34/変わらない気持ち

マリアがファントムハイヴ邸に戻って来て、すぐ気付いたのは庭の薔薇が赤くなっていた事。

フィニに聞いてみたら
「セバスチャンさんが赤い薔薇に変えるって植え替えたんですよ」
と言っていた。



深い意味はないだろう。

そう思っていた。


新人医師として王立病院で働くマリアには色々と考えている暇はなかった。



ファントムハイヴ邸の中にもよく赤い薔薇が花瓶に美しく飾られている。


マリアの大好きな赤い薔薇。

しばらくすると、
“王立病院に美しい女医が居る”
“ファントムハイヴ家の長女はとても美しい、しかも年頃”

ロンドン中にあっと言う間に噂が広まってしまい、ファントムハイヴ邸にはマリアを見に来る上流階級の紳士やら、縁談の話に写真や手紙もたくさん来るようになった。



全て「結婚するつもりはない」とマリアは断る。




街を歩けば、男達が振り替える。

付き合いのパーティーや、舞踏会に行けば、男がたくさん寄ってくる。




そんな日が続く。





ある日の昼、セバスチャンが厨房でケーキを焼いていると、マリアが大量の写真や手紙を持ってやってきた。



「どうされたのです?」

「手紙ばっかり、写真ばっかり。私は結婚しないってのよ」

マリアはオーブンの火の中に写真や手紙を放り込んだ。


「目を通さなくてよろしいのですか?」

「いいのよ。同じ事しか書いてないもの!」



燃える手紙や写真を見ながらボソッとマリアは言った。

「…みんな私の外見しか見ていない…」


「私はマリア様の事をきちんと見ていますよ。粗暴で負けず嫌いな強がりなすぐにムキになる面白いレディーだと言う事を」

セバスチャンは意地悪に笑う。


図星だったのか、マリアは顔が熱くなるのを感じた。


「わ、私だって留学中はボーイフレンドのひとりやふたり、居ましたし」


胸を張って、セバスチャンに冷静を装って言った。


一瞬、セバスチャンの眉がピクリと動いたような気がした。


何故かセバスチャンは何も言い返して来ない。
沈黙が不自然でマリアは厨房から勢いよく出て行った。





確かに
留学中もたくさんの男達に“結婚して欲しい”と言われた。
でも全て断った。

「好きな人が居るから」と。



その好きな人は所詮私をバッタ位にしか思っていないんだろうなぁと思うと、なんだか腹が立って来た。



セバスチャンを忘れるために留学したのに、変わらない自分の心に腹が立っているのだと思う。