31/思い出

シエルの好きな白い薔薇が咲くローズガーデンで紅茶を飲むシエルとマリア


マリアは箱を出す。

「シエル、はい」

「これは?」

箱を開けると、ネクタイピンや宝石類に写真だった。

「お父様とお母様のよ」


ヴィンセントとレイチェルの形見と言ったところだろうか。

「姉さん、なぜこれを?」


昔の記憶。
寄宿学校にマリアが入る時だった。
『お父様とお母様の形見をちょうだい』

『形見って、私が死ぬみたいじゃないか』
ヴィンセントは笑った。

『そうよ』
レイチェルも笑った。

『でも人はいつどうなるかわからないじゃない』

ヴィンセントはマリアを抱き抱えながら
『そうだね、神様もそれは分からないね。じゃあ私のネクタイピンをあげるよ。レイチェルもいいだろう?』


着けていた、ネクタイピンを外してマリアに渡した。


レイチェルからも宝石を貰った。


写真は、適当に選んだ。


「シエルに、と思ってね」

「僕は要らない。姉さんが持っていてくれ」

シエルは写真を取り出し、昔の話をし始めた。


「姉さんはイタズラ好きだったよな。僕はよく覚えている」



昔のファントムハイヴ邸もガチャンガチャンと大きな物音がしていた。
マリアがよくイタズラをして使用人に追いかけられていた。
レイチェルにはお尻を叩かれて叱られて、ヴィンセントは『元気があっていいじゃないか』と抱き締めてくれた。



「毎日姉さんはイタズラはするわ、屋敷は抜け出すわ、毎日大騒ぎだったよな」


『マリア、イタズラばかりしないでおしとやかなレディになりなさい。そしてお母様みたいに結婚をして…』

『おかあさまみたいにはならない。おかあさまみたいにけっこんするだけのじんせいなんてつまらない』

『ディーデリヒおじさまはいつもおこっていてこわい』

『フランシスおばさまはこわいけどけっこんできたからわたしもかんたんにできる』

『おとうさまのわらったかおはうらがありそうでこわい』



マリアは思った事をすぐ口にする子だった。


悪気はないのは周りも分かって居たが扱いに困った。
『ボート遊びに行こうか』
ヴィンセントが優しくマリアに手を伸ばすとマリアは手を払いのけた。

『わたしはいかない。ボートあそびなんてしないでほんをよんでちしきをつけたい』


『おもちゃはいらないほんがほしい』

『はやくおとなになりたい』

『こどもあつかいしないで』


ませた子供だった。

ヴィンセントにもレイチェルにも甘えなかった。


ただ、何故かマダムレッドとアンダーテイカーだけには心を開いて居た。


『マリア、アンタが裏表のない子って事はわかってるけど、何でもかんでもハッキリ言い過ぎよ』

『ハッキリいうことはわるいこと?』

『ハッキリ言い過ぎて傷つく人も居るかもしれない。義兄さん、お父様も傷つけちゃうわよ』

『わかった』


マダムレッドの言う事は素直に聞いていた。



『マダムレッドみたいなおいしゃさまになってフランシスおばさまみたいにつよくなりたい』




口は悪かったが弱い者いじめが大嫌いだった。
エドワードやシエルがいじめられたと聞けば相手が年上でも立ち向かった。


年上相手でも喧嘩をすれば必ず勝つ。
負けたことはない。


猪突猛進だった。
欲しいものは必ず手に入れる。



寄宿学校に入る時、周りは皆馴染めるか心配したが、集団生活に馴染み、リーダーシップを発揮し、人気者になった。

負けず嫌いで、リジーにフェンシングで負ければ大泣きして、猛特訓をし、勝った。


シエルにチェスで負ければ大泣きして、チェスの駒をひっくり返して顔を真っ赤にして出ていってしまう。







「懐かしいな」


紅茶を飲みながらシエルは笑った。


「やめてよ、恥ずかしい。私も丸くなったのよ!」

恥ずかしくて顔が真っ赤になるマリア。


「変わらないな。姉さんはずっと僕の自慢の姉さんだよ」





強くて優しい、大人びた姉がシエルは大好きだった。



今でも変わらない。





「私もよ、シエル。ずっと大事な世界でたった一人の弟」

「ところでね、シエル、私米国に留学することにしたの」

「?!いつだ!?」


突然のマリアの発言にシエルは驚いた。



「明後日…どうしても早く医者になりたいからね」




あまりにも突然だった。