が出なかった。




マダムレッドの意向で葬儀は済んだ後だった。


マダムレッドが以前、落馬事故に遭った際、大事な飛び級テストをすっぽかしてマダムレッドの元へ駆けつけ、飛び級できなかった。



今回のテストは前回の飛び級テストの追試験のようなものだった。





マダムレッドに何か起きたと知ったら、マリアは全てすっぽかして来ると知っていたから配慮なのだろう…






その時マダムレッドの配慮があって飛び級したのだから、絶対に医者にならなくては、と強く決心したマリアだった。








「マリアは縁談に興味はないのか?」


「フランシス叔母様まで…私は興味ないわ」


「マリアは頑固だから何を言っても無駄だろうな」


「ええ。でもこの間シエルにも結婚を勧められましたの」






シエルを眺めながらマリアは言う。

…私がファントムハイヴ家に居ると危険な目に遭う確率が高い。


だからシエルはファントムハイヴから私を遠ざけたいと思ってるのだろう。





そんな事は分かっている。






本来なら“女王の番犬”なんて仕事もさせたくなかった。




でも私にはできない。


代わってあげられない。




だけど、近くでシエルを守りたい。





私の力じゃ守れないかもしれないけど…





たった一人の私の弟。





離れたくない。







それにあの悪魔もなんとかしなくちゃ…




魂を食べるなんて阻止しないと。






無力な自分への情けない気持ちが渦巻く。


エリザベスとフランシスの帰り際




「リジー」


「お姉様、どうしたの?」


「この剣、よかったら使って。私はもう使わないから」


「いいの?」


「使わないより使った方がいいでしょう」




フェンシングの剣をエリザベスに渡した。





「よろしければフランシス叔母様にも猟銃を。私はもう狩猟もしないから」


「ありがとう、マリア」







エリザベスとフランシスは馬車に乗って帰って行った。








その日の夜、マリアはリビングでシャンデリアわ眺めながら色々思い出して居た。


学業だけでなく、フェンシング、フィギュアスケート、バレエ、ピアノ、ヴァイオリン、絵画…常に上位成績をおさめ、コンクール荒らしだったマリア。



フェンシングはあのエリザベスよりも強い。







3年前のフィギュアスケートの大会の前日。




マダムレッドから連絡が来た。



内容はとても衝撃的なものだった。



ヴィンセントとレイチェルは殺害され、屋敷は放火されて、弟のシエルは行方不明。タナカは大怪我を負った。



焼けたファントムハイヴ邸を目の前にしても、信じられなくて涙は出ない。






猛ダッシュで王立病院へと向かった。




『マダムレッド!』


『アンタ、フィギュアの』


『それどころじゃないわ』


『じいやは?』


『大怪我を負ってまだ眠ってる』






それから毎日学校を抜け出してはタナカに花を届けた。



早い回復を祈って…


『じいやの意識が戻った?!よかった』


『会いに行ったら?』


『私だけ呑気に生き残ってて、会わせる顔がない』





あれから、大好きだったピアノやバレエ、全てを辞めた。





「マリア様、日本茶をお飲みになられますか」


「じいや!いただくわ」




マリアとタナカは一緒に日本茶を飲む。




「見て!茶柱が立ってる!」


「ほっほっほ…マリア様」


「なぁに?」


「私が入院している時、毎日きれいなお花をありがとうございました。お花を眺めてると元気な気分になれましたよ」


「じいや…」




タナカは笑顔でマリアに言った。


タナカは知っている。
ただマリアの気が強いだけでなく、優しさも持っているのを。