医師として日々忙しく働くマリアにある伯爵から舞踏会の招待状が届いた。
「姉さん、行くな、この間の舞踏会も姉さんが怒って僕は大変だったんだぞ」
マリアは先日の舞踏会で縁談の話をされて激怒してしまったのだ。
「あの時は悪かったわよ。もうあんな風にしないからいいでしょう?私だって息抜きはしたいもの。グレルだって一緒に来てくれるし」
シエルは仕方なく
「グレルが一緒なら…仕方ない…好奇心を出して怪しい場所には行かないで下さい、姉さん」
と渋々舞踏会に参加する事を了承した。
そして、当日。
鼻歌混じりにドレッサーに向かうマリア
トントン
ドアをノックする音がする。
「失礼致します」
セバスチャンが入ってきた。
「髪を結って下さいな、髪飾りはこれをお願いね!」
ルビーが散りばめられた髪飾りをセバスチャンに渡した。
「畏まりました」
マリアは鼻歌混じりに筆を取り、メイクを続ける。
セバスチャンはマリアの髪を結いながら話をかける。
「とても楽しみにされていらっしゃいますね、今日の舞踏会」
「そうよ!久しぶりですもの」
筆に真っ赤なルージュを乗せ、唇に塗っていく。
離れている間に本当に美しいレディになったな、とセバスチャンは一瞬、髪を結うのを忘れ、マリアを見た。
鏡の中のセバスチャンと目が合う。
「ルージュ、似合わない?」
「いいえ、とてもお似合いですよ」
セバスチャンはニッコリ笑った。
真っ赤なドレスに気合いの入ったメイク、美しく結ってもらった髪形。
絵本の中から出てきたように美しいマリア。
階段を降りると、使用人達は見惚れた。
「ヤダ、マダムレッドじゃない!さぁ行きマショ」
迎えに来たグレルと馬車に乗って行く。
「アンタ随分気合い入ってるワネ」
「そうよ、久しぶりの舞踏会ですもの」
会場に到着し、馬車を降りると、誰もがマリアを見た
「何て美しい!」
「ファントムハイヴ家の長女」
「リトルレッドが美しく成長した!」
そんな言葉が聞こえて来た。
マリアはワインや軽食を手に取ってグレルと楽しく会話をしていた。
「今日もウィルったらストイックでネ」
「よく飽きないわね〜ウィルだってグレルが足引っ張るから呆れてるんじゃないの?」
二人は笑いながら会話をしていると、どこからかロナルドがやって来た。
「サトクリフ先輩探しましたよ」
「ロナルド、どうしたのヨ」
「急な仕事入ってウィリアム先輩が探してましたよ」
「アラ、行かなきゃ、アンタ一人で大丈夫?」
「私は一人で大丈夫よ!グレル行って」
グレルとロナルドは走って居なくなってしまった。
一人になってしまったマリア
昔、舞踏会で黒ミサの生贄にされそうになった事があったが今回は大丈夫だろうと安心しきって居た。
「ファントムハイヴ家のご令嬢とお伺い致しましたが?」
自分より少し年上の紳士が話かけてきた。
「えぇ、そうですわ」
笑顔で言葉を返すマリア。
張り付けたような、紳士の笑顔
会話が頭に入って来ない。
気がつくと、回りにはたくさんの男が居た。
この話をかけて来た紳士も本当は私と話をしたいんじゃない。
私の外見を見て厭らしい事を考えて居る、他の男性も下心向き出しだわ。
誰も私の事を見ていない。
中身なんか見てくれない。
外見しか見てくれない。
なんだか、男に囲まれて怖くなってしまった。
何だかこの人達の笑っている瞳の奥の本心が透けて見えてしまって。
「踊っていただけませんか?」
見知らね男性がニヤニヤしながら、私の手を取ろうとしている。
マリアは動けなかった。
その時
会場の灯りが消えた。
ざわめく会場。
気がつくと
月の目の前に居た。
セバスチャンに抱き抱えられて。
「気になって様子を見に行ってみたら…固まっていらして、貴女らしくありませんよ。」
マリアを抱き抱え、屋根を飛んでつたい、移動していた。
「べ、別に来なくたってよかったのに、大丈夫だったのに」
強がってしまうマリア。
大人になって、感じた
女としてマリアを汚い穢れた目で見られる事に対して大きな恐怖。
セバスチャンが来てくれなかったら、どうなっていたのだろうか。
涙が出そうになったが、我慢した。
マリアの瞳に映る美しい月とセバスチャン。
セバスチャンの表情が優しい気がした。
見慣れた場所。
ファントムハイヴ邸に着いた。
「着きましたよ」
抱き抱えられたまま、屋敷の中に入る。
マリアをセバスチャンは椅子に優しく座らせてくれた。
「せ、せっかくいいところだったのに!貴方が私を連れていくから踊れなかったじゃない!」
椅子から立ち上がって、強がりを言う。
「せっかくおめかししたのに!」
「踊っていただけませんか?」
「え?」
セバスチャンが跪く。
「私と、踊っていただけませんか?」
ヴィンセントとレイチェルが踊っている。
シエルが居る。
マリアが居る。
みんな笑っている。
シエルは目が覚めた。
夢か。
なんだか笑い声が聞こえる。
ベッドから起き出して階段を少し降りて下を見ると、マリアとセバスチャンが踊っている。
今までどの舞踏会で見た人よりも美しく、二人は輝いて見えた。
あんなに楽しく笑顔のマリアは初めて見たし、あんな優しい表情のセバスチャンも初めてだ。
“二人だけの世界”だったので、シエルは部屋に戻った。
「まだ踊られますか?」
「いっぱい踊ったからお仕舞い!」
「かしこまりました」
セバスチャンはマリアの手を離そうとすると、マリアが手を握って来た。
「セバスチャン、あ、ありがとう。また…あのね…セバスチャンが嫌じゃなかったら…私と、踊ってくれる?」
恥ずかしそうにマリアは言った。
「いつでも私でよければお相手させていただきますよ」
「ありがとう」
手を離すマリア
「今日はありがとう!また、踊りましょうね」
そう言うと階段を急いで昇って消えて言った。
バタン!
マリアは自分の顔が真っ赤だと気付いて居た。
顔、いや、体が熱い。
貴方と踊れて
凄く嬉しい。