「ありがとうございましたー」

日もすっかり沈んだ夜、やる気の無さそうな店員の挨拶を背になまえはコンビニを後にした。
病院で絶対安静と叱られ、大袈裟なほど追求してくる兄の質問責めにあってから兄をひたすら宥め続けて。
あれから1週間ほど経ち、まだ身体が軋むような感覚はあれど腫れは引いてきたからと
なまえはふらりと街中を出歩いていた。

兄やその仲間とかち合うのを嫌い、コンビニに寄るのでも毎回家から遠いところに来る。
寒くなってきたからと買った肉まんを口に咥えて紙パックのジュースにストローを刺した時、
ふとコンビニ前にしゃがむなまえに影がかかった。

「オマエ、何してんだこんなとこで」

「あ?
 ……あ……」

「……落ちたぞ」

怪我も治りきっていないのにまた絡まれるのか、と
深夜近くに出歩く自分の責任はさておき不機嫌そうになまえが振り返った先、
そこにはいつか自分を助けてくれた巨体の男、荒師慶三が立っていて。
また自分に声をかけた事実に驚いてなまえは咥えていた肉まんをぼとりと落としてしまった。



「……すいません、買ってもらっちゃって」

「や、いいけどよ。
 怪我はもういいのか?大分やられてただろ」

「まだ治りきってはないですけど……
 でも家に居ても親も兄貴もめんどくさくて」

「あー……まあそういう時期だよなオマエの年齢は」

自分のせいでダメにしてしまったからとなまえに肉まんを買い直して、そのついでに自分にもいくつか買った荒師は近くの公園でなまえと話をしていた。

あの時、なまえの兄である今牛若狭と言い合いになりかけて、
自分と若狭の立場上そこで切り上げる他なかった荒師はなまえと話す暇もなくその場を立ち去って。
それから妙に気にかかってしまっていたために思わずコンビニ前で声をかけた。
買い食い、ましてやコンビニ前にしゃがんで、などヤンキー然とした行為が似合わないなまえの見た目からは意外だったが
同時にコイツもちゃんと男子学生の胃をしているのだと妙に安心もして。

「友達とか仲間と遊んだりしねえのか?
 オマエこっちの縄張りまで来るような家じゃねえだろ」

「……兄貴が有名すぎて近寄ってこないんで。
 学校中探しても友達になろうなんて奴居ないです」

「成る程な……」

「たまに告白とかはされるんですけど、
 話した事ないし名前わかんねーし、そういうの気持ち悪くて」

「そりゃモテる奴の台詞だな」

まふ、と肉まんを齧りながらゆったりと話すなまえの横顔を盗み見て、
成る程確かに見た目だけで告白されるほど整った顔をしている、と荒師は内心で納得する。
それ故に絡まれもするのだからこんな深夜近くに出歩くな、とも付け足して。

「だからオレ、えーっと……荒師さん、が初めてです。
 こういう風に喋ったりする相手」

「マジか。
 つーか名前かベンケイでいいぞ、むず痒いからよ。
 さん付けも別にいらねぇよ」

「名前……けいぞー、くん?」

「っ……あ、ああ。
 まだそっちの方がいい」

恐る恐る、といったように小首を傾げながら呼ぶなまえに荒師は一瞬言葉に詰まったが、誤魔化すように頭を撫でる。
するとまるで小動物のようにくすぐったそうに身動ぎするなまえに庇護欲を擽られて荒師は少し笑う。

「?どうしたんですか?」

「いや、オマエの兄貴が可愛がるのもわかる気ぃするわと思ってよ」

「なんですか、オレ別に可愛がられてないです。
 ろくに家に居ないし、居たら居たでやたらと不良になるなだとか怪我すんなとか言ってくるし」

む、と唇を尖らせるなまえに、荒師はまた笑って。
それからしばらく荒師となまえは他愛のない話をしていた。



「っと、悪い。すっかり遅い時間になっちまったな。送ってくわ」

「え、いやいいですよ。
 オレこの時間に帰るのよくあるし、
 それにもし兄貴家に居たら慶三くんと揉めちゃうし」

「オマエを一人で帰すの心配なんだよこっちはよ」

「……はは、慶三くんの方がオレの兄貴みたいだ」

へらり、とすっかり懐いたようになまえは笑って。
言葉に甘えて荒師に家まで送ってもらった。
家に着いた途端に何故か家の前で腕組みをして立っていた兄に見咎められ、
また東西のトップ同士の言い争いが勃発しそうになったのは別の話だ。