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「総長、大変です!」
「総長!またアイツが!!」
「ヤバいっす総長!アイツ1人でチーム潰してきたって!!」
螺愚那六と呼ばれる、関東で最大の構成人数を誇る暴走族のチーム。
荒師慶三はそこの総長であり、赤壁という異名をとるほど喧嘩も滅法強かった。
そんな荒師は数週間ほど前、螺愚那六の縄張りで袋叩きにされるカタギのような少年を助けた。
それから何度か縁があって再会し、そしてつい先日、
お礼参りと言って過剰な暴力に身を任せるその少年を案じて螺愚那六に引き入れたばかりだ。
引き入れた少年、今牛なまえはそれはもう問題児であった。
絡まれやすい、といつか本人も言っていた気はするが
絡まれては相手をやりすぎなほど叩きのめし、口も悪い。
暴走族としてはままある事だが、それにしたってチームの一員という意味を何も考えてはいない。
どことどう火種を作ろうがお構い無しで、果ては火種を作ったチームを1人で潰してしまったのだと
構成員の1人からそう聞いた荒師は額を押さえた。
「なまえ、オマエよぉ……一言相談しろって言っただろこの前」
「……ごめんなさい」
荒師はとりあえず、となまえを呼び出して叱る。
なまえが他チームと揉めた時は、螺愚那六として動くまでの被害になる前になまえがカタをつけてしまう。
被害にこそならないが、全てを螺愚那六が事後に知る。
けれどそれは違うのだと、それでは駄目なのだと荒師はその度になまえに言っていた。
ずっと一人だったらしいから勝手がわからないのだろうとフォローしていた幹部のメンバーも
こう何度も繰り返されれば乾いた笑いしか出ないようで
荒師がなまえを呼び出している今も苦笑いで傍で聞いている。
「慶三く……総長の事バカにしたから、わからせました」
「オレぁそういうの自分でやっから……」
「あと、兄貴の事持ち出されたから」
「あー……」
なまえが勝手にケンカをする理由は、主にこの2つで。
荒師に随分と懐いたらしいなまえは、荒師の事をバカにされたりするとすぐに手が出る。
螺愚那六に居る連中はわりとそういうところがあるが
なまえは殊更敏感だ。
そして、兄である今牛若狭が有名すぎるゆえに血縁関係を知っている連中からのちょっかいも酷いらしい。
「まあ次からはマジで先に相談しろ、な?」
「……総長に嫌われたくないから、そうします」
「ん、おう……」
別に嫌ったりはしないが心配になるのだ、と荒師は内心で付け加えて
窺うように見上げてくるなまえの頭を撫でる。
それを見た周りのメンバーが心なしかにやついている気がしたが、
猫のように目を細めるなまえが嬉しそうだったので荒師は特に気にしない事にした。
なんだかんだ、ピアスも開いていなければスミも入っていない、スレきっていなさそうななまえが弟のようで可愛い。
と、そこまで思ったところで、気になっていた疑問をなまえに投げ掛ける。
「そういや、オマエの兄貴なんも言ってきてねえのか。
特攻服とか見られてねえか?」
「ああ……」
聞けば、不良としての兄貴は噂でしか知らないのだと、そう言っていたなまえ。
弟を不良界隈に関わらせないように必死な兄が窺えて、
随分猫可愛がりしているものだと思ったのは記憶に新しい。
怪我をして帰った日には随分と質問攻めにあい、自分が伸してきてやると言って聞かないそうで。
そんなブラコンを拗らせていそうなあの兄が、よりによって螺愚那六に入った弟など知ってしまえば
それはもう荒れるだろうと予想していたが、なまえは少し面倒そうに眉を寄せるくらいの反応しか見せていない。
「入ったその日に見つかって、めちゃくちゃうるさかったんで……」
「で?」
「人の行動制限する兄貴なんか嫌いって言ったらフリーズしちゃって……。
なんかちょっとだけ泣いてたんすけど、最終的に許してくれました」
荒師は内心で今牛若狭に合掌した。
「あー……まあ、なんつーか……。
とにかくオマエ、オレの目の届くところに居ろ。
オマエが暴れる度気が気じゃねえよこっちは」
「でもオレ、入ったばっかりで下っ端ですけど」
「いいんだよ別に。
その代わり、オレがいいって言ったケンカ以外すんなよ」
「……はい、わかりました」
素直に頷くなまえにもう一度頭を撫でてやれば、すり、と気持ちよさそうに自分からすり寄せてくる。
片手で掴んでしまえそうな小さな頭に体格差を感じつつ
小動物的なその仕草にどこか庇護欲を駆られるのも自覚した。
「ベンケイ、オマエちょっとあからさますぎてヤバいって」
「あ?何が」
「なまえにだよ。
オマエの態度わかりやすすぎてさあ」
特に抗争や動きもないからと解散した後、帰り道でなまえの事について幹部のメンバーが言及してきた。
苦笑いしながら言われた事に心当たりなどなかったし
何を言っているんだとばかりに荒師が首をかしげると相手は少し呆れたようだ。
「別にオマエが見なくても、どっかの隊に入れりゃいいんじゃねえ?
オレんとこでもちゃんと見といてやるけど」
「余計な事すんな、オレが見るっつってんだ」
「……そーいうトコだよオマエ」
ふう、とため息をつかれて荒師は眉間にシワを寄せるが
ただなんとなく、なまえが自分以外のメンバーの下につくと考えると嫌だと言う自分が居た。
確かに今までに引き入れたメンバーも、志願してきたメンバーも、そんな事はなかったが
なまえはなんとなく気がかりで自分の目の届くところに居ないと心配になる。
「弟みてぇなんだよアイツ」
「……弟ねぇ……」
含みのある相手の言い方は多少癪にさわったが、
しかし本当に弟のように思えるのだと、横に居る相手が邪推しているだろう事は何もないと
荒師は猫のようにすり寄ってきたなまえを思い出しながら掌を眺めて自分に言い聞かせた。