ロックガールと大きな蝙蝠

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早めに移動してきたこともあってか、まだ先生は教室にいなかった。
レイブンクローの生徒はもう半数以上が席についていて、さらに教科書を開いて予習をしている子がチラホラ。君は勤勉さが足りないと帽子に言われた意味がいま分かった。うん、こりゃあたしには無理!!
…ちなみにハルも予習組でした〜!くっそお前はなんて期待を裏切らないヤツなんだ!!

「やっほ〜ハル」
「やっほ〜、じゃないぞ。予習はしたのか?」
「……それをあたしに聞いてしまう?聞いてしまうの?」

してるわけなくもなくもない。つまり、ほかの教科同様なんとな〜く教科書は読みましたって、ただそれだけです!!だってこの授業1番わけ分かんないこと書いてあるんだもん!予習もクソもない。
それでも3回は教科書を開いてみたし、褒めてほしいところだわ!
チラっとハルの教科書を見てみたら細かいメモがいっぱい書いてあって思わず頭を押さえた。ド真面目か!ド真面目でしたわ!

ハルにハッフルパフでできた友人たちを軽く紹介して、あたしたちも席につく。
近いと何かしら便利かなと思ってハルの後ろを陣取った。隣はジャスティン。
そのジャスティンがハルを見習ってなのか教科書を開いたのであたしもペラペラとページを捲って…みたけど……。

「ダメだこりゃ。サッパリだ!」

…とかなんとか言ってたら教室の扉がバーン!と開いた。びっくりして扉の方を見るとそこには大きな蝙蝠が!!じゃなくってスネイプ先生が!やだこわい。まだ始まってないけど既にこわい。先生の纏ってるオーラがこわい。

そこから先は一切の私語もなく(ていうかたぶん喋ったら即死。さすがのあたしも空気を読んで黙る。)、先生が出席を取り終えると一瞬の沈黙のあとにスネイプ先生がこう言った。

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

こ、これは世にも恐ろしいベルベット・ヴォイス…!
喋ってるの初めて見た〜、きゃは!…って感じでキャピキャピする気すら起きない。そんなことしたらやっぱり即死だろうな。
空気凍ってますよ先生。凍てつく地下牢教室ってタイトルで1曲作れそうだよ!

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力…諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である──ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

もはや演説だった。なにかの選挙だったのかこれは。恐ろしさのあまり先生に投票してしまいそうだ。
あたし、ママのおかげでお菓子作りは結構得意なんだけど、お菓子作りの技術と薬作る技術は別だよねェ…!?
すみません先生、あたし多分ウスノロの仲間です!

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」



……?!?!!
イキナリ 出題!?何これ早押し?!
みんな状況を察したものの、手は挙がらない。そう、ハル以外はね!

「ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」

これもハル以外は誰も挙手しない。
ま、まじで?ハルこれ分かるの?

「モンクスフードとウルフスベーンの違いは?」

はい。ハルしか挙手なし!
あたしらハッフルパフ生はさておき、レイブンクローのみんなはさっきまで予習してたよね?!教科書開いてたよね?!知ってるんじゃないの?!
もしかして問題が難しいというより、スネイプ先生の威圧感に押されてる?もう何がなんだか!
よく見るとハルの隣に座っている男の子は微かに震えていた。分かるわかる、これは震えるよ…。

「ではMr.エーカー、すべて答えたまえ」

手を挙げっぱなしの勇者・ハルに教室中の視線が集まる。もちろんあたしも見た。見えるの後頭部だけども。
「一つ目の問い。アスフォデルとニガヨモギを合わせると、強力な眠り薬…『生ける屍の水薬』ができます」

ハルはいつもと何も変わらないといった感じで、淡々と答えた。コイツすげーなまじで!度胸あるなぁ…まぁ、舞台度胸ならあたしもあるもんね!(今は問題が分からないから黙ってるだけであって、分かる問題なら手挙げてるもん!負け惜しみじゃないやい!)
あたしは羽ペンとインクを出して羊皮紙に『生ける屍の水薬』と書いた。名前がロックだぜ…!こういうのは曲作りのネタになりそうだからメモメモっと!
ちなみに魔法史や天文学も曲のネタになりそうだから起きてるとこ、あります!ハハハ!

「二つ目の問い。ベゾアールは山羊の胃から取り出される石のことであり、様々な薬に対する解毒剤になります」

ベ…なんたら石は山羊の胃から取り出される…っと。ところで胃の中から石が取り出されるってどういうことなんだろう?捌くの?吐かせるの?どうやって取り出すんだ??ていうか石とは?
どの道ロックすぎるわ!

「最後の問い。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物であり、トリカブト…別名アコナイトのことです」
「全問正解だ」

さすがハルと言ったところである!
あたしは『モンクスフード=ウルフスベーン』『トリカブト=アコナイト』…と羊皮紙にメモしたところで、先ほどロックを感じた山羊の胃から取り出すあの石の名前が思い出せなくて唸る。胃から取り出すってのが衝撃的すぎて忘れたしメモ取り損ねちゃったんだよ!

「ねえ、あれなんだっけ?何石?もっかい言って!」

あたしは思わずハルの背中をつついた。

「「!?!?」」

…ら、今まで以上に教室の空気が凍った。まさに氷点下!冷凍庫だったのかはここは。あのハルですら--先ほどまで淡々と話していたハルですら、こちらを向いて目を丸くして固まっている。
チラリとスネイプ先生の方を見ると…あれあれまぁまぁすごい顔!



……

「…あはは……」

ワーオこれはあたしやらかしましたね?やらかしましたな!私語だ!これは私語に入るんだ!ていうかその前に無礼な態度?ってやつだ!授業中、勝手に口を開いてはいけないっ!やってしまった!思わず乾いた笑いが出た!くそ!

……ハッフルパフの皆さまごめんなさい、エリン・エーカーは今から大幅に減点されます。ごめんなさい。
先生がとてもこわい顔をしている。これ以上直視できねぇ!むり!目を背けるぜ!

凍りついた教室で数十秒の沈黙のあと、ベ、なんたら石については思いもよらない方から回答が帰ってきた。

「『ベゾアール石』、だ Ms.エーカー。」

そう、まさかのスネイプ先生から直々にお答えが!!
びっくりすぎて声も出ないよ!

「……諸君、なぜノートを取らない?Ms.エーカーはきちんと書き取りをしていたようだが…?」

スネイプ先生がそう言うと、まるで止まっていた時間が動きだしたかのようにみんな一斉に羊皮紙と羽ペンを取り出し、カリカリとメモをはじめた。す、すごい勢いだ!隣のジャスティンも必死の形相!
一方ハルはあたしを三秒たっぷり見つめたあとスネイプ先生の方へ向き直った。
これはあとでお説教あるかも…うん、ヤベェ!

スネイプ先生はあの言葉以降あたしには何も言わず、さっさと授業をはじめた。今日はおできを治す簡単な薬を作るらしい。
…え?まじ?ほんと?減点無し???先生、あたしって減点されてないんですけど大丈夫ですかぁ?!
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